少し短めですが、お付き合いいただければ幸いです。
誰かが言っていた。結果を出せない人っていうのは、結局のところ「行動が伴っていない」からだと。どれだけ情報を集めても、どれだけ考えても、動かなければ何も変わらない。知識だけ増やして満足する人間に、結果なんて出せない。
……耳が痛い話である。
だって僕がまさにそういう人間だったから。調べる、考える、悩む。そして、結局何もしない。僕は、それの繰り返しだ。
だから、今回はとりあえずやってみようと思う。強くなる方法を探す。それが今の僕にできる最初の一歩だ。
とはいえ、いきなり性格を変えるなんて無理な話である。昨日まで薬草を採って、宿に帰って寝るだけだった人間だ。
「……」
さて、どうするか。今考えている案は二つ。
一つ目は強者に聞く。単純明快だね。強くなりたいなら、強い人に聞けばいい。僕みたいな素人が一人で考えるより、経験者に聞いた方が絶対に早い。
二つ目は訓練場へ行く。これは昨日、ソーラと話した時に思いついた。探協ほどの施設なら、ハンター向けの訓練場くらいあるだろう。もしなかったとしても何か参考になるかもしれない。
……でも、そんな理由でクロエさんのところ行くの、ちょっと気まずいなぁ……。
正直これである。まあ、クロエさんにはすでに情けないところを色々見られているんだけど。
「……」
数分悩み、一つ目でいくことにした。別に失敗してもいいしな。誰か一人くらいいるだろう。
「行くか」
僕は宿を出た。強者探しの散歩、その始まりだった。
———
帝都の大通りは今日も賑わっていた。鎧を身に着けた探索者が何人も行き交い、大剣を背負った男や杖を持った魔術師らしき女性、荷馬車を引く商人まで様々だ。僕は歩きながら、それとなく一人ひとりを観察してみる。
(……この人、強そう)
全身を傷だらけにした中年の男。腰に二本の剣を提げた女性。巨大な盾を背負っている大男。見た目だけじゃ全然分からない。細身だから弱そうと思った人が、実はものすごく強いかもしれない。
「……難しい」
ゲームならレベル表示でも出てくれるのに。この世界には便利なステータス画面なんて存在しない。だから、自分の目で見て、自分で判断するしかない。そう考えると、僕は本当に何も知らないんだなと思い知らされた。
僕は、コミュ障だし友達作りも下手な男だ。……でも、不思議なことに初対面の人へ話しかけること自体は、そこまで苦手じゃない。むしろ、その点だけなら少しだけ自信がある。経験上、初対面から露骨に当たりの強い人なんてそうそういない。もし話しかけて嫌そうな顔をされたら、その後関わらなければいいだけだ。優しい人か、頼れる人か、それは話してみないと分からない。だから「はじめまして」だけは、案外平気だった。
……とはいえ、今回はさすがに怖いなぁ。
相手はハンターだ。全員武器を持っている。昨日までは薬草採りしかしていなかったせいで忘れかけていたけど、この世界って普通に命懸けなんだよね。もし運悪く相手が危ない人だったら。最悪、殺される可能性だってある。
「……」
考えれば考えるほど足が重くなる。それでも今日は動くと決めたからな。帝都の大通りを当てもなく歩き続ける。
その時、陽気な男の声が耳に入る
「ここが帝都ゼブルディアですぜい、アーノルドさん!」
「……ああ」
視線を向けると、思わず見上げてしまうほど大きな男が歩いていた。鎧の上からでも分かるほど鍛え抜かれた肉体。一歩踏み出すたび、まるで地面そのものが震えているような錯覚を覚える。周囲を歩いていた人たちも、自然と道を譲っていた。威圧しているわけじゃないのに、そこに立っているだけで空気が変わる。これが、本当に強い人間なんだろう。
(……絶対強い)
僕なんかとは、生きてきた世界そのものが違う。そう思わせるだけの存在感があった。その後ろには七人の男たち。どうやら部下、あるいは仲間らしい。周囲の様子を見る限り、帝都の外から来た一団だろう。
自慢できることじゃないけど、僕は今まで色んな人に媚びて生きてきた。だから何となく分かる。この人は――怖そうだけど、理不尽に怒るタイプじゃない。部下たちからも慕われているみたいだし、多分、大丈夫。
……よし、今だ。
「あ、あの!」
勇気を振り絞って声を掛ける。大男がこちらを向いた。
「何だ?」
「少しだけ、お時間いただけませんか?」
男は少し考えた後、小さく首を横に振る。
「悪いな。今は忙しい」
「あ……」
一団はそのまま歩き去っていった。
「……」
終わった。断られた。まあ、仕方ない。忙しいなら仕方ない。仕方ないんだけど。頭では分かっているのに、胸の奥がすっと冷えていくのを感じる。せっかく振り絞った勇気が、行き場を失ったまま宙に浮いたような感覚だった。
「……はぁ」
何か、どっと疲れた。せっかく勇気を出したのに。今日はもう十分頑張った気がする。僕は肩を落としたまま宿へ戻り、一人で強くなる方法を考えることにした。
———
「えっ!? 《豪雷覇閃》に指南をお願いしたんですか?」
「《豪雷覇閃》……?」
聞き慣れない単語に首を傾げる。
「いや、お願いしてませんよ。話しかけたら『忙しい』って言われて、そのまま行っちゃいましたし」
結局、宿へ帰る前にもう一度探索者協会へ立ち寄った。まだ昼過ぎだし、少しでも稼いでおきたかったからだ。そのついでに、さっき会ったアーノルドと呼ばれていた大男のことをクロエさんに話してみた。
「アーノルド・ヘイルをご存じなかったんですか?」
「有名な人なんですか?」
「もちろんです!」
クロエさんは目を輝かせた。
「《豪雷覇閃》アーノルド・ヘイル。霧の国ネブラヌベス出身の《竜殺し》ですよ!」
「《竜殺し》……」
……何だその格好いい通り名。厨二心がめちゃくちゃくすぐられる。
「《竜殺し》というのは、ドラゴンを討伐した探索者へ与えられる称号です」
「探協が付ける二つ名とは違うんすか?」
「はい。《竜殺し》は世界共通の呼び名ですね。とはいえ、一口にドラゴンと言っても強さは様々ですので、《竜殺し》自体はそこまで珍しいものではありません」
「へぇ……」
それでもドラゴンを倒したという響きだけで十分すごい。僕なんて毒消し草しか採ってないのに。……比べる相手がおかしいか。
すると、クロエさんはくすりと笑った。
「でも、ウラノさんって時々すごい行動力がありますよね」
「え?」
「いきなり《豪雷覇閃》へ話しかけに行くなんて、普通の新人さんにはなかなかできませんよ?」
「そうですか?」
「はい。普段はとても慎重なのに、時々びっくりするくらい大胆なんです」
「…………」
「ハンターの皆さんも個性的な方ばかりなんですけど、ウラノさんも結構個性的ですよね」
「…………」
「でも、私はそういうところ、長所だと思います」
「……」
クロエさんは笑顔だ。間違いなく褒めてくれている。それなのに、素直に受け取れない自分がいる。すごいと言われるたびに、心のどこかで「そんなはずない」という声が響いてしまう。やっぱりカッコ悪いのか、ずっとそう思っていた。
僕、異世界へ来ても全然変わってないよね。臆病だし、情けないし、相変わらず失敗ばっかりだ。
……でも、今日は自分から動いた。結果としては断られただけだったし、恰好のいい話でも何でもない。
それでも、何もしなかった昨日の僕よりは、少しだけ前に進めた気がした。
異世界生活も、もうすぐ一週間。
【新登場人物】
①アーノルド・ヘイル
霧の国ネブラヌベス出身のハンター。
《竜殺し》の称号を持つ実力者。
帝都を訪れたばかりの大物ハンター。
【新設定】
①二つ名
高い実績を残した探索者へ与えられる名誉ある称号。
アーノルドの二つ名は《豪雷覇閃》。
②《竜殺し》
ドラゴンを討伐した探索者へ与えられる世界共通の称号。
探索者協会の二つ名とは別の称号。
ドラゴンにも強弱があるため、《竜殺し》自体は珍しいものではない。
③霧の国ネブラヌベス
アーノルド・ヘイルの出身国。
詳細は今後登場予定。