無限といえる図書館と書庫の主。
動かない大図書館のパチュリーが、自分の足で外の世界の古書展へ行くことになった原因は、たった一枚の薄い紙だった。
「興味ないわ」
「まだ何も言ってないぜ」
「あなたがその紙を持って図書館へ来た時点で、何を言うつもりかは分かるわ」
魔理沙が持ってきたのは、駅前の大型商業施設で開催される古書展の案内だった。
正式名称は「夏の古書・稀覯本フェア」という。複数の古書店が参加し、一般書から近世の写本まで、数万点を展示販売するらしい。
「外の世界にも、古い本はあるんだぜ」
「知っているわ」
「珍しい本もある」
「当然でしょうね」
「著者不明の魔術書もあるらしい」
「外の世界では、著者不明の本へ魔術書と書けば売れると思っているのよ」
パチュリーは本から視線を上げなかった。
外の世界の書物へ興味がないわけではない。ただ、書物はパチュリーの方へ運ばせればよい。自分から人混みへ出向く理由にはならなかった。
「そう言うと思って、目録も持ってきた」
魔理沙が机へ厚い冊子を置いた。
パチュリーは無視しようとした。
十秒後、ページを一枚めくった。
さらに三枚めくり、ある写真で指を止めた。
暗い革で装丁された大型の写本だった。表紙には金色の線で円と星が描かれている。古書店の説明には、十七世紀後半のものと推定される匿名の占星術書、とあった。
円の周囲には、太陽、月、火星、水星、木星、金星、土星を示す記号が並んでいる。
そこまでは、ありふれていた。
問題は、記号を結ぶ線の順序だった。
「魔理沙。古書展はいつ?」
「興味ないんじゃなかったのか?」
「質問に答えなさい」
「お、おう。明日からだ。なんだ? 見に行くか?」
「確認するだけよ」
「そうか。じゃあ、買わないのか?」
「見る前に決めることではないわ」
「じゃあ、金は少なめでいいな」
「咲夜に伝えて、十分に用意させるわ」
本を運んでいた小悪魔が、これはまた仕事が増えるなという顔で肩を落としていた。
+ + + + + + + + +
翌日、パチュリーと魔理沙は、空中回廊から商業施設へ入った。
古書展の会場は八階の催事場で開催中。と、通路の掲示板やビル壁面の垂れ幕など、あちこちで主張していた。
そこへ至るまでには、三階から八階まで五つの階を上がればよい。途中で寄り道をしなければ、十五分もかからない。
「パチェリー、そういやこの階に、大きな本屋があるぜ。古書展を見たあとに寄るか?」
「必要があればね」
「そうか。ほらそこだ」
パチュリーは歩きながら魔理沙の指さす書店を見た。通路の一角に置かれた検索端末に気が付く。
画面には、書名、著者名、出版社、識別番号を入力する欄がある。目的の本を検索すれば、在庫の有無と売場の位置が表示されるらしい。
パチュリーは足を止めた。
「五分だけ調べるわ。外の世界が、書物をどのように分類しているのか気になるの」
「古書展が先じゃないか?」
「開催時刻は夕方まであるのでしょう」
「まあ、あるけどな」
パチュリーは端末へ触れた。
画面に文字盤が表示される。物理的な鍵盤を使わず、指で直接文字を入力する構造だった。
「この識別番号は?」
「本の後ろに書いてある数字じゃないか?」
「見れば分かるわ。何を単位として識別しているのかを聞いているの」
「そっちか。本だろ」
「同じ作品でも、版や出版社が異なれば別の番号になる。作品ではなく、刊行物としての形態を識別しているのね」
「分かってるじゃないか」
「今、検証したのよ」
同じ題名の本を複数検索すると、出版社、翻訳者、刊行年、判型ごとに異なる番号が表示された。
パチュリーは一冊を棚から取り出し、端末へ戻った。
画面には在庫一冊と表示されている。
「今、この本は棚にないわ」
「お前が持ってるからな」
「それでも在庫一冊と表示されている。これは書棚上の位置を管理しているのではなく、売買記録から店舗内に存在する冊数を計算しているだけね」
「うーん……。十分じゃないか?」
「客が持って移動すれば、端末の示す場所には存在しない。誤配架された場合も発見できない」
「本が勝手に逃げた場合は?」
「想定されていないでしょうね。かりにそんなことがあったら、在庫にあって店内にはないことが確認されることで、盗まれたと判断するでしょうね」
魔理沙はパチェリーの皮肉をとぼけるように、近くの棚から天文学の本を一冊持ってきた。
「おい、こっちは、星の位置を勝手に計算するらしいぞ」
「天体暦を自動計算するだけでしょう」
「幻想郷じゃ見えない星も載ってる」
「外の世界と幻想郷では、観測条件が異なるもの」
そう答えながら、パチュリーは本を受け取った。
十分後、二人は天文学の棚にいた。
三十分後、自然科学書の一角へ移っていた。
一時間後、パチュリーは書籍保存に関する専門書を開き、紙の酸性化と脱酸処理について読んでいた。
「魔法を使わず、薬剤だけで劣化を遅らせるのね」
「魔法を使った方が早くないか?」
「術者がいなければ維持できない方法と、誰でも再現できる方法は別よ。外の世界の強みは、術者個人の能力へ依存しないことね」
「誰でも同じように本を傷めずに済むのか」
「正しい手順を守ればね」
「紅魔館の妖精メイドでも?」
「正しい手順を守れば、と言ったでしょう」
対象範囲が急に狭くなった。
さらに一時間後、パチュリーは店員へ、在庫管理、返品、絶版書籍の取り寄せ、電子書籍の仕組みを質問していた。
「電子書籍は、物理的な紙を持たないのね」
「はい。端末へデータを保存して読む形式です」
「一冊の書物としての実体は?」
「データですので、同じ内容を複数の端末で読むこともできます」
「複製時の劣化は?」
「基本的にはありません。ただし複製にはいろいろな法的な問題があります」
「書き込みによる個体差もない?」
「機能としてメモを残すことはできますが、元の本文は変わりません」
「燃やした場合は?」
「端末を、ですか?」
「書物を」
「データが別に保存されていれば、読むことはできます」
パチュリーは黙った。
書物を燃やしても内容が残る。
魔導書として考えれば、かなり厄介な性質だった。物理的な本体を破壊しても術式が失われないのであれば、封印方法を根本から変える必要がある。
「お客様?」
「今、可能性を整理しているの。少し待って」
店員は待たず、ほかの客の応対へ向かった。
近くにいた魔理沙は床へ置いた籠に、天文学、化学、鉱物、都市構造、民間伝承の本を次々と入れていた。
「それを全部買うつもり? 読むつもり?」
「資料だぜ。もちろん必要なところは読む」
「読まないのね」
「全部読まないと、読んだうちに入らないってか? だいたいお前は、さっきから同時に五冊開いてるだろ。それで読んでるのか?」
「比較しているだけよ」
パチュリーは時計を見た。
商業施設へ入ってから、三時間二十七分が経過していた。
「魔理沙……、古書展」
固まった首をぎこちなく向けて少し震えるパチェリーの声を聞き、魔理沙も時計を見た。
「忘れてたな」
+ + + + + + + + +
古書展の会場へ着いたのは、午後四時を過ぎてからだった。
催事場には、古書店ごとの棚と展示台が並んでいた。文学書、郷土資料、古地図、画集、初版本。紙、革、糊、埃が混ざった匂いは、紅魔館の図書館に近い。
ただし、パチュリーの図書館より明るく、人が多く、整理されていた。
「悪くないわね」
「素直じゃないな。気に入ったんだろ」
「管理状態を評価しただけよ」
パチュリーは目録の番号を確認し、目的の展示台へ向かった。
大型の写本は、透明なケースの中に置かれていた。
古書店の店員へ閲覧を申し出ると、状態確認のうえで、机の上へ運ばれた。白い手袋を着用し、専用の台へ載せて読むよう求められる。
外見上は、確かに占星術書だった。
しかし、表紙の七つの記号は星を示しているのではない。七曜に対応する元素魔法を、相互に制御するための封印だった。
パチュリーが指先を近づける。
表紙の金色が、わずかに光った。
会場のどこかで、紙をめくる音がした。
続いて、別の棚からも同様の音が聞こえた。
音は次々と増え、催事場に並ぶ本が、一斉にページを開き始めた。
風はないのに古書店に並ぶ数百冊の本が、ぱらぱらと紙を鳴らし、ある場所で止まった。
「全部、七ページ目だな」
周囲が騒然とするなか、驚きもしない魔理沙が近くの本を見て言った。
「封印が、私の魔力へ反応したのよ」
「歓迎されてるんじゃないか?」
「警戒されているの」
魔理沙はそうか、と真面目な顔つきに戻った。
店員たちは、空調の異常を疑って天井を見上げている。
客の何人かは、古書展の演出だと思ったらしく、開いた本を携帯電話で撮影していた。
会場の端では、ノートを持った六人ほどの若者が、開いた本とパチュリーたちを交互に見ていた。
パチュリーは人目気にせず術式を解くと、周囲の本は何事もなかったように閉じた。
「本物ね……。買うわ」
「即決だなぁ」
「確認しに来たのだから、確認できれば判断するだけよ」
提示された価格は、八万四千円だった。
古書店側は、欠落部分のある匿名写本として値段をつけている。本物の魔導書として見れば、値段をつけること自体が難しい。
パチュリーは、咲夜から預かった現金で支払った。
「おいおい、値切らないのか?」
「適正価格より十分に安いもの」
「私なら、あと一割は下げるぜ」
「あなたの場合、代金そのものをなくそうとするでしょう」
魔理沙は下手な口笛を吹き、近くのどうでもよい本を手に取って見ている。
その間、店員が写本を梱包するため、表紙を布で拭いた。
パチェリーは革装丁の本は、木綿ではなく皮の端切れや絹など、動物性の布切れで拭いて欲しい。科学モップよりはいいけど……と、考えていた時、裏表紙の内側がわずかに浮いた。
「待って」
パチュリーが声をかけるより早く、薄い冊子が隙間から滑り落ちた。
主書の四分の一ほどの大きさしかない。黒い表紙には題名も装飾もなく、背表紙もない。長いあいだ、裏表紙の二重構造へ魔術的に収納されていたらしい。
床へ落ちた冊子を、魔理沙が拾おうとすると、落ちた冊子は横へ滑った。
魔理沙の指を避け、展示台の脚を回り込み、隣の棚の下へ入る。
「こいつっ! 逃げたな」
「索引書よ。主書が開いたことで、隠蔽が解けたの。本を盗む人間を警戒する程度の知性はあるようね」
「へへ、面白い」
魔理沙が帽子を押さえ、棚の反対側へ回った。
「魔理沙。傷つけないで」
「任せな!」
魔理沙のかつての悪行が、逆に頼もしく思えるパチェリーだった。
冊子が棚の下から飛び出した。
紙の端を脚のように使っているわけではない。表紙を開閉し、その反動で床を跳ねている。効率の悪い移動方法だが、捕まえようとする手を避けるには十分だった。
魔理沙が手を伸ばす。
冊子は展示台へ跳び上がり、積まれた本の上を渡っていく。
「待て!」
冊子は催事場の出口を通り、共用通路へ出た。
魔理沙が追う。
パチュリーも追おうとしたが、走るという行為は、彼女の身体構造と相性が悪かった。
早足で十数歩進んだところで、呼吸が乱れた。
魔理沙の視線が、一瞬、パチェリーへ向けられる。
「魔理沙、行きなさい。絶対に破損させないで!」
魔理沙は返事の代わりに片手を上げた。
パチュリーは速度を落とし、吹き抜けに沿った通路から追跡することにした。
下を見れば、冊子が手すりの隙間を抜け、下層階へ落ちていくのが見える。
ただし、普通の本のようには落ちなかった。表紙を開き、空気を受け、旋回しながら三階下の通路へ向かっている。
魔理沙が手すりから身を乗り出した。
間に合わない!
魔理沙は周囲を見回した。
清掃用具を載せた台車のそばに、清掃員が立っている。その手には、長い柄のついたモップがあった。
「悪い、それを貸してくれ! ちゃんと返す!」
清掃員は、状況を理解していなかった。
それでも魔理沙の勢いに押され、モップを差し出した。
魔理沙は受け取ると、柄を両手で握り、手すりを越えた。
「魔理沙!」
パチュリーの声と、周囲の悲鳴が重なった。
魔理沙は吹き抜けへ飛び降りた。
モップへまたがったのではない。
両手で柄へぶら下がり、身体をその下へ伸ばしている。モップの房が上向きに広がり、見えない抵抗を受けたように震えた。
箒を飛ばす魔法と、原理は同じだった。
ただし、魔理沙は浮上も水平移動もしていない。落下する力の一部をモップへ逃がし、速度を制御しているだけである。
飛行ではなく、落下の延期だった。
本人以外にとって、その区別に意味があるとは思えなかった。
魔理沙の身体は、冊子を追って吹き抜けを降りていく。
六階から五階。五階から四階。そうだれもが数えられる速度だった。
落下速度は、人が飛び降りた場合より明らかに遅い。それでもエスカレーターよりは速い。
冊子が四階の通路へ着地した。ばたばたとどこか滑稽で、慌てているように見える。
魔理沙もその直後、モップの房を床へ向けた。房が大きく広がって衝撃を受け止め、柄がしなる。
魔理沙は両足を床へつき、数歩滑って止まった。
それは軟着地と呼べる範囲だった。
着地地点の床は、ついでに少しきれいになった。
冊子は再び逃げようとし、魔理沙が咄嗟に被っていた大きな魔女の帽子を投げる。
黒い帽子は冊子の上へかぶさり、みごとにその動きを封じた。本は自重を動かすのが精一杯のようで、帽子の重みを受けて震えもしなかった。
「捕まえたぜ!」
吹き抜けの上層から、拍手が起きた。
何かの催しだと思った客がいたらしい。
清掃員だけは拍手をしていなかった。
「俺のモップすげぇ……」
清掃会社のモップである。
+ + + + + + + + +
パチュリーが四階へ到着したとき、魔理沙は帽子の下から冊子を取り出していた。
表紙は閉じられ、もう動いていない。
「無傷?」
「ああ、ケガなんてしてないぜ」
「魔理沙の心配はしてないわ。本よ」
「もう少し気遣ってもいいんじゃないか?」
魔理沙は冊子を差し出した。
「魔理沙の心配はしてない。でも評価と感謝をするわ」
パチュリーは冊子を受け取ろうとすると、冊子が震えた。
足掻くように、魔理沙の手へ戻ろうとする。
「私になついたみたいだな」
「逃げ疲れて、あなたの魔力へ固定されただけよ」
「そうか。じゃあ、私が捕まえたんだから、こっちは私のものだ」
「評価と感謝をして損したわ……」
六人ほどの学生が、少し離れた場所から二人を見ていた。
先ほど古書展の会場にいた若者たちだったが、パチュリーは覚えていなかった。あの場では本を見ていたので、人間の顔まで記憶する必要がなかった。
学生の一人が、意を決したように近づいてきた。
「あの、すみません」
「何?」
学生の一人が、今度は慎重な口調で尋ねた。
「差し支えなければ、お名前を伺ってもいいですか?」
なぜ名前を尋ねてくるのか?
疑問に思ったパチェリーだったが、周囲の様子も見て理解する。
なにかのイベントだと思った人たちが、カメラを向け始めている。
逃げるのは悪手。だが、名前を名乗るのはもっと……。
「霧雨魔理沙だ」
「ちょ……」
魔理沙は即答した。
パチェリーは固まった。
「霧雨が名字で、魔理沙が名前。覚えやすいだろ」
「ありがとうございます。そちらの方は?」
パチュリーは学生を見た。
「答える必要がある?」
「いえ。無理にとは言いません。ただ、大学の調査で記録を整理する際に――」
「なら、観察記号でもつければいいでしょう」
後ろにいた学生の一人が、わずかに反応した。
すでにつけているらしい。
「名前は、分類のためだけにあるものではないわ。あなたたちとは、今後関わるかどうかも分からない。軽々しく渡す理由はないでしょう」
「分かりました。失礼しました」
魔理沙が横から口を開きかけたが、厳しい目線のパチュリーが見ると、あっさり口を閉じた。
「本人が言わないなら、私から教えることじゃないな」
帽子を深く頭直し、珍しく適切な判断を下した。
「この二冊は、古書展の商品だったんですか?」
「主書は正規に購入したわ。こちらは、その内部へ隠されていた副書。売買上は主書の付属物になるでしょうね」
「副書を捕まえたのは私だ」
「所有権とは関係ないわ」
「私がいなければ逃げてたぜ」
「そこは否定していない」
学生の一人が、少し迷ってから聞いた。
「お二人は、何かのイベントに参加しているんですか?」
「古書展へ来ただけよ」
「私たちが客だ」
「先ほどの飛び降りも、演出ではなく?」
「だから、飛び降りてないって言ってるだろ」
魔理沙はモップを持ち上げた。
「これで降りた」
説明が一周して戻った。
学生たちは、納得することを一度諦めたようだった。
「質問は終わり?」
「はい。ありがとうございました」
「そう」
パチュリーは学生たちから視線を外した。
知りたいことがあるなら、もう少し体系的に質問すればよい。外の世界の大学では、調査方法を教えていないのだろうか。
しかし、学生たちが最初に話しかけ、当たり障りのない質問をしたことで、追及してくる他の通行人はいなかった。
その点だけは、感謝するべきだろう。
しかしその感謝も、清掃員と警備員が到着したことで消えた。
学生たちに時間をとられ、逃げる時間を逸してしまったパチェリーは大きく肩を落とした。
+ + + + + + + + +
商業施設の吹き抜けで手すりを越える行為は、当然ながら禁止されていた。
警備員から厳重な注意を受け、魔理沙は素直に頭を下げた。
「わかった。もうやらない」
「絶対にお願いします」
清掃員へはモップを返した。
「助かったぜ。いいモップだった」
道具を褒められた清掃員は嬉しそうだったが、反して警備員の視線はきびしくなった。
幸い、怪我人も破損した設備もなかった。モップにも異常はなく、古書店側も副書が主書の付属物であることを認めた。
警備員は二人を催事場まで戻し、二度と手すりを越えないよう念を押した。
警察や救急を呼ぶほどの被害はなく、本人が反省している以上、施設側が取れる現実的な対応は、厳重注意と記録の作成だった。
魔理沙がどの程度反省しているかについては、記録へ書かれなかった。
+ + + + + + + + +
購入した主書は専用の箱へ収められた。
副書は箱へ入れると震え、魔理沙が持つと静かになる。
パチュリーは何度か試したあと、副書を魔理沙へ預けることにした。
「紅魔館へ戻るまでよ」
「戻ったあとも私が持ってた方がいいんじゃないか?」
「図書館で主書との接続を確認する」
「副書が私から離れたくないって言ったら?」
「本の意見より、所有者の判断が優先されるわ」
「横暴な司書だなぁ」
「盗人よりはましよ」
二人は大きな書店へ戻り、先ほど選んだ本を購入した。
古書展で一冊だけ確認する予定だった外出は、主書一冊、副書一冊、新刊十四冊、保存技術の専門書三冊、天文学書二冊、鉱物図鑑一冊を持ち帰る結果になった。
「ずいぶん増えたな」
「外の世界の書物にも、見るべきものはあると分かっただけよ」
「また来るか?」
パチュリーは少し考えた。
「書籍管理システムには、まだ調べる余地があるわね」
「じゃあ、また案内してやる」
空中回廊へ向かう途中、魔理沙がふと振り返った。
パチュリーは学生たちの顔を思い出そうとした。
一人も浮かばなかった。
本について質問する者は、外の世界にも大勢いる。名前を覚えるほどの相手ではない。
「まあいいか」
「ええ」
魔理沙も、それ以上は考えなかった。
六人の学生が会話の一言一句を記録し、遠ざかる二人を見送っていたことなど、どちらもすでに忘れていた。