ソードアート・オンライン~神速の剣帝~   作:エンジ

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ggo3話

 ぽーん、という聞きなれた軽いサウンド音と共に開かれたエレベーターのドアの先には、先ほどBoBのエントリーを済ませたホールと同等の広さを持つドーム状の部屋が待ち受けていた。中には、俺と同じくBブロックに組まれたであろうプレイヤーたちが各々の場所で試合の時を待っているようだった。

 メタルなBGMが流れる中、意を決して一歩踏み出した瞬間、重苦しい空気がいきなり俺の身体に襲い掛かる。まるで心臓を鷲掴みにされているような感覚の原因は、自身の体によるものではない。周囲にいるプレイヤーから放たれている、闘志の固まりのような威圧感だ。

 そして俺はすぐに悟った。この場にいる者は誰一人として、この予選を楽しむために参加しているのではない。もちろん《楽しむ》という思いが完全にないという訳ではなく、それ以上に《他人に勝ちたい》という欲求が前面に押し出されているのだ。そしてそれは殺意にも似たオーラへと変換され、この場の空気を形成している。

 張り詰めた雰囲気の中、俺は再び足を動かした。設置された簡易的なテーブルや、壁際に背を預ずけたむろしているプレイヤーたちの横を通り過ぎれば、他人を観察するかのような視線が背中に突き刺さってくる。ふと視線を巡らせれば、会場の隅で、円いゴーグルと赤いモヒカン刈りが特徴な灰色のマントに身を包んだ男が腕を組んで立っているのを見つけた。

 ――闇風……。

 前回大会の準優勝者は他の誰かと話を共有するわけでもなくただ静かにその《時》を待っていた。

 俺が本戦を出場することを阻害する最も大きな壁であるが、どうやらそう簡単にいきそうもない。一度大きく息を吸ってから近くにあった凹型の空いているソファへ腰を下ろす。

 

「思った以上に厳しい戦いになるかもな……」

 

 誰にも聞こえないような小声で呟きながら、自身の両ももに膝をついた。

 今この場にいるプレイヤーたちは、すべて《本物》だ。PvP(対人戦)を専門としており、一分一秒に神経を研ぎ澄ませ、限界ギリギリまで己の肉体を動かし続ける――いわば全身全霊を持って戦っている奴らだ。だがこれは、P v P(対人戦)を専門としているプレイヤーたちが《本物》で、P v E(対モンスター戦)を生業にしているプレイヤーたちが《偽物》だと言っているわけではなく、俺の個人的な解釈によるものだ。

 本来ゲームというものは、ゲームで動かすアバターと現実にいるプレイヤー自身とでは大きな隔たりがある。現実で身体を動かしてもゲーム内のアバターに影響があるわけではないし、ゲーム内のアバターが体を動かしても現実の身体に影響があるわけではない。だが、VRMMOはその隔たりを縮めることに成功した。結果、現実世界のプレイヤー自身と、ゲーム内のアバターとで魂――というべきかどうかはわからないが――がリンクしているような状態になった。これは《PvP》《PvE》に関わらず起きている。

 ただ、《PvP》と《PvE》との間には共鳴具合に差があると俺は考えている。

 モンスターを相手にするのとプレイヤーを相手にするのとでは大きく異なる。いくら現実世界のように身体を動かしている感覚を持とうが、モンスターは非現実的なものだ。モンスターと戦う度に、現実のプレイヤーとアバターに小さな隔たりが生まれる。脳内の奥底で、自分は《ゲームをしている》と意識してしまうのだ。

 それに対して対人戦は、《ゲームをしている》ということを忘れさせてくれる。自身と相対するのは、情報の固まりであるポリゴンではなく、自分と同じように魂を持った人間であり、しのぎを削り合うことによって自分はこの世界で《生きている》のだと錯覚する。これは、限界まで現実とゲームの隔たりが縮まったことで起こる現象だ。

 現実世界の自分自身と《本当》の意味で共鳴することができるプレイヤー――それを俺は《本物》と呼んでいる。もちろんゲーム内の構成要素によっては意識してしまう場合もあるが、対モンスター戦とは明らかに異なるだろう。

 

「……俺も全力でやんないとな」

 

 《本物》のプレイヤーは強い。まず、戦闘への切り替え方が違う。最大の障壁の前にいくつもの壁が無慈悲に出現したのを黙って見ているだけの気分だ。

 それに加え、実のところ今日までの約半年間、対人戦闘はほとんど経験していない。度々、サラマンダーの将軍であるユージーンから対戦の要望があったが、決まって日取りが悪く、新生アインクラッドの攻略も相まって機を逃していた。SAOの世界から脱出してから、《ゲームを楽しむ》ということを第一に考えるようになっていたのも機を逃した理由の一つかもしれない。

 とはいえ、今更嘆いてもしょうがないだろう。今の俺が出せる全力で相手にぶつかるだけだ。これで失敗したら、別の件を考えればいい。

 喉にたまった嫌な空気を吐き出すように顔を上げれば、突然会場を包んでいたBGMが止まる。代わりに、荒々しいエレキギターによるファンファーレが轟いた。次いで、甘い響きの合成音声が大音量で響き渡る。

 

『大変長らくお待たせしました。ただ今より、第三回バレット・オブ・バレッツ予選トーナメントを開始します。エントリーされたプレイヤーの皆様は、カウントダウン終了後に、予選第一回戦のフィールドマップに自動転送されます。幸運をお祈りします』

 

 途端、ドーム内に盛大な拍手と歓声が沸き起こる。おそらくどのブロック会場も同じようなことになっているだろう。いよいよ始まるのだ。己の力すべてを叩き付け合う

ハードな戦いが。

 

「まずは一回戦。……よしっ」

 

 両手で自分の頬を叩いて気合を入れると、進行していたカウントダウンがゼロになり、俺の体を青い光が包み込んだ。

 

 

 

 

 

 転送された先は、六角形の小さなパネルの上だった。俺以外にプレイヤーはおらず、目の前に浮いている大きなモニターがこの空間を薄暗く照らしていた。画面内の上部には〖Raten VS 屋台のおでん〗と表示されていることから、一回戦の相手は《屋台のおでん》さんということになるのだろう。

 

「……屋台のおでんが好きなのかな、たぶん……」

 

 プレイヤーネームなど意外と安易な考えで決めるものだ。それ以上は深く考えず、画面下部へ視線を移す。そこには〖準備時間:残り55秒 フィールド:廃れた工場〗と表示されており、プレイヤーたちはこの情報をもとに与えられた一分間で準備するのだろう。残り時間が五十秒を切ったのを見て、慌てて右手を振りかざしウインドウを出現させた。

 先ほど大型マーケットで購入した白を基調とした戦闘服とショットガン用のホルスターを身にまとい、大会の間だけ相棒になるであろうフィーリングスティールと光剣の固有名であろう《カゲミツG4》を装備した。

 ホルスターは腰と平行なものを選択しており、グリップは左方向に出している。これで素早く左手でショットガンを抜くことができることに加え、よほど狭い場所でもなければ走るときに障害になることはない。

 最後に腕輪型の対光学銃防護フィールド発生器が装備されていることを確認したところで、残り時間が十秒を切っていた。

 大きく深呼吸をし、残り秒数がゼロになると同時に俺は再び光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 次に目を開ければ、現れたのは巨大な廃工場跡だった。手前には壊れかけの小さな倉庫がいくつもあり、その奥にはおそらく運搬に使ったのであろうダンプカーなどが所々に点在し、その身を錆びつかせながら運転主を心細く待っているようだった。さらにその先にはこの廃工場のメインであろう、二対の巨大な倉庫が物々しく立っており、屋上にはそれぞれ大きめの煙突が空に伸びている。少し下がった所からは筋交い状の鉄に囲まれた太い配管がわずかな間を空けて二本伸び、それぞれの煙突を内部から繋いでいるようだった。

 どことなくカラスのような鳴き声が空に響き、辺りに無造作に生える枯れた草木の間からはスズムシやコオロギなどの啼き声がBGMのように奏でられている。そして沈みかけた夕日をバックに佇む錆びついた倉庫は、さながらホラーゲームのステージを連想させる雰囲気だ。

 

「ここから入れるみたいだな」

 

 半壊した鉄格子の間を通り抜け、工場の敷地へと足を踏み入れる。外から見ても分かっていたが、この敷地内には思いのほか障害物が多い。敏捷力を生かして接近戦で戦おうと思っている俺にとっては好条件の場所だろう。

 設置されたオブジェクトの位置を記憶するために辺りをキョロキョロと見渡していると、視界右上の位置する片方の巨大倉庫の屋上でパッと何かが光ったような気がした。その瞬間、俺の頭からつま先までが突然警笛を鳴らし、ぞわっと体を震わせた。反射的に横転すると、工場内に轟いた轟音と共に、聞いたこともないような音を立てながら俺が先ほどまでいた場所に大穴が開いた。

 

「これは……――やべっ!」

 

 突然えぐられた地面に視線を向けるのと同時に、今度ははっきりと工場の屋上から赤い光が出現し、一条の線となって俺の腹部へ突き刺さる。慌てて右足を踏み込んで近くにあった小さな倉庫目がけて再び横転、二発目の弾丸は倉庫の壁に激突し、つんざく様な金属音を上げた。

 

「もうあんなところに陣取っていやがったのか……!」

 

 舌打ちをしながら体勢を低くする。

 大会の概要によれば、予選でのプレイヤー間の距離は試合開始時点で最低でも五百メートルは離れていると記されてあった。

 確かに、このフィールドに来て呆けていた時間はあったがせいぜい一、二分であり、その間に五百メートルの距離を縮めて工場の屋上に到達し標的を見つけ射撃してきた《おでん》というプレイヤーは相当場数を踏んでいるのだろう。

 低姿勢のまま一瞬だけ倉庫の裏から顔をのぞかせれば、再び赤い線が俺の視界を照らしすぐに頭を引っ込める。

 ――見事に張られてるな……。

 俺を指したあの赤い一条の光の線はこのGGOに搭載されている守備的システム・アシスト――《弾道予測線(バレットライン)》と呼ばれるものだ。プレイヤーに向けられた銃から放たれる弾丸は、描かれた赤いライン上を寸分違わず正確に通過していく。これはこのゲーム内のどの銃にも共通しているため、この予測線さえ見つけることができれば相手の位置を特定することができるのだ。

 だが唯一、《初弾》だけこのシステム・アシストを相手に発動させない武器が存在する。それが《スナイパーライフル》だ。

 

「スナイパーか……何とか近距離に持ち込めればな」

 

 スナイパーライフルの威力は言わずもがな、胴体に一発でも当たればHP全損は必然であり、四肢のどこかに当たったとしても部位欠損は免れないだろう。まさに一撃必殺の武器だが、弱点がないわけではない。

 スナイパーライフルはその威力を引き出すために、他の武器種よりも長い銃身を持っている。結果的に重量は増加し、比例するように取り回しも悪くなる。距離が開いた遠距離なら本来の性能が存分に発揮されるが、近距離になればその取り回しの悪さから重荷にもなるのだ。近距離ならだいぶ有利とはいえ、まずは近づかなければ話にならない。

 

「やっぱりこれを持ってきておいてよかったな」

 

 俺は左腰にぶら下がっていた円筒系の小さな擲弾を手に取った。

 おでんがいる場所は巨大倉庫の屋上であり、ある程度倉庫に近づければ死角となって弾丸は飛んでこなくなるはずだ。

 一呼吸おいて右手でピンを抜くと、倉庫の裏から正面あたりへ放り投げる。カラン、という音に次いでブシュゥゥと、何かが噴射される音が耳に入り込んでいた。俺が投げたのは、煙幕を周囲に放出し相手の視界を遮る擲弾であるスモークグレネードだ。近距離戦に持ち込むならと、購入したのだが思いのほか早くお世話になりそうだ。

 壁の隅まで体を寄せ、一テンポだけ飛び出すタイミングをずらす。煙幕を焚かれた時点でおそらくおでんは一発分だけ俺が出てくるであろう場所に撃ちこむだろう。張られている側からしたら一刻も早くこの場を移動したいと考えるからだ。だから無駄にも思える一発は、焦って動き出した人間に命中する可能性がある。それで勝てれば、儲けものだろう。

 どうやら相手も俺と同じ考え方をしていたようで、予想通り煙の中から一発の弾丸が通り抜けた。それを確認したタイミングで煙幕の中へ飛び出す。

 スナイパーライフルには《単発(ボルトアクション)》と半自動(セミオートマチック)の二種類存在する。前者は威力が高い分、一発ごとにボルトハンドルを引かなければ次弾装填することができない。後者は威力はそこそこなものの、ボルトハンドルによる弾の入れ替えは必要ないため前者に比べて早く次弾を発射することができる。相手のスナイパーライフルがどちらか判明していないとはいえ、どちらにせよ二発目を発射するまでのわずかな時間さえあれば、別の障害物へ移動することが可能だ。

 十五メートルほど先にあった錆びついたダンプカーに背を押し付けて、隙間から上部を確認する。だが、予想していた追撃はないらしく、弾道予測線が俺に警告することはなかった。この隙に屋上からは完全に死角の場所まで走り抜けた俺は、巨大倉庫に設置された長大な梯子を凝視した。

 

「はしごか……ちょっと怖いな」

 

 このフィールド出現した時点でプレイヤー同士は五百メートル離れているというルールがあるのなら、おでんは俺の目の前にある梯子を利用して屋上に上ったとは考えにくい。何故ならこの梯子は、工場を視認した時には既に見えており、視覚には自信のある俺が上がっていく物体を見逃すはずがない。

 しかし、おでんは屋上にいた。ものの一、二分で屋上の奥側へ到達するためには、別の梯子を使うほかない。

 ここで俺に二つの選択肢が要求される。

 一つは、目の前か別の梯子を使って屋上へあがること。

 二つ目は、別ルートで屋上へあがることだ。

 ただし、この二つにはそれぞれ問題がある。

 一つ目の選択肢は、梯子であがった直前を狙うため敵が待ち伏せしている可能性がある。いくら敏捷力に自信があったとしても、梯子をあがり終える直前だけは無防備になってしまうため回避のしようがない。下手したら一発で終わりだ。それに梯子の怖さは到達する直前だけではない。梯子は金属製で、どんなに慎重に踏んでも音が鳴ってしまう。それに気づかれて、もしあがっている途中で上から狙われでもしたら為すすべなく負けるだろう。

 二つ目の選択肢は、屋上へ辿りつくまでの間におでんを見失う可能性があるということだ。距離を取られて先ほどのような張りつけ状態になったら、もうスモークグレネードがない俺は奴に近づくことが難しくなる。

 

「何かいい方法はないか……何か……」

 

 この場で考える時間を作るということは、それだけおでんに時間を与えてしまうということに繋がってしまう。今この状況で必要なのは、方法の良し悪しを吟味することではなく即決することだ。

 意を決して壁の隅に設置されている梯子に左手をかけてみれば、思わぬものが視界に飛び込んでくる。

 

「これは……パイプ……?」

 

 巨大倉庫の側面には雨を通すためであろう細いパイプが屋上まで伸びていた。ご丁寧に、その周りを筋交い型の鉄作が囲んであった。

 

「これに賭けてみるか……!」

 

 経年劣化による耐久面が少々気になるが、それは梯子とて同じこと。相手の意表を突いて屋上に上がるには打ってつけだ。

 俺は助走をつけるために五メートルほど下がる。

 おそらく屋上にいるおでんは、俺がこのパイプ上がっている途中で音で存在に気づくだろう。上からの一方的な射撃を回避するためには、音を消さなければならない。

 ――()()で消せばいい話だ!

 左腰にぶら下げていたもう一種類の擲弾を手に取る。そして自身の腕力をフル稼働させて、屋上へそれを投擲した。それと同時に、地を蹴り倉庫の側面を駆け上がった。

 視界が上空へと切り替わったのと同じタイミングで、屋上で強烈な光が発生した。それと共に、大気を震わすほどの轟音が空に響き渡った。

 俺が今投げた擲弾はスタングレネード。爆音と閃光によって、相手を一時的にマヒに似た状態にするための擲弾だ。梯子を使っても同じ結果にはなると思うが、パイプルートでは壁を蹴りながら上がれるため幾分か早い。スタングレネードによる牽制で相手が動きを封じている今は早さが肝心だ。

 重力を感じさせないほどの速さで二十メートルの高さを登り、屋上の縁を掴むと最後に壁を蹴って反動で勢いよく身を乗り出す。それと同時に左手で、腰に添えてあったフィーリングスティールを取り出し、片手で構えながら視線を巡らせた。

 

「っ……いない!?」

 

 待ち伏せしていると思われたおでんの姿はどこにもいなかった。おそらく俺がスモークグレネードの中を抜けた時点で移動したのだろう。飛び出した反動を殺すように前方へ一回転して静止する。

 すぐさま立ち上がり、辺りを見渡してもあるのは煙突とその隣に設置された簡易的な小屋だけだ。

 

「どこに行きやがったんだ。さっきは確かこの辺に……」

 

 小屋と煙突の小さな間から弾道予測線が伸びていたことを思い出し、警戒をしながら一歩一歩、先ほどおでんが使用していたであろう狙撃ポイントへと足を運ぶ。

 念のためショットガンを右手に持って、それを構えながら小屋の正面から側面へと半分だけ体を出してみれば、案の定おでんの姿はなかった。だが代わりに、濃い緑色のした長方形の小さな箱のようなものが壁にくっつけられてあり、受信機のようなものが黒いガムテープでぐるぐる巻きにされて――

 

「――やばっ!!]

 

 それが何かを理解した瞬間、ショットガンを投げながら俺は小屋の壁を蹴り後方へ跳んだ。それと同時に眼前が発光し、視界を真っ白に包み込んだ。

 抵抗できないほどの衝撃波と、耳をつんざくような爆音に揉まれて為すすべもなく吹き飛ばされる。

 

「くっ、そ……!」

 

 おぼろげな意識の中、屋上の縁へ手を伸ばし間一髪で掴むことに成功した。視界に映るHPバーは五分の三までに減り、イエローゾーンへ突入していた。このまま落下していたら間違いなくHPバーは全損していたはずだ。

 しかし、これは幸運だっただろう。

 とっさに距離を取ったとはいえ、あの距離では普通ならばHPバーはフル状態でも全損していたはずだ。それを防いだのは、偶然にも設置されていた簡易的な小屋であった。

 ――まじ感謝です……!

 両手で体を持ち上げると屋上で膝をつく。辺りはクリーム色の煙に包まれており一メートル先からは視認不可能だ。

 口に袖を当ててショットガンを投げたであろう場所へ歩を進める。衝撃により若干位置は変わっていたが、どうやら壊れていないらしく、ホルスターにしまい込む。

 

「あのc4は時限式じゃなくて、起爆式だったってことは……」

 

 ようやく正常に働き始めた意識の中、ある結論に達する。

 確かにおでんが狙撃していたポジションは見晴らしがよかったが、プラスチック爆弾を設置されていた場所はもっと内側だった。さらに一メートルほど奥から顔を覗かせた俺を確認することは、下からでは不可能なはずだ。加えて工場周囲は平たんで、山があるわけではない。つまり、俺がプラスチック爆弾に近づいてから起爆するためには、同じ高さであるもう一対の巨大な倉庫からでなければならないのだ。

 

「やってくれるじゃねぇか……!」

 

 ポジション取り、不意打ち、誘導そして罠。《屋台のおでん》は明らかにこのGGOでの戦闘に慣れている。それどころか、相当頭のキレるプレイヤーなのだろう。ここまで、手玉に取られたのは幼少時の祖父の稽古以来だ。このまま黙ってやられているのは性に合わない。

 一旦瞼を閉じ、心を落ち着かせる。おそらくこの罠でおでんは俺を仕留めたと思っているはずだ。いや、通常なら仕留められていた。だが、試合終了を告げるメッセージが届かないことを不審に思っている今なら、もう一つの屋上からは移動していないだろう。別の罠があったとしても、プラスチック爆弾の所持上限は一つであり同じようなことは起こらないはずだ。

 この屋上からもう一つの屋上へ移動する手段は一つだけ存在する。俺は煙の中、迷わずその場所へ飛び込んだ。

 

「……見つけた!」

 

 煙を突き抜け、倉庫と倉庫を繋ぐ太い配管の上に着地すると、案の定試合が終わらないことを不審に思っていたのであろう屋台のおでんが、長大なスナイパーライフルの銃口を地面に向けながら呆けていた。

 煙から飛び出してきた俺を見たおでんは、慌てて膝を折りスナイパーライフルを向けてくる。同時に弾道予測線が俺の胴体を貫くが、その動きが制止するよりも早く配管の上を走りだした。

 

「本当の勝負は、ここからだ!」

 

 敏捷力をフル活用し、全力で配管を走り抜ける。その後を追うように弾道予測線が後ろから今度は俺の前方へと動き出しそのまま一定の距離感をキープする。タイミングを見計らって撃つ気なのだろう、残念ながらそう簡単に当たる俺ではない。弾道予測線に全神経を集中させる。

 そして赤いラインがその動きを止めた瞬間、俺は姿勢を低くした。

 空気を切り裂く音が頭上で響き渡る。

 《単発》式なら次弾装填して再び狙いを定めるまで、最速でも一秒以上。《半自動》式でも、再び正確に狙いを定めるまで約一秒。距離は残り七メートル。一秒もあれば充分すぎるぐらいだ。

 ――俺の予想が正しければ次の一発は……!

 もう一つの屋上到達付近で僅かに速度を緩めて跳躍する。空中で体をひねりながら、左手でホルスターからフィーリングスティールを抜き放ち、左足でブレーキしながら照準を片膝立ちのおでんに向けた。同時にライトグリーンに光る半透明の円が視界に表示される。

 これは攻撃的システム・アシスト――《着弾予測円(バレットサークル)》と呼ばれるもので、銃口から発射される弾丸はこの円の内側のどこかに命中する。このサークルは、標的との距離や銃の性能などによって大きさが変動するが、情報ではもっとも重要なのは心拍数らしい。心拍数を下げる――つまり心を落ち着かせることでサークルは徐々に縮まり、相手にヒットさせやすくなるということだ。

 だが、今の俺は全力疾走直後で通常のような安定した射撃は期待できない。サークルの拡大は心臓の鼓動に合わせられているため、限界まで息が上がっていないとはいえあり得ない速度で交互に拡縮を繰り返している。

 突然視界に、赤いラインが表示された。予想通りおでんは着地直後を狙う予定だったらしい。俺のするべきことはただ一つ――おでんよりも先に弾丸を当てることだ。

 全神経が研ぎ澄まされ、まるで世界そのものがスローモーションなったような感覚に襲われる。

 俺の胴体を貫く赤いライン。

 徐々に縮まっていく緑のサークル。

 そして――

 

「――っ!」

 

 一つの銃声にコンマ五秒遅れてもう一つの銃声が轟いた。

 俺の左上腕部に申し訳程度に付けられていた薄い金属装甲がおでんの弾丸によって跡形もなく吹き飛んだ。それによる衝撃か、HPバーがほんの僅か減少する。

 一方俺の散弾は何発かおでんに命中していた。もちろん距離が距離であるため、ダメージはハンドガン一発分程度だろう。だが俺の狙いはダメージを与えることではない。心理的負荷を与えることだ。

 いくら熟練者といえど、自身に向けられた予測線による圧迫感を無視することはできない。心のどこかで小さな歪みを発生させ、完璧だと思われた体勢に綻びを生む。そして予測線通りに着弾し、弾丸の衝撃と相まって綻びが広がりズレが生じる。

 おでんの弾丸が俺の胴体に着弾しなかったのは、そのズレが原因だ。

 

「ラッ!!」

 

 ショットガンを手放し、言葉に気迫を乗せ今度はおでんに向かって地を蹴った。

 距離はおよそ十メートル。相手は射撃によって、次弾発射までほんの僅か時間がかかる。おでんを仕留めるまたとないチャンスだろう。

 右腰にぶら下げていた光剣を手に取り、親指をスライドさせる。白銀に輝く刃が、待ってましたと言わんばかりに勢いよく伸びた。

 目前のおでんは、左手をスナイパーライフルから離し腰へ動かす。おそらく俺がおでんに到達する時間と、スナイパーライフルの次弾発射までの時間とを天秤に掛け、前者が早いと判断したのだろう。

 おでんの左腰から引き抜かれたのは、サブマシンガンだった。赤いラインが何本も俺の体へ伸びてくる。

 ――どうする……避けるか……!?

 ハンドガンならば避けながら接近することは可能だった。だがサブマシンガンとなると話は別だ。近づけば近づくほど命中精度が上がってしまい、レートとノックバックにより、俺が光剣を振るう前にHPバーが削り切られる可能性がある。かと言って近づかなければ勝ち目はない。スピードを重視してショットガンを置き去りにしたのが裏目に出てしまった。

 内心で舌打ちしながら俺は脳をフル回転させた。

 ――サブマシンガン、命中、レート、予測線、光剣…………剣……そうか……!

 予測線が示す弾丸の順番と軌道が正確ならばまだ勝ち目は存在する。俺は脳内で、先ほど伸びてきた予測線の順番を思い出す。そしてそれらを斬る(・・)ための最短ルートを組み立てた。

 約五メートルほどまでに迫り、フードの下に隠れたおでんの口元に笑みが浮かんだのがはっきりと見えた。同時に、左手に持っていたサブマシンガンの銃口が発光する。

 ――今!

 その瞬間、頭の中で組み立てたルート通りに白い閃光が通過すると、バシッという衝撃音と共に鮮やかな火花が視界を彩った。次々と伸びてくる赤いラインを最小限の動きで切り払い、十発の弾丸を斬った頃にはおでんとの差が一メートルにまで縮んでいた。もうすでに俺の間合いだ。

 

「おおおおおおお!!」

 

 雄叫びと共に、発射されたばかりの弾丸ごとサブマシンガンを真っ二つにする。

 

「冗談だろ……!」

 

 ぽかんと口を開けてこちらを見上げるおでんに、ニコッと可愛らしく笑みを返してからその身体を両断した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やべーな。一回戦でこれかよ……」

 

 Bブロック待機会場に戻ってきて早々、近くにあったソファーに崩れる。久方ぶりの緊張感のある戦いに、俺の体は予想以上の疲労感を主張していた。これほどのレベルの戦闘――いや、上に行くごとにさらなる熟練者と対戦しなければならないことを考えると憂鬱にならざる負えない。

 ――いっそのことキリトの奴に任せて次の試合でわざと負けてしまおうか

 性分に合わないことを思い浮かべながら、瞼を閉じていると突然耳元で音源が発生した。

 

「ラテンさん……ですよね?」

「うわぁ!?」

 

 ぞわりと体を震わせて慌てて飛び退くと、俺のオーバーリアクションに驚いたのか好青年が目を丸くして立っていた。

 装備は濃い緑色の薄い長袖に簡易的な防弾ジャケットを着た、この会場内でも珍しい軽装だった。ハードボイルドな世界観のGGOで生きていけるのか心配なほどの優しそうな顔立ちに、ほっそりとした身体。このプレイヤーもBoB参加者なのだろうか。いや、それよりも何故俺の名前を知っているのだろうか。

 

「えっと、……誰ですか?」

 

 自分の声を改めて聞いて、俺を女性プレイヤーだと思って声をかけてきたナンパ目的の男、という可能性が脳裏をよぎる。

 だが、好青年に俺が思ったことが伝わったのか慌てて両手を振った。

 

「あ、ナンパとかじゃないですよ。『フライ』です。ALOでシルフ族の……」

「フライ、って……あの《空将》フライか!?」

 

 俺が素っ頓狂な声を上げると、苦笑いしながらフライというプレイヤーは頷いた。 

 目の前のプレイヤーと最初に出会ったのは、アスナを救出するために四人で挑んだグランドクエストだ。戦いの最中で、シルフ領主のサクヤとケットシー領主のアリシャ・ルーが援軍として助けに来てくれたのだが、サクヤが連れてきた五十人ほどのシルフプレイヤーの中にこの青年がいて、間一髪でコトネを助けてくれたのだ。事件終了後、改めてコトネから紹介を受け、この半年間、何度かともに狩りをしている仲だ。

 そして、俺が言った《空将》というのは彼のあだ名だ。『シルフの空にはフライあり』と言われるほどのプレイヤーで、こと空中戦に限ってはあのユージーン将軍でも勝てないほどの実力者だ。彼から空中姿勢の極意を学んだことは記憶に新しい。

 

「お前もGGOやってたのか。というか、ここにいるってことはこのBoBに出てるのか?」

「ああ、いえ。僕は出場していませんよ。クリスハイトさんから、ラテンさんとキリトさんの様子を見てきてくれないか、って頼まれまして……」

「なんで引き受けたんだよ!?」

 

 あはは、と乾いた笑みを浮かべるフライに俺は頭を抱えた。《クリスハイト》というのは、この事件の調査を依頼してきた菊岡誠二郎のALOアバターのキャラクターネームである。もちろん菊岡=クリスハイトだと知っているのはほんの極わずかであり、フライが菊岡を知った上で引き受けたというのは考えにくい。となると、《俺とキリトの保険》として派遣されてきたのだろう。どんな交渉をされたのか知らないが、わざわざ別のゲームでアバター作ってまで引き受けるのは、いくら何でも人が好すぎるような気がする。

 

「お前……クリスハイトのことはあんまり信用すんなよ。これはあいつの知り合いである上での忠告だ」

「ラテンさんがそう言うなら」

 

 おずおずと頷いたフライは、辺りを見渡して近くに人がいないと確認すると、俺の耳元に顔を寄せてきた。

 

「えっと……ラテンさんたちは《死銃》について調べてるんですよね」

「はい……?」

 

 フライからの衝撃の一言に俺は一瞬思考停止した。そんな俺を気にすることなくフライは続ける。

 

「クリスハイトさんから聞きました。ラテンさんとキリトさんに依頼したのは僕だ、と……あの噂って本当なんですか? だとしたらクリスハイトさんも物好きですよね。『誰よりも早く真相に辿りついてにちゃんねるでどやりたい』なんて……」

「ああ……そういう……」

 

 フライの言葉にすべてを理解した。どうやらクリスハイトは《総務省の役人》としてではなく、《友人》として俺とキリトに真相の調査を頼んだのだと説明したらしい。

 ――だとしてもフライを巻き込むことはないだろ……

 この仕事の真相を知らない一般人を巻き込むのは少々やり過ぎではないだろうか。この仕事が終わった後、ゆっくりと説教してやらないと気が済まない。

 

「まあいいや。この話はこれで終わりにしよう」

「そうですね……それにしてもラテンさん凄いですね! 弾丸を斬る、だなんて……!」

 

 目を輝かせた優男に俺は頭を掻きながら答える。

 

「集中力使うから、めっちゃ疲れるけどな……」

「それでも神業ですよ。相手だった《屋台のおでん》さんは、前回のBoBの本戦に出場してるベテランプレイヤーでしたし、今後の相手のも通用しそうですね」

「えっ、そうなの?」

 

 それは初耳だった。とはいえ確かに、フライが言っていることが正しければ、あの強さに納得がいく。

 

「運が……よかったのかもな」

「とりあえず残る壁は闇風さんだけでしょうか。その他にプレイヤーは初参加マークがちらほらといる感じなので」

「このマークの意味って、初参加だったのか」

 

 トーナメント表を見てみれば、俺がいる山には初参加のプレイヤーが半分近くいた。全員が全員おでんレベルの強さだと思っていた俺にとっては、ありがたい情報だ。

 ウインドウを閉じると、ちょうど次の試合を告げるアナウンスが会場に響き渡る。

 

「何かあったら言ってくださいね」

「ああ、頼むわ」

 

 片手を上げて応えた俺は、青白い光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何度目かのテレポートにすっかり慣れた俺の視界に、燃えるような夕焼けが優しく迎える。眩い光に目を細めつつ背後に顔を向ければ、飛び込んできたのは巨大な白い大理石でできた柱だった。柱の横から顔を覗かせれば、崩壊した階段のようなものや、内部に設置されていたであろう目前の柱と同じような柱が根本から崩れ去り、瓦礫となり果てていた。

 一見したところ、どの柱もエンタシスであり配置の仕方的に、パルテノン神殿をモチーフに造られたフィールドなのだろうか。障害物が多いため、こちらにとってはありがたいステージなのだが、それは相手も同じだろう。

 フライが予想していた通り、二回戦、三回戦、四回戦の相手は《屋台のおでん》ほど苦戦することはなかった。ただ、光剣で弾丸を斬りながら詰めるというやや強引な手段を取っていたため、疲労が相当溜まっている。ここが現実世界の自室だったら、迷わずベットに飛び込みたいくらいだ。

 そして、俺の予想通り準決勝の相手は《闇風》だ。スタイルは俺と同じAGI一極型。違うのは、超近距離でなければ効果が薄いショットガンと光剣がメインの俺に対して、ある程度離れていてもダメージを稼ぐことができるサブマシンガンをメインにしていることぐらいだろう。

 

「さて、どう戦いましょうかねぇ……」

 

 闇風は《ランガンの鬼》という二つ名を持つほど、フィールドを駆け回るプレイヤーだ。俺がダメージを与えるためには、相当接近しなければならないのだが今までの相手とは違って闇風は停滞する時間が極度に少ない。無理に接近してもサブマシンガンで弾をばら撒かれながら距離を取られるだけだ。いくら弾丸を斬ることができるとはいえ、永遠に追いかけっこを続けては、俺の集中力が持たない。

 となると擲弾であるスタングレネードとスモークグレネードをうまく利用するのが定石なのだろうが、生憎スタングレネードに至っては本来の使い方をしても闇風にはあまり効果がないだろう。その理由は、彼が付けているゴーグルは光耐性が非常に強いのだ。ボーナス効果で音耐性もついているとの情報も得ている。動き回りたい闇風にとっては非常にありがたいアイテムなのだろうが、俺にとっては非常に厄介な機能だ。

 突然、軽い発砲音が神殿跡を包み込む。

 俺は反射的に身を伏せ、聴覚を集中させる。だが、こちらに近づいてくる気配はない。それを確認して、俺はすぐに先ほどの発砲音の意図を理解した。

 

「野郎……速さに相当な自信があるんだな」

 

 自らの位置を特定させ先に手を出させることで相手の位置を特定し、持ち前の敏捷力で接近・撃破する算段なのだろう。だったら俺も持ち前の敏捷力を披露するしかない。

 

「これは……置いていくか」

 

 腰に装備したショットガンを手に取り、瓦礫の傍に置く。そして光剣を右手に携えて銃声のした方向へと足を動かす。

 瓦礫を抜けてみれば待っていたのは、黒衣のマントに身を包んだ赤トサカヘア―男だった。隠密などせず堂々と前に現れてみれば、闇風は少し驚いた表情をする。だが、俺が手に持つ白銀の刃を目にして、口角は僅かに上げた。

 

「このゲームは、《(ガン)》ゲーだぞ?」

「ああ、知ってるよ」

 

 こちらもにやりと笑みを返して、右手を引いて小さく腰を落とした。それを確認した闇風は、一呼吸の後、大理石を蹴り上げた。同時に無数の弾道予測線が俺の体を貫く。

 だがこれまでの試合によって弾丸を斬ることには慣れた俺は、臆することなく冷静に着弾の順番を整理する。そして、闇風のサブマシンガンが咆哮を上げるのとほぼ同時に白銀の刃を閃かせた。

 撃ち放たれた弾丸で火花を咲かせると、闇風は俺のもとに向かってくる足を止め、右へ針路を変更した。おそらく弾丸を弾く剣裁きを見てどの程度まで斬れるのか様子を見るためだろう、その動きに比例するように身体を貫く赤いラインの数が減ると、俺は地を蹴り闇風を追う。

 

「やるな……」

「どーも」

 

 敏捷力とコンバートによって与えられた小柄な体形を最大限に利用して弾丸を避け続けるが、時節末端部に掠り、HPバーは少しずつ減っていく。だが俺は、距離を取り続ける闇風を追い続けた。

 右へ左へと黒と白の影が高速で動き続ける。

 

「こんなのはどうだ」

 

 位置確認のため一瞬正面を向いた闇風は、振り向きざまに笑みを浮かべた。そのまま柱の残骸方面へ足を向ける。

 いくら障害物が増え弾避けが容易になったとはいえ、不安定な足場の上で弾丸を斬りながら闇風を追い続けるのは少々骨が折れる。マズルフラッシュの雨に打たれる中、前方を走る闇風が障害物のない一本道へ差しかかるのを見て、俺は腰に携えたスモークグレネードを闇風の先へ放り投げる。すぐさま煙が発生し、左右合わせて二メートル半の壁に挟まれた行き場のない煙は、前後へ広がる。もちろんスモークを焚いたからって闇風の足が止まるわけではない。彼にとっては俺の眼から逃れることができるため、むしろ好都合だ。

 

「これでもくらえ!」

 

 だから俺は、右手に持つ光剣を逆手に持ち替えて煙の中に消えた闇風目がけて、今度はフォトンソードを投げ入れた。放たれた白銀の刃は猛烈な勢いで煙をかき分け、闇風の左耳すれすれで奥に通り抜ける。

 

「おいおい……いいのかそんなことして……!」

 

 これには一瞬驚いた闇風も、笑みを浮かべざる負えなかった。すぐさま煙の中で反転し、来た道を全力で引き返す。メインアームである光剣を手放したということは、攻撃の手段が無くなったということだからだ。

 煙の中を駆け抜け、脱出と同時にサブマシンガンのトリガーを引こうとした闇風は視界が晴れるや否や目を見開いた。

 

「おかえり」

 

 笑みを浮かべながら俺はトリガーを引く。たちまちフィーリングスティールから閃光が迸り、無数の弾丸が無防備の闇風を襲い掛かる。辛うじて回避行動を取ったがHPバーはたちまちイエローゾーンへ突入し、ノックバックのよるコンマ数秒の硬直が彼に襲い掛かる。そんな隙を俺が見逃すわけもなく、すぐさま懐に入り込み、その黒衣をがっちりと掴んで今度は避けられないようにする。この間合いではさすがに、闇風がサブマシンガンの銃口をこちらに向ける速さよりも、俺が心臓付近に銃口を当てたショットガンのトリガーを引くほうが速い。

 

「な、ぜ……」

「なぜ、って……? そんなの決まってるだろ」

 

 絞り出された低音に、俺は再び笑みを浮かべた。

 

「このゲームは、《(ガン)》ゲーだろ?」

 

 同時に俺はトリガーを引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 待機会場に戻って来てみれば、到着早々フライが嬉しそうに駆け寄って来る。

 

「おめでとうございます、ラテンさん。これで本戦出場確定ですね」

「おう、ありがとう」

 

 短く返事をすれば、フライはさらに詰め寄ってきた。

 

「ところで、なんで闇風がラテンさんが来た道を通る(・・・・・・・・・・・・)ってわかったんですか?」

「まあ、そうなるように動いたからな」

 

 先ほどの戦い。フライの言う通り、闇風は俺が銃声に導かれて通った道を駆けた。そのおかげで、置いていったショットガンによって奴を仕留めることができた。無論、偶然ではない。

 闇風は俺が考えていた通りに、ある程度距離を離しながらサブマシンガンでダメージを稼ぐ戦法に出た。この手段を取られては、光剣とショットガンしか持たない俺では意表でも付かない限り奴にダメージを与えることはできない。だから、ショットガンをあらかじめ瓦礫のそばに放置していき、闇風と接敵。やや広めの場所で戦闘しながら、彼が俺の来た道を通るようにさりげなく誘導したというわけだ。

 とはいえ、理論は簡単に説明できるが、それを実行するために膨大な集中力を要した。ただでさえ弾丸を剣で斬らねばならぬというのに、その上さらに相手を誘導するためのルート微調整。もう自室ではなくこの場で寝てもいいくらいだ。

 

「次の決勝戦はどうしますか? 一応目的である本戦出場は達成しているわけですし、明日に備えて……というのも選択肢としてはありますが」

「そうだなぁ……」

 

 本戦は決勝に進んだ二人のプレイヤーが参加することができる。すなわち、次を決勝戦は棄権しても本戦出場には支障がないのだ。それにもとより個人情報を入力していないため、ブロック優勝したとしてもエントリー画面で書いてあったことが正しいのなら、報酬を受け取ることはできない。

 ここは疲れ切った体を休ませ、フライの言う通り明日の本戦に備えるべきだろうか。

 

「…………どうせなら決勝戦までやるか。別に全力を出す必要はないんだし、のんびり戦ってみるわ」

「わかりました。じゃあ僕も最後まで付き合いますね」

「……言っとくけど、俺はノーマルだぞ?」

「僕もノーマルですよ!?」

 

 慌てて否定するフライを見て思わず笑みがこぼれる。そして俺はゆっくりと立ち上がり、青白い光に包まれながら片手を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、準決勝までとまったく同じ戦い方をして優勝をもぎ取った俺を、フライは呆れた表情で迎えたのだった。

 

 

 

 





なんかラテンが悪役っぽいのは気のせいですかね……?
ともあれ修正いたしました。
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