ソードアート・オンライン~神速の剣帝~   作:エンジ

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ggo6話

 

 崩壊した瓦礫や廃墟となった建物をかき分け、できるだけ最短ルートでキリトたちがいたほうへ駆ける。ザザに逃げられてから数分しか経っていないはずだが、いくらは知っても奴のボロマントを見つけることはできなかった。わざわざあのような台詞を言いながらラテンの前から姿を消したのだ。行先などキリトたちの元以外には考えられない。

 身を潜めることができる臭いポジションは無数にあるのだが今のラテンには、他のプレイヤーに不意打ちされることよりも、ザザより早く二人のところへ行かなければならない。だから、多少撃たれてでも無視して走ろうと思っていたのだが――。

 

「――ちっ!」

 

 数本の赤いラインにラテンは一旦足を止めざる負えなかった。

 近くの瓦礫に体を預けると、高難易度のリズムゲームをタップするかのような素早い足音に今度は心の中で舌打ちをする。

 今伸びてきた予測線は北方面からだ。三回目のサテライトスキャンで確認した時には、北側に一キロと少し離れている田園エリアと都市廃墟エリアの境に、《摩鎖夜(マサヤ)》と言うプレイヤーがいた。足音と方角から察するに、いち早くラテンに狙いをつけて南下してきたのであろう。もしかしたら、このプレイヤーこそが先ほどザザが言っていた、ラテンを『倒す者』なのかもしれない。

 

「うお!?」

 

 足音を頼りにショットガンのトリガーを引けば、《摩鎖夜》は少し高めのボイスを上げながら横転し、ラテンと対角に位置する建物へ隠れる。

 十字路を挟んで対面することになったラテンは、一発減ったショットガンの薬室に弾を詰め込んだ。フィーリングフィールドは上下二段(・・)散弾銃というカテゴリに分類されるように、予め二発分だけ収納することができる。そこで、できるだけ身軽にして本戦に望みたいと思っていたラテンは、詰め込んでおいた二発分と五発収納の箱を二箱を合わせて、ショットガンの弾は計十二発分しか持ってきていない。そのうち二発は使用したため残り十発だ。

 ――最低でもザザに二発、ザザの協力者に二発と考えると……。

 残り六発で、今あげた二人とキリト、シノンを抜いた生存者である九人を相手にしなければならない。バトルロイヤルであるため九人全員を相手する必要はないのだが、無駄弾はできる限り避けたいところだ。

 

「……仕方ないか」

 

 ラテンは光剣の柄を握り、《摩鎖夜》がいる建物に体を向ける。

 足音の速さと伸びてきた予測線の数からして、相手はラテンと同じAGI型のサブマシンガン使いだ。多少距離が離れていようとも、ショットガンにより発生した僅かなノックバック時間の隙に光剣で仕留める、というコンセプトでいいだろう。

 心の中で数を数え、いざ飛び出そうとしたラテンよりも速く《摩鎖夜》が動いた。

 

「くっ……!」

 

 盾にしている瓦礫に無数の火花と甲高い音が途切れることなく響きわたる。

 ――やられた……!

 この状態ではショットガンを当てるために体を出せば、サブマシンガンにハチの巣にされてしまう。かと言ってこのまま停滞していても、弾丸をばら撒きながら横に回られて一方的に撃ちこまれてしまう。

 ――一旦下がるか? いやでも背中を撃たれでもしたら意味がない。なら一か八か、出てきたタイミングでショットガンを……!

 頭の中で模索している間にも射撃音が近づいてくる。

 意を決して飛び出そうとした瞬間、辺りに爆発音が響き渡った。

 

「「なっ」」

 

 ラテンと『摩鎖夜』は同時に息をのむ。

 今聞こえてきた音の方角はここよりも西方面だ。そして、そこにいるはずのプレイヤーは――。

 そこで考えを中断し、爆音によって射撃を止めた《摩鎖夜》に銃口を向ける。しまった、と言わんばかりの表情に躊躇いもなくトリガーを引くと、意外と近くまで寄ってきていたタキシード姿のプレイヤーは、肉体に無数の着弾エフェクトを伴いながら後方へ吹き飛ぶ。それを追うように地を蹴って、ノックバック中の《摩鎖夜》に問答無用で白銀の刃を振り下ろした。

 途端、〖Dead〗という文字が浮かび上がり、戦闘を終えた余韻に浸ることなくラテンは再び駆けだす。

 

「無事でいてくれ……!」

 

 呟かれた言葉は風の中に消える。

 全速力で駆け抜けたラテンは、ようやく爆発現場と思しき南北に伸びた長いメインストリートへ辿りついた。

 約十メートほどの幅を塞き止めるよう炎の塀が揺れている。横には燃料タンクを積んだ大型トラックが半壊した状態で横たわっており、爆発原因が容易に理解できた。

 後は巻き込まれたプレイヤーなのだが、これは幸いというべきか。揺らめく火柱の周りには馬のような機械がバラバラになっている他に死亡エフェクト及び死体が見られない。

 近くにあった建物の壁に身を寄せ、聴覚を集中させる。

 意味もなくこのような敵に気付かれるような行為はしないだろう。もしこの爆発が追っ手を撒く、もしくは攪乱させるためのものだったら、この付近にプレイヤーがいる可能性は高い。

 だが、ラテンの予想に反して辺りからは人の気配が感じられなかった。

 

「どこに行ったんだ、キリト……シノン……!」

 

 腕時計に視線をやれば、時刻は午後九時十三分を指していた。一先ず身を潜めて、二人の位置を確認したほうがいいだろう。

 割れた窓から建物に侵入し、カウンターの内側へ隠れる。

 そのままマップを開くと、残り一分強の時間が長く感じられるのか無意識に膝の上を人差し指でトントンと叩いていた。やがて、マップ上に一筋の光が南から通り抜けるとそれに反応するかのように点がいくつも出現した。

 近場の灰色の点をタップしていくと、先ほど戦闘した《摩鎖夜》や《銃士X》が表示される。だが、ラテンの周りにはそれ以外に点はなく、マップ上に表示された十個の光る点をタップしてもキリトとシノンの名前は表示されなかった。

 すぐさま今度は灰色の点をタップする。しかし、先ほどと同様二人の名前は表示されない。

 ――川に潜ってんのか?

 衛星スキャンに映らないということは、それ相応――例えば水中や地下、はたまた洞窟などに身を潜めている、ということなのだろうか。

 

「次の衛星スキャンまで待つか……その前にお迎えが来そうだけどな」

 

 スキャンが終了する寸前、マップ中央の都市廃墟エリアから西方面に広がっている草原エリアで身を伏せていたであろうプレイヤーが、こちらに向かって移動し始めて移動し始めているところを確認した。

 そのプレイヤーを迎え撃つため、ラテンは西へ走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 七回目のサテライトスキャンが始まった時点で、ラテンは砂漠エリアへ駆けだし始めていた。

 キリトとシノンの行方がわからないまま二度の戦闘を終えた後ようやく二人の足取りを掴むことができたのだ。ぱっと確認したところ、生き残ったプレイヤーは全部で六人。だが、ザザが何らかの方法で衛星スキャンを回避しているとしたら、残り七人だ。

 ラテンは都市廃墟エリアのメインストリートを全力で疾駆する。

 二人は北にある砂漠エリアの中央辺りにいた。今までどこかで潜伏し、このタイミングで姿を現したということは、ザザとの決着を今からつけるつもりなのだろう。ならば、それに加勢する他ない。

 

「――ッ!?」

 

 都市廃墟エリアから砂漠エリアへ流れる直前、正面から空に轟くほどの銃声が響き渡った。それを聞いたラテンは、一瞬停止した後再び砂漠を駆けだした。

 コンクリート製だった都市廃墟エリアの道とは違って、砂漠エリアには砂しかない。きめ細かな粒が足を絡めとるように沈み込むため非常に走りにくいが、何とか音の元にたどり着くと、水色のショートヘアを揺らしながらスナイパーがゆっくりとこちらに振り向いた。

 その表情には驚きの色が浮かんでいる。

 

「シノン、その銃……」

「あ、ええ。死銃と相打ちしたわ。幸いヘカートはスコープだったから修理は可能よ」

 

 彼女の肩に背負われている長大なスナイパーライフルは、狙撃手にとっては命ともいえるスコープ部分が跡形もなく吹き飛んでいた。

 相当なレア武器であるとキリトから聞いていたため、自分たちがまきこんだ原因で失ったとしたら償おうにも償えない。

 

「……キリトは?」

「今、死銃と戦っているわ。それよりも……」

 

 一瞬だけ奥の方へ顔を向けたシノンは、再びこちらに視線を向ける。おそらくキリトはこの先でザザと戦闘しているのだろう。

 だが、加勢するために動こうとしたラテンをシノンが歯切れの悪い言葉でとどめた。

 

「どうした?」

「いえ、大したことじゃないんだけど……さっきあなたが都市エリアにいた時に、近くにもう一人プレイヤーがいたはずなのよ。確か、プレイヤーネームは《ゲイザー》……接敵()わなかったの?」

 

 彼女の言葉に七回目のスキャン時のことを思い出す。 

 そのときはキリトとシノンをようやく見つけた安心感から、彼ら以外の細かい座標までは把握をしてはいなかった。

 しかし、それほど近かっただろうか。自分が確認した時は目測で一キロほど離れていたような気が――。

 途端、背後から殺気を感じラテンはシノンに飛びつく形で前方へダイブした。

 

「きゃっ!?」

 

 可愛らしい悲鳴が耳元で聞こえたのとほぼ同時に、頭上から二発の弾丸が空を切る。

 地面に倒れたのと同時に光剣を浮き放ち、振り向きざまに自分の五感を頼りに追撃の三、四発目を立て続けに切り払った。

 すぐさま腰からショットガンを抜き取り、間髪入れずに引き金を引けば、いつの間にか背後に立っていたプレイヤーの右手に装備されていたリボルバーに命中し、無数のポリゴン片に変化する。

 だが、不意打ちをしたプレイヤーの判断力は早く、腰から――本戦ではラテンとキリトしか使用していなかったと思われた――紅いエネルギーの刃が抜き放たれ、ラテンに向かって突進する。

 ラテンはすぐさま左手を離してショットガンを地面に捨てると、両手でそれを受け止めて鍔迫り合いに持ち込んだ。

 

「行け、シノン! ここは俺が食い止める!」

「わ、わかった!」

 

 背後の足音が遠ざかっていくのを確認してラテンは、襲撃者の正体を知るべく正面へ顔を向けた。

 同時に、目の前のプレイヤーが大きくバックステップし、二人の距離は三メートルほど空けられる。

 

「……お前が、ザザの協力者か」

「…………」

 

 ぼろいフード付きのマントに身を包み、表情はよく見て取れないが光剣を持つ右手の手首には、かつてラフィンコフィンのギルドシンボルだった棺桶に笑った表情の顔を組み合わせたタトゥーが彫り込まれている。ザザが言っていた協力者であることは明白だ。

 右手に力を込めて腰を低くし、今にも突進しようとしていたラテンに高めの無機質な声が降りかかる。

 

「久しぶりだな、ラテン」

「……俺は知らないな。《ゲイザー》っていうプレイヤーは」

 

 すると、ラテンの言葉に触発されたのか目の前のプレイヤーは、くくくと喉で笑い始める。

 

「《ゲイザー》っていうのは単に、頭文字を変えたに過ぎない。僕の本当のプレイヤーネームは……」

 

 抑揚を込めた声を一旦止め、左手でフードをたくし上げて男は続けた。

 

「――《カイザー》、だ」

「なっ……!?」

 

 フードの下に現れたのはこの世界には似合わない少年のような顔立ちであり、実際に会ったことも見たこともないのだが、その口許に浮かぶ微笑にラテンはとある一人のプレイヤーの面影を感じせざる負えなかった。それと共に暴かれた、このプレイヤーの本当の名前。

 途端、ラテンの頭の中で走馬灯のように記憶が蘇り始めた。

 ぐらつく足元を何とか踏ん張って、浅い呼吸を繰り返しながら顔を上げたラテンの瞳孔には、獲物を狩る猛獣のような猛然たる光が宿っていた。

 

「カイザー、お前がしたこと……忘れたとは言わせないぞ」

「もう昔のことじゃないか。水に流そうよ」

「ふざけるな!!」

 

 裂帛の咆哮と共にラテンは地を蹴った。

 夜空を彩る流星の如く、白銀の刃がカイザーに襲い掛かる。それを後ずさりながらも防ぎ切りながら、カイザーは不敵に笑った。

 

「『どんなときにも冷静に』って言ってたアンタが、これとはなぁ!」

「だまれ!」

 

 挑発の言葉に、ラテンは全体重を乗せた上段からの振り下ろしで返す。それを片膝をつきながら両手で受けとめたカイザーは、囁きかけるように呟いた。

 

「実はさぁ……あの時の快感が忘れられないんだよ。だから、次のターゲットはさっきの、あ・い・つ」

「――ッ、この!!」

 

 歯を食いしばったラテンは左足に重心を移動させ、そこを軸にしてがら空きの腹部へ蹴りをお見舞いしようとしたが、それよりも早くカイザーが左手で腰から武器を抜き放つ。

 

「くっ……!」

 

 途端、二発の爆音とともに、放たれた弾丸がラテンの腹部を貫通し、その衝撃によって二メートル半ばほど吹き飛んでしまう。

 視界に映ったHPバーが、満タン状態から削られる。

 空中で一回転し、何とか地面に着地すると、目の前の男は見せびらかすように左手を掲げた。

 

「どうだ、こいつの威力は」

 

 見れば銀色に輝くリボルバーが銃口から煙をふかしていた。しかし、ただのリボルバーにしては銃身が異様に長い。たった二発で、コンバートしたラテンのアバターのHPを三分の一まで削ったのだ。おそらく、どんなプレイヤーも三発で仕留めることができるほどの威力を持ったレア武器なのだろう。次の弾が当たれば、ラテンのアバターは死体に変わる。

 だが、その状況に臆することなくラテンはゆっくりと立ち上がった。その瞳にはただひたすら、憎しみの色が浮かんでいた。

 

「俺は、お前を絶対に許さない」

「そうこなくちゃね」

 

 カイザーは不敵な笑みを浮かべながら、ラテンに銃口を向けた。

 

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