ソードアート・オンライン~神速の剣帝~   作:エンジ

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第六話 一筋の希望

 

 午後三時。

 ラテンとコトネはメンテナンスが終わった直後にALOへとダイブした。昨夜――といっても早朝――に宿泊した宿を出て、その宿の看板の前でコトネと待機する。

 約束の時間は三時ちょうどではない。あくまで『三時くらい』なのだが、あの男がそんなに時間を無駄にするとは思えない。だからこうして念のために三時ちょうどにログインしたのだ。

 街の外には、メンテナンスに痺れを切らしていたのか、続々とプレイヤーたちが宿から出てくる。中には、宿から出たのと同時に飛び始める者もいて、相当この世界に魅了されているのだろう。

 確かに、まだ完ぺきとは言えないが、それなりに飛べるようになってからは普通に《楽しい》と感じている。ラテンもまたこの世界に魅了されたプレイヤーの一人になってしまったようだ。

 

「そういえば、アルンに来たはいいけどこれからどうするの?」

 

 至極当然な疑問をコトネがぶつけてくる。それもそうだ。何故ならラテンもキリトも『世界樹の元へ行きたい』とだけしか伝えてない。

 

「ああー……あの樹ってさ、登れんの?」

「それって、外からってこと?」

「いや、外からでも中からでもルートは問わないけど……」

「うーん……少なくとも外からは無理だね。ついこの間なんだけど、わけあってGMが雲の少し上に障壁を設定しちゃって……まあそれがなくても外からは高すぎて無理なんだけどね」

「翅が持たないってことか」

「そうそう!」

 

 ラテンは改めて世界樹を眺める。天辺は相変わらず雲が邪魔していて見ることができない。ラテンの何倍もプレイしているコトネが言うのだから外からは無理なのだろう。

 

「じゃあ、他のルートからは登れんの?」

「うん、一応ね。世界樹の根元にゲートがあってそこから《グランド・クエスト》に挑戦すれば中から行けるよ。まあ、クリアは『不可能』なんだけどね」

「『不可能』? それはまた何故?」

「私も聞いた話だから詳しくは知らないんだけど……中には無数の巨大なガーディアンがいて、倒しても倒しても復活してくるから結局ジリ貧になって天井までたどり着けないんだって」

「それって、あえて戦わないで《すり抜ける》とかは無理なのか?」

 

 倒しても倒しても湧いてくるのなら、戦わないですり抜ければいい。別にこちとらグランドクエストが主な目的ではないのだ。世界樹の天辺――アスナがいる元へ辿りつければそれでいい。それに、ラテンもキリトも早さに関しては、他のプレイヤーに劣ってはいないと自負している。他のプレイヤーが無理でもラテンたちなら――いや、それは傲慢か。

 しかし、だいぶ可能性がある策をもコトネは簡単に打ち砕いた。

 

「それは私も思ったんだけど、それこそ無理らしいよ。上がれば上がるほどガーディアンの数が増えていって、最終的にはガーディアンが多すぎて、もはや天井になってるんだって」

「ああ、なるほどな。GMはよほどプレイヤーにクリアしてほしくはないんだな」

「そうだね。だって、そんな簡単にクリアできたら《グランド・クエスト》なんて名前はつかないからね」

 

 コトネの話を聞く限りでは、ラテンとキリトの二人で世界樹の天辺へ行くのは不可能に近いだろう。何しろ今までに一度もクリアされてないクエストなのだ。今までということは、あのユージーン将軍や血気盛んで見るからにレア武器を持っているサラマンダーの大軍勢でも無理だったということだ。普通ならば諦めるだろう。

 しかし、絶対にあの男は――キリトは諦めない。おそらくアスナを救うためならなんだってやるだろう。ラテンは彼の手助けに来たのだ。キリトが諦めないなら、ラテンもここで諦めるわけにはいかない。

 

「……まあ、百聞は一見に如かずって言うし、やるだけやってみるか」

「やるって……何を?」

「世界樹攻略?」

「……は?」

 

 コトネの目が点になる。それはそうだ。彼女は先ほどまで、世界樹攻略がどれほど不可能なのかをラテンに伝えていたのだ。その話をすべて聞いたラテンが、『グランドクエストクリアは無理だ』と判断したのではなく、『グランドクエストに挑戦する』と口走ったのだ。コトネからしたら呆れて物も言えないの当然と言えば当然だ。

 数秒後、ようやく我を戻したコトネがラテンの予想通りの呆れ顔をする。

 

「……お兄ちゃん、私の話聞いてた?」

「もちろん全部聞いたぜ? 聞いたうえでの判断だ」

「……ってことはお兄ちゃんと目的が同じのキリトさんも?」

「あいつなら『そんなことは問題じゃない』って一蹴するかもな」

「えぇぇぇ……だって……えぇぇぇ……」

 

 コトネは困惑した表情と呆れた表情を面白いぐらいに変える。もちろん、コトネに依頼したのは、『世界樹までの案内』だ。一緒にグランドクエストへ挑戦することではない。

 

「安心しろって、何も『お前も一緒に来い』だなんて言ってないから。ここからはあくまで俺とキリトの問題だ。ここまで案内してくれてありがとうな。今度、駅前のケーキバイキングを奢ってやるよ」

 

 ポンポンとコトネの頭を撫でてやれば、コトネは俯いて黙り込んだ。数秒後、何かを言おうとしたのか、はっ、と顔を上げたが何も言わずにすぐまた俯いた。

 そのタイミングでラテンたちが泊まっていた宿からキリトとリーファが出てくる。

 

「よう、思ったよりも遅かったな」

「悪い、ちょっとな……って何かあったのか」

 

 キリトがいつも通りのラテンと少々暗めのコトネを見て言った。

 

「ああ、別に。ただの家族会議だ。そんな深刻な話題じゃねぇよ」

「そうか……じゃあとりあえず根元まで行ってみよう」

 

 キリとの声と共にラテンとコトネとリーファは歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 行き交う混成パーティの間を縫うように数分歩けば、前方に大きな石段と、その上に立つ大きなゲートが見えてきた。あのゲートをくぐればアルンの中央市街に入ることができる。先ほどよりも近くなった巨大樹はもはや壁そのものだ。

 大きな石段をゆっくりと登り、ゲートをくぐろうとしたその時だった。

 

「ママ……ママがいます」

 

 突然ユイがキリトの胸ポケットから勢いよく顔を出したかと思えば、世界樹の上部を見上げながらかすれ声で言った。

 もちろんその言葉はキリトにとっては絶大な威力を持つもので――

 

「本当か!?」

「間違いありません! このプレイヤーIDは、ママのものです……座標はまっすくこの上空です!」

「上空って言ったって……」

 

 先ほどコトネが言った通りなら、上空に漂う雲を抜けたあたりには障壁があってその先へは進めないはずだ。ユイが言ってることが嘘だとは思っていないが、残念ながらアスナがいるのはその障壁のはるか上空だろう。このまま上へ飛び立ってもアスナの元へ辿りつくことはない。

 それを伝えようと、キリトに声をかけようとするが、一歩遅かった。ギリギリっと歯を食いしばる音が聞こえたかと思うと、キリトが背の翅を大きく広げる。

 

「お、おい、キリト!」

 

 ラテンの制止も空しく、大きな破裂音と共にキリトが上空へと飛び立った。思った以上の衝撃波に、ラテンとコトネとリーファは一瞬その場に踏みとどまる。

 しかし、暴風が止んだのと同時にラテンたちはキリトの後を追った。まるでロケットブースターのように加速するキリトにはまるで追いつける気がしない。それほどアスナへの思いが強いということなのだろうか。

 アルン市街を構成する無数の尖塔群の間を抜け、やがて視界に建造物がなくなると、金緑色の絶壁にも似た世界樹の幹が現れる。それと並行して、キリトはなおもグングンと上昇を続けた。そんなキリトにリーファが叫ぶ。

 

「気をつけて、キリト君!! すぐに障壁があるよ!!」

 

 しかし、残念ながら彼女の声は届かない。

 それが理由なのか、はたまた別の理由なのかリーファの上昇速度が少し遅くなる。本来ならば、彼女を気にかけることが優先なのだが、今は何の考えもなしに突っ込んでいくキリトのほうが心配だ。あの速度で受け身も取らず障壁とぶつかりでもしたら、気を失うなんてもんじゃない。下手したら、現実の体にだって影響が――

 

「コトネ!」

 

 リーファのことはコトネに任せようと、ちらりと視線を向けて叫んだが、いらぬ心配だったようだ。リーファは先ほどの速度まで戻っていた。

 キリトに遅れること数秒。ラテンたちも雲海へと突入する。コトネの話によれば、この先には障壁があるはずだ。本当はキリトにもしてもらいたいのだが、何を叫んでも今のキリトには届かないだろう。仕方なくラテンたちは僅かに速度を緩める。

 不意に、眼前に濃紺な青色の世界が広がった。雲の上の世界。本来ならばあり得ないはずだが、その雲を突き抜けてもなおそびえ立つ巨大な樹。その樹の枝の一本へ向かってキリトはさらに加速した――

 かと思えば、突然彼の体を中心に虹色のエフェクトが広がる。数瞬遅れて落雷にも似た、衝撃音が大気を揺るがした。

 見えない壁にぶつかったキリトが、力なく空中に漂う。

 

「キリト君!!」

 

 リーファは悲鳴を上げキリトの元へ急いだ。アルンは中立都市だ。どの種族もダメージ判定が出ればHPが削られる。つまりこの高さから落ちれば、いくらステータスが高いキリトだからって、HP全損は免れない。

 ラテンも急いでキリトの元へ行く。しかし、思った以上に気を失わなかったようで、二、三度頭を振ると再び上昇する。だが、システムの力は絶対的で障壁はキリトの侵入を許さない。

 そんなキリトと同高度に達したリーファはキリトの腕をつかんで必死に叫んだ。

 

「やめて、キリト君!! 無理だよ、そこから上には行けないんだよ!!」

 

 リーファの叫びはキリトに届かない。なおも突進を繰り返そうとしたキリトの腕をラテンも掴んだ。

 

「キリト!!」

「行かなきゃ……行かなきゃいけないんだ!!」

 

 すると、彼の胸ポケットからユイがとび出す。きらきらと光の粒を振りまきながら、枝を目指して上昇し始めた。

 しかし、システム属性のナビゲーションピクシーでさえ、この障壁は冷酷に拒んだ。水面に波紋が広がるがごとく、ユイは押し戻される。だが、ユイはそれでもあきらめなかった。

 

「警告モード音声なら届くかもしれません……! ママ!! わたしです!! ママー!!」

 

 数秒間の沈黙。残念ながら、そして当たり前だが返事はない。

 それでもあきらめきれないのか、キリトは両手を障壁へ打ち付けた。しかし、いくらそんなことをやっても、いくらアスナのことを思ったとしても、この上へは行くことができない。ラテンたちには《グランド・クエスト》しか道がないのだ。

 

「……キリト、ユイ……もういいだろ」

 

 ラテンが静かに呟けば、キリトとユイは押し黙った。二人ともわかっているはずだ。このままここにいても、アスナには届かないことを。

 

「……わかった」

 

 やがてこの場は諦めたかのようにキリトが呟いた。その時だった。

 

「――パパ! あれを見てください!」

 

 突然ユイが叫ぶ。ラテンたちは慌ててユイが指示した方向へ顔を向けた。確かに、さっきまではなかったキラキラしたものが見える。それはゆっくりとこちらに向かって落ちてきて――

 

「……カード……?」

 

 キリトが、掴んだものを広げながら呟く。ラテンたちはそのキリトを囲んで振ってきた物を眺めた。

 キリトが言った通り、長方形のカード型オブジェクトのように見える。ラテンはその正体を掴むべく、そのオブジェクトをタッチしてみる。しかし、ゲーム内アイテムなら必ず出現するはずのポップアップ・ウインドウは表示されなかった。

 その時、ユイが身を乗り出し、カードの縁に触れながら言った。

 

「これ……これは、システム管理用のアクセス・コードです!!」

「!?…………」

 

 キリトが息をつめ、カードを凝視する。

 

「……じゃあ、これがあればGM権限が行使できるのか?」

「いえ……ゲーム内からシステムにアクセスするには、対応するコンソールが必要です。わたしでもシステムメニューは呼び出せないんです……」

「……まあ、でも普通こんなものが落ちてくるわけないないからな」

「はい。ラテンさんの言う通り、きっとママがわたしたちに気付いて落としたんだと思います」

「…………」

 

 キリトが無言でカードをそっと握りしめる。そして再び顔を上げたキリトは先ほどまでのキリトとは違って決意に満ち溢れていた。

 

「……ラテン、来てくれるか?」

「当たり前だろ。ここまで来て投げ出すほど俺は薄情者じゃねぇよ」

 

 キリトは強く頷くと、リーファとコトネに向き直る。

 

「今まで本当にありがとう、リーファ、コトネ。ここからは俺とラテンの二人で行くよ」

「……キリト君……」

 

 泣きそうな顔で口篭もるリーファの手をキリトはぎゅっと握り、離した。一方コトネは先ほどからずっと黙ったままだ。おそらくラテンとキリトが向かおうとしている先を知っているからかもしれない。

 

「……コトネ、改めてありがとうな。すぐに終わらせてくるから、そこら辺のカフェでくつろいでいてくれ。帰りはスイルベーンまで護衛するよ」

「……うん」

 

 コトネは小さく頷いた。

 その頭を再びぽんぽんと撫でてやると、キリトに顔を向ける。

 

「じゃあ、行くか?」

「ああ」

 

 ラテンとキリトは一瞬だけ滞空して二人を見つめ頭を下げると、翅をたたみ急降下した。

 

 

 

 







次回もよろしくお願いします!!

※大幅修正しました。話が噛み合っていませんが、修正が終わるまで今しばらくお待ちください。
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