ソードアート・オンライン~神速の剣帝~   作:エンジ

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第七話 不可能な試練

 

「うひょぉ……さすが《グランドクエスト》だけあって、すごい造りの門だな」

 

 コトネ、リーファと別れて数分。ラテンとキリトは身の丈の数十倍もありそうな大門の前にたどり着いた。大門のすぐ前には、これまたRPGにはありがちな二頭の巨大な石像が門の守護者と主張するかの如く立っている。

 

「……行こう」

 

 キリトは短く呟くと、大門の前に立つ。すると、先ほどまで沈黙を守っていた二体の石像の瞳に青白い光が宿った。そして、重い動作で首を動かしこちらを見下ろしたかと思うと、重々しい声が発せられる。

 

『未だ天の高みを知らぬ者よ、王の城へ至らんと欲するか』

 

 同時に、キリトの目の前にグランドクエストへの挑戦石を質すためのイエス、ノーのボタンが表示された。迷うことなくキリトは、イエスのボタンに手を触れる。

 

『さればそなたが背の双翼の、天翔に足ることを示すがよい』

 

 石像の声が消えるや否や、大扉の中央がぴしりと割れる。地響きを上げながらゆっくりと左右に開いていった。

 

「行くぞ、ユイ、ラテン。ユイはしっかり頭を引っ込めてろよ」

「キリトの乗り心地が悪かったらこっちに乗り換えてもいいからな」

 

 ラテンは自分の左胸をポンポンと叩きながらウインクすると、ユイは苦笑しながら口を開く。

 

「ラテンさんの服には胸ポケットがありませんよ」

「あれま、こりゃ失礼」

 

 両手を上げて見せれば、キリトとユイが小さく笑った。もちろん、胸ポケットがないことは知っている。この冗談は、妙に肩に力が入っているキリトを落ち着かせるためだ。冷静さを失えば、見える道も見えなくなる。

 

「パパ、ラテンさん……がんばって」

 

 胸ポケットに収まったユイを見届けると、ラテンとキリトは同時に剣を抜いた。そしてそのまま中へと歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 中に入り、最初に視界に飛び込んできたのは、とてつもなく広い円形のドーム状の空間だった。それもそのはず。おそらく外から見えていた世界樹の内部そのものがエリアになっているのだろう。100人を横並びにしても全然余裕があるほどの横幅だ。

 それに加え、外からの景色を相違ないようにしているのか、内部は世界樹のつたなどが所々にあり、上へ行こうとする者の行方を阻もうとしているかのようだ。

 そして、この世界樹内部の頂点には、おそらくラテンたちの目的地へ行くためのルートであろう円形の扉がぴったりとその身を閉ざしている。

 

「あそこだな」

「ああ……行くぞッ!」

 

 キリトは大きく深呼吸すると、勢いよく地を蹴った。それと同時に強烈な風圧が辺りを襲う。その風圧に負けじと、ラテンもキリトに追随する形で地を蹴った。

 二つのミサイルが発射されたや否や、すぐさま世界樹の内部に異変が起こる。このエリアを照らしているであろう天蓋の発光部から光る泡のようなものが沸き立ち、何かを形成しようとしているのが見えた。またたく間に光は人間の形を取り、滴り落ちるよかのようにドーム内に放出されると、手足と、四枚に輝く翅を広げて、白い騎士のようなものが誕生し咆哮した。

 身の丈はラテンやキリトの倍ほどはあるだろうか。白い騎士の手にはキリトの大剣を大きく上回るほどの長大な剣が握られていた。おそらくあれがコトネの言っていたガーディアンなのだろう。確かにあれほど巨大なガーディアンがうじゃうじゃいるのなら、立った二人で天蓋へ向かうのは不可能だろう。ただ、やってもいないのに不可能と決めつけるのは性に合わない。

 

「そこをどけぇぇぇぇっ!!」

 

 雄叫びを上げながら向かってきた守護騎士に同じくキリトは咆哮しながら大剣を振りかぶった。それに対して守護騎士は大剣を振り下ろし、両者の間に大きな火花が散った。どうやら力の差はキリトに軍配が上がったようで、守護騎士の大剣が弾かれる。キリトがその隙を見逃すはずもなく、流れるように守護騎士の懐に潜りこむと体制が整う前にその首を跳ね飛ばした。

 悲鳴一つ上げることなく守護騎士は全身を硬直させると、その身を純白のエンドフレイムが包み込み、四散した。

 その間約二秒。

 しかし二秒もあれば追い抜くのは簡単で、今度はキリトがラテンに追随する形になる。そして同じように再び出現していた守護騎士がラテンに斬りかかった。

 ここでキリトのように正面からの力と力のぶつかり合いで勝れば、いくらか簡単にこの守護騎士を倒せそうな気もするが、残念ながらラテンとこの刀では厳しいだろう。だからラテンは、それ以外で勝負する。

 先ほどと同じように守護騎士は巨大な剣を振り下ろす。しかしリーチが長ければ長いほど、その剣の軌道は読みやすい。

 体を捻り、紙一重で巨剣を躱すと、その勢いのまま回転し無防備な首に振り上げた。そしてそのまま、勢いを殺すことなく上昇を続ける。キリトの戦闘で首を飛ばせばこの騎士が消滅することは確認できた。コトネが言っていたことが本当ならば、この先時間のかかるような戦闘は避けた方がいいだろう。最速で天蓋に到達し、そこを抜けたらラテンたちの勝ちだ。

 

「っ、まじか!?」

 

 しかし、そんなラテンの読みをあざ笑うかのように天蓋付近では、それを作っているステンドグラスの窓から、無責任なほどに守護騎士たちが生み出されていく。その数、ざっと見ても数百。

 あれではすり抜けはできないと判断したラテンはちらりと追随するキリトを見やる。しかし、その瞳には迷いはなかった。となれば、ラテンは生贄になったほうがいいだろう。道がなければ作ればいい。

 

「キリト!」

 

 ラテンが叫ぶとキリトはラテンが考えていることを理解したのか、小さく頷いた。それを確認すると、もう目の前に迫っていた守護騎士の剣に合わせるように刀を当てる。そして、手首を中心に全身でそれをいなした。しかし、ここで無防備になった守護騎士を倒すとほんの一瞬だけ時間をロスしてしまう。今は、その一瞬も惜しいのだ。

 そのまま守護騎士を無視して上昇を続ける。キリトも追随する。

 だが、この方法は一対一、頑張っても一対二の状況でなければ通用しない。上へ行けば行くほど仕掛けてくる守護騎士は多くなる。必然的にこの方法はあと数回が限界だ。ともなれば、後は《生贄戦法》だ。

 ラテンが予想していた通り二回同じ方法で乗り越えると、次はできないであろう数の守護騎士が迫ってきていた。

 

「やるぞ!」

 

 後ろを見ずに叫べば、後ろから人の気配が徐々に離れていく。できるだけ多く釣るには、できるだけ早くラテンにターゲットが向かなければならない。

 少し右にずれてみれば、思っていた通り滞空していた守護騎士がラテンを追うようにして右にずれてくる。覆うように配置してあっても、少しの揺らぎで簡単に人一人分通れる道ぐらいは作ることができる。

 

「オラッ!!」

 

 上昇する勢いのまま、守護騎士にぶつかり鍔迫り合いに持ち込む。その少し離れた左でスプリガンが爆速で駆けあがっていった。

 半分以上は釣れただろうか、膨大な数の敵が次々とラテンに襲い掛かる。

 ――わかってたけど、これは結構キツイな……!

 時節カウンターを仕掛けて何体か倒すが、防御に徹しているとはいえあらゆる方向から剣が飛んでくるのだ。すべてを防ぎきることはできず、少しずつHPバーが削れていく。

 不意に、ラテンが釣っていた無数の守護騎士の間がほんの少しだけ開き、通ることはできないが上の状況を見ることができた。そしてラテンは目を見開いた。

 

「おいおい、嘘だろ……」

 

 見れば、上へあがっていく黒い点の頭上には、今ラテンが釣っている守護騎士の数などばからしく思えてくるような数の守護騎士が行く手を阻んでいた。コトネが言っていたのは大げさではなかったのだ。守護騎士の群れのせいで、先ほどまでは見えていたはずの天蓋が見えない。あの量では、ラテンのような生贄作戦をあと三、四回は続けないと天蓋へは到達できないだろう。

 

「くそっ……さっさとここを抜け出して早くキリトのところに……ッ!?」

 

 ラテンは落ちるように翅を羽ばたかせて、守護騎士たちと距離を取るとすぐさま左へずれる。そこでラテンは、先ほどまで動いていた黒い点が止まっているのに気が付いた。すぐさま視界の左上を確認すれば、パーティメンバーであるキリトのHPバーが全損している。つまり、突破できなかったのだ。その大軍を。

 ――そりゃそうか。あんなのは誰でも突破なんてできない。

 唇をかみしめると、突如、後方から人の気配が出現する。ラテンはそれを、無視した守護騎士だと思い体を回転させ迎撃態勢を取れば、すぐにその正体がわかった。そしてそのまま、そのプレイヤーはラテンが釣っていた守護騎士の間をすり抜け上昇していった。

 

「リーファ……!?」

「お兄ちゃん!」

 

 聞き覚えのある声が聞こえたかと思えば、下からさっき別れたはずのコトネがこちらに向かってきていた。

 何で来た、と叫びたくなったがこの状況での加勢はありがたい。大方、上へ行ったリーファも天蓋を目指しているのではなくて、エンドフレイムになって蘇生を待っている状態のキリトを回収が目的なのだろう。

 

「コトネ! リーファが来が来たらすぐに入口まで行くんだ!」

「お兄ちゃんは!?」

「しんがりをする!」

 

 横にいた守護騎士にぶつかったコトネに早口でまくしたてる。とりあえず、今回は攻略失敗だ。一旦、この場を離れて突破できる方法を考えなければならない。

 視界に緑の点と白い天井がこちらに向かってくるのが見えて、ラテンは叫ぶ。

 

「コトネ、行け!」

 

 コトネは弾かれたように戦闘を中断し、急降下していった。ラテンは無数の大剣を防ぎながら、一瞬距離を取ると、すぐに左方向へ全速力で突進する。そのまま白い物体左方向へ押し出しながら、今度はその鎧に右足を当てる。

 

「――ラッ!」

 

 思い切り蹴りだしその勢いのまま急降下し始める。しかし、すでに体勢が整っていたのか、横なぎに振るわれた巨剣が発射されたばかりのラテンの右足を両断した。

 妙な感覚に襲われるが勢いはもうすでについている。そのまま、全速力で入口を目指した。

 

 

 

 

 

 

 

 転がるように門を出たラテンを待っていたのは、何やらアイテムを取り出しエンドフレイムになったキリトに注ぎかけているリーファと、焦った表情でこちらに駆け寄ってくるコトネだった。

 

「大丈夫?」

「ああ、なんとかな。足は持っていかれたけど」

 

 見れば、膝より少し下の位置から持っていかれたらしい。視界には、部位損傷のアイコンと2:51と時間が表示されていた。約三分待たないと損傷した部位は回復しないらしい。

 

「この辺はあの世界と同じだな……」

「あの世界?」

「ああ、気にすんな」

 

 小首をかしげたコトネに小さく笑う。すると、丁度蘇生が終わったのだろう、キリトがリーファの前で哀切な笑みを浮かべながら立っていた。

 

「ありがとう、リーファ。……でも、あんな無茶はもうしないでくれ。俺は大丈夫だから……これ以上は迷惑かけたくない」

「迷惑何て……あたし……」

 

 リーファが言葉を探していると、キリトがこちらに顔を向ける。ラテンの状態を確認しているのだろう。ラテンは肘を上げて三という数字を指で示めしながら、右足に視線を動かす。キリトは何も言わず、小さく頷いた後、再び大門へと足を踏み出した。どうやら一人で挑戦するらしい。ラテンの回復を待つ時間すらも惜しい、ということだろう。だが、無策で挑戦したって天蓋へ到達することはできない。

 

「き、キリト君!!」

 

 ラテンがキリトを呼び止めるよりも早くリーファが叫ぶ。

 

「ま、待って……無理だよ、一人じゃ!」

「そうかもしれない……。でも、行かなきゃ……」

 

 悲痛な表情をしたリーファは、両手でキリトの体を後ろから抱く。きっとリーファは無茶するキリトを見たくはないんだろう。

 

「もう……もうやめて……。いつものキリト君に戻ってよ……。あたし……あたし、キリト君のこと……」

 

 次に出てくる言葉は容易に想像できた。しかし、キリトはその言葉を遮るように、リーファの手を握る。

 

「リーファ……ごめん……。あそこに行かないと、何も終わらないし、何も始まらないんだ。会わなきゃいけないんだ、もう一度……」

 

 そして、噛みしめるように再び呟く。

 

「もう一度……アスナに」

 

 それに対してリーファの反応は予想外のものだった。

 

「……いま……いま、何て……言ったの……?」

「ああ……アスナ、俺の捜している人の名前だよ」

「……でも……だって、その人は……」

 

 口元に両手をあて、リーファは半歩後退った。その姿はまるで、もうすでにその名前を知っているかのようなものだった。

 

「リ、リーファちゃん?」

 

 コトネが声をかけるとリーファは突然震えだす。そして、次に発せられた言葉はこれまた予想外のものだった。

 

「……お兄ちゃん……なの……?」

「え…………?」

 

 キリトは訝しそうに眉をひそめた。それもそのはず。ずっと同行していたリーファから、まさかのお兄ちゃん発言だ。疑問に思うのは無理もないだろう。

 しかし、キリトは驚いたように声を漏らす。

 

「――スグ……直葉……?」

 

 どうやらキリトには心当たりがあるらしい。

 キリトの発言に。リーファはよろめきながら数歩下がる。

 

「……酷いよ……。あんまりだよ、こんなの……」

 

 うわ言のように呟きながら、リーファは首を左右に振った。そして、キリトから顔を背け、左手を振る。

 

「リーファちゃん!?」

 

 コトネが驚いた声を上げるが、まるで聞こえてないかのように、出現したウインドウを乱暴にタップすると、光に包まれて消えていった。

 キリトに顔を向ければ、呆然とした表情で立ち尽くしていた。その様子から察するにお互いに知らなかったのだろう、兄妹だったことを。

 

「キリト……」

 

 なんと言えばわからず、キリトの名前を呼ぶ。数秒の沈黙ののち、キリトは小さく呟いた。

 

「……悪い、ちょっと行ってくる」

「ああ、わかった。待ってる」

 

 そう返事すると、リーファと同じようにキリトも光に包まれた。

 それにしてもどんな確率なのだろう。お互いに初対面で会い、色んな苦難を乗り越えここまで来たパートナーが実の妹だった、など。

 気が付けば、欠損していた右足が復活していた。ぶらぶらと右足を揺らし、何の問題もなく動くことを確認すると、ゆっくりと立ち上がる。そんなラテンを見て、コトネが小さく呟く。

 

「どうしよ……お兄ちゃん」

「どうもこうも、俺らにできることはないだろ。とりあえず、キリトたちを待とう」

「……うん」

 

 数分後。 

 帰った来たのはキリト一人だけだった。そして、帰って来るや否や、決意に満ちた表情で口を開いた。

 

「スグ――リーファと話し合う。もう少し待っててくれないか」

 

 きっと解決できる方法を見つけたのだろう。ラテンたちにできることはここで待つことだけだ。

 

「行ってこいよ。やっぱ失敗した、なんてのは止めてくれよな」

「わかってるよ」

 

 キリトは苦笑しながら頷いた。

 そして、北の方向へ飛び立っていった。

 

 

 

 




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