2026年一月八日、水曜日、午前十一時。
結局あれから、アスナからの連絡は届かなかった。まあ、あちらにはあちらの事情があるのだろう。
俺は、昨日完成させたOSSを試すためにフィールドに行こうとした。だが、主街区を出るところで一通のメールが届く。差出人はキリトだ。
<来てくれないか?>
何とも単純なメールだ。また、厄介ごとに巻き込まれるような気がしたがキリトからの頼みだ。特に断る理由もないので<わかった>と簡単な返事をした後、フレンドリストからキリトの場所を特定し、キリトの元へ向かった。
俺は、キリトと合流した後二十七層迷宮区に向かっていた。キリトと二人だけでパーティーを組むのは、旧ALOの時以来だ。俺とキリトが、交互に切り札を使えば二人だけでボス攻略も可能かもしれない。
「なあ、キリト。こんなところで何をやるんだ?」
「ああ、ちょっとな。とりあえず隠蔽スキルを使って隠れていてくれないか?」
「は、はぁ」
俺は、隠蔽スキルを発動する。俺もキリトも隠蔽スキルはマスターしている。隠蔽スキルをコンプリートしたプレイヤーを見つけるには、索敵スキルをコンプリートするしかない。だが、隠蔽スキルも索敵スキルも鍛錬が地味すぎるので、上げているプレイヤーはあまりいない。つまり、相当なプレイヤーでなければ俺達を見つけることは不可能だ。
尾行でもすんのか?
俺は、様々な理由を考えていると、大人数の足跡が聞こえてきた。俺は、とっさに身をひそめる。反対側ではキリトが俺にサインを出している。
両手の人差し指を取り出し、同時に動かしている。それは、片方の指がもう片方の指にストーカーをしているように見えた。
つまり、<尾行しろ>ということだ。目の前に大人数のプレイヤーが通り過ぎる。見た感じ三十人近くいるようだ。
俺とキリトは、大人数のプレイヤーの後ろをついていく。かなり接近しているので、ばれるのではないかと思うが、このゲームは隠蔽スキルを使いながら走れるため、俺達を視認しなければばれることはない。まさに、空気の状態だ。
俺達はしばらく走っていた。
Side アスナ
「ごめんなさい、私たちボスに挑戦したいの。そこを通してくれる?」
私は、ボス部屋前にいる二十人ほどのプレイヤーのうちの一人に声をかける。だが、太い腕を見せつけるように腕を前に組んだノームは、予想にしていなかった言葉を口にした。
「悪いな、ここは今閉鎖中だ」
「閉鎖・・・・・って、どういうこと・・・・・?」
「これからうちのギルドがボスに挑戦するんでね。いま、その準備中なんだ。しばらくそこで待っててくれ」
「しばらくって・・・・どのくらい?」
「ま、一時間てとこだな」
このプレイヤーたちは、偵察隊を配置して情報収集に当たらせたうえ、攻略に成功しそうな集団が現れた時には、大人数で物理的に封鎖しているのだ。最近一部のギルドによる狩場のポイント独占が問題になっていると聞いたことがある。この光景を改めてみると、アインクラッドでの<軍>を思い出す。
私は、尖ろうとする声に何とか堪えながら、言う。
「そんなに待ってる暇はないわ。そっちがすぐに挑戦するって言うなら別だけど、それができないなら先にやらせてよ」
「そう言われてもね、こっちは先に並んでいるんだ。順番は守ってもらわないと」
「それなら準備が終わってから来てよ。私たちはいつでも行けるのに、一時間も待たされるなんて理不尽よ」
「だから、そう言われても、俺にはどうにもできないんだよ。上からの命令なんでね、文句があるならギルド本部に行って交渉してくれよ。イグシティーにあるからさ」
「そんなとこまで行ったら、それこそ一時間経っちゃうわよ!」
どう交渉しても、彼らは道を譲る気はないらしい。ならばどうするべきか。
ボスがドロップしたアイテムやユルドをすべて提供するという取引を申し出るべきか。しかし、ボス攻略の魅力はアイテムだけではない。莫大なスキルポイントのアップと、剣士の碑に名を残す名誉という実体なき褒賞もある。それを考えると、この連中が引くわけはない。
交渉終了を見たのか、ノームの男は身を翻し、仲間の元へ戻ろうとした。
その背中に向かって、私の斜め後ろにいるユウキが言葉を投げかけた。
「ね、君。つまり、ボクたちがこれ以上どうお願いしても、そこをどいてくれる気はないってことなんだね?」
「・・・・ぶっちゃければ、そういうことだな」
「そっか。じゃあ、仕方ないね。戦おう」
「な・・・・なにィ!?」
「ええっ?」
ノームの男と同時にわたしも驚きの声を漏らす。このゲームは、中立地域において他のプレイヤーを無条件に攻撃可能だ。ヘルプ内でもその内容が書かれている。だが、大ギルド相手に戦闘を吹っ掛けるのは報復がほぼ確実にあるだろう。そうなれば、ゲームができなくなることもあり得る。
「ゆ・・・・・ユウキ、それは・・・・」
「アスナ。ぶつからなきゃ伝わらないことだってあるよ。例えば、自分がどれくらい真剣なのか、とかね」
背後のジュンが相槌を打つ。振り返ると、五人とも平然とした態度でそれぞれの武器を握りなおしている。
「みんな・・・」
「封鎖している彼らだって、覚悟はしているはずだよ。最後の一人になっても、この場所を守り続ける、ってね」
「あ・・・・・お、俺達は・・・・」
「さあ、武器をとって」
ユウキのペースに呑まれたように、ノームが腰からバトルアックスを取り出すと構える。
次の瞬間、ユウキは一陣の突風となって回廊を駆けた。
「ぬあっ・・・」
ノームが状況をようやく察したかのように斧を振りかぶる。だが、その動きは遅すぎた。ユウキの黒曜石の剣は、闇色の軌跡を残して低い位置から跳ね上がり、男の胸の真ん中をとらえる。
「ぐっ!」
ノームは、体勢を崩し、それを素早く立て直そうとする前にユウキの斬撃が襲い掛かる。ノームの肩口に剣が食い込みHPを大きく削り取る。
「ぬおおおおお!!」
さすがは、有名ギルドのパーティーリーダーたる男だ。このままやられるわけもなく、すぐに反撃に出る。だが、ユウキがそれを許さなかった。ノームの重い一撃を弾き返すとソードスキル<バーチカルスクエア>を繰り出す。
「ぐはっ・・・・!」
悲鳴とともに、ノームの巨体が吹き飛ばされる。HPを見るとレッドゾーンだ。ユウキのHPは一ミリとも減っていない。
「きっ・・・・たねぇ不意打ちしやがって・・・・!」
リーダーが立ち上がると、その後ろの二十人も戦闘モードに切り替えたようだ。次々に剣を抜き始める。
アスナ、ぶつからなきゃ伝わらないことだってあるよ。
私は、ユウキがさっき言った言葉を脳裏でリフレインしていた。それは、きっとその場だけの台詞ではない。ユウキという不思議な少女の、いわば信念なのだろう。
・・・・そうか・・・。そうだよね・・・。
声を出さずにつぶやいた私は、無意識に笑顔を浮かべる。
私は、ブーツのかかとに決意を込めて一歩踏み出し、ユウキの隣に並ぶ。さらに、ジュンとシウネーが私の隣に並び、テッチ、ノリ、タルケンがユウキの隣に並ぶ。
自然にこの場に緊迫の空気が漂う。
しかしこの緊迫を破ったのは、前方ではなく後方から殺到してくる無数の足音だった。ノームの戦士が勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
「・・・・・っ!」
後ろを振り向くと、無数のカラーカーソルが重なって表示された。ギルドマークには<盾に馬>が混じっている。ということは、ノームのレイドのもう半分だ。
はさまれた状態で、七対四十九はどう考えても分が悪すぎる。
「ごめんね、アスナ。ボクの短気に、アスナも巻き込んじゃって」
「私こそ、役に立てなくてごめん。この層は無理かもしれないけど、次のボスは絶対にみんなで倒そう」
かくなる上は、戦えるところまで戦うだけ。そう覚悟を決め私は攻撃スペルの詠唱を開始すべくワイドをかざした。
「あっ・・・・あれは・・・・!?」
ノリが叫んだ。
Side ラテン
しばらく走っていると、前方にボス部屋が見え始める。同時に複数のプレイヤーも確認できた。キリトが、俺に向かって合図すると俺は、それに従う。
キリトは右側の壁を、俺は左側の壁を走り、前の集団を追い越すと扉前にいる七人の後ろに着地する。
キリトは背中から薄青い剣を抜くと盛大な音を立てて地面に突き刺した。三十人の手練れが一斉に立ち止まる。
「悪いな、ここから先は通行止めだ」
「そう言うことだから、ここから先を通りたければ、邪神を連れてきな」
その場にいた、プレイヤー全員が絶句する。あまりにも不遜な振る舞いに最初に反応したのは増援部隊の先頭にいたサラマンダーの男だ。
「おいおい、<ブラッキー>先生と<イタリアン>先生よ。幾らあんたらでも、この人数を食うのは無理じゃねぇ?」
「どうかな、試したことないから解んないな」
「もう忘れたのかキリト。グランドクエストでこの倍以上を二人で相手にしたじゃねえか」
「そういえば、そんなこともあったな」
俺達が放つオーラが、増援部隊を一歩後ずりさせる。
「そうかい。・・・・メイジ隊、焼いてやんな」
集団の後方からスペルワード高速詠唱が聞こえてきた。スペルワード的にシングルホーミング型だろう。
キリトに七発、俺に六発飛んでくる。俺は、刀の柄に手を添える。幅はわずか五メートル。避けるのは不可能だ。
俺の目の前に初弾の魔法が飛んでくる。もちろん受けるつもりはない。俺は、腰を入れ魔法目掛けて抜刀する。<天地開闢>。魔法が音を立てて砕け散った。俺の刀は緑色に光りはじめる。五連撃OSS<ハリケーン・アイ>風七割、物理三割。
飛んでくる高速魔法を次々と斬る。俺は、魔法をすべて破壊すると納刀する。
「うっ・・・・そぉ・・・・」
後ろでつぶやきが聞こえる。どうやら、一部始終を見ていたようだ。
「どんな高速魔法も対物ライフルの弾丸よりは遅いな」
「お前らも一回、至近距離でショットガンの弾を全て斬ってみろよ。世界ががらりと変わるぜ」
「・・・・なんだそりゃ・・・」
その場にいた全員が再び絶句する。魔法というものは本来斬るということはできない。しかし、それを可能にしたのがキリトが開発した<魔法破壊>。
この技の習得は、普通のプレイヤーにはほぼ不可能で、魔法のスペル中心一点を魔法属性を備えたOSSであてなければ発生しない。かなりの実力者であるアスナや、リーファ、クラインも三日で練習をギブアップしたほど難しい。俺自身も最近会得したばかりだ。
回廊の前後から、つぶやきが聞こえる。
だが、さすがは攻略ギルドを名乗るだけあって反応がすばやい。サラマンダーの指示で前衛たちは武器を抜き、後衛は再びスペルを唱え始める。<シングルホーミング>だけでなく<マルチホーミング>や<エリアバリスティック>の魔法も含まれているようだ。
キリトは、アスナに三本の指を立てる。三分稼ぐという意味だ。
さすがに、俺も二人だけで完全装備をしたレイド一つ、四十九人全員を殲滅とは思っていない。
キリトは、黄金の剣を抜き取る。二刀流を使うらしい。
「んじゃ、キリト。少しの間ここを任せたぜ」
「わかった。速く戻って来いよ。俺は、そんなに長く持たない」
「わかってる」
俺は、踵を返しアスナが入っているパーティーの元に向かう。俺は、アイテムを取り出しアスナに渡す。
「っ!?ラテン君これは・・・」
「全快結晶だ。危なくなったら使ってくれよ」
「こんな貴重なもの、ほんとにいいの?お兄さん」
「別に俺は使わないからいいさ。有効活用してくれ」
俺が渡したのは、全快結晶。
これを使うと、パーティー全員のHPMPを全回復し、戦闘終了までHPMPの最大値を増加させ、しばらくの間状態以上が無効になるという、とてもありがたいアイテムだ。このアイテムは全ボスモンスターから共通でドロップするが、その確率が0,1%ととてつもなく低い。だから、俺以外に持っている人は二、三人しか見たことがない。
「アスナ、扉前にいるヒーラーを倒してくれ。俺は道を開けるから突っ走るんだ」
「でも・・・」
「派手にぶっとばして来いよ?」
俺は、納刀してある鞘を取り出す。鞘が五色に光りはじめた。スキルオーバーラップを発動する。
「また今度デュエルしてくれよ、絶・剣さん?」
俺は、地を蹴り目の前にいる二十人ほどの集団に斬りこんだ。抜刀術の衝撃で二、三人が左右に吹っ飛ぶ。
「おおおおおおお!!!」
俺は、幅二メートル以内にいるプレイヤーたちを片っ端からOSSで斬りこむ。
俺が作った、わずかな時間の、幅二メートルの道をアスナたちが駆けていく。アスナは扉前にいたヒーラー三人をレイピアで斬りこむと扉を開けボス部屋に入った。
閉じかけている扉の間からは、アスナと絶剣のパーティーがこちらを見ていた。俺は、左手で親指を立てる。アスナは決意のまなざしを向けてきた。
そしてそのまま、扉は閉じる。
「さあ、ここからはお前たちの番だ」
俺は、ディレイが解けるとキリトの方へ向かった。
キリトのHPは六割ほど減少している。一方俺のHPは五割ほど減少していた。
「んじゃ、ラテン。いっちょ派手にやりますか!」
「おう!」
俺達は、攻略ギルドの集団に突っ込んでいった。
マザーズロザリア編で、まだ戦闘シーンほぼない・・・・・。
なんかすいません!m(_ _)m
今回はサイドチェンジを入れてみました。どうでしたか?これからはサイドチェンジも入れていこうかなと思っています。
ラテンとユウキの関わりがまだあまりないですが、これからどんどん書きたいと思います。
これからもこの作品をよろしくお願いします!!