湖からやってくる心地よい風が、俺とキリトを包み込む。
第四回統一デュエルトーナメントからすでに、二週間以上たっていた。
四代目チャンピオンに輝いたユウキの名は、このALOの世界だけではなく<ザ・シード連結体>にまで広がっていった。
俺の名は……。まあ、察してくれ。
その有名人の本人は今、アスナ、リズ、シリカ、リーファ、コトネと共に、京都へ三泊四日の旅行に行っている。
ちなみにユウキは、通信プローブを使っているため京都の有名料理を食べることはできないだろう。
同情はするが、大方アスナあたりにVRの世界で再現することを約束させてるに違いない。
俺の持っていた竿がヒットすると、思い切り引き上げた。
あまり大きくはない魚が釣れた。
その魚をアイテムウインドウにしまうと、隣でいまだにかからない竿を眺めているキリトへ顔を向ける。
「…なあ、キリト。なんでアスナたちと一緒に行かなかったんだ?お前そんなに忙しくないだろ」
「…まあ女子だけの旅行のほうが楽しいだろ?そう言うお前はなんでいかなかったんだ?」
「大方お前と同じだろうな」
「そうか…」
キリトの竿がヒットすると、キリトは立ち上がり思い切り引き上げる。
釣れた魚は俺のよりも、一回り大きい。
その魚をアイテムウインドウにしまいながら口を開いた。
「で、どうだ?俺の言ったことわかったか?」
「いんや。まったく、わからん。でも、ユウキを見てると不思議とあの世界の俺を思い出すんだよな~」
「そうか……。お前のお祖母さん、横浜港北総合病院の院長だったよな?」
「ああそうだけど、それがどうかしたのか?」
「実はな、ユウキはそこにいる」
「は?」
俺は思わず持っていた竿を落としてしまう。その竿は湖まで転がって行って、着水すると同時にポリゴン片となって消えた。
結構高かった竿なのだが、今はそんなことを気にしてられない。
「今なんて言った?」
「なんか言ったっけ?」
「ユウキが横浜港北総合病院にいるって言ったか?」
「聞いてんじゃねぇか」
「あでっ」
キリトは俺にチョップをかましてくる。
「……ユウキたちが帰ってくるのは、明日だっけか?」
「いや、今日だ。会いに行くのか?」
「一目見てくる。行ってくるわ」
「わかった。また後でな」
「おう」
俺はシステムウインドウを操作し、ログアウトをする。
目を開けると、見慣れた茶色い天井が視界に入る。
俺は飛び起きると、すぐさま外出用の服に着替えると急いで玄関に向かう。
時刻は午後四時三十分。大体四十分後に到着するはずだ。
自転車を取り出し、駅へと向かう。相当なスピードを出しているため、警察に見つかったらアウトだ。
すれ違いざまに、通行人がこちらを凝視するがそんなのにかまってられない。
駅に到着すると、自転車のロックをしないで電車に乗り込んだ。
駆けこむ乗車をしてしまったが、気にしない。
そのまま、二十五分ほど電車に揺られていく。
横浜に到着すると、駅から徒歩五分ほどの横浜港北総合病院に駆け出す。
病院内に入ると、受付の前にいた倉橋先生が俺に声をかけてきた。
「やあ、天理君。久しぶりだね」
「お久しぶりです、倉橋先生」
俺は息を整えると、倉橋先生に尋ねる。
「倉橋先生。ここに女の子の患者はいませんか?歳は十五歳前後くらいで多分名前は<ユウキ>だと思います」
「うん、いるよ。えーっと、結城明日菜さんも知り合いかな?」
「はい、明日奈とは同じクラスで昔からの知り合いです」
「そうか、じゃあついて来てくれるかな」
倉橋先生は階段のほうへ歩き出した。俺はその後ろをついていく。
エレベーターには患者さんなどが乗っていたため、階段で四階に上がることにしたんだろう。
階段を昇りはじめると同時に、倉橋先生が口を開いた。
「彼女の名前は<紺野 木綿季>さんだよ。この前、薬剤耐性型の抗生剤についていったよね?」
「はい、祖母が開発したとかで」
「実はね、それを投与している患者が木綿季くんなんだ」
「え、本当ですか!?」
「うん、天理君のプレイヤーネームは<ラテン>だよね?」
「はい、でもなぜ知ってるんですか?」
「木綿季くんは、最近君のことばかり話しているよ」
「そうなんですか……」
「院長は本当に偉大な人だよ。あの薬が開発されていなかったら今頃、木綿季くんは……」
倉橋先生はそこまで言って口を紡ぐ。だが、そのあとの言葉は、言われなくてもわかっている。
三分ほど歩くと、大きな窓の前に到着する。しかし、色は黒く中の様子を見ることができない。
ここまで来るのに、ロックされたドアを二つくぐった。それほど重要な場所なのだろう。
倉橋先生は、窓の前にあるパネルを操作する。それと同時に、黒かった窓が透明に変わリ始めた。
小さな部屋だった。いや、正確にはかなり広い。一見して小さいと思ってしまうのは、部屋の中におびただしいほどの機械があったからだ。
様々な形の機械の中央にはベットとその上に横たわっている、小柄な姿が見えた。
頭部がほとんど見えない代わりに、大きな直方体の機械が頭を包んでいた。
かぶせられているシーツから、出ている裸の肩は、常人よりも細かった。
「入るかい?」
「いいんですか?」
倉橋先生はタッチパネルを操作して、ドアを開錠させた。
倉橋先生に続いて、俺も白い部屋に入る。
「……ユウキは治るんですか?」
「その確率のほうが高いよ。一か月前よりも血色がよくなっているし、脂肪もついてる」
「そうですか、よかった」
「うん、これはすべて院長のおかげだよ」
「いつ退院できるんですか?」
「リハビリもあるから、あと三か月ほどかな」
「…本人は知っていますか?自分が助かることを」
「教えてないよ。でも、そろそろ言うつもりだよ。その時は、天理君にもいてほしい」
「え?」
「木綿季くんにとって、天理君は特別な存在だと思うんだ」
「………」
俺はユウキのほうへ視線を向ける。
俺の感じていた、ALOのユウキとSAOの時の俺が似ていたのは、ユウキがこのバーチャルワールドに三年間ずっともぐっていたからだ。
ユウキは今まで、常に死と隣り合わせで生きてきた。あの世界の俺、いや、俺達とまったく同じ状況の中で、今もなお生き続けている。
だから、俺はユウキを見ているとあの世界の自分を思い出すようになったのかもしれない。
しばらく、ユウキを眺めていると部屋に声が響いた。
『ラテン………?』
倉橋先生が「じゃ、僕は行くよ。なんかあったら呼んでくれ」と言って、部屋を出ていった。
俺は用意された椅子に座り込む。
『なんでラテンがここに……?』
「京都はどうだ?ユウキ。楽しいか?」
『うん、初めての京都はとても楽しかったよ!京都って世界遺産がたくさんあるんだね!』
「そうだな、八つ橋とかは…食べれないか」
『うん、そのかわりALOで作るようにアスナに頼んだよ』
「よかったな。あれは本当にうまいぜ」
『あ~あ、早く食べたいな~♪』
ユウキが嬉しそうに呟く。今まで死と隣り合わせで生きていたとは思えないほど無邪気で明るい。
女の子とは思えないほど心が強い。
でも、時々、ふれたら壊れてしまうような感じがする時がある。それは決まって、家族のことや現実世界の話をしているときだ。
いつからだろう。この少女を守ってあげたい。そばにいてあげたいと思い始めたのは。
ユウキの家に行ったとき?いや、もっとずっと前だった気がする。
たぶん、初めてユウキと……闇妖精族の少女と出会った、あの大きな樹の下なのかもしれない。
「ユウキ、今は新幹線の中か?」
『うん、そうだよ。みんな疲れちゃって寝てるから、一度こっちに戻ってきたんだ。倉橋先生もいたし……あっ、アスナが起きた』
「そうか、んじゃあ俺は琴音を迎えに行くかな。……ユウキ、今度一緒にクエストやろうぜ」
『本当!?約束だよ♪』
「ああ、じゃあ俺は行くよ。また、あとでな」
『うん、また来てね!』
俺はユウキに笑顔を向けると、部屋を出る。それと同時に倉橋先生がドアからやってきた。
「終わったかい?」
「はい、、無理言ってすいませんでした」
「大丈夫だよ。木綿季くんに会いたかったら、いつでも言ってくれ」
「はい、ありがとうございます」
俺は倉橋先生に一礼すると、ドアをくぐった。ホールでは三十分前よりも、人が少なくなっていた。
俺は電車に乗り、東京駅に向かう。あと四十分ほどでユウキたちが戻ってくるはずだ。
東京駅は相変わらず、人が多い。休日にもかかわらず、何十人もの人々が移動している。
改札口の前で、しばらく待っていると、見慣れた女性たちが歩いてくる。
「あれ?お兄ちゃん!?なんでここにいるの!?」
「よっ。…なんだよ、世界にたった一人のお兄ちゃんが来てやったのにその反応は。お兄ちゃん寂しくて死んじゃうよ?」
「…お兄ちゃんって時々キモイよね……」
「ひでーな!!」
俺以外のメンバーが笑い始める。俺は苦笑いしながら、荷物を見る。
さすがは京都に行っただけあって、なかなか多かった。
「ねぇ、らt、天理君はなんで私たちが返ってくる時間がわかったの?連絡も取ってなかったのに」
「ああ、ちょっとな。ユウキは?」
「まだ寝てるみたい。一番はしゃいでいたからかもね」
「そうか、……荷物持つぜ、重いだろ?」
「そう?じゃあ、これお願い!」
「りょうかィィィィィィィィ!?」
リズから受け取った荷物は、見た目が軽そうだがそんなことは全然なく、とてつもなく重かった。思わず踏ん張る。
「じゃあ、天理さん。これもお願いしますね♪」
「あっ、私もお願いしまーす!」
「お兄ちゃん、落とさないでね」
「ちょっ、限度があるだろ!限度が!」
「あはははは」
アスナが苦笑いを浮かべる。
俺の両手の中には、パンパンに膨らんだ荷物が何個も積みあがっていた。
腰を入れて踏ん張らないと、すべて落ちてしまうだろう。
タクシーのところへ向かい、コトネ以外の荷物を運転手さんに渡す。
運転手さんはあまりの重さに一瞬驚いたが、筋力に相当自身があるのか、難なくタクシーの中に運んでいた。
「んじゃあ、またな」
「じゃーね~♪」
「またね、琴音ちゃん。天理さん」
俺と琴音は、駐輪場へ向かう。幸い、自転車は盗まれていなかった。
「お兄ちゃん、次はちゃんとロックしてよ!私のなんだからね!」
「悪かったって、ほら、終わり良ければ全て良しって言うじゃんか」
「開き直るな!」
「はいはい」
そのあともまだ、琴音はグチグチ関係ないことまで言い始めたが、俺に言っても意味ないことをようやく悟ったのかあきれた様子で、すたすたと速いペースで歩き出す。
俺は苦笑しながら、そのあとを追いかける。
西の空は、まだ少しばかりオレンジ色に染まっていた。
なんやかんやで、書いちゃいました(笑)
日本食ってヘルシーですよね。また、京都に行きたくなりました(笑)
戦闘シーンは、まだないかもしれません。
来週からは本格的に書きますので、これからもこの作品をよろしくお願いします!!