遅れた理由としては、もう一つの作品に熱中していたことと、久しぶりにやったbattlefield4にまたはまりだしてしまったからです。
本当に申し訳ございませんでした。
今後ともこの作品をよろしくお願いします。
第一話 悲劇の始まり
カンッ。カンッ。カンッ。
真っ暗な洞窟に、金属音が響き渡る。
その音は約三時間前から絶え間なく鳴り響いていた。
「……どこまで掘ればいいんだよ」
少年は手に持っていたツルハシを置き、その場に座り込んだ。
洞窟内から見えるわずかな太陽の光。それとヘッドライト以外、この洞窟を照らすものはない。
持ってきたバックの中から動物の皮でできた水筒を取り出し、その中に入っていた水を全部飲み干した。飲み干したと言っても、口の中に勢いよく入る水はほんの一瞬であり、そのあとは水滴しか口の中に入らなかった。
その少年は大きくため息をついた。
少年の名前はラテン。まだほんの十一歳の男の子である。そして、この《天職》を受け継いだ人間でもある。
溜息が出るほど深いこの洞窟の名は《インフィニートゥム》、別名《無限の洞窟》。
この洞窟は今から約四百年前から開発され続けているらしい。だが、その四百年という長い時を経ても、洞窟はわずか四百メートルしか掘られていない。単純に考えて、一年に一メートルしか進んでいないことになる。
少年はおもむろに立ち上がり、右手の人差し指を黒い岩石に向けた。そして、空中で指を動かす。
風の紋章。
この洞窟の近くにある村が昔から伝えている紋章だ。
天地の間に存在する遍くものには、動く、動かないに関わらず、生命を司る創世の神ステイシアによって与えられた《天命》が存在する。
それは命そのもの。
その天命の残量を、神聖文字で現したのが《ステイシアの窓》である。相応の神聖力を持つ者が、印をを切ることで呼び出すことができるものだ。
印を切ると、ラテンの正面に光る窓が出現する。その中には、紫色の光を発しながら奇妙な数字が並んでいた。
この文字は読むことはできるが、書くことは禁じられている。その理由は未だにラテンにもわからなかった。
「六百……七十…三」
そこに書かれた数字はこの洞窟の残りの長さを表していた。記憶をよみがえらせる。
「えーっと。確か先月が六百七十三だったから……って、全然変わってないじゃん!」
ラテンはうなだれた。
この洞窟は四百年間で約四百メートル掘られてきた。このままのペースだと、この洞窟の反対側の出口にたどり着くには、約七百年間必要なる。
「こんなの、一生かかっても終わんないよ……」
ラテンはその場に座り込んだ。
この洞窟は八代にわたって掘られ続けている。ラテンはその九代目だ。
そのまま、地面に体を預ける。高くなった体温を下げてくれるこの洞窟の地面は絶妙な冷たさを維持していた。唯一の救いは夏になっても冬になっても、この洞窟の温度があまり変わらないことだろう。もし気候の変化と共に、洞窟内の温度が変化していたら、ラテンはツルハシを捨て去ってこの場から逃げ出すだろう。だが、それをしない理由は、この近くの村に住んでいる村長が厳しく言っているからだ。
その村長は八代目の堀人で、ラテンの師匠に当たる存在である。その師匠とも呼べる村長にラテンは一度この洞窟を掘り続ける理由を聞いたことがある。
―――先生。なんで、この洞窟を掘り続けるんですか?
―――それは、この洞窟の最深部に眠る、世界に一つしかない始まりの原石を取るためだ。
―――なんで、石っころなんかとらないとだめなの?
―――それが地上に掘り出されると、世界に平和をもたらすと言われているからだ。
―――これじゃあ、いつまでたってもとれないよ。
―――あきらめるな。これは初代堀人が創世神ステイシアから授かった《天職》だ。生涯かけても、達成しなければならないんだ。いいかい、ラテン。君が年老いて死んでも君の意志を継ぐものが必ず現れる。私にとってそれはお前だ。だから、お前のやっていることは無駄じゃない。お前は次の堀人に魂を継ぐまで頑張らなければならない。
「そうは言っても、これ、意味がないような気がするな~」
ラテンは暗くて何も見えない天井を見つめる。
するとそこへ、大きなライトの光が新たに現れた。
「こら。さぼらないのっ」
「げっ……」
ラテンはすぐさま上半身を起こすと、おそるおそる後ろを振り向く。
少し離れた場所から片手を腰に、片手にライトを持っている人がいた。ラテンは作り笑いをしながらその声の主に声をかける。
「よ、よう。リリアじゃん。……今日はずいぶんと早いね」
「ぜんぜん早くないよ、いつもの時間ですぅ」
「そ、そうですか」
金髪のセミロングに髪飾りをつけてツインテールの髪型をしている美少女だ。ロングスカートにはいくつもの可愛らしいリボンがつけられており、それがその少女の可愛さを一層引き立てていた。
その少女の名前はリリア・アインシャルト。村長の娘で、歳はラテンと同じ十二。
この洞窟の近くにある《サイリス村》。その村を含めて、北部辺境地域に暮らす子供は全員、十歳の春に《天職》を与えられ仕事見習いに就くのがしきたりなのだが、リリスは例外としてそのまま教会の学校に通っている。しかし、この村には教会が建てられていないためこの村の近くにある《ルーリッド村》の教会に毎日行っているのだ。
村の子供の中では一番とされる神聖術の才能を伸ばすためルーリッド村のシスターアザリヤから個人教育を受けている。その個人教育を受けているのはリリアだけではないらしいが、ラテンはその子のことを知らない。
「さあ、昼食を食べよ?」
ラテンは立ち上がり、先に歩いていったリリアを追いかけた。
「なあ、リリア。毎日ここに来てくれるけど、時間は大丈夫なのか?昼休みはそんなに長くないんだろう?」
「それ今月に入って十四回目だよ?毎日言ってるよね」
「でもさ……」
「だから大丈夫って言ってるでしょ。ルーリッド村は近いし、昼休みも向こうに着いたら十分くらい余ってるもん」
しばらく歩いていると、洞窟の出口がより光を放ち始めた。そこからは光と共に、心地よい風が吹いてくる。
外に出て最初に目に入ったのは、大きな草原だった。その中に村らしきものがポツンと存在している。
「ほら。早くしないとおいしくなくなっちゃうよ?」
「はいはい」
「はいは一回っ」
「はい」
リリアが十メートルほどの木の下に移動すると、ラテンもそれに続いた。
その木の根元には布が被せられてある小さな籠が置いてあった。
ラテンがリリアの隣に座るや否や、リリアは小さな籠を膝の上に乗せ、布をとった。
「わあ。今日はサンドイッチか!」
「うん。……はい、残さず食べてね?」
「当たり前だ!」
ラテンはサンドイッチをがつがつと食べ始めた。
そう。それは何の変哲もない平和な日常。こんな日がいつまでも続くと思っていた。
だが、時間は時として残酷なものへと変化する。
――――リリア!リリア!行くな!リリアァァァァ!!
「……て……きて……起きて!」
「ふぁっ!?」
「やっと起きた。天理、アスナたちがもう来てるよ」
天理は少女の声を聞いて重い頭を上にあげる。
視線に入ったのは、紫がかった黒く長い髪に、赤いヘアバンドをつけている少女、木綿季だ。
未だに頭が完全に働いていない天理の肩を掴んで揺さぶっていた。
「ちょ、木綿季。木綿季ってば。起るから、起きるからそんなに揺らさないで!?」
「もうっ。二日間眠りっぱなしだったのに、まだ眠いの?眠気覚ましにボクがくすぐってあげる♪」
「ちょ、待てって。もう起きてる。起きてるの!てか、俺は正確には寝てたんじゃなくてダイブしてたの!」」
天理は細かく指を動かしている木綿季の手を握ると、それを制した。
木綿季は満足した様子で、明日奈の隣に座り込む。
ここはダイシーカフェ。阿漕な商売人だったエギルが経営している店だ。店内は西洋のカーボーイがいた時代の酒場に似ている。
そして、その店長エギルがカウンターでグラスを磨いていた。
「よう、天理。いい夢見れたか?」
「ん?いや、見てないぜ。昨日散々変な夢を見た気がするからかもな」
天理は見飽きた女顔の青年、和人に顔を向けた。その和人は天理が言った、変な夢について興味を持ちながら口を開いた。
「へぇ~。天理が見た夢ってどんな夢だ?」
「うーん、思い出せないな。でも、何かを食べてた気がする。なんか食べたことがある様な、ない様なそんなものだ」
「よかったじゃないか。でも、夢の中で食べてても、現実には関係ないな」
和人が笑って天理の肩に手を置く。
そう。この二日間、和人は三日だが、二人とも長時間連続稼動試験を受け、その間飲まず食わずでダイブしっ放しだったのである。
そんな中、木綿季の隣に座っていたシノンこと朝田詩乃が口を開いた。
「ええと……ということは、あんたたちが連続ダイブしてた三日や二日の間も、思考加速機能は働いていたんでしょ?実際のとこ、中でどのくらいの時間を過ごしてたわけ?」
「うーん、さっき説明した通り、ダイブ中の記憶が制限されてるからなあ……。でも、FLA機能は、現状では最大倍率で三倍ちょいって聞いたなあ」
FLA。正式名称《フラクトライト・アクセラレーション》。VRワールドの世界で、意識中の思考クロック決定パルスに干渉し、それに同期させることで、仮想世界内の基準時間を加速させることができるものだ。それを使うことによって、ユーザーは、実際のダイブ時間の数倍の時間を体感することが可能になる。
「てことは……九日?」
「か十日くらいかな」
「ふぅん……。いったいどんな世界で何をしてたんだろうね」
「うーん、わからないなあ。予備知識があると、テスト結果に影響するからって言われて教えてもらえなかったんだよ。天理は何か聞いたか?」
「俺が聞くと思うか?お前みたいな機械オタクじゃあるまいし。知ってるのは、実験用仮想世界のコードネームだけだな」
「へえ、なんて言うの」
「「《アンダーワールド》」」
天理の声と和人の声が重なった。和人もこのコードネームしか知らないようだった。
「アンダー……地下の世界?そういうデザインのVRワールドなのかな」
「世界の意匠も、現実モノなのかファンタジーなのかSFなのかすら不明だからなあ。でも、そういう名前なんだから、地下っぽい暗いとこだったのかな……」
「ふぅん。なんかピンとこないね」
天理と木綿季と和人と詩乃がそろって首を捻ると、明日奈が、華奢なおとがいに指を当てながら小さくつぶやいた。
「もしかしたら……それも、アリスなのかもしれないね」
「アリスって……?」
「さっきのラースって名前もそうだけど、『不思議の国のアリス』から取ってるのかなって。あの本、最初の私家版は『地下の国のアリス』って名前だったのよね。原題は『アリスズ・アドベンチャー・アンダーグラウンド』だったかな」
「へえ、明日奈は詳しいな。いろいろと」
和人が何か考え込んでいたが、すぐに何かを思い出したかのように口を開いた。
「来月から期末試験だな」
その言葉を聞くや否や詩乃は渋面を作った。
「ちょっと、ヤなこと思い出させないでよ。キリトとアスナのとこはいいよ、ペーパーテストとかほとんどないからさ。ウチは未だにマークシート方式なんだよ、勘弁してほしいわよまったく」
「いいじゃん、マークシート。センターテストの練習になるぜ?」
「ふふ、じゃあそのうち勉強合宿でもしよっか」
言いながら、明日奈は詩乃の背後の壁を見上げ、わ、と小さく声をあげた。
「もう六時近いよ、ほんと、お喋りしてるとあっという間だね」
「そろそろお開きにするか。なんか本題の打ち合わせは五分くらいしかしてなかって気がするけど」
「その本題を聞いてなかった気がするけど……」
苦笑した和人は「気のせいだ」と言いながら天理の肩を叩いた。
五人はおもむろに立ち上がる。
「エギルさん、また来ますね」
「エギル、また今度も頼む」
夜の仕込みに忙しそうな店主に一声かけると、天理は傘を抜き取りダイシーカフェの扉を開けた。カラカラン、となるベルに続いて、街の喧騒が耳を包む。
「雨、あがったみたいだな」
「ああ。きれいな夕焼けだ」
雲が晴れ、燃えるような夕焼けが西の空に輝いていた。しかし、和人が天理の言葉に反応するや否や、何かぶつぶつと独り言を言い始めた。
「んじゃまたな。和人、明日奈、詩乃」
「ばいばーい」
天理と木綿季は三人と別れた。
一時間前まで、雨によって冷えていた体が今では心地よい温かさになっていた。
それはきっと右手から伝わる熱が原因だろう。
「なあ、木綿季。俺が寝てた間に話してたことえを教えてくれよ」
「やーだもん。天理が寝てるから悪いんだよ」
二人が帰る道は同じ道だ。なぜなら聡に続き、木綿季もまた天理の家の居候みたいになっているからだ。まあ、木綿季の場合は天理からのはからいだったのだが。
木綿季の家族が住んでいた家は、木綿季が退院したと同時に解体された。今ではコンビニかなんかになっているのかもしれない。
その家の持ち主の木綿季は、家が解体されることに反対をしなかった。なぜなら「天理と住めばいいじゃん」と言い出したからである。
何とも勝手なことだが、不思議と天理はそれをすんなり受け入れた。
きっとそれは、十五年間苦しみ続けた木綿季の願いはできるだけ叶えようと思ったからかもしれない。
無意識に手を強く握る。
「どうしたの、天理?」
「あっ、いや、なんでもない。ただ、俺は木綿季を幸せにしてやれてるのかなって……」
天理がつい弱音をこぼすと、急に木綿季が天理に抱き付いた。そして、天理の背中を両手でさする。
「大丈夫だよ。ボクは天理がそばにいてくれるだけで幸せだから」
「木綿季……」
木綿季がニコッと笑った。それにつられて天理も笑顔になる。
二人の顔の距離が少しずつ縮まっていく。その距離が数センチになった時。
「……!?誰だ!」
「ふぇ?」
天理が木綿季を後方に押しやった。
「ちっ。不意打ちはやっぱり無理か……」
天理が視線を向けた木の陰から一人の男が現れた。
黒い髪にパールのようなピアスをつけ、服装は全身真っ黒だ。190㎝はありそうな身長を持ったその男は、天理にとって見覚えのあるものだった。
「……カイザー。なんでお前がここに……!」
「は?んなもん決まってるだろ?お前を殺すんだよ」
「……木綿季、逃げるんだ。誰か人を呼んできてくれ」
「わ、わかった!」
木綿季は最寄りの家まで全力で駆け出した。
それを見た天理はとっさに持っていた傘を、カイザーに向ける。
「残念だったな。お前には武器がないぜ。大人しく、自主しろ」
「それはどうかな、ラテン」
カイザーはそういうと、懐から注射器のようなものを取り出した。その中には、無色の液体が入っている。
「お前……それは―――」
「らあああああ!!!」
天理が言い終わる前にカイザーが飛び出した。右手に持っている注射器を短剣のように持って。
「ちっ!…うおおおお!!!」
天理も一呼吸遅れて飛び出した。
再び駆けつけてきた木綿季が見た光景は凄絶だった。
カイザーと呼ばれていた男の右肩には、さっきまで天理が持っていた傘が根本まで突き刺さっている。
天理の右腕には、注射器が刺さっていた。
木綿季が天理の元に駆け出す。そして、無意識のうちに携帯電話を取り救急センターのオペレーターに現在地と状況を喘ぎ声で告げた。
その後はずっと、天理を抱き寄せていた。
「く……そ…。ぁ……いつ……ふ…たつ……もっ…て―――」
「もういいよ!喋らないで!待ってて。すぐに救急車が来るから!」
「ゆ…うき……ご…め……んな……」
「いやだよ、いやだよ、天理。しなないで。天理!」
木綿季が何度も何度も天理を呼びつける。だが、天理はそれに反応しない。それどころか、天理の呼吸がどんどん浅くなっていった。
木綿季にとって永遠とも呼べる数分間ののち、到着した一台の救急車に搬入され木綿季もそれに付き添う。
「これは……さっきの人と同じ症状だ!アトロピンを静注、静脈確保!」
救命士が叫ぶとシャツを脱がされた天理の左腕に輸液用の針が装着され、胸に心電モニターの電極が張り付けられた。更に飛び交う声と、空気を切り裂くサイレン。
「心拍、低下しています!」
「心マッサージ器用意!」
瞼を閉じた天理の顔は、恐ろしく蒼白だった。
木綿季が心の中で、叫び続ける。
「心停止!」
「マッサージを!」
木綿季は心電モニターに顔を向ける。目からは涙があふれ出して、モニターの数値が滲んで見える。
次第にモニターの数字が下がっていく。
「天理、天理。ボクを一人にしないでよ、天理!」
そして無情にも、デジタル数値が明確なゼロへと変化し、沈黙した。
話しがすごい急展開でしたね。
それにしても、FLAってアクセルワールドの首についている奴の元になったものですかね?仮想世界を加速できると書いてありましたし。
そういえば、カイザーとラテンの話を書かずにアリシゼーション編へ突入ししてしまいましたね。すいませんでした。二人の関係は後ほど書きたいと思います。
意見や感想などがあればどんどんください!
これからもこの作品をよろしくお願いします!!