ソードアート・オンライン~神速の剣帝~   作:エンジ

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第六話 ザッカリア剣術大会~①

「ふぁ~」

 

ラテンは大きなあくびをしながら目を覚ました。視界に映るのは今ではもう見慣れた茶色い天井。

まだ完全には開かない瞼を指でこすると、ベットから立ち上がり窓のカーテンを開けた。窓から入ってくる日差しが再びラテンを睡眠へと誘うがさすがのラテンも今日ばかりは二度寝する気にはならなかった。

 

「今日優勝すればザッカリア衛兵隊に入団できるんだよな。それから、央都に行く。案外簡単な方程式だな」

 

ラテンがサイリス村を出てもう五か月になる。長いようで短かった旅人暮らしだが、それも今日を境に大きく変わる。……変えるつもりだ。

 

ラテンがいるここノーランガルズ北帝国にはザッカリアという街がある。現実世界の街に比べるとそこまで大きくはないが、東西に千三百メル、南北に九百メルほどある。

 

そして、この街では年に一回、《ノーランガルズ北域剣術大会》が開催されるのだ。毎年五十人以上の参加者がいるらしく、そのうちのほぼ百%が故郷の村や町で《衛士》の天職を就いている者たちだ。だが例外もある。それがラテンだ。

 

ザッカリア衛兵隊への入隊が許されるのは、大会の東西ブロックを勝ち抜いた二名だけなので、ラテンは負けることが許されない。

 

「よし。んじゃあ、受付に行きますか」

 

ラテンは宿主が作り置きしておいてくれたサンドイッチのようなものを頬張ると、そそくさに宿から出ていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく歩いていると目の前にひときわ高い建物が見えてくる。ザッカリア最大の施設である《集会場》だ。城壁の縦横比をそのまま縮小した長方形の広場を、階段上の観覧席が取り巻いている。ここで、剣術大会が行われるのだ。

 

見物料は無料なだけあって、正午の開会までにはまだ一時間ほどあるというのに、会場の観覧席はびっしり人で埋め尽くされていた。こういうのが未経験な人ならばかなり緊張すると思うが、ラテンは対して緊張していなかった。

 

「実際、この何十倍くらいのプレイヤーに見られてたからな~」

 

二月中旬にALOで行われた統一デュエルトーナメント。その準優勝者であるラテンは決勝でALOのプレイヤーだけでなく、VRMMOのゲーマーのほとんどから見られているだけあって、この人数ならどうってことなかった。

 

仮設の長机で、口ひげをはやして暇そうにしている初老の衛兵の元へ歩いていき、出場権を貰うため口を開いた。

 

「すいません。登録お願いします」

 

衛兵はラテンを胡散臭そうに眺めると、咳払いを一つして口を開いた。

 

「大会に出るには、北域の町や村で衛士の天職に就いているか、ザッカリアで衛兵見習いの職にあるか、あるいは―――」

 

「その《あるいは》でお願いします」

 

ラテンは懐から羊皮紙の封筒を取り出すと衛士に受け渡した。

 

「なになに……ふむ、サイリス村長直筆の証書か。……なるほど、よかろう」

 

頷いた衛士は、卓上に置いてあった布張りの台帳を開くと、赤銅製のペンを差し出した。

 

「ここに名前と出身、剣技の流派を書きなさい」

 

流派。

その単語を聞いてラテンは少々迷っていた。もちろん大空天真流と書いてもいいのだが、名簿欄を見る限り漢字を使った流派は一つたりともない。

名簿欄に少しばかり目を泳がせていると、ある一つの流派と名前に視線が集中した。

 

名前 キリト/出身 ルーリッド村/流派 アインクラッド流

 

「ぶふっ!」

 

「ん、どうかしたかね?」

 

「あ、いえ、何でもありません」

 

名前はキリト。それだけなら同名の人がいたっておかしくはない。だが、ラテンの知っているキリトだということを決定づけるものがあった。それがアインクラッド流《アインクラッド》だ。それは三年前、デスゲームを経験した人しか知らない城の名前。

 

(キリトがこの世界にいるのか!?)

 

驚きよりも安堵感が大きかった。キリトがいるということは、少なからずこの世界は顔見知りの奴がいる、それだけでものすごく安心する。

だが、気になったのは、キリトの下に書かれている名前と出身、流派だ。

 

名前 ユージオ/出身 ルーリッド村/流派 アインクラッド流

 

聞き覚えのない名前だ。ラテンが知らないということは少なくともALOでのプレイヤーである可能性は低い。なぜならキリトが友達をたった一人にするはずがないからだ。必ずと言っていいほど二十二層のログハウスに連れてくるはずである。ラテンがたまたまいなかったという可能性もあるが、少なくとも一回は面識するはずである。

 

考えても仕方がない。変に時間をとれば衛士が不審に思うはずである。ラテンは渡されたペンを走らせた。

 

名前 ラテン/出身 サイリス村/流派 アインクラッド流

 

今のところ刀という武器が確認されていない以上、刀を主武器とする流儀よりも片手剣を主武器とする流儀のほうがいいはずだ。そして、キリトはソードスキルに似ているモノを確認しているはずだ。だからアインクラッドなのである。SAOきっての片手剣使いがこの流派ならば同じような技を使うラテンも同じ流派のほうが怪しまれない。

 

頼んだぞキリト、と思いながら台帳を衛士に渡すと衛士は「ふむ」と一言頷いて口を開いた。

 

「君もアインクラッド流か。どうやら本当にあるらしいな、新しい流派が」

 

ラテンはそのまま衛士から〖57〗という数字が刻印されている板を受け取った。

 

「十一時三十分には、会場の控室に入りなさい。最初にクジによって東組、西組に分けられる。試合用の剣もそこで貸与されるからの。十二時の鐘で、まずは予選じゃ。型の演舞で、一組が八人に絞られる。一番から十番までの型は事前に配布した要項の通りじゃが、大丈夫かな?」

 

「はい、大丈夫です」

 

「よろしい。続いて二時からが本番じゃ。八人が四人、二人、そして一人になるまで試合を行う。その一人……つまり東西で二人の勝者に、晴れてザッカリア衛兵の天職が与えられるというわけじゃな」

 

大会の内容はよーくわかったのだが、ラテンには一つ疑問があった。

 

「すいません。この大会、引き分けってあるんですが?」

 

「うーむ。基本はない。だが、何年か前に決勝で打ち合った剣が互いに折れ、試合続行不可能になり、結局その年は三人ザッカリア衛兵隊に入団したが、クラス10の剣といえど、そう簡単に折れはしないぞ」

 

「ありがとうございます。ちょっと気になりまして。気にしないでください」

 

ラテンはそそくさに衛士の前から離れる。

 

 

試合場控え室に着くときには、十一時半の鐘が鳴る直前だった。

慌てて空いたベンチのような椅子に座り込むと、そこへラテンと同じように遅れたのか慌てた様子でラテンの隣に二人、座り込んだ。

 

一人は亜麻色の髪に深緑の瞳。もう一人は漆黒の髪と瞳。ここらの地方は黒髪が珍しいらしく、同じ黒髪を持ったラテンはその少年と友好的に話せそうだと思った。

 

「すいません。隣座ります」

 

「ええ。いいで…す……よ?」

 

その少年とラテンが顔を見合わせた瞬間に、同時に固まった。亜麻色の少年が、固まった二人を不思議そうに思っていた。

 

「お、お前キリトか…?」

 

慎重に尋ねる。もし違った場合、多少失礼な態度になってしまうからだ。だが、その黒髪の少年はラテンの予想通りの反応を示す。

 

「あ、ああ。お前こそ、ラテンか?」

 

どこかで見たことのある光景だが、当然二人ともその時のことは忘れてしまっている。だが、そんなことはどうでもいい。この絶望の世界で親友とも呼べる人が目の前に現れたのだ。

 

「やっぱりあのキリトだよな?和人の方の」

 

「ああ、そうだ。お前こそ天理の方のラテンだよな」

 

「ああ」

 

二人は大きく安堵の息をもらす。亜麻色の髪の少年だけが状況を理解しきれていないらしい。とりあえずもうそろそろ組み分けが始まる。キリトはラテンに一言「後で事情を説明する」と言って、ラテンもそれに頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

組み分けが終わると、ラテンはすぐさまキリトの元へ駆け寄る。

ラテンが引いたのは青い玉―――すなわち西ブロックだ。そして、何とも運が悪いことにキリトも西ブロックらしい。

 

「まーたお前と試合すんのかよ」

 

「それはこっちのセリフだ。まあ、今度は負けないけどな」

 

「次回は、の間違いだろ?」

 

お互いに茶化し合うがこれが普通だ。亜麻色の髪の少年―――ユージオはどうやらこの世界の住人らしい。ラテンが予想していた通りだ。それで、キリトとユージオは六年前に整合騎士に連れ去られた少女―――アリスを公理教会から取り戻すために、ここへやってきたらしい。まあ、おおむねラテンと二人の考えは同じだったからここで会ったのだとは思うが。

 

「しかし面倒なことになったな」

 

「ああ、本当だな」

 

厄介なことに、ザッカリア衛兵隊に入団できるのはこの大会の西ブロックと東ブロックの優勝者。つまり、二人だけだ。残念ながら、三人のうち一人は脱落することになる。その可能性が高いのはラテンとキリトだ。この二人が勝ち進んで行けば間違いなくどちらかが脱落する。

 

「まあ、俺は妥協する気はないぜ。マリンと約束したからな」

 

「俺だって勝たなきゃならない。でも、クラス10の片手剣じゃ、ソードスキルも限られてくる。簡単に言えば剣技量勝負だな」

 

「刀が使えなくて残念だぜ」

 

ラテンはこの世界に皮肉を言うが当然そんな言葉を受け取ってくれるはずもなく無残に宙に浮かぶだけである。

 

「そろそろ、時間だな。お互いにベストを尽くそうぜ。ユージオは絶対優勝しろよ?」

 

「わかってるよ。二人とも頑張って」

 

三人は控え室で指示されたように並び始める。そして、《時告げの鐘》が鳴った瞬間、それぞれの思いを胸に、試合会場に歩いていった。

 

 

 

 




ラテンの剣。デザインは考えたのですが、名前が……。
みなさんの期待を裏切らないような名前にしたいと思います。名前発表は当分先だと思いますが(笑)
これからもこの作品をよろしくお願いします!
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