ソードアート・オンライン~神速の剣帝~   作:エンジ

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早くなってしまいましたが、皆様に早くお見せしたかったので投稿させていただきました(笑)


第二十一話 最速VS神速

 

「何故あなたたちは、多くの整合騎士を傷つけるんですか」

 

 目の前の可憐な少女は静かに口を開いた。その声は決して大きくなく怒声も混じってはいないが、刃物の如く鋭くとがっているようにも感じられる。

 

「俺は…俺達は、大切な人を取り戻しに来たんだ」

 

「大切な人……?」

 

 リリアは首を傾げる。確かに、理解不可能だろう。

 整合騎士たちは召喚されてから、街の人たちとは極力会っていないはずだ。すなわち大切な人までの思い出を作ってはいないはずなのである。

 それにここは七十五階。見習いの修道士などは、ここよりもずっと下にいる。見習いの修道士に会いに来たというならば、ここまで来る必要はない。それが、リリアが抱いている疑問だろう。

 

「ああ、大切な人だ。俺達にとっても、一人の少女にとっても」

 

「そのためだけに、ここまで来たのですか」

 

 その声には苛立ちと怒りが混じっていた。しかし、あくまでラテンは表情を動かさない。その視線はずっとリリアに向けられている。

 

「あなたは…あなたたちは解っているんですか!多くの整合騎士を傷つけるということは、闇の勢力に対する力が大幅に削られるというこのなんですよ!」

 

 ラテンは無言のままリリアを見据える。その瞳には明らかに怒りが漂っている。

 リリアは小さく息をはいて、そっと目を閉じるとゆっくりと口を開く。

 

「やはり、剣で訊くしかないようですね」

 

 リリアは腰に帯刀していた剣を引き抜く。その動きは決して速くはなかったはずなのだが、シャリィィン!と心地よい金属音を奏でた。

 

 右手に持っている剣は、全体を通して薄い桃色であり、少しの透明感がいっそうとその剣の美しさを引き立てていた。鍔には桜の紋章が施されている。だが、その紋章はラテンがよく知る花びらを正五角形のように並べたものではなかった。平面に刻まれているというのに、立体的に見える八重桜の紋章だ。

 いったいどんな風に作られているのか近くで見てみたいものなのだが、あいにくこの状況では近づいた瞬間に、体が八つに切り刻まれるだろう。八つとは限らないが。

 

「俺だって穏便にいけるとは思ってないよ。剣で語れと言うなら、望むところだ」

 

 リリアが一呼吸おいて口を開いた。

 

「我が名はリリア・シンセシス・サーティワン。我が神器の銘は《八重桜(やえざくら)の剣》。この剣は創世神ステイシアに愛されたこの世界でただ一つの八重桜の木から生まれたもの。善良な心を持つ者しか扱うことができない剣です」

 

「凄い剣だな、それ」

 

 ますます興味がわいてくるが、リリアが持っているものは片手剣だ。刀愛好家のラテンには最大限に活用することはできないだろう。

 ラテンは帯刀してある刀の柄をぽんぽんと叩いた。

 

「俺の名はラテン。流派は大空天真流。この刀の銘は………ジョージ二十三世にしておいてくれ。銘が決まったら改めて申し上げる」

 

 とっさに出てきたあだ名を口にしてみたのだが、リリアは相変わらずの無表情だ。だが、その瞳には「ふざけているのですか」と物語っているように見える。

 確かに一般人から見たら、ふざけている以外のなにものでもないのだが、どのみちこの刀の銘をリリアに教えるためには勝たなければならない。

 

「つまりあなたは負ける気はないと」

 

「最初から負けを認めてる奴なんて、そうそういないと思うぜ?特に女性相手だったらなおさらだ」

 

 普段はこんなことを言ったりも考えたりもしないのだが、挑発するのにはもってこいだ。相手の冷静さを崩し、自分が有利な状況で立ち合いを進める。勝負においては、セオリーともいえるものだ。この立場が逆になった場合、相当な実力の差がないと勝つのは難しい。

 

「挑発をしてるつもりですか?悪いですが、あなたのような軟弱ひよっこ剣士に逆上する私ではありませんよ?そんなんでよくここまで来れましたね」

 

 ムカッ  

 

「この……っと、あぶないあぶない。俺をはめようなんて百年早いぜ。それに俺だって、八重桜殿って言われるほどだからどんな奴だと思いきやこんな愛想のないお嬢様だったなんて……泣けるぜ」

 

「む……そうですか。でもそれだと、愛想があれば残念ではないということになりますが」

 

「くっ……」

 

(いつのまにか形勢逆転してるぅ!?あれ、さっきまで俺が有利だったよな?ならなんでこんな風になった!?……こうなったら開き直るしかねぇ!)

 

「ああ、そうだよ!あんたに愛想があれば完璧だよ!愛想があれば嫁に欲しいくらいだぜ……まったく」

 

「なっ……あなたよくそんなこと女性に対して言えますね!もういいです!あなたをここで処刑します!」

 

 可愛い動作をしてとんでもないことを口走っている。普段なら、「ひどくねっ!?」と言い返すラテンだが、さっきまでのやり取りが影響なのか、強気で言い返した。

 

「やれるもんなら、やってみろ!」

 

 ラテンは思い切り地を蹴る。舞い散る桜の花びらが、ラテンの影響で巻き上がった。

 リリアの目の前までいくと、すかさず抜刀する。これはただの抜刀術なのだが、その速さはソードスキルの速さに負けず劣らずだった。

 ラテンの速さに少々驚いたのか、リリアを目を見開くと剣を持つ右手を動かした。

 

(案外遅いな……!)

 

 ラテンは勝利を確信した瞬間、思いもよらなかったことが起きた。

 

カァァァン!

 

「……っ!」

 

 今度はラテンが両目を見開く番だった。ラテンの視線は自分の刀に向けられている。

 そこでは、キリキリと音を立ててラテンの斬撃を防いでいる八重桜の剣があったのだ。

 いったい、何故…?そう思ったラテンだったが、それは直ぐに解決される。

 

「セヤァァァ!」

 

「くっ……!」

 

 ラテンは刀を押し返されると体勢を崩した。もっとも二メルぐらい押し出されたのだが、目の前を見るとすでにリリアが迫っていた。上段から剣を振り下ろしてくる。しかし、それは尋常じゃない速さだった。

 

(ちっ……!)

 

 ラテンはリリアの剣の軌道に鞘をねじ込む。たちまち左手に剣の衝撃が入るが、これでリリアの剣は防ぐことに成功した。あとは、がら空きになった腹部を狙うだけだ。だが……

 

「やあっ!」

 

「いっ…!」

 

 いつの間に剣を戻していたのだろうか。リリアの剣は鞘の上にはすでになく、そのかわりラテンの右腹部からでた血と共に体の右を通過した。

 ラテンは左足を軸に思いきり後ろに飛ぶ。すかさず鞘を戻し、左手で腹部に触れた。その手には血がついている。

 

「……今のは警告です。先ほどは処刑すると言いましたが、降伏するならばこの場では処刑しません」

 

「……結局、処刑することには変わりないじゃねえか」

 

 ラテンはふっと笑うと、再びリリアに視線を向けた。その表情は先ほどまでとは違い、この場で会った時と同じようなものだった。

 

(それにしても、速すぎるな)

 

 ラテンは大空天真流の構えをしながらそんなことを思っていた。そう。彼女は速すぎるのだ。

 それは、抜刀術を受け止めた時と先ほどの斬撃によって簡単に理解することができた。

 剣の威力はダンレクトよりも劣るが、それでもキリトやラテンよりはあるだろう。それに加えこの速さ。ラテンでさえもついていくのがやっとだ。おそらく《絶剣》と言われたユウキよりも速い。

 つまり、ひとつひとつの斬撃がソードスキル以上の速さを持っているのだ。これでは、さすがの副騎士長でも負けるだろう。

 だが、こんな実力を持ったやつでもまだ騎士長(・・・)は倒していない。ならば、騎士長はどのくらいの化け物なのだろうか。今のラテンには想像もできない。

 

「整合騎士ってとんだ化け物ぞろいだな」

 

「あなたは整合騎士をあまく見すぎなんですよ」

 

「俺としてはそうでもなかったんだけど、な!」

 

 ラテンは再び地を蹴る。

 彼女が速いのは嫌と言うほど理解できた。だからといって、最速の座を譲ることはできない。

 上段から斬り下ろすのを初撃として、そのまま高速の斬撃を応襲した。だが、ことごとくリリアに防がれていく。それどころか、ラテンの身体にいくつもの切り傷が作られていく。

 

 二人の周りには多数の風が発生し、そのたびに桜の花びらが舞い上がった。

 何度目かの斬撃の後、ラテンは大きくバックステップをとった。しかし、着地直後思わず片膝をついてしゃがみこむ。

 ラテンの身体のは無数の切り傷が出来上がっていた。

 

「ここまで私の斬撃を耐えきったのは三人目です。さすがは、ダンレクトさんを倒しただけありますね」

 

「褒め言葉どうも。でも、あんたの斬撃を耐えきるどころか、押し負かす騎士長ってのはどんだけ強いんだよ…」

 

「小父様は最強の整合騎士なので、あなたでは太刀打ちできませんよ?私とアリスを同時に相手しても善戦するほどの人ですから」

 

「わぁお。とんだ化け物だな、そりゃあ」

 

 ラテンは地面に刀を突き刺し、立ち上がる。

 反撃覚悟で再び抜刀術をやるしかないと思ったラテンは鞘に剣を納刀しようとした。だが……

 

 

「あなたの実力は認めましょう。ですが、ここで終わりです」

 

 リリアの剣が白い光に包まれる。構えからして、奥義技ではないことを瞬時に理解できたのだが、リリアが何をやろうとしているのかはすぐには理解できなかった。だが、おそらく《武装完全支配術》を使おうとしているのかもしれない。

 

 リリアの剣は白い光を発しながらその周りに桜の花びらが渦を巻くようにして漂わせている。しかし、それ以外は何の変化もなかった。キリトがさっき戦ったファナティオのように白い光の槍のようなものを出すわけでもなく、デュソルバートのように火焔の槍を出すわけでもない。

 

「武装完全支配術……なのか?」

 

 そう口にした瞬間、リリアが地を蹴った。

 一瞬でラテンとの間合いを縮めると、両手持ちで上段からを叩き込んできた。ラテンはとっさに刀を上に向け、防御態勢をとる。

 剣と刀が接触した瞬間、大きな金属音と共に激しい火花が散った。

 その威力はダンレクトの一撃に負けず劣らずと言ったところか、ラテンは再び片膝をつく羽目になった。

 

「くっ……ほんと勘弁してくれ」

 

「罪人相手に勘弁なんてできますか?普通」

 

「それもそうd―――――ぐはっ!」

 

 ラテンはそこまで言うと、吐血する。

 体をどうにか捻ってリリアとの距離をとるが、意識は朦朧としていた。自分の身体を見ると、八つの大きな切り傷が出来上がっており、そこからは血がどんどん流れていた。すぐさま、治癒術を詠唱してどうにか止血するが天命は相当減っただろう。

 

「なん…だ……」

 

「これが私の《八重桜の剣》の武装完全支配術。私の斬撃が対象物に当たると、その先に八つの衝撃()が出現するんです。それは斬撃と同等の威力です。普通ならば、先ほどのように大きく叩きつけないのですが、隙だらけでしたので」

 

「……いちいち嫌味を混ぜてきやがって」

 

 簡単に言えば、ALOの世界でラテンが使っていた《月光刀》の能力の進化版だろう。それにしても、チートに近い能力だ。一度の攻撃で九回分の攻撃を出し、そのうち八回は必ず当たると言ったところか。

 

 再びリリアが地を蹴り、ラテンに斬りかかってくる。ラテンは初撃を何とかかわすと、そのままカウンターをするが速さは変わっていないようで難なく防がれてしまう。再び体中に深い傷が何個も出来上がり、そのたびにラテンは意識が遠のいていくのを感じた。

 

 

「早く倒れてください。さもないと、あなたは死んでしまいますよ?」

 

「お…俺は……」

 

 朦朧とする意識の中、ラテンはここまで来た目的を思い浮かべた。マリンにリリアを必ず取り戻すと言ったあの瞬間を。

 

「俺は……お前を取り戻しに来たんだ!」

 

 そう叫んだ瞬間、真思(しんし)が発動する。神経が研ぎ澄まされ、今のラテンにはリリアの剣筋が見えていた。そして頭の中で、誰かが話しかけてくるのが聞こえる。

 

アーマメント・トゥルー・リリース(武器の真理を解放する)

 

「……アーマメント・トゥルー・リリース」

 

 頭に聞こえてきた通りに口を開く。するとラテンの刀が光を放ち始めた。ラテンはその剣でリリアの剣にぶつける。

 すると、リリアの剣の光が突如消え去った。

 

「……!」

 

 リリアは大きくバックステップをとる。その表情は何が起きたかわからないと語っているようだった。それもそのはずだ。

 さっきまでリリアの剣は武装完全支配術を使っていたはずなのに、光を放ち始めたラテンの刀が当たった瞬間それが強制的に閉じられたのだから。

 

「あなたはいったい何を……!」

 

「……この刀は《始まりの原石》から生まれてきた。この刀は始まり、つまり原点に戻すことができる。この刀の能力を簡単に言えば《原点回帰》だ。この刀に触れたものは俺が思う通りの過去に戻せる。上限はあるが」

 

「過去に……戻す?」

 

「つまり、お前の武装完全支配術をなかったことにしたんだ。俺には武装完全支配術なんて通用しない。俺に通用するのは、己の剣術のみだ」

 

「剣術勝負ということ、ですね。なら、なおさらあなたに負けるわけにはいきません」

 

 リリアは八重桜の剣を上段に構える。一方ラテンは刀を鞘に戻し、抜刀術の構えをとった。

 二人の呼吸があった瞬間、同時に地を蹴る。

 ラテンはリリアの剣目掛けて抜刀した。

 

(きゅう)大空天真流(たいくうてんしんりゅう)抜刀術(ばっとうじゅつ)(れん)(かた)流絶天閃(りゅうぜつてんせん)》。

 

 抜刀された刀がリリアの剣に向かっていく。しかし、ダンレクトと同じようにはいかなかった。

 リリアは斬撃を止め、剣をラテンの刀の軌道から外すと二連撃目の鞘に、振り上げた。

 たちまち乾いた金属音が鳴り響き、鞘が真上に吹き飛ばされる。だが、ラテンは技が失敗したにもかかわらず、まるでそれを予想していたかのように体勢を立て直すと、リリアに斬りかかった。

 

 先ほどに比べて段違いに速くなっている二人の斬撃は、もはや視認不可能だった。限界を超えた速さで、お互いの剣をぶつけている。

 お互いに一歩も譲り合わず、斬撃と斬撃が相殺される均衡がいつまでも続くと思われたが、それも終止符が打たれようとしていた。

 

「《八重桜の剣》よその力を解放し、あらゆるものを切り刻め!――――リリース・リコレクション!!」

 

「……!」

 

 《八重桜の剣》の周囲から桜の花びらが大量に発生した。それは渦を形成し、ラテンとリリアをあっという間に呑み込む。

 先ほどリリアが切り刻めと言ったので、おそらくこの桜の花びら一枚一枚が殺傷能力があるのだろう。だが、ラテンだけではなくリリア自身までも呑み込んだということは、相打ち覚悟で放ったのだろう。

 真思が発動しているのもかかわらず、ラテンの頭には怒りが満ちていた。

 

(ここまでするほど、アドミニストレータが与えた命令は守らなきゃいけないのか!)

 

「俺はお前をここで死なせるわけにはいかないんだ!!」

 

 ラテンは未だに桜の花びらを大量に放出している《八重桜の剣》に刀を叩きつけた。《八重桜の剣》から放出される花びらは格段に減り、周囲を包み込んでいた渦が《八重桜の剣》に吸い込まれていった。だが、わずかながらに放出していることが見て取れる。

 

 

 戻ろうとする力と放出しようとする力。それが互いにぶつかり合い、大きな歪んだ力を生み出していく。

 

「えっ……!」

 

「なっ……!」

 

 そしてそれが目に見えた瞬間、大爆発を引き起こした。

 天地を揺るがす爆発音とともに、近くにあった白亜の壁が崩壊する。その瞬間、烈風が《桜花庭園》に発生し、ラテンとリリアを呑み込んだ

 

 あれほどの大爆発が起こったというのにラテンもリリアも嘘みたいに軽症で、ラテンは空中に舞う鞘を掴むとリリアを左腕で抱きとめた。リリアは気を失っているらしく、声すら出さない。

 

 そのまま二人は青い空と白い雲が広がる空中へと投げ出された。

 二人が投げ出された後《桜花庭園》に残ったのは、無残に花びらを引きちぎられた無数の花と、すべての花が散った桜の木だけであった。

 

 

 

 

 

 

 




なんか、後半展開が速かったですね(笑)

ちなみにラテンの刀の解放は、半永続的にしているつもりです。あっ、もちろんずっと光っているわけではありませんよ?(笑)

皆さんは、ラテンの刀がチートのように思えてきたかも知れませんが、《原点回帰》といっても、本当の最初に戻るわけではないのでご了承ください。(たとえば、相手の剣が加工前の鉄に戻るなど)

これからもよろしくお願いします!

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