ソードアート・オンライン~神速の剣帝~   作:エンジ

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第二十四話 二人の運命

 

「まったく、どこまでも世話が焼けるお嬢様だ」

 

 ラテンは自分の服の一部を引きちぎり、リリアの左目を覆うように巻きつけた。

 先ほどから流れていた血はとっさの神聖術により、止血することに成功したのだが、依然としてリリアは気を失ったままだ。見たところもうしばらくは起きそうにない。

 つまりラテンはリリアを担いで上へ上らなければならないのである。もしここにいるのがラテン本人だけならばリリアの回復を待つのだが、あいにくユージオが単身でアドミニストレータの元へ向かっているため、そうも言ってられない。

 

「というか、このお嬢様だけじゃなくそっちもか」

 

「ああ」

 

 キリトの方へ顔を向けると、リリアと同じくオブジェクトの上に横たわっているアリスが視界に入った。どうやら、同じようなことが起こったらしい。

 

「しかし、どうするか。超高優先度の武器に加え、ドSお嬢様を担いで上へ行くとなると……完全に重量オーバーだな。お前はどうか知らんが」

 

「いやいや。お前、俺を何だと思ってんだよ。超人ハ〇クじゃあるまいし…」

 

「……約七フロア。これを成し遂げればハ〇クになるのも夢じゃなさそうだな」

 

 ラテンはキリトから長い鎖を受け取る。それを使ってリリアを背中に固定すると、ハーケンを作り出した。

 

「おい、ラテン。上まで行ったらリポ〇タンDを用意しておいてくれ」

 

「それがあったらとっくに俺の胃の生贄になってるわ」

 

 お互いに冗談を叩きあいながら、ラテンとキリトはハーケンを使い上まで登って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおしょいっ………よっしゃああああ!!!」

 

「どっ……こい……しゃあああ!」

 

 見事二時間かけて七フロア分、約四十メルを懸垂で登り切ったラテンとキリトは九十五階《暁星の望楼》のテラスの床面にダイブした。

 関節のあちこちが悲鳴を上げている。こんな経験、祖父との特訓以来のものだった。

 

「……お、い……きりと……mうmrだsんじmう……」

 

「……なんて…言ってるか……わからないぞ……」

 

 ラテンは悲鳴を上げている体に鞭を打ってリリアを鎖から離そうとするのだが、腕がうまく動かず、脱力したかのように再び地面に突っ伏した。

 

「ああ、もう無理。動きたくねぇ……」

 

「安心しろ、ラテン。三分ぐらいはこのままでも文句を言うやつはいない」

 

「まあ、確かにこの場にいるのは気を失っている二人と、ある意味死にかけている二人しかいないもんな。……よし!さすがにアホの中のアホのアh「う……ううん……」じゃなくて、とてもすばらしいお嬢様なら、理解してくださるはずだ」

 

「ラテン……お前…」

 

「……言うな」

 

 背中にいるリリアの息づかいが首筋をくすぐる。

 長い道のりを登り終わった瞬間意識を取り戻すとは、偶然なのかもしくは狙っていたのか、ラテンには解らないが、この状況ならばさすがに前者だろう。

 

「……この鎖は……えっ。……まさか私を背負って……」

 

「そうだ。ひよっこ剣士でm「いやあああ!!」―――ひでふっ!?」

 

「へ、変態ですよ!しかも、汗だくじゃないですか!早く離れてくださいぃ!」

 

 リリアに後頭部を掴まれ地面に顔面をクリーンヒットしたラテンにはもはや、反論する力など残されてはいなかった。

 そのかわり顔面を床面に密着させながら、やっとの思いで鎖をほどくと、なんとも無情なお嬢様はねぎらいの言葉を一切かけず、ラテンから三メルほど離れた。

 

「……お前、いつか神から天罰が下るぞ…」

 

「その神と戦うことを先ほど宣言しましたよ?……そんなことよりも、ありがとうと言っておきます」

 

「素直でよろしい」

 

 ラテンはその場に座り込むとリリアを凝視する。そのリリアはまるで服に付いたシミを探すように……実際探しているのかもしれないが、白い服とロングスカートを揺らしていた。

 

「というか、言っていいか?」

 

「……なんでしょうか」

 

「お前の服にシミなんて一つもついていないけど、俺の服装を見てみろよ。お前との戦闘でもう服なのか昭和のファッションなのかわからないまでにボロボロになって、おまけに今度は赤く染まっちまってるんだぜ?俺は何回着替えれば清潔を保てるんだよ!?」

 

「……よくわからないのですが、大丈夫ですよ。ただの罪人に、変態という設定が付け加えられただけですから」

 

「全然大丈夫じゃねぇ!!」

 

 盛大なツッコミに涼しい顔で返したリリアは、ラテンに手を差し伸べた。ラテンは一瞬怪訝な顔を向けた後、素直にその手を取る。その手に引っ張られたラテンは立ち上がるや否や、すぐさまリリアのおでこに右手を乗せた。

 

「な、なんですか」

 

「いや、熱でもあるんじゃないかと思って」

 

「ありません!!」

 

 ラテンの手を振り払うとリリアはキリトとアリスの方向へ歩いていく。その後を慌てて追いかけると、キリトが声をかけてくる。

 

「青薔薇の剣は下にあるみたいだから、俺とアリスはいったん下まで戻るけど、お前はどうするんだ?」

 

「……ユージオはひとまず二人に任せるよ。俺は上へ行く。リリアは……」

 

「私も上に行きます。この変態だけでは頼りないですから」

 

「お前……出会ってからより毒舌になってないか?」

 

「そうでしょうか?」

 

 なんとも人の神経を逆なでするような言動をしてくるが、前よりも自然に話せているような気がする。出会ったときは絶対的が壁があったようにも感じていたのだが、今ではそうでもない。

 もしかしたら《仮のリリア》としての人格が徐々に心を許している証拠のかもしれない。それでも、もう少し素直なら分かり合えそうな気がするがどうせ「あなたとわかり合う必要はありません」と一蹴されるのが落ちだろう。

 

「じゃあ、またな。キリト、アリス」

 

「ああ、またあとで」

 

 キリトとアリスは頷くとフロアの北端に設けられた大階段を下って行った。その姿を確認した後リリアに顔を向け、お互いに頷き合うと大階段を上って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人界全土を統治する組織の中枢であるというのに、上へと続く大階段は妙に薄暗く、まるで廃墟のようだ。それに加え、誰もいないことが廃墟という認識を引き上げる。

そんな階段を一歩一歩登りながら、ラテンは左にいるリリアに顔を向けた。

 

「右目、大丈夫か?」

 

「えっ?…はい。片目が見えなくても、戦うことはできます」

 

「仮にもお前は重傷だぜ?こんな状態でも、戦いのことを気にするなんて……。それにお前は女の子なんだから…」

 

「その『女の子』に負けたあなたが言える立場ですか。自分の身は自分で守ります」

 

「なっ……ま、負けてねぇし!……でも、もし戦闘になったらできる限り後方にいてくれ。俺はお前を死なせたくない」

 

「っ、……わかりました。ですが、あなたが危険と判断したら、私が出ます」

 

 ラテンは無言で頷くと顔を前に向けた。

 ワンフロア分を上った二人を待っていたのは、やけに狭く薄暗い通路と、突き当りに立ちふさがる黒い扉だった。

 気味の悪い緑色のランプに照らされた通路の幅は約一メル半。その先にはさらに小さい片開きの扉がある。

 はっきり言って、その光景はしょぼすぎた。普通ならば上に上がれば上がるほど、飾りや見栄えが豪華になっていくものなのだが、目の前に広がるものはまるで小人の家に行くまでの道のりのようだった。

 

「この先には《元老院》があります。……あるはずです」

 

「なぜ言い直した!?……まあ、整合騎士といえどここまでは普通はこないのか」

 

「ええ。とりあえず、先に進みましょう」

 

 リリアは金色の髪をなびかせてどんどん歩いていく。先ほど、戦闘になったら後方にいろと言ったのを聞いていなかったのだろうか。ラテンは慌てて追いかけると、リリアの肩を掴み無理やり自分の後方へ押し込んだ。

 

「何するんですか!」

 

「レディファースト…と言いたいところだが、ここから先はR-18になりそうだから、俺が先に行く」

 

「あなたは聞きなれない言語を使うのですね。まあいいです。お願いします」

 

「了~解」

 

 ラテンは刀の柄に左手を添えながら、ドアノブを握った。《元老院》らしいのだが、無用心にも施錠されてはいない。

 だが、その扉を開けた瞬間この先には進んで踏み入れがたい気持ちがこみ上げてきた。この感情は、そう。例えるならば、ボス部屋に入り込んだ時のようだ。自然に刀に添えている左手に力が入る。

 

 中に入ると、再び狭い通路が出現し、その奥にはほとんど照明がない暗い空間だった。おまけに足を踏み入れた瞬間からぶつぶつと何かを詠唱しているような声が聞こえている。その声は音の種類からして複数人はいるはずだ。

 

「何を言っているんだ?」

 

「攻撃術ではないことは確かですが、私も聞いたことはありません」

 

「そうか」

 

 再び前進を開始する。やけに冷たい空気と度々鼻に届く食べ物を饐えたようなにおいは本当に《元老院》なのかと疑いたくなる。謎の闇組織の方がよっぽど似合っていた。

 

 薄暗い空間にたどり着くと、広いというよりも高いと言ったほうがよさそうな場所で、湾曲した壁はこの塔の三フロア分ほどの規模で伸び上がり、天井は暗すぎて見ることができない。その壁のあちこちで仄かに紫色の光が瞬いている。それに加え丸いものが等間隔についている。

 

 どう思うとリリアに顔を向けた瞬間、二人からかなり近い場所で新たな光が生まれる。それは淡い紫に発光する《ステイシアの窓》だった。そしてその奥に何か球体のようなものが存在している。

 

「人間の頭、でしょうか?」

 

「ということは、ここらいったいにある円筒形の中身は全部同じものっぽいな」

 

 ラテンはそのままその人間の顔を凝視する。しかし、それを本当に人間の頭といっていいのか少々疑問を持ち始めた。

 その頭には髪もひげも眉毛もしわもない。ただ生白い顔に硝子玉のような二つの眼球がついているだけだ。その視線はすぐ目の前に浮かぶステイシアの窓に向けられている。その窓には細かい文字列が刻まれており、箱人間はそれを見ながら抑揚のない声を発する。

 

「システム・コール……ディスプレイ・リべリング・インデックス……」

 

「聞いたことあるか?」

 

「いえ。でも、何かの数値を現しているのかもしれません…ですが」

 

「その数値は何を現しているのかはわからない、か…」

 

 ますますわけがわからない。

 だが、一つ言えることはここが《元老院》だとすると、彼らのほかに誰もいない以上彼らが《元老》だということになる。その光景はラテンが、いや、おそらくこのセントラル・カセドラルにいるほぼ全員が思ってもいなかったものだろう。

 

「……行こう。アドミニストレータの元にたどり着けば、何かができるかもしれない」

 

「……わかりました。行きましょう」

 

 再び歩き出した二人は広間の奥の方へ進み、その先に先ほどのような狭い通路があることに気が付いた。その通路から、ぼそぼそと誰かがしゃべっている声が聞こえてくる。

 誰かを罵倒しているのだろうか。途切れ途切れだが、「この坊主」や「害虫め」と聞き取れた。

 ラテンは今度こそ刀を抜くと、一歩一歩ゆっくりと先に進んでいく。声色からして味方になってくれそうにないため、用心に越したことはない。

 

 先に進んでいくと、広間ほどではないがなかなか大きな部屋にたどり着いた。しかし、同時に奇妙な部屋でもあった。

 ありとあらゆるものが金色に輝いており、スリュムヘイムの時とはまた別の光景だ。あらゆるものが照明の光に反射して、ギラギラと光っている。そしてその上には、たくさんのオモチャが乗っていた。数えきれないほどの量のオモチャをいったい誰が遊ぶのだろうかと思ったのだが、こんな部屋の趣味をしている以上変人であることは確定したようなものだ。

 

「ここに誰が住んでるんだよ…」

 

「私に訊かれてもわかりません。ですが、あなた以上に―――」

 

「わかった、わかったって。どうせ俺以上の変人とでも言いたいんだろ。言っとくけど俺は変人でも変態でもないから。いや、もしかしたら変人かもしれないが、変態ではないから!」

 

 ラテンが必死で弁論をした瞬間、オモチャに埋もれて何かが二人に向かって口を開いた。

 

「お前ら、誰だ!!」

 

「……チュデルキン……!彼が元老長です」

 

「こいつが?」

 

 またもや、ラテンの予想を裏切る結果となった。

 てっきり、長いひげを生やしていかにも威圧感があるおじいさん的なものを想像していたのだが、目の前にいる元老長と呼ばれている奴は、はっきり言ってカー〇ィだ。頭がある点ではカー〇ィではないのかもしれないが、頭を取り除いて腹の部分に顔を書けば間違いなくカー〇ィに見える。

 そいつの服装は右半身が赤、左半身が青で道化師のようなデザインだ。頭には金色の帽子が乗っている。もしかしたら、リ〇クをコピーしたカー〇ィなのかもしれない。

 という冗談はさておき、目の前の元老長が口を開いた。

 

「三十一号……なんでこんなとこにいるんですよゥ。反逆者と共に塔の外に落ちて死んだはずですよゥ」

 

「私はリリアです!それに私はもう三十一号(サーティワン)ではありません!」

 

 チュデルキンはリリアの返答に顔をひきつらせ、その顔のままラテンに視線を向ける。そして再び小さく細い目が大きく見開かれ、口を開いた。

 

「おま、オマエ!なんで……ゴホン。なぜこいつを斬らないんですゥ。こいつは教会への反逆者。ダークテリトリーからの手先と言ったじゃないですかぁぁぁッ!!」

 

「確かにこの変態は反逆者です。しかし、闇の兵じゃない。今の私と同じです」

 

 その言葉を聞いてチュデルキンは短い手足をブンブンと振り回し、駄々をこねる子供のように口を開いた。

 

「お、オマエ!う、裏切る気かぁぁぁッこの騎士風情がぁぁぁぁッ!!」

 

「「………」」

 

「てめえら整合騎士はァッ!!単なる木偶のくせにッ!!あたしの命ずるまンまに動く操り人形のくせにぃぃッ!!こともあろうに猊下をッ!!最高司祭アドミニストレータ様を裏切るだとぉぉぉッ!!」

 

「おい、カー〇ィ。少しは落ち着けよ」

 

 チュデルキンの口から飛び出る唾液を避けながら、ラテンはできるだけ落ち着かせるために口を開いた。どのみちすべてを聞いたら斬るつもりだが。

 すると、チュデルキンはいきなり不気味な笑い声を発する。

 

「おほ、おほゥ!オマエらは今有利な立場にいると思っているでしょう!」

 

「……どういうことだ?」

 

「お前たちにアレを試してあげますよ。おほ、おっほっほっほ!精々楽に死ねるといいですねぇ!!」

 

「何を言って……えっ?」

 

「はっ?」

 

 チュデルキンが指を鳴らした瞬間、二人が立っている辺りに半径三メートルほどの大きな円が出現した。

 それが巨大な穴だと認識するころには二人の身体は重力に従い落下を始めていた。 

 どのくらい落ちるのかはわからないが、一回下に落ちるとしたら再び《暁星の望楼》に着くということなのだろうか。だが、チュデルキンは言っていた。『アレを試す』と。それは落とし穴だけを意味しているとは考えにくい。

 

 ラテンはとっさにリリアを抱き寄せた。そしてチュデルキンの甲高い笑い声を背に浴びながら、二人はどこまで続いているのかわからない穴に落下していった。

 

 

 




本当に無理やり感がありますね……。
チュデルキンが言っていた《アレ》がどんなものなのかは楽しみにしていてください。きっと無理やり感がありますが……(笑)


話しが大きく変わりますけど、ソードアート・オンラインの歌ってテンション上がりません?(笑)いろいろありますけど、特にテンションが上がるのは<シンシアの光>ですかね(笑)

そんなこんなで、これからもよろしくお願いします!
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