ソードアート・オンライン~神速の剣帝~   作:エンジ

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第三十九話 降臨

 

 アリスの堂々たる宣言にまるで誘発されたかのように、闇の大軍勢が動き始める。それによって巻き起こる土埃が、瞬く間に闇の軍勢を包み込んだ。

 近くの丘の上から遠目で見つめていたラテンだったが、リリアに呼び戻され、その場を離れる。

 守備軍囮部隊は現在、最初の小休憩を取っているため、呼び戻されるということは、こちらも移動を始めるということなのだろう。丘のふもとで待っていた、魔獣に移動するように促すと、大きな欠伸をしながら、のっそのっそと歩き始めた。

 

「んで、今度はどこまで移動するんだ?」

 

 ラテンの隣を黙々と歩くリリアに顔を向けると、引き締まった表情で答える。

 

「この先、一キロほど南下したところに、待ち伏せに利用できそうな灌木地帯が広がっているそうです。そこに向かいます」

 

「なるほどね。んで、俺はどこにいればいいんだ? 整合騎士の近くか?」

 

 ラテン自身としては、整合騎士の近く―――というよりもリリアの近くで彼女を守りたいのだが、今のラテンにそんな力はない。魔獣に頼る手もあるが、おそらくここからが激戦になるため、それよりも前に消耗させるのはあまり得策ではないだろう。だとすると、やはり囮部隊本体に合流したほうがいいのかもしれない。

 自分の中で答えを導き出したラテンだったが、あえてリリアの返答を待つ。指揮権は整合騎士にあり、どんな理不尽なことでもそれに従うべきだからだ。あの団長様なら無茶な作戦を考えないような気がするが。

 一呼吸置いたリリアは、不安の色が見え隠れする表情でこちらに顔を向ける。

 

「ラテンには、囮部隊の後方についてもらいます。私としては―――」

 

「それ以上は言わなくていい。お前はお前の役割に集中してくれ。こっちはこっちで何とかするからよ」

 

 お前の重荷にはなりたくないんだ、という言葉が出そうになったら、ぎりぎり呑み込んだ。そんなことを言えばおそらく彼女は怒るだろう。

 できるだけ明るい口調で言うとリリアは、「わかりました」と一言だけ言って、再び黙々と歩き続ける。

 

 

 しばらく歩き囮部隊に合流すると、先ほどから黙っていたリリアが顔を向ける。

 

「それでは、私は小z……団長の元に向かいます。気を付けてください」

 

「了解」

 

 そう返すと、リリアは一つ頷いて、囮部隊前方方面へ歩き出した。それを無言で見つめると、ラテンは囮部隊最後尾へ足を運び始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 囮部隊が移動を始めて十五分ぐらい経っただろうか。最後尾にいるラテンは、ようやく目的地である灌木地帯に足を踏み入れた。少々霧をかぶっており、数十メートル先までしか視認することができないが、ここならば確かに待ち伏せにはうってつけな場所だ。

 補給部隊の馬車の後ろをついていきながら、周辺を見渡す。

 今回の作戦は、一本の細い道に刻まれている補給部隊の馬車の轍を追ってきた敵を、なるべく深いところまで引き込んだところで、左右から挟撃するというものだ。

 残念ながら、迅速な後退を念願に置いた、灌木地帯の最南部で待機している補給部隊の近くにいるラテンは、その攻撃に参加することはできないが、衛士と修道士の士気は非常に高まっている。被害はあまりでないはずだ。

 

 補給部隊が持ち場に待機すると、改めて周りを見渡す。いくら待機をすると言っても、魔獣を近くに置くわけにはいかない。もし、強い力を感知できる敵がいたとしたら、補給部隊の位置がばれてしまうだろう。戦う術をあまり持たない、補給部隊にとって、魔獣の存在はあまりも危険すぎる。そのため、補給部隊から少々離れた位置で、いい隠れどころがないか探しているのである。

 

「おっ、良さげなところがあるじゃん」

 

 およそ十メルほど先、霧の影響で周りがどうなっているのかわからないが、見た限りでは逃走による障害物は少ない。それに加え、他よりも一回りほど大きな木ならば容易にばれる心配がない。

 

「だいぶ離れてるし、ここなら大丈夫そうだな」

 

 魔獣に座るように促すと、自分は木にもたれ掛かるように腰を下ろす。自分と魔獣の足音が消え、周りが静寂を取り戻すと、不意にラテンは疑問に思ってしまう。

 自分は何のためにここにいるのか、と。

 

 リリアを守るという名目でここまで来ているのだが、今のところ、直接的に彼女を守ったことはない。もちろん、暗黒術師による超高優先度の闇素術の約半分を消し去ることはできたが、それでもエルドリエがいなかったら、リリアたち整合騎士五人は肉片一つ残らず消え去ったいただろう。それに防いだのは魔獣であり、ラテンではない。

 ふと頭に浮かんだ整合騎士《エルドリエ》。自分が力を失ってなければ彼も救えたかもしれない。

 

 緊張感が薄くなったせいか、どんどん心が沈んでいくラテンを見た魔獣は、そっと尻尾を押し付ける。ラテンは何も言わず、抱き枕のようにそれを抱き寄せた。

 途端、突如発生した安心感が、ラテンの心の中を少しづつ満たしていく。

 初めて魔獣の尻尾に抱き着いたというのに、この感触は初めてではなく、どこか懐かしい感じがして――

 

「……誰だ?」

 

 その感触をもっと感じていたかったのだが、すぐさま意識を切り替える。自分に近づいてくる気配を感じたラテンは、尻尾をどかし立ち上がる。

 しかし、ラテンの質問に答えたのは目前の人物ではなく、左斜め上から降ってくる剣だった。いくら武器を持てないラテンと言えど回避できないわけではない。不意打ちを一瞬で反応すると、体を捻り、紙一重で躱す。そのままバックステップを取り、いきなり攻撃してきた人物と対峙した。否、《人物たち》だ。

 

 見た限り、この場にいるのは四人。どの人物も軽装をしており、手には剣身約七十センチメルほどの剣が握られている。高優先度とは言わないにしても、どれもクラス20は超えているだろう。

 そして攻撃してきたということは、明らかに味方ではない。見た感じ人間と同じ容姿をしているため、おそらく暗黒騎士団の偵察兵か何かであるはずだ。

 

 とにもかくにも、相手が軽装であることはラテンにとっては非常にありがたい。武器は持てなくても、殴る蹴るはできる。相手が重装備なら話が違うが、軽装ならば鎧のない部分に何度か攻撃すれば、撃退できるはずだ。しかし、問題は相手が四人であること。

 

 こちらには魔獣がいるため、簡単に相手を一蹴することは可能だが、周りに気づかれずに倒すことは難しい。もし攻撃をさせれば、ここら一帯で《戦闘をしている》ということを周りに知られることになる。そうなれば、衛士が数十人。下手したら整合騎士がこちらに向かってくるはずだ。その間に、前線のほうで戦闘が発生すれば苦しくなるだろう。そうさせないためにも、ここはラテン自身で四人を倒さなければならない。

 ラテンは魔獣に攻撃をしないように促すと、魔獣から少々離れて身構える。それを見た偵察兵たちは各々武器を構えながら、地を蹴った。

 ラテンは1人目の初撃を躱すと腹部に蹴りを入れるため、左足に体重を乗せる。

 

「っ!?」

 

 しかし、いつの間に後ろに回っていたのか、もう一人の存在に気付くと、浮かびかけていた右足を何とか停止させた。そしてすぐさま、左足を踏み込み横へジャンプするが完全に体勢を崩してしまう。

 肩から地面に衝突したラテンはとっさに体を捻り、一回転すると体勢を立て直す。だが、それを見逃さないところはさすが鍛錬していると褒めるべきか、ラテンが体勢を立て直したと同時に追撃が来る。

 それを横っ飛びで躱すが、おそらく相手はそれを知っていたはずだ。連続的に攻撃を仕掛ければ、反撃ができないラテンは躱すことしかできなくなる。それを続ければ、ラテンにもボロが出てしまうわけであって、そこを狙う魂胆だろう。

 ラテンの予想が正しければ着地したのと同時に目前以外の誰かが、攻撃してくるだろう。

 

(だったらその裏を突くまでだ……!)

 

 ラテンは攻撃してきた敵をちらりと見る。その顔には余裕の表情が見え隠れしており、おそらく完全に油断しているはずだ。しっかり鍛錬していることは認めるが、こういうところはまだまだ未熟だ。

 

 右足で着地すると、後ろから人の気配を感じることができる。しかしそれは予想通りであり、ラテンは右足に意識を集中し、一切の迷いなく跳んできた方向に再びジャンプする。

 それを予想していなかったのか、目前の敵の動作が一瞬固まり、左足を踏み込むのと同時に隙だらけの顔面に拳を振るった。

 

「ぶへっ!」

 

 奇妙な叫びとともに、目前の偵察へは三メルほど吹き飛ぶ。ラテンの全体重を乗せた一撃は、吹き飛ばされた偵察兵の意識を奪うには十分な威力だった。しかし、ラテンはラテンで、初めて思い切り人を殴ったので、右手の変な感覚を振り払うようにぶらんぶらんさせる。だがまだ戦闘は続行中であり、すぐさま意識を切り替え残りの三人と対峙する。

 数秒間のにらみ合いの末、三人のうちの一人が足を踏み入れようかというところで、ラテンは突如訪れた異変に気づく。それは三人にも感じたようで、今にも飛び出しそうだった勢いを完全に止めた。

 途端、四人と一匹がいた地面が天地が張り裂けんばかりの地響きとともに、大きく揺れ始める。

 

「一体なんだよ!?」

 

 立つことが困難な揺れに抗うことなくしゃがんで周りの様子を確認するラテンは、補給部隊が駐留している場所の上空に小さな光が発生していることに気が付く。

 

「あれは……」

 

『この感じ……ステイシア様だ……!』

 

「は?」

 

 服の中から突如現れたジャビがそんなことを言う。

 ジャビが言うステイシア様とは、《創世神ステイシア》のことだろう。だが、神が降臨するなど一度も聞いたことがない。あれが本物ならば、何故やってきたのだろうか。

 

『おい、狐! おれっちとラテンを、ステイシア様のところへ連れてけ!』

 

「おまっ、何を勝手に……!」

 

 ステイシアが敵か味方かわからないというのに行くのは少々危険だ。ジャビの命令を受けないように魔獣に顔を向けるが、時すでに遅く、魔獣はジャビの命令を嫌々受けながら、ラテンの服を加える。未だ何が起こっているのかわかっていない三人の偵察兵を尻尾で吹き飛ばすと、ステイシアがいるであろう補給部隊の位置まで駆けだした。

 

 

 




超久しぶりの投稿です。
どういう展開にするか迷っていたら、いつの間にか相当経ってました。申し訳ありません。

書いてて疑問に思ったのですが、手をぶらんぶらんさせる、という表現は正しいんですかね? 何故か考えれば考えるほど笑いがこみ上げてしまいます(笑)

ちなみにラテンがちょうどいい場所を探し求めて三千里途中で、ヴィサゴさんは「ファイブ、ダウーン」してます(笑)

現在の原作上、不定期更新になると思いますが、これからもこの作品をよろしくお願いします!
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