レベル1のわんこプレイヤー 作:わんこ
3歳児って意外と赤ちゃんスペック。精神的にも情緒不安定のクソ仕様だ。人生余裕だせイエーイ! とはならないのがクソである。
というか、チート性能がないと分かるぐらい平凡な女の子。単なる幼女。
なんで3歳児がクソだのなんだのいうかというと、私には前世の記憶があるため。
といっても、大学生まで過ごした記憶しかなく、分かっているのは事故で死んだということぐらいだ。
この世界については、前世の私が死んだ世界とは全く異なるということだけ分かる。
現代社会の在り方、ルールなどいくつか違うだけの並行世界かな。
前世の記憶があって、私の知らない世界ということで何かあるのではと疑ったことはあったけど、そんなの杞憂だった。
ゲームが異様に発達しているけど、それ以外は特に事件など起きてもいない。私のよく知る俺強なろう系世界でもない。
だからまあ、適当に生きて暮らせばいいかなぁと思った。
私の今の家族────
といっても、チートもなにもないのに何をすればいいのか……。
社会経験、学校で学んできた知識、そしていくつかの記憶。
全部無駄というわけではない。
現代に近いこの世界なら、学校の授業やテストの成績を気にしなくて良さそう程度のもの。
VRというものがすごく発達し、また機械類がかなりの速度で進化してるから、前世の知識が役立てることはものすごく少なそうである。
なんせ機械類とは、AIも含まれてるから。
受付とか大量生産とか、人手を機械に任せてるのが多いから。
事故で四肢切断となった人には、機械義手を。
AIでの仕事の発展、家電類の使いやすさ。
そんな世界でどのように生きようかと3歳児のくせに真剣に悩んでいた私を見かねた兄は、テレビでいろいろ見せてくれた。
そうして知ったのだ。
プロゲーマーという世界を。
この現代とはまた別の、VRによる異なる世界で無双する輩共を。
キラキラというよりギラギラしていて。
ものすごく暴力的なくせに、無駄に技を魅せてきて。
そして全員がものすごく負けず嫌い。
前世ではゲームは一人でやるものばかりしていた。
特にオンラインでの対戦ゲームは怖くてやれなかった。
煽りとか、仲間外れとか、そういうのよりもっと汚れた世界なんだと。
オンラインゲームをやる人の治安ってかなり悪いんじゃないかと。
「すごい……!」
テレビで見た対戦ゲームがものすごく輝いて見えた。
そんな世界の、そんなプロゲーマー達が集ってくれる、キラキラにギラギラなゲームを作ってみたいって思えた。
VRだなんていうこの世界にしかない面白いものを使って、ゲームを作ってみたいと思えたから。
……
「うぉぉぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」
「うるさいわよ瑠璃!」
「ごめんお姉ちゃん今創作中で締め切りがぁぁ!!!」
我が陽務家は趣味にものすごく寛大だ。
ただし、お金はお小遣いの範囲から。勉強は必ずやらなくてはならないし、ご飯は必ず皆で食べるのがルールだけど、それ以外は自由。
そのため3歳のあの日からお小遣いとお年玉をフルに貯めまくって7歳で買ったVR専用器具と、ゲーム創作のための機材。
あといろんなことを調べて分かったのは────前世で遊んだゲームがこの世界には無いことだ。
前世のゲームをより鮮明に、現実味溢れるVRにて遊んでみたい。そのためにゲームを作ると決めたんだ。
技術は全く無いけれど、イラストや音楽の無料配布やらVRゲーム制作方法やら、ネットゲームのように素人でも作れるプログラムはたくさん。
私の貯めたお小遣いを使って立体的なキャラクター制作を依頼し、それなりのゲームを作ることも出来た。
慣れない機械で数年かかったけど、試しにと前世でよくやっていたバイオに似たゲームを作ることにした。
その名もガンズハザードZ。
もちろんナイフも使えるけど、メインは拳銃。とある町にて起きたバイオテロから生き延びて、いろんな武器を手に入れつつ脱出するというサバイバルホラーゲームだ。
VRで作ったけど、小学生一人で作ったゲームだからか、クソゲーになった。
拳銃の挙動がおかしくなったり、リロードしてたのに急に無限武器になったりとやばいこと満載。
クソゲーって言いたくないけど、処女作だし、小学生が作ったにしては良い出来だと思うので妥協した。
我がクソゲニクトたる兄はまあまあな評価してたのでこれはクソゲー。
だからそんなクソゲーたるガンズハザードZの試作を試しにと無料でネットに放流したらなんかスワローズを名乗る不審者からメールが来て、予算出すので本格的に作ってほしいとのこと。
冗談か詐欺かと面白がって引き受けたらまさかの私の口座に大金がきて、コンタクトをものすごくとってくる始末。
怖くなったけどお金来ちゃったからにはやらなきゃと必死になってやりはじめて今に至る。
「なんでプレイヤーの挙動がおかしくなるの! 足が2メートルに伸びるの意味分かんない!! パンチしたら手が増えるのも意味分かんない!!!」
「おっ、便秘か?」
「お兄ちゃんは黙ってて!!」
これは便秘という略称のゲームじゃない!
ベルセルク・オンライン・パッションじゃない!
そういう用途で作ったゲームじゃないもん!!
「銃で全部皆殺し! 物理的な要素は排除! 殺戮、ナイフ、ハッピートリガー!!」
「窓開けっぱで物騒なこと言わないで! また通報されるよー!」
「アハハハハ! 締め切り前の私は無敵なんだからね! 通報なんて怖くないもん!!」
通報されたし母さんに怒られた。
呆れた兄と姉からもいくつか注意された。
締め切りは間に合ったけど、しばらくゲーム製作は止めろとのお達しを受けたので腹いせにゲームすることにする。
作るわけじゃないから別に良いでしょ。
「シャングリラフロンティア……うーんっと、キャラクター作成までスキップっと……」
流石に神ゲーというだけはあって、やるべき用途が多い。
プレイヤーキャラの作成。
目の形まで変えられるし、かなり自由度が高い。こういうゲーム見ると本当に嫉妬する。
私もいつかこんなゲーム作ってやるんだから!
「キャラは別に……身長はリアル優先。髪型も同じにして、色は……大ファンのケイ先輩からとって金髪で!」
魚臣慧、プロゲーマー特集にて出てきたキラキラにギラギラな魅せてくれるプロの人。
テレビでゲーム大会をいくつか見て、直接会場に行って見たことのあるプロゲーマーの中ではトップクラスに尊敬できる人だ。
受けの人とか、ケイきゅんとか呼ばれてるみたいだけど、あれは容姿で判断してるだけなので私にとっては受け入れられない魔境である。
いつかケイ先輩に私のゲームをしてもらうという夢を叶える。そのために慣れないオンライン対戦をたまにやってるんだから。
シャンフロもその一つ。もしかしたらケイ先輩がやってるかもしれないし。知らないうちにフレンズになれるかもとか夢見ちゃう。
「思考が脱線した……もういいや、これで!」
金髪ツインテール幼女にしよう。ちょっと盛りに盛った感はあるけど、別によし。
「職業は、傭兵、騎士……踊り子? なんかいっぱいあるなぁ……」
防具売れるってどういうこと?
全裸スタートなんて変態プレイする人いるの?
まあ、序盤にお金あった方がやりやすいのは分かるけど……ううーん……。
どうせなら
まず段階を踏んでゲーム作りたいし。
私が一番作りたいのはポケットなモンスターのあれだからね。その前に作るとしたらロボかなぁ。
序盤で詰まないようにもっとちゃんと調べなきゃ……ええと、
……あっ、でも
「猛獣使いで最初に使い魔を決めるなら犬猫などの動物……いや、でも冒険者なら使い魔は決めなくていいのか。その方がキャラクター性能も防御力以外は劣ってないし」
よし、使い魔は無しの方向で。
幸運は────ゲームやる前に調べたら幸運値上げた方が特みたいなの書いてたし、多めに。
名前は
————————————
PN:リル
LV:1
JOB(職業):猛獣使い(冒険者)
使い魔:無し
3,000マーニ
HP(体力):30
MP(魔力):10
STM (スタミナ):20
STR(筋力):10
DEX(器用):10
AGI(敏捷):20
TEC(技量):10
VIT(耐久力):10
LUC(幸運):20
スキル
・ストレートスラッシュ
・ナックルラッシュ
装備
左:無し
右:新品の短剣
頭:無し
胴:皮の防具
腰:皮のズボン
足:皮の靴
アクセサリー:無し
————————————
よし、出来た。
あとは楽しむだけかな!
♢
オープニングの説明文を流し読みしつつ、シャンフロの世界観を把握しとく。
視界が真っ暗になったかと思ったら、小鳥の鳴き声とともに一気に明るくなった。
商店街から裏路地へ続くような細道、といったところかな。
真っ直ぐ前を見れば、明るくここより広い街路をNPCやプレイヤーが歩いている。
そこから離れた私のいる場所は人気もなく、まるで空気が切り離されたかのように静けさに包まれていた。
最近はお兄ちゃんのやってるゲームばっかり借りてたから、クソゲーよりどれだけ動けるかの把握からしよう。
ひとまず視界の移動────うん、自由に動ける。
両手をぐっぱっと握って、足を軽く振り上げてみたけど違和感無し。
変な動きしたらバグるか見るために思いっきり壁ジャンプして見たけど問題なし。
「うん、なんとか動くかな……」
調べてみればここは『ファステイア』という最初の町らしい。
まずはここを拠点に周りの冒険。そして私の理想の使い魔を見つけてみよう。
♢
「ちょいとそこ行くお嬢ちゃん。おもろいもんあるでぇ?」
「誘拐でしたら私より別の子にお願いします」
「んなことするわけないやんかぁ! わい、ちょっとした商いやっとるんや。買わへんか?」
「商い?」
裏路地をズンズン進んでみたら変な関西弁の怪しいNPCが露店してた。
というか、私が変なこと言ったのにちゃんと対応してるし、AIすごい。
シャンフロは軍用のやつ使ってるっていってたからそのせいかな。うぐぅ……私も機械さえ充実していれば……!!
……っと、今は目の前のイベントに集中しなきゃ。
怪しさ満点だけど、面白そうだから買ってみるか。
風呂敷を地面に敷き、いくつかの商品が並べられたそれを眺める。
その中の一つだけ、異様に目が奪われた。
「これは?」
「ええ目ぇしとるねお嬢ちゃん。これは百年に一度の夜にしか手に入ることの出来ない闇の石や」
「やみのいし」
進化の石かなと思うそれを手に取り、説明文を見た。
・闇より秘めし忘却の石
これを入手した日の夜。その夜明けまでに石の封印を解かなければ永遠の眠りにつくだろう。
忘却された意志を取り戻せ。お前のいる世界は闇にある。
なんだろうこれ、ギャグかな?
何か重要なアイテムっぽいけど、石と意志を掛け合わせてる感じだし、こんな露店にあるアイテムだからね。
きっと他の人も入手して封印を解いてるはずだ。
でもこれ『やみのいし』なんだよね……。何かのモンスターを進化させられるかもという期待ががが……。
「買いまーす。いくらですか?」
「1000マーニやで。まいどー!」
「回復アイテムあったら買うんで安くしてください」
「図々しいお嬢ちゃんやな!? ……じゃあコレとコレ合わせて1500マーニで売ったる!」
「はいそれで」
「まいど!」
ほどほどに高い買い物だけど後悔はない。
闇の石の解放条件については後で調べるとして……。
まずはレベリングも兼ねてお金稼がなきゃね。
♢
「迷った……」
いやまあ、お兄ちゃんから「瑠璃、お前はゲームでも現実でもバグってる程度の方向音痴だからな。勘を信じるな。地図を信じろ!」って匙投げた絶望顔で言われたし、ヤバイかなって思って宿借りてリスポーン地点決めたし大丈夫とは思うけどさぁ!
森から出られないし、茂みからモンスター出まくるし、そろそろレベル20になっちゃうのに使い魔もテイム出来てないし!!
というか、モンスター沢山狩りまくってたら称号『モンスターズハント』手に入れたけどこれ何?
「あとキミしつこいよ! 片腕だけになっちゃったんだから諦めなってば! 命大事に! 戦線離脱コマンド! 私はもう戦う気は無いんだってば!!」
後ろから追ってくるのは一体のヴォーパルバニー。
回復アイテムが尽きたけどリスポーンする気になれず、ひとまず町へ戻るために四苦八苦してた際に出てきたレアモンスター。
首を狙ってきたから反射的に腕斬ったら最後の武器が破損したため、私は負傷した兎から逃げたのだ。
倒せばいいのは分かってるけど素手で応戦するしか無いし、反撃されたら確実にダメージが入る。
回復もないなかでそんなことしたくはない。
ここまできたらリスポーンせずにいたいからね。町までの距離が分からない今、ヴォーパルバニーに反撃するのは避けた方がいい。
逃げる方が容易いし。
そう思っているうちに、時間は夜になり、暗闇の中必死に真っ直ぐ走っていくと、開けた場所にきた。
「町だ────っ」
それは、不意に訪れた。
闇夜にて広がる景色には、人間の姿など一つもない。
ただ、モンスター達が影に集っている。
どうやら縄張りに侵入してきた敵を倒そうとしているらしい。
しかし影は────真っ黒の狼とも言うべき敵は、モンスター達を嘲笑い、吹き飛ばし、殺してみせた。
そうして奴は、こちらを見た。
『ユニークモンスター「夜襲のリュカオーン」に遭遇しました』
回復無し、武器無しでボロボロの私。
背後には片腕で出血ダメージでそろそろ死にそうなヴォーパルバニー。
目の前に広がるは、今にも噛みつきそうな狼。
「死っ────」
リュカオーン相手に、片腕のヴォーパルバニーが鋭い突きを繰り出した。
それを軽々と避けたのを見てハッとする。
ウォーパルバニーは私ではなくリュカオーンを敵と認定した。私のことを警戒してるけど、脅威とは見ていない。
諦めかけたけど、ヴォーパルバニーが私ではなくリュカオーンを狙っているならば────!
「よしヴォーパルバニーくん! キミ一旦休戦ね! そいつ倒したら殴り合いしようぜ武器放り投げてね!」
なんか嫌な顔されたけど無視。
テイマーだからこそ出来るサポートスキルたるバフをヴォーパルバニーにありったけぶちまける。
そうして私も殴りにいく。
せっかくのユニークモンスター。死ぬかもしれないなら一回ぐらいはぶっ飛ばしてみないと!
「回復は出来ないから避けないと駄目だよ!」
舌打ちしてきた兎にほんの少しだけ心が傷つきつつも、リュカオーンの噛みつき攻撃を見て反射的に身体を動かした。
身体はリアル以上に動ける。前衛でなくてもいいようにスピード特化にしたせいか。
「こっちは伊達にお兄ちゃんのクソゲーやり尽くしてないんだよね! ケイ先輩の対戦動画から学んだミーティアス式空中ジャンプを今こそ見せる時!!」
「ッッ──────!!!」
吠えるリュカオーンに、生き延びるために必死に戦う一人と一匹。
クリティカルを出そうとするヴォーパルバニーをサポートして、バフをかけまくる。
それを見たリュカオーンが私を狙うので、隙をついて私も攻撃へ回る。
きつい、ギリギリでしか避けられない。
攻撃するにしても、リュカオーンがすぐさま対応してくるし、避けたあとカウンター攻撃が飛んでくる。
ヘイトは今のところヴォーパルバニーに向かってるなら死んでないだけであって、均衡が崩れたら終わるのは確実。
余裕そうに見せているけど内心は冷や汗だらけだった。
「あっ!?」
片腕のダメージが今になってきたのか、ヴォーパルバニーが膝をつく。それにリュカオーンが踏みつけようと動く。
「待て待て待てぇぇぇ!!!」
確かにヴォーパルバニーにダメージ与えたの私だけど。片腕にしたの私だけど!!
今は巨大な敵を倒すためのいわばバディというか親友みたいな絆が生まれてるというか!
「っ────!!」
とにかく私は馬鹿だったのだ。
お兄ちゃんならきっと見捨てるはずの一体のヴォーパルバニーを助けようとして動き────半身を噛まれた。
即死してないのはきっと、レベル19により強くなった幸運が働いて食いしばりが発生したから。
横たわるヴォーパルバニーと私を見下ろすリュカオーン。
その半月に歪む目を見て気づいてしまった。
きっと、きっと。弄ばれていた。
玩具のように遊んでいた。
本気で戦っていたのは私たちだけだった。
ユニークモンスターに相応しい強さを持つそいつは、私たちを見ている。
私は死んでも生き返るけど、親友たるヴォーパルバニーは違う。そのまま死んで終わるだけ。
ヴォーパルバニーを抱きしめて庇おうとしても、それに構わずリュカオーンは一人と一匹をまとめて噛み砕こうとする。
私はリスポーンできるけど、ヴォーパルバニーは違う。
死んでしまう。消えてしまう。
────ああ、復讐しないと。
お兄ちゃんと一緒にやった、あの幕末心が沸き上がるまま、私はリュカオーン相手に睨み付けた。
「今に見てなさい。私達を殺したことを絶対に後悔させてやる」
「グルゥ」
ニヤリと嗤い、一鳴きした狼によって、食い殺され視界が真っ暗に終わる。
『「リュカオーンの
『闇より秘めたる石が呪いにより壊される──!』
『闇の石の効力により、「リュカオーンの
『「リュカオーンの
『「リュカオーンの
『レベル1となりました』
『「職業:
『「片腕のヴォーパルバニー」が使い魔となりました』
……どゆこと?