レベル1のわんこプレイヤー 作:わんこ
「よし、とりあえず近くにプレイヤーは居ないな」
「サンラクサンの乗り心地最悪でしたわぁ……」
「おう次は音速目指して突っ走ってやるですわ」
「真似っこ止めてほしいですわ!」
お兄ちゃんとお洒落なウォーパルバニーの仲が良いことに疎外感を感じる。
まあでも、私が話しかけようとしたらお洒落なヴォーパルバニーちゃんがびくびくしてて怯えてるから話しにくいのもあるけど。
ラピンとは違って喋れるところを見るに、お兄ちゃんが言ってたいくつかの問題の一つかな?
おそらくユニーク関連。そうじゃなければお兄ちゃんはプレイヤーに追いかけられることは無かったはずだ。
「お兄ちゃん、そのウォーパルバニーちゃんは?」
「ぴぇ!?」
やっぱり怯えてるヴォーパルバニーちゃん。そんなに私怖いかな?
レベル的にいえば誰よりも下だと思うんだけど……。
「ああ瑠璃……じゃねえ、『リル』な。このプルプル震えるマッサージ機と化した泣き虫兎はエムルだ。エムルこいつは俺の妹のリル」
「よろしくね泣き虫兎のエムルちゃん」
「別に泣いてませんわ────えっ。んなっ、ぴぇぇ!? り、リュカオーンが妹なのですわぁぁ!!?」
「ふっふっふっ、そうだよエムルちゃん。私はリュカオーンだよ! がぶりんちょしてやろうか!」
「ひぇぇぇ!?」
怯えるエムルちゃんにわざとらしく近づくとお兄ちゃんの頭上によじ登り、まるで猫の『やんのかステップ』みたく毛を逆立てて威嚇してくる。
可愛いし、もっとからかいたくなる反応見せてくれるなぁ。
でもそんなほんわかした私とは違い、兄は変態にもパンツ一丁で胸を張る。
「そこだわエムル。なんでこいつがリュカオーンだと思った?」
「……闇の気配を濃く感じるからですわ。闇はリュカオーンの縄張り。サンラクサンとは違って、リュカオーンが開拓者の形をしてるみたいですわ」
「ほほーん? つまりリルを殺ればこの呪いは消えると」
ハシビロコウの被り物のせいで分かりにくいけど今お兄ちゃん目をキラーンってさせたよね?
「PKしたらレッドネームになるだけだよお兄ちゃん」
「やる価値はあるんじゃねえのか?」
「殺されたらお返しにまたリュカオーンになるまでお兄ちゃんに引っ付いて呪いのプレゼントしてあげるね」
「おやおやぁ粘着! 幕末汚染されまくったリルさんがストーカー行為ですかぁ!?」
「ハハハ。変態露出狂が実の兄かと思うと心が傷んで天誅したくなくなるんだよね。わざわざ変態を斬って手を汚したくないし」
「その変態露出狂にしたのリュカオーンたるお前なんだよなぁ! つまり変態を作り上げたのもリルということになる。ああ、変態創作作家な妹とは実の兄として悲しいぜ」
「あれは私の意思じゃなかったし、潰し甲斐のある玩具認定されてたお兄ちゃんがゴキみたいに無駄にしぶとく生き残ったせいでしょ?」
「「ハハハハハ!!!」」
「変な兄妹ですわ……」
ちょっと武器を構え出した本気の馬鹿兄に数歩離れて両手を上げて威嚇する。
煽りに煽りまくる私達に呆れた様子なエムルちゃんは、もう私のことを怯えた目で見なくなっていた。
……いや、まだ少し私に警戒はしてるけど。
「……そんなことよりどうするの? なんかいろいろバレてたけど」
「一つは俺のせいだがお前のは知らん。サードレマに着いたらまた追いかけられるだろうな」
ため息をついた兄に、この後どうするのか考える。
話し合いの最中に聞くのはエムルちゃんの実家に行くかどうかということ。隠れて町まで行ってから町のなかでどこでもドアのごとくトラベルしちゃえばいいのではと。
「無理ですわ。リュカオーンが来たって皆がびっくりして追い出すに決まってるですわ」
「何もしてないのに出禁だと……」
「リュカオーンになった時点で出禁だろ」
「変態な姿のお兄ちゃんが出禁じゃなくて、こんなにキュートでエクセレントな私が出禁なのはちょっと意味分かんない」
「俺もお前のその無駄に高い自己肯定感が意味分からん」
つまり私は逃げ道無し。
町まで行ったらエムルちゃんにひっついて逃げる戦法はしない方が良いということだよね。
「……時にリルさんや、ここは一つ町に着いたら別行動などいかがかな?」
猫なで声のお兄ちゃんに鳥肌が立った。鳥はあっちなのにね。
それ遠回しに囮になれっていってるようなもんじゃん。
「お兄ちゃんのばーか」
なんかムカつくので某ニチ朝の戦う系魔法少女みたくめっちゃ可愛いロリ声でお兄ちゃんに抱きつく。パンツ一丁のお兄ちゃんの素足にくっつくのは気持ち悪いけど仕方ない。それ事案だ食らえバカ兄。
語尾にハートマークつけてそうなロリボイスをみろ。リアル幼女の貫禄見せてやる。
「リルはとーっても寂しがり屋だから、お兄ちゃんから離れないよ。ぜぇーったい」
「兄離れも時には必要だぞ妹よ」
「可愛い妹が見知らぬ町で迷子になってもいいのお兄ちゃん?」
うるうるした目で泣き真似してやると、兄は呆れた様子でため息つく。
兄を騙せないのは承知の上。狙うはそこの兎のみ。
リュカオーンの気配を感じてたエムルちゃんも思わずと同情した様子を見せてくれたので内心でガッツポーズした。
「なんだか可哀想ですわサンラクサン。一緒に行った方がいいですの」
「騙されるなよエムル。俺の妹は万が一の時は躊躇なく俺のことを生け贄にしてきやがるから」
「ぴぇ……さ、流石はサンラクサンの妹ですわ」
「喧嘩売ってるんですわ?」
「高値で買い取ってやるですわ」
「兄妹そろって真似っこやめてほしいですわぁ!」
そうやって茶番しつつ話してるうちにモンスターが近づいてきたが、お兄ちゃんを見て逃げていく。
「あっ、逃げましたわサンラクサン!」
「まるで変質者を見たようなリアクションだな……」
「やーいへんたーい!」
「制裁の尻叩き!」
「いたい!」
レベル1にも躊躇なく攻撃してきた兄は、そのまま検証といって逃げたモンスターを追いかけていく。
そうして慣性の法則だのなんだのと、勢いよくモンスターを殺した兄は満足げに戻ってきた。
なんでも、呪いのせいで自分よりレベル下のモンスターは逃げ出すから狩れるかどうか試したかったらしい。
「それでどうするの。サードレマに行くの?」
「ああ。野性的に暮らすのもありだが町に行かなきゃリスポーン地点は更新されない。それに隠れ続けてもユニーク関連は消費されねえだろ。立ち向かうのみだ!」
「ウォーパル魂全開ですわぁ!」
「……まあ、お兄ちゃんがそれならいいけど」
多分なにか企んでるんだろうな。万が一のことがあったらラピンに任せよう。
ラピン先生、何かあったらこの鳥頭ぶった切ってくださいね!
♢
次のエリアボスは沼地にいるらしい。
「おっかしいなぁ……私が見たのって樹海っぽいところで、沼なんてなかったはずなのに」
「それサードレマよりもっと先のエリアになるですわ?」
「まーたバグらせファンタスティック迷子ですか……何処まで遠回りして町を避けたんだお前は……」
「迷子じゃないもん! 先に進みすぎただけだもん!」
「ハイハイそうでちゅねー。リルちゃんは先に進みたかっただけでちゅもんねー」
「お兄ちゃんのばか!」
鳥頭だから分かりにくいけど、お兄ちゃんの反応的に遠い目をしていると思う。そんな態度に私は頬を赤らめた。
迷子になったことすら気づかない事実に恥ずかしくなっちゃっただけ。
別にお兄ちゃんみたいな変態プレイしてるよりマシだもん。
「……ねえお兄ちゃん。エリアボスは私に任せてもらってもいい?」
「えー……あー、まあ一回ぐらいならいいぜ。どうするつもりだよレベルワンさんよ」
「ラピンにお任せするよ」
「ラピン? ……ああ、さっきのウォーパルバニーか。これどういう原理なんだ?」
「私がもともとテイマーでね。まあユニーク職業になっちゃったんだけど……モンスターを倒したら倒した分だけ仲間になってくれるの。影の中にたくさんいるけど一日に一体しか召喚出来ないんだ」
「なかなか良いスキルじゃねえか。何処で手に入れたんだ?」
「だいたいはリュカオーンのせい」
「おのれリュカオーンめ。俺には変態になる呪いつけやがったくせに……」
影から出てきたラピンが包丁片手に振り回す。どうやらエリアボスを倒すのにやる気満々らしい。
「ぴゃわ!? ビィ姉ちゃんみたいな職人気質の高い男の子ですわ……」
「こいつ男か」
「ビィ姉ちゃん……?」
なんかよく分からない名前が出てきたけど、エムルちゃんの他にも喋るウォーパルバニーがいるってことかな。
ラピンみたいな子ってことは堅物かなぁ。
チラリと彼の方を見たら、ラピンは小さく舌打ちをして「早く殺るぞ」というかのように沼地に入って行った。
「手助けは?」
「大丈夫だよ」
「ってか、お前も戦うのかよ」
「いや、私はレベルワンだからね。やれることといったら指示くらい?」
「それいる意味あるか?」
「一定以上離れるとラピンが消えちゃうから……」
沼地より少しだけ突き出た岩場に乗ってこちらを見守る一人と一匹。
「子供達に任せて大丈夫なんですわ? まだ小さいのに心配ですわ……」
「あいつが大丈夫って言ったんなら大丈夫だろ。……ってか、その言い方だとラピンってやつもガキなのか」
「ラビッツから家出したら腕ぶった切られて取っ捕まったっていってたですわー!」
「はっ? 鳴き声一つ上げてなかっただろ?」
「武器振り回してた時に言ってたですわ」
「俺は聞こえなかったが……種族によるもんか。何かしらの条件で解放されるものか? まあそこらへんはリルの問題か」
お兄ちゃん達が何か会話してるのは分かったけど、全部聞き流してラピンに集中する。
「お願いね、ラピン」
鼻を鳴らしたラピンが何を考えてるのか。
────そう、テイマーなくせに使い魔のことが何も理解出来ていない。そんな状況に危機感を抱いただけ。
別にお兄ちゃんにやってもらっても良かったんだ。
お兄ちゃんってば、レベル上げを考えてエリアボスなんかの強い敵を積極的に狩る気満々だし。
それでも私はやらなければならない。リュカオーンをぶっ飛ばすために。
このままリュカオーンにいいように扱われて、時限爆弾が体内にあるまま呑気に過ごせない。
「おーおー。卓球の玉みたく跳ね回ってんなぁ」
「シークルゥ兄ちゃんみたいですわ! ビュンビュンですわー!」
「片腕しかねえが俺と同じ俊敏特化か。リルの身体を足場代わりに使いつつ、影に入って別の影から飛び出す。ラピンを沼地に入らせないために自ら囮になってやがるなリルのやつ。壁ジャンからの切り込み右目突き刺し煙玉投下……あれスパイラルエッジだな。そういうスキルも覚えるのか」
「お兄ちゃんうるさい! ちょっと静かにしてて!!」
「お、おう」
普段よりラピンに指示を飛ばす。どの技を出すのか、移動か、避けるのか、防御するか、潜ってしまった泥掘りからどう立ち回るのか。
口で、行動で、ラピンに指示を飛ばしていく。
そして泥掘りの隙を狙って────私自身が攻撃をして殺す。
でもレベル1かつ経験値もなく、スキルが育てられない私には、ストレートスラッシュかナックルラッシュしか使える技はない。
だから一撃で仕留めなければならない。
リュカオーンめ、厄介な力を授けたわね……。
(今殺る? いや、幕末ならお返しカウンター天誅される場面……急所を狙わないとレベル1の私が殺される……)
検証を重ねていかなければならないのだ。
普段であればラピンに全部任せて倒してるけど、それじゃあ何も変わらない。
ラピンじゃなくて私が倒したら影スキルがどんな影響を及ぼすのか反応を見て、必要ならこのプレイスタイルを定着させよう。
「っ!」
「地響きか!?」
「リルサンまずいですわ! 来るですわぁぁ!!」
後ろから聞こえる悲鳴に、反応することすら危うく。
────奴は攻撃し続けたラピンを狙うはず。
ラピンは影スキルで戻せるからダメージの心配はない。
だからその際に私が攻撃を────。
いや、待って。
こんな簡単に終わらせるのがエリアボスでいいの?
私なら、私がゲームを作るなら確実にプレイヤーを狙う。プレイヤーが簡単に突破できないように、ひねくれたことをする。
ならば。
「っ────!」
何が起きたのか一瞬分からなかったが、上空へ跳ね上げられたのだと気づく。
不運にもラピンが動くのを止めたことで沼地に足をとられて動けないまま。
真下を見れば、大きな口が私を食べるために待ち構えている。
「リル!?」
「はわわわ! た、助けなきゃですわぁ! マジックスクロ────」
「手出ししないで!」
「ひょえ!?」
だって、こんなにも隙だらけで!
なおかつこんなに、影がある!!
「ラピン!」
一瞬岩場の影へ消えたラピンが、私の服の隙間にある影から飛び出す。
ラピンに抱えられたまま、私は拳を握りしめた。
「ナックルラッシュ!!」
「ギシャァァァァァァァァァァア!!!?」
頭上からの攻撃に耐えきれず泥掘りは叫ぶ。
落下ダメージが来る前にラピンが私を抱えたまま、泥掘りの身体の上を滑っていった。
『影に打ち勝ち、影と共にあり』
『経験値は全て夜襲のリュカオーンへ付与されます』
『ユニークスキル「リュカオーン」の深度が上がりました』
『片腕のウォーパルバニー「ラピン」の影が繋がりました』
『プレイヤー「リル」の影が深まりました』
わーいなんかよく分からないものが出てきたぞー。私でもラピンでも倒したらやばくなるんじゃ手立てないじゃん。
ああもうしーらない!
「……あれ?」
でもエリアボス仲間に出来なかったよね?
蛇さんは出来たのになんで? まだ真っ昼間だから?
……まあ、今は気にしなくて良いか。
「しょーり!!」
「ギリギリ及第点だったぞ」
「及第点ならいいじゃん。知りたいことも解決したし」
「知りたいこと?」
「リュカオーンの影を解く方法」
「ぶっ飛ばすしかねえだろ」
「やはり天誅……天誅こそ世界の成り立ち……! よし今度復讐人狼ゲーム作ろっと!!」
「調子がいいんですわぁ」
「じゃあ早く町に行こうよお兄ちゃ────お兄ちゃん? なんで武器構えてるの?」
「奴の戦法はだいたい知れたからな。次は俺の番だ」
「まだやるですわ!?」
「……まあ、お兄ちゃんだからね」
パターンが読めたからか、エリアボスは瞬殺された。
♢
エリアボスを倒したらあとはサードレマまで一直線なのでゆっくり歩いている最中。
難しい顔をさせた私に、お兄ちゃんは呻く。
「サードレマで待ち構えてるかもしれないんでしょ。馬鹿正直に突破するの?」
「そこからしか行けねえなら仕方ねえだろ。まあ落ち着け。策はある! 兄ちゃんに任せろ!」
「囮作戦は無しだよ」
不意に黙るバカ兄。
本物のハシビロコウみたいに静かにしなくていいのに。
「────ねえお兄ちゃん何で目線そらすのよ。ねえ、ねえ?」
「ま、まあ待て。まだ策はある!」
「信用できないんだけど……」
「強行突破は無理ですわ。門番にお話して中に入れてもらう必要ありますわ」
「門番と話してる最中に捕まりそうな予感しかしないや……お兄ちゃん?」
不意に兄が立ち止まって何処かを見ている。
ギョッとしてるような。冷や汗かいてるような……。
「ひぇ」
風景に溶け込む白の塊。そこかしらに装飾があって、何かのオブジェかと勘違いしていた。
それが動いて、こちらに近づいてきた。