レベル1のわんこプレイヤー   作:わんこ

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進撃のわんこ

 

 

 

 

 ペンシルゴンはサンラク達のことを詰んだと言っていたが、サンラクはあまりそう感じていなかった。

 ────ただ、時間が経つほどこちら側が不利になりつつある状況に焦ってはいたのだ。

 

 

(クソッ、人が多すぎる。こりゃあ自爆特効仕掛けてくるペンシルゴンに応えてこっちもセカンディルからやり直すかぁ? いや、エムルがいるから無理か)

 

 

 サンラクはリルがやらかした町をいくつか無視して別の町へ。今向かおうとしてる町を回避し、サードレマの奥にあるダンジョンまで直行するリル名物ファンタスティック迷子をやろうと考えていた。

 

 セカンディルからのやり直しはサンラクとしては回避したいところだが、このまま取っ捕まる状況よりはマシと判断。

 

 しかし、そのためにはエムルをどうにかしなくてはならない。

 

 

「サンラクくん、もしかしてリルちゃん達が心配? 安心しなよあっちは動物好きクランが中心になって動いてるみたいだから」

 

「へっ、誰が心配するかよ。それより何だその麻布は」

 

「見りゃあ分かるでしょ。サンラクくんを誘拐してサンドバッグ状態にして情報吐かせるためだよ」

 

「やだぁ誘拐ですかぁ? 自爆特効好きなペンシルゴンともあろうお方がさらに犯罪に手を染めるなんて趣味の悪い」

 

「半裸鳥男な君よりマシだと思うけどぉ?」

 

 

 煽り合う2人に迫るは他のプレイヤー。

 ペンシルゴンが攻撃し、避けて、レッドネームが攻撃しては避け、別クランか一般プレイヤー2人ほど捕縛に動いては避ける。

 

 こちら側が攻撃し、キルすれば自分がレッドネームとなってしまう。そうなればおそらくサードレマへ入ることは不可能。

 だから殺せない。攻撃は出来るが、奴らの方がレベルが高い。

 

 そんで人が多い!

 

 

「おっと!」

 

 

 ペンシルゴンが攻撃しようとしてきたのに、奴は咄嗟に身体を反らした。

 よく見ればそこに眉を潜め無言で立つ片腕のウォーパルバニー。

 

 

「っ、ラピンか!?」

 

 

 頷いたラピンがペンシルゴンへ武器を向ける。どうやら加勢にきたらしい。

 ちまちまとフォローにまわってきたラピンに少しだけ余裕が出たサンラクは、リルたちの元へ向かい逃げ出すための隙を伺う。

 

 

「ここで兎ちゃんを殺したら確実にあそこにいる動物クランが動くだろうし、やりにくい!」

 

「んな馬鹿正直に言っちまって大丈夫かよペンシルゴン!」

 

「サンラクくんがウォーパルバニーちゃんを囮に動くならこっちはあそこにいる動物園の皆に『サンラクくんは動物を虐める変態です!』って言うだけだから、っね!」

 

「させるか!」

 

 

 攻撃してきたペンシルゴンの刃を、ラピンとサンラクが同時に受け止める。

 ラピンがこちらを見て、ペンシルゴン以外の周囲を見渡した。そしてまたサンラクの方を見たのだ。

 

「おう、そっちは任せた!」

 

 

 ターゲットをペンシルゴン以外に絞って攻撃するという合図に俺は頷く。

 ────任せようとしたサンラクだったが、不意にラピンの背後に人影が。

 

 

「ギュッ────」

 

「あっ」

 

 

 ラピンの影がドロリと散開する。

 

 

「ウサギとトリごときに何を手間取ってやがる!!」

 

「うわっ、あーあーやっちゃったね愚弟……」

 

「あぁ!?」

 

 

 オルスロットという男がこちらへ近づき、ラピンを切り上げたのだ。

 その衝撃でなのか、ラピンの身体がボロボロと崩れて消えていく。

 

 

(これ後でリルに文句言われるだろうな)

 

 

 しかしながらやっちまったもんは仕方ない。

 サンラクはリルの傍にいる動物好きクランとやらに向かって「オルスロットくんが黒のウォーパルバニーを殺しましたよぉ!」と叫びヘイトを向けるつもりだったのだ。

 

 奴がいなければ。

 

 

 

「リルちゃんの敵はてめえか」

 

 

「がふぁ!?」

 

 

 

 ────登場して数秒のオルスロットを殺す、筋肉ムキムキの女の姿がいなければ。

 

 

「うわっ、アハハハハハ!! ねぇねぇサンラクくん、あれ見た!? 兎ちゃん殺すだなんて所業したくせにすぐに殺されてんの!!」

 

「そこで笑えるのがペンシルゴン」

 

「煽ってんの?」

 

「ハハハ! ……んで、お前は誰だよ」

 

 

 オルスロットを殺したそいつはレッドネーム輝くプレイヤー。

 

 そんな奴が、サンラクを一目見て笑う。

 

 

「俺は「φ鯖」の「バイバアル」だ、お前は「μ鯖」の「サンラク」か?」

 

「っ!」

 

「えっ、なに? サンラクくんこのロリコンと知り合い?」

 

「ロリコン……?」

 

 

 不意にやられたフレンド申請。それは質問に対してYESかNOか選択させるもの。

 ペンシルゴンからの言葉が気にはなったが今は味方を作れるか否かの瀬戸際。

 

 誰もいない状況下であれば一言二言話してたかもしれないが、現状難しく。反射的にYESを押しただけのサンラクに奴は────サバイバアルは不敵な笑みを浮かべつつ、リルの方を見た。

 

 

「彼女については任せろ。俺らのクランが総出で守ってやるよ」

 

「っ、サンラクくんそれはちょっと止めた方が────」

 

「そうか助かる!」

 

 

 リルの方へ向かおうとした俺を、ペンシルゴン達が止めようと動く。

 

 しかしその動きを阻むのはサンラクではなかった。

 

 

「黒い兎ちゃんに手を出したわね……?」

 

「許さない」

 

「あんなに可愛いもふもふ兎に対する蛮行許しはしないぞ、阿修羅会その他!!」

 

 

「オルスロットが勝手にやったことだし、八つ当たり止めてくれない?」

 

 

 

 

 本当にタイミングの良いことに、かの動物園までもが味方となった。

 

 そして背後から迫るのも、かの白い武者。

 

 

 

「加勢します。命が惜しいなら退け!!」

 

 

 

 

 ────タイミングは今しかない。

 

 

「エムル!」

 

「は、はいな!」

 

「えっ、ちょっと!?」

 

「悪いなリル! あとは自分でどうにかしてくれ!」

 

 

 サバイバアルがあんなことをいったのなら、リルを悪いようにはしないはず。そう判断したサンラクは、リルを見捨てた。

 

 ────否、囮に使うことにしたのだ。

 

 

 

「お、お兄ちゃんの馬鹿ぁぁぁ!!!」

 

 

 

 聞こえてきた声を無視して、プレイヤーの手から逃れつつ、サンラクは無事にサードレマへ入った。

 

 だからこそサンラクは知らない。あの後妹に何が起きたのか。

 ────その悲劇を。

 

 

 

 

 

 

 

 それは、誰もが驚いたことだろう。

 問題となった動画にて拡散された中に映るリルという子供は、夜襲のリュカオーンと関連があるとされていた。

 

 しかしそれはユニーク関連によるものではないかと思われていた。

 一度きりの特別イベントではないか。もしくはコラ動画で、偽物ではないか。

 そんな物議がされては消え、結論としてリル本人に吐かせようとなったのだ。

 

 幸い、黒狼のクランが総出で来ることが出来ない事情があったこと。近くにいたのがロリコン的集団だったこと。

 筆頭サバイバアルらロリコンクランがリルの言うことを聞き、PK含めた喧嘩祭りが開催されたせいでリル本人を注目する人がほぼいなかったこと。

 

 考察クランたるライブラリが接触を行わず遠くから観察していたこと。

 サンラクがエムルを連れて逃げたことで大半がそっちを追いかけていたために、彼女の異変にほぼ誰も気づかなかった。

 

 

「ガフッッ」

 

 

 聞こえてきたのはダメージを負った音。

 そして幼女の悲鳴。

 

 周りがハッとリルを見て、驚愕に目を見開いた。

 

 幼女の足元の影が蠢く。────否、影がリルの身体へ侵食する。

 彼女の身体が軋み、骨がボキバキ折れていく音が聞こえる。

 

 まるで下から食われていくように影が侵食し、リルの肉が覆い隠された。

 

 

「り、リルちゃん?」

 

「おいおいリルたん!? まさか死んじゃったの!?」

 

「推しが死ぬなんてやだー!!!」

 

 

 

 野太い悲鳴が、影へ近づこうとする。

 

 しかしサバイバアルだけが────リルがキルされたのではと一時的にショックを受けて動揺していたサバイバアルが、すぐさまその影が何かに変質していると異変に気づく。

 

 

 

「っ、離れろてめえら!!」

 

 

 

 蠢く幼女の形をしていた影。卵のような形をしたそこにヒビが入り、大きな狼の前足が飛び出してきた。

 驚きに声を上げるプレイヤーが不幸にも数人、前足に踏み潰され犠牲となった。

 

 前足が影の中に消え、その割れ目から見えたのは鋭い目。

 

 そうして、影は破裂し中にいた物が飛び出してきた。

 

 

 

 ────まるで幼女の形をした卵から怪物が出てくるよう。

 

 

 

 

「グォォォォォォッッッ!!!!!!」

 

 

 

 

 日が高いにも関わらず、夜襲のリュカオーンが出現したのだ。

 

 それに誰もが警戒し、攻撃体勢となったが────すぐさまそれは解除された。

 

 

 

「……ああ?」

 

 

 

 プルプル震えた夜襲のリュカオーンが、日に当たって身体が煙のようにぶわりと飛び、仔犬になってしまったから。

 

 

 

「きゅうっ、きゃ……きゃん!!」

 

 

 沈黙している周囲に響くのは、可愛らしい仔犬の鳴き声。

 

 上下左右を忙しなく見ていた仔犬のリュカオーンが、まるで猫のように大きく飛び上がり、サードレマ門の影へ逃げようとする。

 

 

 それに我に返ったのは、かの動物好きクランだった。

 

 

 

「えっ、仔犬?」

 

「まってリルたんどこ!? 仔犬になったの!?」

 

「きゃわいー!!!」

 

「リュカオーン仔犬バージョン可愛すぎ」

 

「仔犬なリルたんも推します」

 

「これはスクショ!!」

 

「待ってこれリルたん全裸ってことでは!?」

 

「おいそれはアウトだ黙ってろ」

 

「紳士規定違反だ罰しとけ!」

 

「そりゃあないぜサバさん!?」

 

「仔犬抱っこしたい!」

 

「痛くしないよおいでー!!」

 

 

「きゃん!」

 

 

 ポテポテ走る仔犬に走り寄ろうとして────その異様さに誰かが気づいた。

 

 

 

「えっ、近づけないんだけど何で?」

 

 

 

 後に情報公開となったが、遠くから観察していたライブラリだけが気づいたこと。

 日が高いことで発生するプレイヤーの影が近づくことでそれを操り、影から影へ飛び越えたのではないかと。

 

 

「待ってリルちゃんが逃げる!」

 

 

 誰もが混乱し、困惑し、そして歓喜の声を上げていたがサードレマへたどり着いた仔犬なリルが影へ潜り込んだことで悲鳴へと変わった。

 

 

「リルたんどこー!?」

 

「ちょっ、仔犬抱っこさせてぇ!!」

 

「リュカオーンパピィ!!」

 

「リルたん怖くないから出てきてくれぇ!!」

 

 

 そうして事態は指名手配されたリルによる完全捜索へ切り替わる。

 ついでにサンラクも指名手配され、エムルと共に拡散されたのだった。

 

 

 

 

 

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