ウォールマリアが陥落して2年後の847年——その年、ウォール・ローゼ南方面駐屯の訓練兵団で、104回目となる入団式が行われていた。
「ただ今より! 第104期訓練兵団の入団式を行う!!私が運悪く貴様らを監督することになった、キース・シャーディスだ!」
「(いよいよか、ここで巨人を倒す力を付けて故郷を取り戻す。そしてこの力も完全に使いこなしてみせる!)」
「貴様らを歓迎するつもりは毛頭ない! 今の貴様らは、せいぜい巨人の餌になるしかないただの家畜!!家畜以下の存在だ!!」
ウォールマリアが陥落してから2年、訓練兵になるまで特に何もしていなかったわけではない。時間を見つけては身体を鍛えたり、この炎の力の扱いを大分わかってきた。その辺はまたおいおい説明しよう。
「貴様は何者だ!!?」
「はっ!シガンシナ区出身!アルミン・アルレルトです!」
「そうか!!馬鹿みてぇな名前だな!!親が付けたのか!!?」
「祖父が付けてくれました!」
「アルレルト!貴様は何しにここへ来た!!」
「人類の勝利の役に立つ為です!!」
「それは素晴らしいな!貴様は巨人のエサにでもなってもらおう!3列目!後ろを向け!」
「貴様は何者だ!」
「トロスト区出身!ジャン・キルシュタインです!」
「何のためにここに来た!?」
「………憲兵団に入って、内地で暮らすためです」
「そうか!貴様は内地に行きたいのか?」
「はい!」
ゴッ!
骨同士がぶつかり合う鈍い音と共に、ツーブロックの少年が蹌踉めきその場に腰を落とす。
「オイ!誰が座って良いと言った!!こんな所でへこたれる者が憲兵団になどなれるものか!!」
入団式の通過儀礼——今までの自分を否定して、真っさらな状態から兵士に適した人材を育てる為には、必要な過程だ。
教官は列を進み、俺の前に差しかかる。鋭い視線が一瞬だけ俺に向けらたが、足を止めることなく素通りしていった。
「(何も言わないのか?)」
おそらく2年前のウォール・マリアが突破された日に居合わせていて、既に覚悟が出来ている者は、教官の判断により行われない。俺もそれに値する覚悟はあると認められたのだろう。同じくエレンとミカサもこの通過儀礼は行われなかった。
「貴様は何者だ!」
「はっ!ウォールローゼ南区ラガコ村出身、コニー・スプリンガーです!」
次に呼ばれたのは坊主頭の特徴な少年だった。しかし緊張の余り敬礼をした際に、左手を右胸に当ててしまった。
「逆だコニー・スプリンガー!貴様の心臓は右にあるのか!?」
両手で頭を締め上げられ、コニーは泡を吹いて地面に倒れ込む。その時、湯気の立つ芋を頬張る音が耳に届いた。
「(え…何をしてるんだあの子?)」
いや、マジで何してるのあの子?芋食ってるのか?え…どゆこと?
「オ……イ……貴様は何をやってる?」
キース教官の見開かれた視線の先には、湯気の出た芋を頬張る少女がいた。自分が問われたのに気づいていないのか、少女は再び芋を頬張る。
「貴様だ!貴様に言ってる!!」
鬼のような形相で教官が迫る。
「んぐっ……!ウォール・ローゼ南区ダウパー村出身!!サシャ・ブラウスです!」
驚いた少女は口に含んでいた芋を急いで飲み込み、尚右手に芋を握りながら敬礼する。
「サシャ・ブラウス……貴様が右手に持っているものは何だ……?」
「蒸した芋です!調理場に丁度頃合いのものがあったので、つい!」
「貴様……盗んだのか?何故だ、何故芋を食べだした……?」
「冷めてしまっては元も子もないので……今食べるべきだと判断しました」
「いや……分からないな。何故貴様は芋を食べた?」
「……それは何故人は芋を食べるのかと言う話でしょうか?」
キース教官の質問にサシャは少し考えて話す。サシャの答えに周囲の空気が固まるのを誰もが感じた。
「……はっ!……ちっ……半分、どうぞ」
黙ったままのキースに、何を思ったのかサシャは芋を割ってキースに渡す。渡すときに少し考えたり、半分と言いながら4分の1程だった。いや、あれの何処が半分?
「……半……分……?」
今まで多くの訓練兵を見てきたキース教官もサシャの行動に呆気にとられる。相変わらず目を見開いた状態の教官の前で、サシャは「フーッ」と満足げに息を吐いた。
その後サシャ・ブラウスは飯抜きに加え外を死ぬまで走らされる事態となった。正直あの行動はあり得ないし前世でも軍人が見てもキース教官みたいな反応をするのが目に見える。と言うか普通なら除隊になってもおかしくない……まあ、兵団も人手も足りないから首にする事も出来るに出来ないのだろう…
「あいつ、まだ走らされてんのか」
教官に頭をぐりぐり鷲掴みにされてたコニー・スプリンガーがそう言う。
「すごいな。5時間ぶっ通しか」
「通過儀礼中に芋食い出すん方がどうかしてるだろ」
いや、寧ろこのご時世では軽い罰だろう。下手したら独房に閉じ込められてもおかしくない事もしたからな。同じ事繰り返さなきゃいいが、教官の前で芋食う奴だからな。
「そういえば君たちは出身とか聞かれなかったけど…と言うか、君達二人…もしかして双子かい?」
声をかけてきたのはマルコ・ポッド、将来は憲兵になり王にこの身を捧げることを夢見ている少年だ。頭突きを食らったジャンとは違い将来の目標をはっきり持っている。
「ああ、俺は兄のグレンでこっちは弟の…」
「エレンだ。俺達とアルミンもこいつと同じシガンシナ区だ」
そう入ってアルミンの肩に手を置くエレン。
「…⁉︎そうだったのか、それは」
何かを察したのかそれ以上は何も言わなかった。シガンシナと聞けば今は誰もが知ってる事だからな。
「って事はよ、その日いたよな?」
「お、おいっ!」
「見た事あるのか…超大型巨人!」
「あ、ああ…」
「……」
正直余り思い出したくはない過去でもある。今でも脳裏にあの光景がフラッシュバックする。
「…だから見たことあるって…」
「本当か!?どれくらい…大きいんだ?」
「壁から顔を出すくらいだ」
「なにっ!?俺は壁をまたいだと聞いたぞ!」
「私も!」
「俺の村でもそう言ってた!」
夕食どきになると案の定食堂にて質問攻めに合うエレン…あそこで食事も出来そうにもないし空いている席を探し、空いてるところを発見し座る。
「いただきます」
うん、不味くはないな。しかしパンは固いしスープも薄い。が、今のご時世贅沢は言ってられないし腹が溜まるだけでもまだマシだな。
「…いやっ、そこまででかくはなかった」
「ウォールマリアを破った鎧の巨人は!?」
「…そう呼ばれてるけど、俺の目にはふつうの巨人に見えたな」
「じゃ…じゃあ!普通の巨人は!?」
「うっ………」
エレンはあの時の光景が蘇ったのかスプーンを落としてしまう。俺もあの時のことを思い出すと未だに頭痛がする。
「……みんなっ!もう質問はよそう…思い出したくないこともあるだろ。」
「そ、そうだな…スマンっ!―」
「違うぞ!!巨人なんてな…実際大したことねぇ。俺たちが立体機動装置を使いこなせるようになればあんなの敵じゃない。やっと兵士として訓練できるんだ。さっきは思わず感極まっちまっただけだ……俺は調査兵団に入って、この世から巨人を駆逐する!ヤツらをぶっ殺して―」
「おいおい、正気か?今お前調査兵団に入るって言ったのか?」
「あぁそうだが…お前は確か……憲兵団に入って楽したいんだっけ?」
「俺は正直者なんでねぇ、心底脅えながらも勇敢気取ってやがるやつよりはよっぽど爽やかだと思うがなぁ」
エレンはジャンを睨みながら立ち上がる。不味いな、このままだとヒートアップしそうだな。一日だけでもわかる…あの二人おそらく相性は超が付くほど最悪だ。
「そりゃ俺の事か?」
「おいおい…俺ァ別に―」
エレンとジャンが睨み合っていると時刻を告げる鐘がなる。
「…まあ悪かったよ。別にあんたの考えを否定したい訳じゃないんだ………これで手打ちにしよう」
「……あぁ俺も悪かったよ」
どうやら事なきを得たようだ。しかし今後あの二人は色んな意味で衝突しそうな未来しか見えん。
俺は食事を終えて出ていくエレンを追いかけ、そして、その後ろをミカサも追いかける。ジャンはミカサだけを見つめ、行ってしまおうとするミカサを慌てて引き止める。
「ッ……なぁあんたッ…」
「…?」
ジャンから声をかけられるミカサ、取り敢えず先にエレンの後を追う。
「………ア…ット…ソノォ、見慣れない顔立ちだと思ってな。つい…とても綺麗な黒髪だ」
「…どうも…」
ミカサはそのまま軽く返してグレンの後に続く。
「おいエレン、待てよ!」
「…いいだろ、ほっとけよ」
「…良くない。エレンは昔から熱くなるとすぐ衝動的に行動する…今もそのクセは治っていない」
「ああ、さっきのやつと今後喧嘩になるのが目に見える」
「お前ら…俺を何だと思ってんだよ?」
「喧嘩っ早い世話のかかる弟」
「私達で守らないと早死にする」
俺とミカサは思っている事をエレンにハッキリと言う
「ハッキリ言うなよ!そんなことよりミカサお前、髪長すぎやしねえか?立体機動の訓練で事故になるかもしれんぞ」
ミカサは自分の髪を見つめる。
「……グレンはどう思う…?」
俺は突然の問いに少し考えてから笑う。
「俺は今のままでも似合ってると思う」
「そ、そう?」
ミカサはわかりやすいくらい小さく目を瞬かせる。
「でも、エレンの言うことにも一理ある。立体機動装置は髪が引っ掛かる危険もある。後は実践して、今短くするか後でするかどうかはミカサが決めればいい。俺はどんな髪型でもミカサらしいと思う」
「……ありがとう」
「別に礼を言われることはしてないぞ?もし切るなら髪、俺で良ければ切ってやるよ」
「…!その時は、お願いする」
ミカサは自分の髪を指先で撫でる。ミカサの耳がほんのり赤くなっていた気がした。
「お、おい!お前!人の服で何拭ったんだよ!」
「…………人との………信頼だ…」
そのまま宿舎に向かっていく3人の会話を後ろで聞いていたジャンは、生気を失ったような顔をして通りかかったコニーで手を拭う。