神里綾華には幼馴染の傍付きがいる   作:白豆男爵

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・初めまして……

お初にお目にかかります。神里家の神里綾華様専属傍付き、稲妻神里流太刀術免許皆伝。名を天鷺蓮と申します。以後、お見知りおきを。


トーマと傍付き剣士

「どうして蓮はあんなにも鈍感なのでしょうか…」

 

夕食の席にて、綾華はそう愚痴を零す。

蓮は今、現在の神里家当主である綾人に呼び出され、席を外している最中である。

そして、綾華の愚痴を聞いている者が一人いた。

 

「そうは思いませんか?トーマ」

「いや、オレに聞かないでくれよ、お嬢」

 

神里家の家司であり、神里兄妹の側近である、トーマだ。

とはいえ綾華には蓮がいるため、ほぼ綾人専属の側近のような立場である。

しかし綾華と接点がないかといえばそういうわけでもなく、こうして愚痴を聞かされるくらいには仲がいい。

主と家臣、というより友人に近い関係だ。

 

「まあ蓮が鈍感なのは今に始まったことじゃないだろ…」

「それはそうですが…」

 

トーマは神里家に拾われて以来、綾華とその傍付きである蓮を見てきたわけだが…如何せん蓮が鈍感なもので、何年もの間、同じところを行ったり来たりしている人生ゲームを見せられている気分であった。

 

「それで、今日は何があったんだ?」

「……蓮が、私のことを美しいと」

「うん」

「いつも以上に、と」

「…うん?」

 

トーマは思わず疑問形で聞き返してしまう。

どうやら今日はいつも以上に朴念仁に磨きがかかっていたようだ。

 

「つまり逆に言えば、普段から私のことを美しいと思っているということです」

「……」

「どうしてああも平然と言ってのけるのでしょうか…」

「お嬢、それはもう……」

「?」

「いや、何でもない」

 

蓮もお嬢のことが好きなんじゃないか、と言おうとして口を噤んだ。

こういうのは他人が言うべきことではないし、何より蓮自身が恐らくその想いに気づいていない。

きっとお互い幼い頃からずっと一緒にいたために、蓮の距離感がバグってしまったのだろう。

トーマはそう思った。

 

「ともかく、今のままじゃダメだな。あの朴念仁を落とすなら、もっと積極的に行ったほうがいい」

「積極的…ですか?」

「そう。例えば二人きりで街に出掛けるとか…二人きりで話すとか…あれ?」

 

そこまで言ってトーマは気付いた。

これ、いつも通りじゃね?と。

綾華とその傍付きである蓮にとって、二人きりで何かをするというのは最早当たり前になってしまったのである。

 

「しまったお嬢。万策尽きたようだ」

「ええ?助言をしてくれるのではないのですか?もう…」

 

どうやらトーマの予想以上に蓮の牙城を攻め落とすのは難しいらしい。

どう助言したものか、とトーマが頭を悩ませていると、話を終えた蓮が帰ってきた。

 

「ただいま戻りました、綾華様、トーマ」

「おかえりなさい、お兄様とはどのような話を?」

「それが…明日は綾華様の傍付きの任を離れ、別の任についてほしいと」

「……えっ?」

「…若がそんな事を?」

 

綾人も、ずっと一緒に過ごす綾華と蓮を見てきた。

何の考えもなしに彼らを引き剥がすとは思えない。

その任務には、それほど蓮が適任であり必要なのだろう。

だが、理屈では理解できても、心までもはそうはいかないのが人間だ。

 

「そう、ですか…承知いたしました」

「申し訳ありません、綾華様…何卒、お傍をお離れになることをお許しください」

「問題ありません。お兄様がそう判断したのなら、きっとそれが最適なのでしょう」

 

あからさまに落ち込んだ声音で、綾華は言葉を紡ぐ。

 

「ごちそうさまでした、トーマ。今日も美味しかったです」

「お嬢…!」

 

見るからに寂しそうな、落ち込んだ表情で部屋を後にする綾華。

そして部屋には、蓮とトーマだけが残された。

 

「…なあ、蓮」

「何だ、トーマ」

 

二人だけになった瞬間、蓮はラフな口調でトーマと会話する。

彼にとっても、トーマはそれくらい良き友人であるといえるだろう。

 

「お前は、嫌じゃないのか?少しの間だけとはいえ、お嬢の傍を離れるのは」

「それは…」

 

蓮はトーマの問いに、一瞬言葉を詰まらせる。

しかし、すぐにいつもの表情に戻った。

 

「綾人様のご命令だ。必要な任務であれば従うのは、神里家に仕える者として当然のことだろう」

「お前は本当に真面目だなぁ…」

 

その答えに、トーマはため息をつく。

 

「でも…」

「うん?」

「綾華様の傍を離れるのは…いささか落ち着かない」

「それを寂しいって言うんだよ…」

 

蓮は、何というか、感情の機微に疎い。

これも傍付きとして、昔から自我や欲を抑えてきた結果なのだろうか。

家臣としては優秀だが、その少しズレた感性はコミュニケーションには少しばかり問題があるようにも思える。

 

「蓮。お前にとって、お嬢は何なんだ?」

「何、と言われても…」

 

「守るべき主であり、大切な友人だ」

 

蓮は迷うことなく、そう答えた。

 

「友人、ね…」

「どうかしたか?」

「いや、何でもない。明日は早いのか?」

「そうだな、朝にはこの屋敷を発つ。今日は早めに寝ることにするよ」

 

そう言って部屋を出る蓮を、トーマは黙って見送った。

トーマは蓮の気持ちを理解しているが、それを口には出さない。

感情に疎い彼にとってそれは、自分で気付かなければいけないものだからだ。

そして綾華の今の状況を表わすとするならば…

 

「前途多難、だな…」

 

まさしく、その言葉がふさわしいだろう。




天鷺蓮
誕生日:5月30日
所属:社奉行
神の目:岩
命の星座:天鷺座

あいつはお嬢の傍付きとして幼い頃から育てられてたらしい。実際あいつは優秀で、護衛としても、世話係としても信頼できる。生真面目だし、コミュニケーションは不器用だけど…人情に熱いし、根はいいやつなんだ。
──トーマ

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