バッドエンドしかないゲーム世界で怪物になった俺は、死ぬはずの原作主人公と仲間をどんな手を使ってでも全員救う~喰聖の黙示録~   作:グラシアS

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第11話 救済のために、実験を始めよう

 

 崩壊した研究施設。

 まるで災害が起きた後のように破壊されつくした施設の中に、俺――喰聖はいた。

 

 ここが、俺たちの原点。

 目を閉じると、今でもあの日の光景が瞼の裏に蘇る。

 それは俺の性能実験が行われた日のことだった。

 

 すべての力を抑え込む結界。

 あらゆる命を己へと取り込む翼。

 他者の内へ入り込み、その生死すら支配する血液。

 

 まさに研究者たちの理想形であり、俺はほぼ完成していた。

 あとは、最後の調整を待つのみ。

 

 だが、俺は最後の調整を受けるわけにはいかなかった。

 それが俺の人格を消し去り、研究者たちだけに従う兵器へ作り替えるものだと知っていたからだ。

 

 世界を救うためではない。

 研究者と出資者だけを守るために、俺の意思を奪う。

 そんな結末を、受け入れる理由はない。

 

 俺は、あの救いのない結末を変えるために力を求めたのだから――

 

 だからこそ、俺は性能実験が終わった直後、自らにつけられていた安全装置を引きちぎった。

 当然、そんなことをすれば無事では済まない。

 いつ機能停止してもおかしくないほどの傷を負った。

 

 だが、俺は倒れなかった。

 残された力のすべてを振るって暴れる。

 

 奴らにとっては、完全に想定外の出来事だっただろう。

 安全装置がついている限り、自分たちに危険はない。

 その確信を、俺は意志の力だけで覆したのだから。

 

 だが、それも無限に続きはしない。

 研究員をあらかた殺し終えたとき、俺は倒れた。

 あの時の絶望は今でも覚えている。

 俺は――何も成せずにここで倒れるのかと。

 

【随分と派手に暴れたね】

 

【イリス……まだ生きていたのか】

 

 死にかけの俺の前に現れたのはイリスだった。

 

 ここしばらく、イリスと同じ実験を受けることもなく、姿を見ていなかった。

 ゲームでは、彼女はこの研究施設で死亡したと語られている。

 だから、すでに殺されたものと思っていた。

 

 だが、彼女は生きている。

 俺がここで暴れたから、彼女は生きているのだ。

 

 ――ならば、運命はきっと変えられる。

 

【痛そうだね……自分の傷は治せないの?

 ううん、もう限界なんだね】

 

 否定はできなかった。

 実際のところ、その通りだったからだ。

 

 すると、彼女は自らの眼球を抉りだした。

 何をするのかと驚いていると、彼女は抉り出した眼球を俺の体へ押し付けた。

 瞬間、眼球が吸収されていき、同時に体の傷が治る。

 

【私は原初の遺者……その複製体。

 だから……私の体は、乱れた遺者の肉体に秩序を取り戻させる】

 

【原初の遺者……その複製体だと?

 お前は一体?】

 

 そんな言葉……ゲームには出てこなかったはずだ。

 少なくとも俺がプレイした範囲ではなかった。

 

 彼女の存在は一体なんなのか。

 俺にはまるで分からない。

 

【前にいったよね?

 私はこの世界に救いをもたらす聖女だって。

 さぁ、あなたも聞かせて――

 

 研究員をどうして殺したの?】

 

【奴らに世界を救う気などなかったからだ】

 

 俺はイリスを連れ、研究資料が保管された区画へ向かう。

 

 そこに記されていたのは、世界を救うための計画ではない。

 権力者にとって都合の良い兵器を作り出す研究――その記録だった。

 

 そして、近いうちにイリスを解体し、その力をシオンへ移すという処分計画。

 

 資料を読み終えたイリスは、落ち込んでいるようにも、妙に納得しているようにも見える。

 だが、どちらであろうと俺の考えは変わらない。

 

 彼女の力は、この先も必要になる。

 しかし、必要なのは力だけではなかった。

 どれほど失敗しても理想を捨てないイリス自身を、俺は同志として誘ったのだ。

 

【いいね……一緒に行こう。

 あなたの傲慢が、本当に結末を変えられるのか見てみたい】

 

 こうして、俺とイリスは理想へ向かって走り始めた。

 その後、シオンとも一悶着あったが、最終的には彼女も加わることになる。

 それでも、俺とイリスにとっての原点がここであることに変わりはない。

 

「随分と懐かしい場所に来てるんだね」

 

 近くから声がする。

 俺に平然と声をかけられる者など数えるほどしかいない。

 

「……やるべきことは終わったのか?」

 

「うん、しっかりと素材はお姉ちゃんに納品してきたよ。

 なんかゲームをしているみたいだったよ」

 

 俺に話しかけてきたのは、イリスだった。

 彼女はシオンに頼まれた聖遺装(せいそう)の材料を渡してきたのだという。

 シオンによれば、これからの戦いに必要になるらしい。

 

「あいつは何をするつもりだ?」

 

「さぁ? でもツバキちゃんが、余裕を持ちすぎているって言ってたよ。

 その関係だと思うけどね」

 

「そうか……」

 

 余裕を持ちすぎているか。

 確かに、俺がシオンに伝えたゲーム本来のツバキと、今のツバキは完全に別物だろう。

 戦闘力だけではない。その精神性も含めてな。

 

「それであなたは、どうしてこんなところにいるの?

 今更、こんな廃墟には何もないでしょ?」

 

「……遺者を人間に戻す。

 その手掛かりがあるとすれば、ここだけだと思っただけだ」

 

 俺がそう言うと、イリスは目を見開いて俺を見た。

 これは、驚いている……いや、違う。喜んでいるのか?

 

「……アルネアの一件で思うことがあったの?」

 

「ああ、俺は、俺たちは理想の世界を求めてやってきた。

 だが、遺者に強制的に変えられた者は、救済の対象ではないのかと思ってな」

 

「うーん、でも、そんな余裕あるかな?」

 

 そう言いながら、イリスは楽しそうに目を細めている。

 彼女は俺をダークヒーローとして見ている。

 俺を止めたいのではない――それらしい答えを期待しているのだ。

 

「余裕の有無は関係ない。

 最終的に目指す地点の再定義だ。

 スキルも実現性も……全て二の次だ。

 理想よりも先に来るものは存在しない」

 

 俺がそう言うと、イリスが笑い声をあげた。

 随分とご機嫌なようだ。

 

「そもそも、シオンはツバキが余裕を持ったと言っていたが、それは違う。

 余裕を失っていたのは、俺たちの方だ」

 

 俺は、ツバキを救うことばかり考えていた。

 その仲間を生かし、理想郷イデアを維持し、ゲームで描かれた悲劇を消し去る。

 俺の頭にはそれだけしかなかった。

 

 だが、この世界はゲームじゃない。

 ゲームで描かれなかった場所にも、多くの人間が生きている。

 

 俺はそこにある悲劇をまるで見ていなかった。

 強制的に遺者へ変えられた被害者だと知っておきながら、ツバキの成長に利用した。

 

 なぜ、救おうと思うことすらしなかった?

 

 答えはただ一つ。

 俺たちは初めから、ゲームで見えた範囲しか考えていなかった。

 現実を見ているつもりで、何も見ていなかった。

 

 救う相手を選別したまま、完全な救済などあり得ない。

 だが――

 

「これからは違う。

 強制的に遺者へ変えられた者たちも、救済の対象に含める。

 そこまで含めて、完全な理想を目指す」

 

 俺はそう言って、崩れた天井の向こうを見上げる。

 この場にシオンがいれば、何と言うだろうか。

 現実的な彼女のことだ。

 おそらくは、厳しい言葉が飛んでくるに違いない。

 

 だが、もう決めたことだ。

 

「いいね。それでこそダークヒーローだよ」

 

「……そうか。

 なら、理想のために、現実を見るとしよう」

 

 俺は崩壊した研究施設を歩き回る。

 狙いは、ここに残された研究データだ。

 

 だが、一度破壊された施設に、多くの情報が残っているはずもない。

 俺たちが脱走して以降、この場所自体も廃棄されている。

 無事だったデータも、すでに別の施設へ移されているだろう。

 

 残された手掛かりは、近くから感じる遺者の気配だけだった。

 

「ならば、会いに行くとしよう」

 

 俺はイリスと共に、気配のあるところに向かう。

 

「見た目からして普通の遺者だな。

 だが、理性がなければ、一体だけが一か所に留まる理由はない。

 この研究所に関連した存在に違いない」

 

 理性のない遺者は、そのほとんどが理性をもつ遺者によって管理されている。

 先の侵命災(ヴァイロア)が軍勢を指揮していたように。

 

 すなわち、単独でいる時点で雑魚ではない。

 やがて、俺はその遺者の姿を発見した。

 そいつは何かしらの端末を操作している。

 

 どうやら情報を持っていそうだ。

 

「お前……喰聖か?

 ホームショックでも起こしたか?

 この研究施設に戻ってくるとはなァ!!」

 

 俺のことに気づいた遺者が声を荒げた。

 この声……聞いたことがある。

 研究施設において、研究員だった人間の一人だ。

 

「生きてたんだ……しかも、遺者にされて」

 

「ひとまず締め上げるとしよう」

 

 奴が攻撃を仕掛けてくる。

 飛び掛かってくる単純な攻撃だ。

 俺は冷静にカウンターの要領で奴を蹴りつける。

 すると、奴は紙のように吹っ飛んでいった。

 

 この遺者……知性がある割には、随分と弱い。

 とっとと叩き潰すのが吉か。

 そう思った俺は、奴を何発も殴りつけ体の自由を奪った。

 

「がはっ、これが俺たちの傑作……流石に強ぇ」

 

 ひとまず奴が手に持っていたタブレットを奪う。

 これ自体は後で調査するとして、この男の尋問からだ。

 

「いくつか質問に答えて貰おう。

 おとなしく答えてくれるのなら、拷問はしない」

 

「だ、だれが」

 

 元研究員が歯向かおうとした瞬間、俺は奴の体に血液を注射のように打ち込んだ。

 肉体へ与える負荷はほとんどない。

 奴も怪訝な顔をしている。

 

 だが、無駄な行為ではないぞ。

 奴の体内に侵入した血液は、神経へと接触し痛みだけを奴に伝える。

 

「わ、分かった。知っていることは全て話す!!」

 

 俺たちが施設を破壊した以後、どうにか生き残っていた研究員はある程度いたそうだ。

 そこで彼らは出資者である理想郷イデアへと向かったらしい。

 だが、理想郷イデアにたどり着いた彼らに待っていたのは過酷な現実だった。

 

「あいつら……世界を救うためにだなんだと、俺たちに実験させていたくせに、たった一度の失敗でいとも容易く切り捨てやがったんだ。

 だから、誓ったんだよ。理想郷イデアへの復讐をな!!」

 

 理想郷イデアが、この研究機関を作り出した組織だと?

 そんなことがあり得るのか?

 少なくともシオンからそのような話は聞いていない。

 

 それに理想郷イデアは、遺者を倒すための研究機関をすでに抱えている。

 灰祓い(アッシュ)たちが所属する黎明教会だ。

 奴らは遺者を、聖遺装(せいそう)と呼ばれる武器へ加工する技術まで有している。

 

 こんな研究施設を作り出すメリットなどないはずだ。

 

 こいつらは、そう思い込まされている可能性が高い。

 本人の認識を聞くだけでは、真相には届かないだろう。

 

「……仕方ない。

 あまりやりたくはないが、血液を脳へと侵入させるとしよう」

 

 かなり時間もかかるし、実行中は戦うこともできない。

 だが、血液を脳に侵入させることで、俺は他者の記憶を覗き見ることができる。

 周囲の警戒はイリスに任せるとしよう。

 

「イリス……周囲の警戒を」

 

「はぁ、記憶を覗き見るのに、無防備になるとか努力が足りないんじゃない?

 そんなんじゃインフレに置いて行かれるただのダークになっちゃうよ?」

 

「そうだな……」

 

 喰聖として培った力は確かに強い。

 だが、同時に努力も必要だろう。

 誰かがこう言っていた。人生とは走り続けて現状維持だと。

 ならば、前に進むためにも、より強く足に力を込める必要があるだろう。

 

 せっかくの機会だ。

 以前よりも深く、そして素早く記憶を読み取れるようにしよう。

 そう思い、奴の脳へ血液を送り込んだ。

 

 瞬間、奴の体が跳ねた。

 奴の体から莫大な力が放出され、俺を押しのける。

 

「……罠、かな?」

 

「だろうな。

 おそらく、この研究所を裏から糸を引いていた遺者が、仕込んだ罠だ」

 

 莫大な力に酔い始めたのか、奴は顔を歪めて笑い始めた。

 

「これほどの力があれば、理想郷イデアからも物資を奪える!!」

 

「物資を……奪う、だと?」

 

「ああ? 

 見捨てられた俺たちがここまでどうやって生きてきたと思う?

 決まってんだろ!? 

 理想郷イデアと同じだよ。

 より弱い者から搾取するのさ!!」

 

「貴様……まさか小さなコミュニティから」

 

「そのとおりだ。

 どうして俺がここに一人でいたと思う?

 

 今日も仲間たちが近くのコミュニティに略奪しに行ったからさ!!」

 

 ここまで話を聞き、俺はある可能性に気づく。

 俺はてっきり、こいつも施設の黒幕によって遺者にされたものと考えていた。

 だが、それは違う。おそらく奴は……

 

「お前は自分の意志で遺者となったのか?」

 

「ああん……?

 ああ、そうだ。誰かに強制されたわけじゃねぇ。

 略奪するにゃ、力が必要だったからな。

 注射で一発――遺者になれたよ。

 

 そして、今……俺は最高に絶好調さ!!!」

 

 複数の気配が一斉に近づいてくる。

 おそらくは、先ほど奴が言っていた近くのコミュニティに略奪しに行った仲間だろう。

 好都合だ。ここで全員、俺が叩き潰す。

 

「イリス……お前はその端末で遊んでいろ。

 俺一人で十分だ」

 

「うん、そうだね。

 ちょっと端末で遊んでいるよ」

 

 その言葉が引き金となり、施設の外から数名の遺者が一斉に入り込んでくる。

 同時に先ほど尋問した個体も、元気に動き出した。

 

「おせぇぞ!!

 さぁ、いつもの連携でお陀仏だ!!」

 

 そう言うと、奴らは俺を取り囲むように陣形を組んだ。

 

「喰聖っ、ひぃっひひ、あなたを吸収すれば、我々はまた一つ階段を登れそうです!!」

 

「俺たちの連携に怯えながら死ね!!」

 

 四方八方から襲い掛かる火の弾丸に、雷の斬撃、氷の礫が襲い掛かってくる。

 回避は容易だろう。だが、俺はあえて回避しなかった。

 全身に多種多様な攻撃が降り注いだ。

 

「あっははァ、テメェなんざ集団で襲えばこんなもんよ!!

 さぁ、物言わぬ死体となれ!!

 そして、俺たちの糧となるがいい!!!」

 

 奴らは笑っている。

 おそらく遺者となってから、これまで同じようにして多くの者を蹂躙してきたのだろう。

 まさに弱い者いじめをする屑と言える。

 

 だが――

 

堕翼乱葬(フォールン・レイザー)

 

 俺は翼を肥大化させて、そのまま振り抜いた。

 ただそれだけで、奴らが放った攻撃は全て霧散する。

 それだけではない。

 俺の翼は奴らの両足を切断し、俺に対して首を垂れさせた。

 

「弱者を踏み台にするために得た力など、所詮はこの程度か」

 

「わ、我々を殺すつもりか?」

 

 先ほどの威勢はどこへやら、奴らは劣勢に立たされただけで完全に戦意を失っている。

 こいつらは紛れもない屑だ。

 だが、屑だからと言って殺しはしない。

 

 せっかく自ら遺者となり下がった屑どもなのだ。

 今後のための贄とさせてもらうとしよう。

 

「殺しはしない……人に戻る実験に協力してもらうだけだ。

 さぁ、お前らの大好きな実験を始めようか!!」

 

 俺は奴らを拘束し、端末のデータを参考にしながら遺者を人に戻す実験を実行した。

 遺者に変異したとはいえ、こいつらも元は人間だ。

 必ず遺者の力を取り除き、人間に戻す手段があるはず。

 

「ちっ、強引に進めると肉体が変化についていけず、消滅するか……。

 ならば、次は時間をかけてゆっくりとやるか」

 

 一人目は、肉体そのものが消滅する。

 肉体に与える負担を無視して、強引に人間に戻してみたのだ。

 どうなるか、いくつかの予想があったが、一番悪い結果となった。

 これで戻るなら、随分と楽だったのだがな。

 

「喰聖……お、お前は何処へ向かっているっ!?」

 

「決まっているだろう。

 俺はこの世界に救済をもたらす存在だ!!

 さぁ、この実験を、救済の第一歩としようか!!」

 

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