バッドエンドしかないゲーム世界で怪物になった俺は、死ぬはずの原作主人公と仲間をどんな手を使ってでも全員救う~喰聖の黙示録~   作:グラシアS

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第2話 破滅を受け入れた者の末路

 

「先輩たちを……放せ!!」

 

 ツバキたち灰祓い(アッシュ)は、普通の人間ではない。

 黎明教会に属する改造人間。

 薬物で身体能力を強化し、聖遺装(せいそう)と呼ばれる武器で遺者を祓う。

 

 ツバキの聖遺装(せいそう)は爪。

 本来なら、至近距離で使う武器だ。

 今の段階であれば、近づかなければ問題はない。

 

 そう思った瞬間、ツバキは腕を振り抜いた。

 聖遺装(せいそう)の爪から、赤い斬撃が飛ぶ。

 間違いなく、遠距離攻撃だった。

 

「素晴らしい素質……それ以外に言葉がないな」

 

 俺は遠距離攻撃を同質の攻撃で相殺しながら、飛び回るツバキを観察する。

 彼女の腕には、細くて濃い赤い筋が浮かび上がっていた。

 

 間違いない。あれはオーバードライブと呼ばれる力だ。

 聖遺装(せいそう)灰祓い(アッシュ)はその力を振るう時、物理的に神経を接続している。

 そのため武器の破損が痛みとなるわけだが、彼女はその繋がりを強引に強めていた。

 

「だが……」

 

 オーバードライブは確かに限界を超えた力を発揮できるが、デメリットも大きい。

 力そのものの制御が難しくなるうえに、体への負担が大きいのだ。

 ゲームでこれを使えば、片腕の神経が焼き切れる。

 

 確かに出力を上げるには、手っ取り早い手段ではある。

 彼女ほどの才覚を持つ者ならなおさらに。

 だが、その先にあるのは破滅のみだ。

 

 さて、それをどう学ばせるか……。

 

 そんなことを考えているとレイナの姿が目に入る。

 必死になってツバキを援護しようとしていた。

 何と愚かな……その動きは隊長がやるべきものではない。

 

 いや、これを利用すべきか。

 俺がここにいる時点で、彼女たちが死ぬことはない。

 痛みをもって、分からせるべきだ。

 

「全て打ち落としたか……」

 

 螺旋する弾丸が、俺の攻撃を撃ち抜いた。

 彼女の聖遺装(せいそう)はガトリング銃……。

 そこから弾丸を発射し、俺の攻撃自体を狙った。

 

 だが、納得できない。

 レイナは、単純な出力でも才覚でもツバキに劣るはずだ。

 では、どうやって俺の攻撃を相殺した?

 

 その時、気づいた。

 彼女の腕が黒ずんでいる。

 

 強引に力を引き出したか――。

 

 相殺されずに抜けてきたツバキの攻撃が、俺の皮膚を削る。

 少しだけ痛いが、倒れるほどじゃない。

 

 瞬間――空気が沈んだ。

 

 そう錯覚するほどの殺意に、膨大な力……。

 全てが塊となって、一直線に向かってくる。

 

紅爪閃牙(こうそうせんが)ァ!!!」

 

 力で迎撃することは容易だ。

 だが、それではツバキは更なる力を求めるだけ。

 ならば、そうならないように、痛みをもって刻み込むだけ。

 

 俺は向かってくるツバキに対して、レイナを引き寄せた。

 彼女も異変に気づいたが、すでに手遅れ。

 この攻撃は自分でも中断できないはずだ。

 

 俺の読み通りツバキは、レイナと衝突して空中で爆発した。

 その勢いのまま、地面を転がってようやく停止する。

 状況を理解しているのか、理解していないのか……呆然とした様子で顔を上げた。

 次第に顔色が悪くなり、呼吸も荒くなる。

 

 そんな彼女に、血液の球体を見せつける。

 中では、バラバラになったレイナの体が、血の糸に縫い止められていた。

 

「全てを賭けた攻撃……随分な勘違いだ。

 死ぬ気で放った一撃など、未来を捨てた敗北宣言に過ぎない。

 破滅を受け入れた者の末路は――破滅のみだ」

 

 制御しきれていない力が、どれほど危険か。

 それを身をもって学べ……俺の血が届く限り、死なせはしない。

 

「守りたいなら、生き残れ。

 救いたいなら、制御しろ。

 それができない力を、覚悟とは呼ばん」

 

「テメェのせいだろうがぁ!!!!」

 

 ツバキが感情的に叫んでくる。

 驚いたな……ゲームでも見たことのない表情だ。

 彼女はそのまま俺に飛び掛かってこようとして……膝をついた。

 

 限界……か?

 あれほどの力を発動した直後だ。仕方ないのだろう。

 だが、ここで倒れて貰うわけには行かない。

 俺はひっそりと、彼女の体に付着した血液を通して、少しずつ体力を回復させていく。

 

「どうやら理解していないようだな。

 もし貴様が自らの力を制御できていたのなら……俺がレイナを引き寄せたのを理解して、攻撃を中断できていただろう。

 貴様の力は確かに強い。だが、躾のできていない力ほど、味方を……いや、己自身すら燃やし尽くす」

 

 ツバキの目は死んでいない。

 このまま体力を回復し続ければ、何度でも噛みついてくる。

 良い調子だ……ここで、さりげなくレイナを繋ぎ直しておくとしよう。

 

「では、その未熟さを後悔しながら死んでいけ……」

 

 俺がそう言うと、血の中でレイナの体が継ぎ合わされていく。

 やがて、ツバキの前にその姿を現す……すべての傷が修復され、同士討ちなどなかったかのようだった。

 

「……は? え?」

 

 ツバキが呆然としている。

 まぁ、既に死んでいてもおかしくない奴を治療すればそうなるか。

 だが、俺を味方だと思って貰っても困る。

 しっかりと演出はしておかないとな。

 

「これでこいつは俺の下僕だ……

 安心しろ。貴様も一度殺して、下僕にしてやる……」

 

 俺がそう言ってレイナを差し向けようとした瞬間、彼女の体との接続が強制的に切られた。

 これは……。

 

「わたしの部下を随分と虐めたようね。

 覚悟はいいかしら?」

 

「し、シオンさんっ……」

 

「大丈夫よ、ツバキ。あなたはよくやった。

 結果がどうであれ、仲間を守ろうとしたあなたは、誰よりも優しい子よ」

 

 割り込んできたのは、黎明教会の導師の一人、シオン。

 黎明教会に所属する英雄であり、イリスの姉。

 

 そして――俺たちの同志だ。

 

 彼女が割り込んできたということは……

 やりすぎたか。

 

 これ以上は追い込むな。

 要するに、そういうことなのだろう。

 

「黎明教会導師……断罪のシオンか。

 相手にするには少々厄介だ……今日はここまでとしよう」

 

 ツバキは未だに睨みつけてくる。

 それでいい。俺はお前の敵なのだから。

 お前が仲間だと思うのは、黎明教会の人間だけでいい。

 

「刺し違えの先に、本当の勝利などない。

 努々(ゆめゆめ)、忘れぬことだ。否が応でも、貴様を中心に世界は回るのだからな」

 

 

 第一目標を達成した俺は、拠点へと戻ってきていた。

 拠点と言っても仮のものでしかないが。

 

「とりあえず目標は達成できたね」

 

 イリスは窓の外を眺めながら呟いた。

 今回、ツバキたちを襲撃した目的は二つ。

 部隊全員を生還させること。

 そして、制御不能な力の危うさを、ツバキに刻み込むことだった。

 

「二つ目に関しては、今後次第だが……そこはシオンがうまくやるだろう」

 

「まぁ、そうだね。

 私たちはできることをしようね」

 

 そう言うと、イリスは一枚のメモリーカードを取り出した。

 おそらくはシオンに渡されたものだろう。

 俺はそれを受け取り、端末に差し込んだ。

 この端末はどこの回線にもつながっていないが、こうしてメモリーカードは見られる。

 

「標的は、御影家か……」

 

 この世界を腐らせているのは、遺者だけではない。

 もう一つが権力者だ。

 

 この世界には理想郷イデアと呼ばれる施設が存在する。

 簡単にいうと、権力者が集まって築き上げた避難所だ。

 今では多くの人類が使う活動拠点となっている。

 

 ゆえに理想郷イデアを築き上げた者たちの権力は凄まじい。

 彼らは創域家と呼ばれ、理想郷イデアのシステムそのものを牛耳っている。

 御影家は、その創域家の一つだ。

 

 絶対的な権力の前では、誰も逆らえない。

 

 だが、例外もある。

 そう、理想郷イデアとは無関係の俺たちだ。

 

「権力か……彼らは一体何をしたの?」

 

「これがそのデータだ」

 

「私はあなたの口から聞きたいわ」

 

 俺は息を吐いた。

 どういうわけかイリスは、俺の口から説明を聞きたがる。

 渡したデータ自体は後で見ているようなので、面倒だからではないようだが……。

 

灰祓い(アッシュ)の奴隷化だ」

 

 理想郷イデアに出入りするには、一つの絶対的な条件がある。

 汚染検査において、結果が白であることだ。

 

 それは外から逃げてきた者だけではない。

 任務を終えて戻ってきた灰祓い(アッシュ)も同様の基準で検査される。

 

 白でなければ、門は通れない。

 そして、この近辺で理想郷イデアに入れないことは、実質的な死を意味する。

 なにせ外では遺者が跋扈し、いたるところに破壊をバラまいているのだから。

 

「御影家は、理想郷イデアに入るときに行われる検査……

 そこを権力で牛耳っている」

 

 理想郷イデアの出入り口付近に、検査医師の団体が存在する。

 彼らは文字通り、門番となるのだ。

 

「御影家はその検査を使って、灰祓い(アッシュ)を奴隷にしている」

 

「意図的に黒の判定を出すってこと?」

 

「そうだ」

 

 黒と判定された灰祓い(アッシュ)は、理想郷イデアを追い出される。

 当然、黎明教会にも残れない。

 

 そうして行き場を失った灰祓い(アッシュ)たちを、御影家が拾う。

 表向きには、検査結果を理由に殺処分された扱いとなる。

 だが実際には、権力者の奴隷となるのだ。

 

 目障りな人間の口封じ。

 都合の悪い証拠の回収。

 逃げ出した同類の処分。

 

 遺者を祓うための力を、人間を支配するために使わされている。

 

「確かに良くないね。

 灰祓い(アッシュ)の力は遺者を滅ぼすためのもの。

 間違っても権力者の玩具じゃないよ」

 

 イリスの言う通りだった。

 黎明教会において、灰祓い(アッシュ)とは遺者を祓うために作られた組織だ。

 それを取り込んで私的に運用している。

 許されざる行為だ。

 

「でも、それならどうしてもっと早くに潰さなかったの?」

 

 イリスが疑問に思うのも無理はない。

 後のことを考えれば、早々に討伐すべきだ。

 だが、ここまで奴らが生きるのを許している。

 

「理由は単純だ。

 御影家を中心部から引きずり出すには、相応の餌が必要だったからだ」

 

 奴らがもっとも欲するもの。

 それは奴隷を完全に服従させる手段だ。

 

 現時点で奴らは様々な手段を用いて、奴隷を制御している。

 拘束具や拷問器具による物理的な制御。

 奴隷への階級制の導入による精神的な制御。

 だが、どちらも確実性には欠ける。

 

 極端な話だが、全てを捨てた無敵の人間には効果が薄い。

 

 これを解決する手段が、ひとつだけある。

 それが絶望した灰祓い(アッシュ)から採れる結晶だった。

 奴らはこれを服従核と呼んでおり、心の底から欲している。

 

 だが、同時に恐れてもいる。

 服従核はめったに取れるものではないが、それを用いれば灰祓い(アッシュ)を容易に支配できるとされている。

 もしもこれが反逆の意志を持った人間に渡ればどうなるか……

 それは権力者自身がよく分かっているだろう。

 

 ゆえに奴らは、服従核の存在を表向きには眉唾として扱っている。

 だがその裏で、権力者たちは密かに入手する手段を探し続けていた。

 

 もしその状況で、服従核と同じ色をした結晶が見つかったという情報が流れたらどうなるか。

 しかもその情報は、黎明教会の導師たちが閲覧する共有記録に上がっている。

 

 教会に押さえられる前に。

 他の創域家に知られる前に。

 何より、自分たち以外の誰かに握られる前に。

 

 奴らは必ず、リスクを負ってでも動く。

 

「その隙を突くんだね」

 

「……俺だけでは、秘密裏に中層へ潜り込むのは難しい。

 時間をかければ、標的に逃げられる可能性も上がる。

 そこはお前に任せる」

 

 この情報でも、奴らを引き出せるのは中層までだろう。

 御影家の人間が、わざわざ外層まで足を運ぶとは思えない。

 

 だが、汚染されていても、遺体であれば中層に持ち込むことが可能だ。

 もし検査で服従核らしき結晶が見つかったなら、御影家の奴らは必ず回収する。

 

 生きていれば、殺してでも。

 ……奴らは、そういう連中だ。

 

 だが、それは俺たちの狙い目にもなる。

 

「侵入はいいけど、これからの下準備は手伝ってよ。

 戦うのは好きじゃないのだから」

 

「戦うのが好きじゃない?」

 

 かなり違和感がある。

 イリスが戦っているところは何度か見たが、とても楽しそうだった。

 少なくとも好きじゃないと言うとは思わなかった。

 

「そうか、そうは見えなかったんだが」 

 

「いやよ。

 だって、手が汚れちゃうもの」

 

 これは比喩的なものではないな。

 物理的に汚れるのを嫌っている感じだ。

 まぁ、侵入することを考えれば、イリスは顔見せるべきではない。

 

「いくか……」

 

 俺たちは拠点を離れる。

 必要なのは、御影家が食いつくための餌の用意だ。

 

 標的は、この時間に狩りを行っている御影家の奴隷たち。

 奴らを使って、服従核の噂を現実にする。

 

「さて、どこにいる?」

 

 御影家の奴隷たちは表向きには死亡している。

 当然、外が明るい間に外に出ることはない。

 闇雲に探したところで、すぐには見つからないだろう。

 

 だが、イリスであれば探知することができる。

 

「あっち」

 

「見つけたな」

 

 やがて夜が深まった頃、標的を見つけた。

 顔を仮面で隠し、黒装束で身を包んだ者たちを……

 間違いない。奴らが御影家の奴隷たちだ。

 

 俺は少し離れた位置で、片手を空へと掲げた。

 

堕命領域(フォールン・ドミニオン)

 

 結界が広がった。

 この中では、あらゆる生物が力を奪われる。

 

 この結界が張られたことで、御影家の奴隷たちも俺の存在に気付く。

 だが、遅い。俺は全員を蹴り飛ばして、死なない程度に傷つける。

 同時に意識も奪えたようだった。

 

 ここまでは、計画通りだ。

 

「さて、覚悟を決めなければな……」

 

 ここからだ――

 俺は倒れた奴隷の一人へ視線を向ける。

 

 彼女はもう助からない。

 服従核の偽物を仕込んだ時点で、御影家は彼女を殺すだろう。

 

 なら、俺自身がやるべきだ。

 彼女が死ぬ最大の原因は俺なのだから。

 

 俺は彼女の仮面を外して、顔を見た。

 

「顔は覚えておく。

 その命……無駄にはしない」

 

 俺はそのまま翼で胸を貫いて、彼女を殺した。

 胸の中には、小さな青色の結晶が見える。

 

「必要な殺しとはいえ、被害者を手にかけるのは気が引けるね。

 私も失敗しないようにするよ」

 

 イリスはそう言うと、胸の穴へ手を突っ込んだ。

 すると青色の結晶は、大きくなると同時に紫色に光り輝く。

 これで伝承に残る服従核と同じ見た目になった。

 

 服従核に見せかけるための偽物だが、餌として十分に機能するだろう。

 

「じゃあ、行こうか」

 

 イリスの声が結晶から聞こえてくる。

 

「ああ……この犠牲、無駄にはしない」

 

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