バッドエンドしかないゲーム世界で怪物になった俺は、死ぬはずの原作主人公と仲間をどんな手を使ってでも全員救う~喰聖の黙示録~ 作:グラシアS
ビービービー
けたたましい警報音が鳴り響いている。
深層の権力者であった御影家が皆殺しにされた事件。
それから、数日が経過した頃のことだった。
私……ツバキは、いつも通りレイナ隊長たちと遺者の間引きに向かうために、支度をしていた。
警報音が鳴り響いたのは、その時のこと。
レイナ隊長の命令で、迅速に装備を整え、外壁上部へと出る。
何があったのか……混乱していた私たちを待っていたのは、見渡す限りの大量の遺者だった。
「う、嘘でしょ……なんて数なの?」
部隊全員に動揺が走る。
私たちが
強いて言うなら、先の御影家惨殺事件くらいなものだった。
だけど、あれも事件が終わった後に、何が起きたかを聞いただけ。
部隊の全員が、防衛戦の経験なんてなかった。
「あれだけの数に対して、まさかこの部隊の五人なのかい?」
長い緑色の髪を背中へ流し、眼鏡をくいっと押し上げた女性が疑問をぶつける。
彼女の名前はアナリシス……先輩の一人で、この部隊では参謀の役割を担う人物であった。
先輩の疑問はもっともだ。
あれだけの数……最低でも二部隊で当たるべきだろう。
しかし、レイナ隊長の答えは、私の想像を絶するものだった。
「一部隊はたぶん援軍に来てくれる。
けど、すぐには来られない……と思う。
ほら、ここ最近、攻められることが少なかったから……」
援軍がすぐに来られない理由は、単純な人手不足だった。
ここ最近、理想郷イデアは大規模な襲撃を受けていない。
そのせいで、外壁に常駐している
その弊害が如実に現れている。
それだけの話だった。
「つまり、この防衛任務での現状戦力はここにいる五人と、外壁守備兵の皆さんだけ。
この戦力であの軍勢に対処する必要がある」
レイナ隊長がそうまとめる。
「守備兵?」
言葉は知っていた。
けれど、実際に関わるのは初めてで、思わず聞き返してしまう。
すると、全身に鎧をまとった一人の男性が話しかけてきた。
おそらくは、彼が守備兵なのだろう。
「守備兵ってのは、この外壁の補修や、外部の監視を行っている連中だ。
一応、最低限の装備はあるが、戦力としては数えないでくれ」
なんとも頼りない言葉が返ってくる。
でも、仕方ない。
私が見ても、彼らの装備はかなり悪い。
こんなものでは遺者と戦うことなどできない。
むしろ、この場に立たされている時点で可哀想だ。
とはいえ、現状を打破する明確な手段がない……
私が困惑していると、大きなため息が聞こえた。
「っていうか、なんであんな規模になるまで、誰も気づけなかったのよ!?」
長い赤い髪をツインテールにし、活発そうな印象を受ける女性がそう口にする。
彼女の名前はエンリ……彼女もまた私の先輩の一人で、この部隊では引き締め役になることが多いみたい。
確かに……あれだけの規模の軍隊を展開するには時間も必要だったはず。
どうして、こうなるまで対処できなかったのか……。
「えっと、気づかないも何も、監視できる範囲があそこまでなんです。
こちらで確認できた時には、すでにあの状態で……
だから、すぐに緊急警報を鳴らしました」
その言葉にエンリ先輩は舌打ちをする。
誰の目にも不機嫌だと分かるくらいに怖い。
事実として、守備兵の人は震えあがってしまっている。
「ねぇ、
これから一緒に頑張ろうって人を脅さないでくれるかな?」
青い髪を後ろで束ね、少しおとなしめな印象を受ける女性がそう口にする。
彼女の名前はミズキ……この部隊の先輩の一人で、この部隊では雑務を担当する縁の下の力持ちのような役割を担っている人である……レイナ隊長からは、そう聞いていた。
彼女はエンリ先輩を非難している。
そうか……守備兵の人もこれから一緒に、外壁を守る人たちなんだもの。
暴言を吐いて、やる気を削いだら、それこそ仕事にならない。
私はそう思ったけれど、エンリ先輩はどうもそうは思わなかったみたい。
「あ? なんだって?
根暗は黙ってろよ」
「二人とも、言い争っている場合じゃないだろう。
……とはいえ、エンリの言い分も分からなくはないけどね」
「ほら、アナリシスまで余計なこと言う!」
その言葉が開戦の合図だった。
なんとこの状況で、三人は口喧嘩を始めてしまう。
「え!?
そんなことをしている場合じゃ……」
口論は次第に白熱していった。
間違いなく止めないとまずいが、私の言葉は彼女たちには一切届かない。
その時、乾いた拍手の音が鳴り響いた。
まるで水を打ったかのように、場が静まり返る。
音を出したのは、レイナ隊長だった。
「みんなが不安に思っていることは分かる……
けど、ここで一番必要なのは、団結することだよ。
戦力は私たち五人。サポートは守備兵の皆さんが十数人。
この戦力で、できる限りのことをしよう」
たった一言で、口喧嘩していた三人の目が変わる。
サポートを担う守備兵の人たちも真剣な顔つきになった。
私は言葉も出なかった。
これがレイナ隊長のカリスマ……。
でも、隊長が号令をかけないと口喧嘩を始めるのは、普通にダメだと思う。
もしかしてこの部隊、レイナ隊長にかなり依存しているのではないか。
口には出さないけれど、そんな疑問が浮かび上がってくる。
「はっ、そうね……
できることをやるしかない。
なら、アタシが先陣を切ってやろうじゃないの!!」
そう言ってエンリ先輩は、防衛用の足場を蹴って外壁の外へ躍り出た。
狙いは当然、もっとも近い場所にいる遺者の群れだ。
「エンリちゃん、ちょっと待って!!」
レイナ隊長が叫ぶけど間に合わない。
先輩は、遺者の群れの上を取った。
「
エンリ先輩がそう叫ぶと、鎖で封じられていた武器が解放され、その全容を明らかにする。
彼女の武器である
それを上から地面に叩きつけ、遺者の体を粉砕する。
しかも、それだけじゃない。
周囲に鳴り響く音が、遺者の注意を惹きつけている。
あれなら……
「レイナ隊長!!
私……行きます!!」
「え? ちょっとツバキちゃんっ!?」
私も
狙いは、エンリ先輩に向かって走る遺者たち……
それを側面から狙える場所に降り立つ。
「ドライブ!!
両腕を振るって、赤い力を地面伝いに波のように放つ。
エンリ先輩に夢中な遺者たちは、この攻撃には対応できない。
狙い通り、奴らは赤い力に飲み込まれた。
「……はっ、新人のくせにやるわね。
なら、敵を殺すのは任せたわ!!
アタシは全体のヘイトを惹きつける!!」
「私はエンリ先輩に引き寄せられる遺者たちを叩き続けます!!」
改めて遺者に向き直ると、
後のことを考えて、出力を抑えたのもあるけど、やはり爪の
なら――近づいて掻き切るだけ!!
「新人!!
出力は考えなさいよ!!」
「はいっ!!」
前回の出撃では、調子に乗って出力を上げすぎた結果、レイナ隊長を殺しかけた。
今も生きているのは、あの喰聖という奴の気まぐれに過ぎない。
制御できる範囲で、かつ敵を一撃で殺す。
「敵の数が多いっ……」
ここまで敵の数が多いと、出力を上げてでも一掃したくなる。
でも、それはダメだ……今はリスクを負う段階じゃない。
「
範囲攻撃で削って、死ななかった個体を近づいて潰す。
少しでも効率的にやらないと、間に合わないっ……。
私はそう考えながら、次々と遺者を引き裂いていく。
赤い波で足を止め、接近して爪で貫いた。
このままいける。
そう思った瞬間……遠方で、何かが大きく蠢いた。
視線の先。
遺者の群れの奥に、塔のような個体がいた。
他の遺者とは明らかに形が違う。
細長い胴体に、地面に根を張るような脚部。
そして、上部に開いた不気味な穴。
その穴の奥に、赤黒い光が集まっていく。
あれはまずいっ……。
嫌な予感に従って駆け出そうとした。
だからだろう……私は近くの遺者に気づかなかった。
「ガハッ……」
口の中に血の味が広がり、同時に体が浮く。
蹴り飛ばされたのだと気づいたのは、地面に叩きつけられた後だった。
私はその場でうずくまる。
当然、遺者たちは反応し、弱った私を狙ってきた。
「
私を狙う遺者たちが、消し飛ぶ。
エンリ先輩が、私を守ってくれたのだ。
巨大な鐘が地面へ叩きつけられ、物理的な衝撃と鐘の音が周囲を揺らしている。
けど、ダメだ。
これじゃ、あの塔みたいな遺者を止められないっ……!!
「ま、まずい……」
塔のような個体から、黒いレーザーが放たれる。
それは一直線に理想郷イデアの外壁へと突き進み――
遮るように現れた盾にぶち当たった。
「え? あ、あれは……」
目を凝らす。
巨大な盾を構えていたのは、守備兵の人たちだった。
何人かで盾を支え、黒いレーザーを受け止めている。
それは明らかに無謀な行為だった。
あの盾で、黒いレーザーを凌ぎきれるとは思えない。
「ダメぇ!!」
瞬間、巨大な盾が粉々に砕け散った。
守備兵の人たちは弾き飛ばされ、黒いレーザーは広範囲に散りながら外壁に当たって消える。
外壁へのダメージは小さかった。
けれど、盾を構えていた守備兵たちはそうはいかない。
全員が小さくない傷を負って倒れている。
当然、遺者にとっては格好の的だった。
「やらせるかぁ!!」
私は戦場を駆ける。
一瞬で、守備兵を狙っていた遺者を葬っていく。
けれど、少しだけ遅い。
わずか一体だけが、守備兵へ迫った。
その時、遺者の体がワイヤーで縛り上げられ、バラバラに引き裂かれる。
これは……
「アナリシス先輩っ?」
遺者を縛り上げたのは、飛び込んできたアナリシス先輩だった。
そんな彼女は、エンリ先輩をまっすぐ見ている。
「おい、
「は? どういうつもり?」
「残念だが、レイナと僕の火力は低い。
高い火力を出せる君は、レイナと一緒にいた方がいい。
合理的な判断だ」
アナリシス先輩の話では、この部隊でもっとも火力が高いのは私らしい。
衝撃的な事実だが、現実としてそうらしい。
ちょっとだけ嬉しい。
次に高い火力を持っているのが、エンリ先輩になるそうだ。
それが事実であるなら、確かに火力が偏っていることになる。
レイナ隊長の制圧射撃は戦線を支え、アナリシス先輩のワイヤーは敵の動きを縛る。
けれど、それはあくまで敵を止め、流れを整えるための力……
硬い敵を正面から砕くには、決定打が足りないらしい。
だからこそ、エンリ先輩をレイナ隊長の元へ向かわせる。
それが、この場でもっとも合理的な配置変更だった。
「で、でも、アナリシス先輩っ!
あの砲台がっ……」
「大丈夫……
少しでも余裕が生まれれば、
「そうね……分かったわ」
エンリ先輩は、アナリシス先輩の言葉に従い、レイナ隊長の元へ向かう。
必然的に、アナリシス先輩と私の二人だけがこの場に残った。
「さて、新人……サポートは僕がする。
目の前の敵だけを見るな。
周囲を見て、適切に叩け」
「分かりました!!」
私は自分の役目を理解する。
アナリシス先輩は、ワイヤーの
応用性に富んだ武器であり、広範囲の敵にダメージを与え、動きを鈍らせることができる。
けど、火力が高い武器ではないみたいだった。
だから、私の火力が重要になる。
「
展開されたワイヤーが遺者たちに突き刺さり、ダメージを与えると同時に機動力を奪う。
そこにとどめを刺すのが、私の役目だった。
「
赤い力が、ワイヤーに捕らえられた遺者たちを飲み込む。
拘束がほどけた時には、遺者たちは全滅していた。
さて、遠くの塔のような遺者をどうするか……。
私がそう思考を向けた時、乾いた銃声がした。
塔型の遺者の胴体に、小さな穴が空く。
次の瞬間、その内側から赤黒い光が漏れ出し――膨れ上がるようにして霧散した。
「ほらね。
あの
このままなら行けるっ!!
そう思った時、それは上空から落ちてきた。
「……これは、どういうことだ?」
落ちてきた存在は、遺者の群れを見渡して呟いた。
「私は、まだ動かしていない。
なのに、なぜこいつらがこんなところにいる?」
その視線が、私たちへ向く。
「
お前らは何をした?」
全身から寒気がした。
目の前に現れたのは、遺者と人間を混ぜ合わせたような存在。
外見だけで分かる。
こいつは危険だ――。
「オーバードライブ!!
考えるより先に、体が動いていた。
強引に出力を上げて、目の前の遺者に突っ込む。
「お前……イノシシか?
なら、その牙に良い肉をくれてやる」
その瞬間、アナリシス先輩が私の前に引っ張られた。
このまま行けば、私の攻撃がアナリシス先輩を直撃する。
だが――
「そんなことは想定内だっての!!」
私は即座に推進力を調整し、アナリシス先輩だけを避けて、遺者へ突撃する。
前回の反省を生かし、突撃の軌道を強引に変える術を編み出していた。
素直に突撃するより威力は落ちる。
だけど、その安定性は段違いだ。
そのまま、私の攻撃は遺者へと迫る。
殺せる。
そう思った瞬間、遺者は激昂した。
咆哮。
ただの叫びではなかった。
空気そのものが叩きつけられ、私の
強大な力のぶつかり合いの果て――私は、弾き飛ばされてしまった。
「いずれにせよ……
私の群れを削った落とし前はつけてもらう」