機動戦士ガンダムSEED RE:SONANCE ―星巡りのルナと換装の呪縛― 作:マキ
【あらすじ】
限界を超えた無茶な戦いの代償により、意識を失ったままモルゲンレーテの医務室へと運び込まれたルナ。数日間の眠りを経て目を覚ました彼女を迎えたのは、技師長エリカ・シモンズだった。散らばっていたパーツが揃ったことを知ったルナは、エリカとの会話の中で、自身に与えられた『ルナ』という名前の真実と静かに向き合う。
「……ルナ。ルナ、聞こえるかい?」
耳の奥で、優しくも硬質な女性の声が響いていた。
薄暗い視界が徐々に開けていく。天井に配置された無機質なLEDライトの光と、規則的に刻まれる心電図の電子音。鼻腔をくすぐるのは、消毒液と冷却オイルが混ざり合った、どこか懐かしいモルゲンレーテ独特の匂いだった。
「……エリカ……技師長……」
ひび割れた唇を小さく動かし、ルナはゆっくりと体を起こそうとした。だが、全身を突く激痛と猛烈な脱力感に襲われ、思わず眉をひそめる。
「無理に動くなと言ったはずだよ。ビクトリア基地からの長距離飛翔に、無理なバースト・シグナルの発振……君の神経系と肉体は、完全に限界を超えていたんだ。丸三日、眠り続けていたんだよ」
ベッドの脇に立っていたのは、白い研究衣を羽織った女性——モルゲンレーテの技師長、エリカ・シモンズだった。彼女は手元のタブレット端末に表示された生体データを厳しい目で見つめつつも、その瞳にはどこか安堵の色を浮かべていた。
「……コアガンダムと……アーマーは……?」
ルナの第一声は、自分の身体ではなく、共に戦った機体のことだった。
「呆れた執着だな。だが……安心していい。コアガンダムの損傷は軽微だ。ビクトリアでパージした『増幅ユニット』は灰になったがね。それと……君が命懸けで持ち帰った『ヴィーナスアーマー』も含め、4つのアーマーはすべてハンガーに揃っているよ」
エリカはタブレットの画面をルナに見せた。
そこには、モルゲンレーテの地下ドックに並び立つ4つのアーマー——アースリィ、メルクワン、マーズフォー、そして新たに回収されたヴィートルーの各種コンポーネントが、完璧に整備・清掃されて格納されている映像が映し出されていた。
「……良かった……」
ルナは小さく息を吐き出し、ベッドの背もたれに深く体を預けた。
散らばっていたパーツが、ひとつ、またひとつと自分の元へ集まっていく。記憶の大半を失い、名前すら持たない自分にとって、それらのパーツを揃えることだけが、自分がここに存在する唯一の証明だった。
「ねえ、ルナ。少し野暮なことを聞いてもいいかね?」
エリカが椅子を引き寄せ、ルナの顔を覗き込んだ。
「君のパーソナルデータ……いや、あの『GAT-X100A コアガンダム』のメインフレームに残されていた識別コードだがね。LUNA-07……これが、君が『ルナ』と名乗る理由だろう?」
ルナは淡々とした瞳でエリカを見返した。
「……アークエンジェルと最初に通信を繋いだ時、画面にそのコードが表示されていた。それを見たあの少年(キラ)が……私を『ルナ』と呼んだ。ただそれだけ」
「自分の本当の名前は……思い出せないのかい?」
「……ないわ。そんなもの」
ルナの声には、悲哀も拒絶もなく、ただ透明な事実だけが横たわっていた。
「戦争孤児なんて、どこにでもいる。名付けられる前に親を失ったのか、薬のせいか……私には『ルナ』というID(コード)しか残っていない。でも……」
ルナは自分の胸元をぎゅっと握りしめた。
「あの船の人たちが……あの少年が呼んでくれたその名前が、今の私の全て。だから、私はルナでいい」
エリカは一瞬、言葉を詰まらせたように目を見張り、やがて優しく目元を緩めた。
「そうか……ふふ、実に頑固で、強い少女だな」
エリカは立ち上がると、研究衣のポケットから小さなタブレット端末を取り出し、ルナのベッド脇のテーブルに置いた。
「体力が戻ったら、ドックへいらっしゃい。君が休んでいる間に、うちの技師たちが面白い改良を加えておいたわ。回収された4大アーマー……その真の力を引き出すためのシステムテストよ」
「真の力……?」
「ああ。コアドッキングシステムの神髄は、単一の換装にあらず。戦況に応じて瞬時に姿を変える『連続コアチェンジ(瞬間換装)』の運用試験よ。……準備ができたら来なさい、ルナ」
そう言い残し、エリカはハンガーへと戻っていった。
ルナは静まり返った医務室で、自分の両手を見つめた。
身体はまだ重い。だが、心の中には静かで確かな火が灯っていた。
(束の間の凪……でも、すぐに次の風が吹く)
ルナはゆっくりと脚をベッドの外へと下ろし、床を踏みしめた。
4つのアーマーと共に行く、新たな戦いと居場所に向かって。
第14話をお読みいただき、ありがとうございました!
ビクトリア基地での激闘を終え、傷ついた身体を休めるルナの束の間の日常をお届けしました。
名前の記憶すらない戦争孤児の彼女にとって、キラたちから呼ばれた「ルナ」というコードネームがどれほど大切な居場所になっているのか、彼女の秘めた想いを感じていただけたら幸いです。
次回からは、全快したルナがモルゲンレーテの地下ハンガーで、揃い踏みとなった4大アーマーの真の性能を引き出す『連続コアチェンジ(瞬間換装)運用試験』へと挑みます!
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