機動戦士ガンダムSEED RE:SONANCE ―星巡りのルナと換装の呪縛―   作:マキ

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前回の『第3話:【Earthly】砂塵の共闘』では、砂漠の戦場へ乱入したルナと『GAT-X100A コア』。絶体絶命のキラを救ったルナは、ついにアースアーマーと再びドッキングし、『アースリィガンダム』へと変貌を遂げる。
大容量のサブバッテリーが直結したことで、装甲システムは常時展開型のフェイズシフト装甲へと完全移行。グレーの素体から鮮やかな青と白の色へと相転移を起こし、冷徹な【戦術統制】モードが起動した少女の戦闘が始まる――。
【あらすじ】
アースリィガンダムの圧倒的な火力でバクゥを撃破するルナ。しかし、未完全なチャージのまま挑んだ戦いと高出力ライフルによって急速にバッテリーが枯渇。フェイズシフトダウンを起こして動けなくなってしまう。窮地に陥ったルナを救ったのは、キラのストライクガンダムだった。戦闘後、アークエンジェルは砂漠のレジスタンス「明けの砂漠」と合流。カガリとの衝突を経ながらも、ルナは素体状態で艦内データに潜入し、船の次の目的地が中立国オーブであることを密かに突き止める――。


第4話【Core】砂塵の彼方へ

「……効率的に、処理を開始します」

アースリィガンダムのコクピットの中で、ルナの瞳はディープブルーの冷光を放っていた。首元のコントロールチョーカーが激しく青色に明滅し、彼女の脳波を機体の自律戦術AIと高度にシンクロさせている。

「な、なんだ……!? あの機体、色が……!」

ストライクのコクピットでキラが絶句するのを余所に、ルナは右腕に構えた専用ビームライフルの銃身を、砂丘を滑るように接近してくる2機のバクゥへと向けた。

ビームライフルのセンサーがバクゥの動力源を正確にロックオンし、予測移動線がメインモニター上に赤く描かれる。ルナは迷うことなく、引き金を引いた。

ズドォン!!

砂漠の熱気を一瞬で蒸発させるほどの高出力ビームの光条が、バクゥの1機を直撃した。ストライクのそれよりも遥かに収束率の高い一撃は、装甲をも消し飛ばすエネルギーの奔流となってザフトの四足獣を一瞬で爆炎へと変える。

「まずは、1機……目標の排除を確認」

淡々と戦闘結果を口にするルナ。しかし、コックピットのメインモニターには、激しく赤色灯が明滅し始めていた。

『警告:アーマー側サブバッテリー、残量20%以下。フェイズシフト維持限界秒数、残り60秒』

アークエンジェルのハンガーで半分ほどしかチャージできていなかった電力は、ここまでの最大戦速での移動、高出力ビームライフルの発射、そして常時展開されるPS装甲の維持によって、すでに底を突きかけようとしていた。

「くそっ、やっぱりエネルギーが……!」

ストライクのコックピットからその様子を見ていたキラが、焦燥の声を上げる。

ルナの機体は強力だが、未完全なチャージのせいで、すでに限界を迎えようとしていた。

残る2機のバクゥはその隙を見逃さない。アースリィのエネルギー切れを察知したかのように左右に大きく散開しながら、背部の2連装レールガンを連射して挟撃を仕掛けてくる。ヒュン!ヒュン!と砂を巻き上げる実弾の嵐。

ルナの視界が、脳への負荷で再び二重にブレ始める。アースリィモードの精神補正すら突き破る激痛。首元のチョーカーが警告の電子音をけたたましく鳴らし、彼女の精神を苛む。

「あ、ぐ……つ……! 思考演算に遅延発生……」

「危ないっ!!」

操縦桿を握るルナの腕が硬直した瞬間、バクゥのレールガンがアースリィの左肩をかすめた。本来の性能を取り戻したアースリィの青いPS装甲が激しく火花を散らし、運動エネルギーを無効化するものの、その衝撃で機体が大きくバランスを崩す。

そこへ、もう1機のバクゥが牙を剥き、頭部のビームサーベルを起動させてルナのコクピットめがけて跳躍した。

(兵器としての寿命……ここまで、ですか……)

意識が白い闇に呑まれかけたその時、激しい金属音と共に、上空から降りてきたトリコロールカラーの巨体がアースリィの前に立ちはだかった。

ギギギギィン!!

「させない……っ!!」

キラのストライクだった。ストライクは対ビームシールドを掲げ、バクゥの光刃を強引に受け止めて押し返した。砂漠の砂に足を取られながらも、キラは必死にルナを背中で庇い、ビームライフルを至近距離からバクゥの腹部へと叩き込む。

ドガァン!

至近距離での爆発に巻き込まれ、2機目のバクゥが砂原に沈む。

「君……! 大丈夫か!?」

ストライクのモニター越しに叫ぶキラの声に、ルナはかろうじてディープブルーの瞳を開いた。

「……理解不能です。なぜ助けるのですか。私は、あなたたちの敵かもしれないというのに」

「敵とか味方とか、そんなのどうでもいいよ! 君だって、あんなに苦しそうなのに……!」

キラの叫びは、どこまでも真っ直ぐで、ルナの冷え切った心を微かに融かすようだった。

残るはあと1機。最後のバクゥは、仲間の壊滅を見て不利を悟ったのか、砂煙を巻き上げながら急速に撤退を開始していた。

『警告:アーマー側サブバッテリーゼロ。コアドッキングシステムシャットダウン』

無機質な音声と共にアースリィの全身から青みが消え去り、元のフェイズシフトダウン状態のグレーへと戻る。

アーマー装着時はシステムが常時展開のPS装甲モードに固定されているため、アーマー側の拡張バッテリーが底を突いてフェイズシフトダウン(相転移解除)を起こすと、コア単体時の『トランスフェイズ(TP)装甲』へと自動で戻ることもなく、TP装甲の防御力すら働かない完全な鉄の塊と化してしまうのだ。

それと同時に、脳内を支配していた冷徹な兵器モードが強制解除される。ルナはむき出しになった全身の激痛と恐怖にぐったりとシートに身を預けながら、目の前に立つストライクを怯えの混ざった目で見上げた。

――合体したアースリィのままフェイズシフトダウンした機体は、被弾時のみ機能する素体の『トランスフェイズ(TP)装甲』の恩恵すら受けられない、ただの重い鉄の塊と化していた。今のルナには、その窮屈なコックピットの中でわずかな負荷すら耐える体力は残っていなかった。

アークエンジェルが砂漠のレジスタンス「明けの砂漠」と合流したのは、それからすぐのことだった。

艦内の食堂で、ルナは一人、周囲への極度の警戒から壁際に佇んでいた。アーマーを外した素体状態の彼女は他者を一切信用しない。そこへ、砂埃にまみれたボーイッシュな少女、カガリ・ユラ・アスハがドカドカと足音を立てて近づいてくる。

「おい、お前がさっきの妙なモビルスーツのパイロットか!」

カガリの真っ直ぐで不躾な視線に、ルナは怯えを隠した冷たい瞳を向けた。

「触らないで……。それが何か」

「なんだその態度は! お前みたいな小さな子供まで戦わせるなんて、地球軍ってのは一体どうなってるんだ!」

怒りを露わにするカガリに対し、ルナは首元のチョーカーにそっと触れ、自分に言い聞せるように冷淡に言い放つ。

「私は兵器として調整された個体。戦うのが私の存在理由です。あなたのように、感情で動く民間人には理解できない……し、理解されたくもない」

「な、に……!?」

一触即発の空気が流れるが、カガリはその瞳の奥にある、あまりにも深い孤独と脆さに気づき、それ以上言葉を続けることができなかった。

それからの数日間、アークエンジェルは「明けの砂漠」の拠点に潜伏し、バルトフェルド隊との決戦に備えていた。ルナは誰とも群れず、素体の孤立した精神のまま格納庫(ハンガー)にこもってコアガンダムの応急整備を淡々と進めていた。

アークエンジェルから供給される電力を吸い上げ、次の戦いへのチャージを行う傍ら、ルナの細い指先はコアガンダムのコンソールを叩き、アークエンジェルの中央データバンクへ密かにハッキングを仕掛けていた。

(……見つけた。この船の目的地は、中立国オーブ。ストライクの開発に関わった国防企業モルゲンレーテのドック……)

軍の目が直接届かない場所でありながら、連合の最新鋭技術の受け皿となった施設。機体を完全に修理し、各地にある他のアーマーの情報を探るには、そこへ潜り込むのが最も合理的だと、ルナは冷徹に計算を弾き出していた。

暗転したコアガンダムのコクピットモニターには、ハッキングによって引き出された極秘のネットワークマップが微かに浮かび上がる。地球の各戦線、そして遙か上空の宇宙でかすかに明滅する残る4つの換装外装の光点。

(オーブへ行く。……そこが、私の次の戦場)

だが、その航路へ進む前に、この砂漠の支配者、「砂漠の虎」の軍靴が、すぐそこまで迫っていた。




第4話をお読みいただき、ありがとうございました!
バクゥ戦の決着、そして砂漠のレジスタンスやカガリとの出会いを描いた回をお届けしました。
チャージが不完全(50%)だったため一気にエネルギーが削られていく緊張感。そしてバッテリーゼロでフェイズシフトダウンした際、アーマーのPS装甲固定システムにより素体のTP装甲すら使えず「ただの重い鉄の塊」と化してしまうリスクなど、燃費とバッテリー運用に焦点を当てたリアリティを目指してみました。
ピンチを救ってくれたキラの言葉に少し心を融かされつつも、素体のルナはまだまだ強い警戒を解きません。カガリとの対峙からも、彼女の背負う孤独を感じていただければ幸いです。
密かにオーブのモルゲンレーテを目指す決意をしたルナですが、その前に立ちはだかるのは「砂漠の虎」……!
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次回『第5話:【Earthly】不屈の咆哮、そして約束の海へ』に続きます!
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