機動戦士ガンダムSEED RE:SONANCE ―星巡りのルナと換装の呪縛― 作:マキ
【あらすじ】
破損した右腕を予備フレームで緊急換装したルナは、コアガンダムの受信システムが捉えた『水中戦用外装マーキュリーアーマー』のシグナルを追う。目的地は南太平洋に眠る連合軍の旧海洋資源採掘プラント。エリカから借り受けた高速輸送潜航艇で現地へ向かうルナだったが、そこにはアークエンジェルを追うザフトのマルコ・モラシム隊が待ち伏せていた。水圧に苦しむアースリィガンダムで、ルナは1キロの同調限界線を目指して決死の突入を試みる――。
海面を割った一撃の余韻が残る無人島エリアから、コアガンダムは這うようにしてモルゲンレーテの秘密ドックへと帰還した。ビームシュートライフルU7の試射は成功したものの、専用アーマーなしで放った反動は凄まじく、機体の右肩駆動系は焼き切れ、フレームには微細なクラックが無数に走っていた。
「無茶をする子ね。データは取れたけれど、これじゃ次の出撃までに徹底的なオーバーホールが必要よ」
ドックに降り立ったルナを、エリカ・シモンズが呆れと感心が混ざった溜め息で迎える。しかし、ルナは自身の肉体を苛む薬切れの激痛に耐えながら、コックピットのサブモニターに表示されたマップから目を離さなかった。
世界各地の拠点へと極秘裏に分散輸送された、残る4つの換装外装群。そのうちの1つ、青く冷たい輝きを放つビーコンが、ここからそれほど遠くない海域を示していた。
「……水中戦用外装マーキュリーアーマー。位置を確認。南太平洋、連合軍の放棄された旧海洋資源採掘プラント」
ルナの呟きに、エリカが眉をひそめる。
「あそこね……。確かにあそこなら、大戦初期に連合が極秘裏に物資を運び込んでいたわ。でもルナ、今はザフトの水中用MS部隊アルヴァレス隊がその海域を航海している。今のあなたの機体で水中に飛び込むのは自殺行為よ」
「コアガンダムの予備フレームはここにあります。右腕を換装し、出力を調整すれば動けます」
ルナは首元のチョーカーの冷たい感触を確かめながら、エリカを真っ直ぐに見据えた。他人に頼らず、自分の力だけでアーマーを奪還するという強い執念がそこにはあった。
「アーマーの起動信号を受信できる反応距離は、通常は約1キロ。現地へ接近し、直接アプローチしなければドッキングは不可能です。ここで座して待つより、確率は高いです」
エリカはその冷徹なまでの生存本能と計算高さに気圧されながらも、フッと笑みを浮かべた。
「頑固なパーツね、お嬢さん。いいわ、うちの高速輸送潜航艇を1艇、貸してあげる。ただし、水中に潜るならアースアーマーとU7を持っていきなさい。素体では水圧に潰されるわ。リアクターコアハンガーの給電エンジンでアーマー側の拡張バッテリーはフル充電してあるけれど、もし潜航艇の通信システムを中継器として上手くリンクさせられれば、1キロ以上離れた距離からでもハンガーと合体したアーマーを呼び出せるかもしれないけれど……基本は1キロ圏内への突入よ」
数時間後。修復を終え、アースアーマーを装着して巨大なビームシュートライフルU7を携えたガンダムを格納し、輸送潜航艇は南太平洋へと深く潜航していた。
アースアーマーと同調しているため、ルナの精神は「冷徹な兵器(アースリィモード)」だ。コックピットの中で、ルナはチョーカーから流れ込む自律AIのノイズを聞いていた。画面の向こう、海底の岩棚にひっそりと佇む、巨大な廃プラントの影が見えてきた。
だが、目的地に到達する直前、潜航艇のソナーがけたたましい警告音を鳴らした。
『警告:アクティブソナー感知。接近する高エネルギー反応3。識別――ザフト軍水中用MS・グーン、およびゾノ』
ザフトの水中部隊が、放棄されたプラントの調査、あるいはルナの放つ微弱な電波を察知して待ち伏せていたのだ。激しい衝撃が潜航艇を襲い、外壁が悲鳴を上げる。ルナは潜航艇を守るため、ハッチを強制開放し、アースリィガンダムで漆黒の深海へと飛び出した。
しかし、汎用型のアースリィアーマーでは、深海のとてつもない水圧と水の抵抗を相殺しきれない。PS装甲で物理衝撃を防げていても、関節フレームの駆動系や装甲の隙間にかかる猛烈な水圧負荷までは相殺できず、機体各部からギシギシと悲鳴が上がる。OSの水流演算も追いつかず、地上のような鋭い機動性は完全に失われていた。そこへ、水中を自由自在に滑走するグーンのフォノンメーザー砲と魚雷が容赦なく襲いかかる。
ズドォン!
激しい水流と共に砲撃が迫る。ルナはU7を構えて反撃を試みるが、水の壁に阻われて照準がブレる上に、水中でのビーム減衰が激しい。逆にゾノの巨大な格闘用クローがアースリィの盾を弾き飛ばし、先のテストで痛めていた右肩の駆動系に過大な負荷がかかって火花が散った。
「効率的戦闘の継続が困難……くっ……動きが重い……! アースリィではこの水圧に耐えられない……!」
『警告:耐圧深度限界まであと、0.3km』
度重なる肉体調整の反動による激しい頭痛がルナの視界を白く染める。首元のコントロールチョーカーが不吉な赤に明滅し、脳へ強烈な負荷を叩きつけていた。
「ハァ……ハァ……、あと……1.2キロ……!」
固定された中継器もない今、頼れるのは自らの距離感のみ。歪む視界の中で、ルナは歯を食いしばって操縦桿を押し込んだ。狙うは海底の岩棚に沈む廃プラントの直上。自力で1キロの限界線へ飛び込むしかない。
ドゴォン!グーンの魚雷がアースリィの脚部を直撃した。青いPS装甲が火花を散らしてエネルギーを相殺するが、衝撃で機体は制御を失ってプラントのドームへと叩きつけられる。だが、その衝撃で泥が巻き上がる中、コンソールの距離メーターが静かに切り替わった。
『目標との相対距離:980m。起動信号、同調(リンク)――接続』
「……繋がった!」
ルナのディープブルーの瞳に、鋭い光が戻る。彼女の脳波とGコンから放たれた固有の暗号バルスが、1キロの壁を越えて、廃プラントの奥深くに眠る「青い影」へとダイレクトに突き刺さった。
しかし、システムが返す返答は非情だった。旧プラントの防壁ハッチが完全に開放され、内部からアーマーが正常なルートで射出されるには、システム上あと数分以上の時間がかかる。
「効率的プロセスを破棄。最短ルートを構築します」
残るザフトの2機が、動けないアースリィを確実にとどめ刺さんと、左右から急速接近してくる。ルナは右肩の激痛を堪え、アースリィの身の丈ほどもあるビームシュートライフルU7の銃口を、眼下のプラント格納エリアの堅牢な外壁へと向けた。
「――そこを開けなさい!」
Gコンのトリガーを深く押し込む。
ズガァァァァンッ!!!
水中での減衰を考慮してもなお凄まじい、U7の極大の青き光条が放たれた。エネルギーの奔流は深海の水を一瞬で沸騰させ、プラントの堅牢な外壁を文字通り「一撃で融解・破壊」して巨大な穴を穿った。
その凄まじい爆炎と瓦礫を割り裂き、一筋の影が飛び出してくる。ルナの放った信号によって覚醒したマーキュリーアーマーが、リアクターコアハンガーと合体した状態で主の元へと突進してきたのだ。
「コアチェンジ、アーストゥマーキュリー!」
ルナがコンソールを叩くと、限界を迎えていたアースアーマーの各パーツが瞬時にパージされ、マーキュリーがついていたハンガーがそれと合体した。分離したコアガンダムの四肢へ、ハンガーから解放されたマーキュリーアーマーのパーツが次々と引き込まれ、合体していく。
ガシィィン!ガシィィン!
重厚な金属音が深海に響き渡る。機体が鮮やかなマリンブルーとメタリックブルーのフェイズシフト装甲に包まれた瞬間、それまで機体を苦しめていた高水圧の呪縛が、嘘のように消え去った。
メルクワンガンダムが、ここに覚醒する。それと同時に、ルナの脳波同調は「メルクワンモード」――すなわち【静かなる狂気・冷酷な捕食者】の精神状態へと強制遷移した。
「……ふふ。機体制御、完全同調。これより、楽しい排除行動(狩り)に移ります」
チョーカーの明滅が静かな青へと戻る中、ルナの唇が妖しく釣り上がる。彼女はニードルガンを内蔵した水中用ビームライフルを構え、驚愕して動きの止まったザフトの水中部隊へ向けて、ハイドロ・スラスターを爆発させた。
第8話をお読みいただき、ありがとうございました! 第2章『アーマー回収編』最初の目標である、水中戦用アーマー『マーキュリーアーマー』の奪還と、新たな姿『メルクワンガンダム』の覚醒を描きました! 水圧と水の抵抗で追い詰められるアースリィガンダム、そしてU7ライフルでプラントの外壁を破壊して強引に合体するルナの執念を楽しんでいただけましたら嬉しいです。 マーキュリーと同調したことで、ルナの精神は【静かなる狂気・冷酷な捕食者】へと遷移。深海という無音の狩場を舞台に、ここからメルクワンガンダムの反撃(狩り)が始まります!もし「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ぜひページの評価(★)や感想、お気に入り登録をよろしくお願いします!皆さんの応援が執筆の大きな励みになります。 次回『第9話:【Mercuone】深海の水脈 ―冷え切った嘲笑―』もお楽しみに!