嫌われ生徒はその後に好かれても気付かない。 作:ブルーアーカイ部 一般部員
黒髪アス、その男は何処へ行っても不幸なのだ。
────ああ、終わりだ。
もう何も見たくない。何も信じたくない。
何も、何も。
そんな俺を拾ったのは、黒服さんだった。
ボロボロになった俺と、死体となったユメ先輩を回収し、そのまま治療室へと向かわされた。
最後にカレンダーを見てから、約二週間程度。
黒服さんが治療したと言っていた期間は一週間程。つまり僕が遭難していた時間は、一週間程度となる。
たった一週間、されど一週間。
その間に俺は、他の何者にも代え難い大切な人を喪った。
何故あの人が死なねばならなかったのか。何故俺が生きているのか。
人を疑うことしか出来なくなっていた俺よりも、人を信じて人の為に動いていたユメ先輩が生き残るべきだった筈なのに。
ぐるぐると、頭の中は怨嗟に包まれている。
後悔が積もるばかりで、何も進まない。
俺は治療された。………治療されたとは言え、だ。忌々しい片翼はそのまま、俺の体はやはり継ぎ接ぎで簡単に四肢がもげる。
そんな体で何故生きれているのか。こんな体で動けるのなら、ユメ先輩を助けれた筈なのに。
齢14にして運命より与えられた、絶望の現実。
それは的確に俺を突き刺し、心を射殺した。
そして、黒服さんが実験室から出てきた。
ユメ先輩の遺体を回収した後、黒服さんが何かしら弄りだしたのだ。
その結果を、俺は聞く気にすらならなかった。
ただ、黒服さんが持つユメ先輩の亡骸を持った姿を見て完全に理解してしまった。
もう、それだけで十分だった。
「………一応、聞いても良いですか」
「ええ、答えましょう」
「………ユメ、先輩は」
「残念ながら」
ああ、やっぱりか。
しかし、と黒服さんは続けた。
「梔子ユメさんの死体から、微量の神秘を得ることに成功しました。ですので、一縷の望みは僅かながら」
「………そう、ですか」
出来れば、そんな
死んだ人間は生き返らない。それは絶対の真理なのだ。
俺の心と翼も同じだ。翼は片翼へと焼き千切れ、体は継ぎ接ぎだらけになった。
心も同じだ。生まれたその瞬間から、俺の心は壊れていた。
もう、希望はない。
ただ、ユメ先輩の死体を、元のアビドスの位置に置いた。
道はわからないので、なるべく歩いて、そこに置いてみた。
「もう一回、言わせてください。────さようなら、ユメ先輩。俺はきっと
返事は当然ない。ただ、この人ならきっと別れる時に手を振ってくれるだろう。
勿論、俺にそんな気概はない。だから俺は、静かに立ち去った。
そしてアビドス砂漠を抜けた俺は、ブラックマーケットで彷徨っていた。
この地区、広すぎるのだ。2学園分くらいはあるかもしれない。
治安は流石のブラックマーケットである。何処に行ってもチンピラどもに絡まれる。
当然俺には金銭的なものは何一つない。スマホも黒服さんに預けてきたし、それ以外のモノなんて何も持ち合わせていない。
「金出しな、ああ?」
「出せないのか?」
そう、こんなにやられても金は出てこない。
俺は足掻くことすらしない。ただ、立ち去るのを待つのみだ。
首を絞められる。多少不快だが、その程度だ。
「んだコイツ、一言も喋んねぇなぁ」
「ビビってんのか?」
「……何してるの」
不意に、そんな声が響いた。
声の方向を見る───その刹那の隙に、チンピラ達はのびていた。
自由になった首をさすりながら、咳き込む。
この体はそれでも生きようとするのだから、図々しいものだ。
「…………キミ、名前は?」
「…………アス、です………」
顔を上げると、そこには桃色の髪をした小柄な女の子が立っていた。
よく見ると、目が虚ろだった。何処もかしこもボロボロで、立っているのがやっとのようで。
助けてくれたのだろうか、その判断すら曖昧だ。
「………なんで此処にいたわけ。力も無いのに」
「えーっと、色んな人から、お願い事されてて……」
「………お願い事?」
嘘は言っていない。アビドス砂漠に迷い込んだ理由だって、元はと言えばブラックマーケットでしか手に入らない限定品を買ってこいというモノだ。
だいぶ端折りながら掻い摘んで説明したところ、全く興味を持たない桃色髪の女の子は、此方を見下ろしていた。
「ふーん、そう。じゃあ頑張って」
それだけ告げると、彼女は立ち去ろうとする。
…………違和感が、残った。
そう言えば、ユメ先輩が言っていたっけ。
『ホシノちゃんって言ってね!可愛い後輩が居るの!髪色はピンクでね、こうモフーって感じの!』
『何言ってるんですか?』
みたいな会話を交わした気がする。
………適当に理由付けて話してみるか。
「…………なに」
「……あ、あの、お礼したくて。名前を聞かせてくれないですか?」
「は?言うわけないじゃん」
見るからの嫌悪感を剥き出しにして、彼女は此方を
しかし、だ。
『後輩の面倒を見て欲しい』───それが、ユメ先輩の遺した俺への
もし、この少女がホシノと言うのならば、この子も対象内だから。
「そ、そこを何とか」
「………黙って。次に何か話したら、発砲する」
そう言った彼女は、銃口を俺の眉間に突き付ける。
「で、でも─────」
銃声音が、響き渡った。
0距離から放たれ、俺の頭や胴体に散弾し直撃した弾丸は、俺を仰け反らせて仰向けに倒すのには十分な威力だった。
そして、立ち去る音。一歩一歩、不確定に刻む音だけがこの路地に鳴る。
結局俺はその後、すぐさま立ち上がることが出来ずに居たせいでブラックマーケットのありとあらゆる敵意を一身に受けてボロボロの状態で帰還した。
二週間程度、無断不登校していた俺はボロボロの状態で見つかったこともあり、救護騎士団とティーパーティーの代表達に至極ブチギレられた。
それ自体は良いのだ。良いのだが、その後に後回しが繰り返されて、結果的に治療が始まったのはそこから更に一ヶ月が経ってからだった。
俺が退院したのは、総合で二ヶ月後。この学園に戻ってきたのは、二ヶ月と二週間。アレだけ濃密な時間を過ごしたというのに、合計で76日間しか無かったのか。
そうこうしている内に、俺は学園の教室の中に入った。
…………無かった。机は大破損。椅子は脚が、戦術教育BDはパッキリ真ん中から折られていた。
主犯は────なんて考える必要もない。学園の総意だ。
言われてみれば、治療が遅れたのではなかったのかもしれない。
あれは
やはり、この学園は陰湿だ。だからといってゲヘナが良いかと問われたらそれも嫌である。
そもそも、俺が片翼になったのだって、俺の四肢が継ぎ接ぎだらけなのだってゲヘナでの爆発が原因だ。
トリニティではその醜さから嫌悪され、ゲヘナではトリニティだからと非難される。
ミレニアムに行ける学力はなく、アビドスで活動する勇気もない。オデュッセイアやワイルドハントは向いてないし、山海経や百鬼夜行は遠すぎる。
詰んでいるのだ、俺は。
そして、いじめは続いた。
歩くだけで物を投げられる、影から撃たれる。止めてくれるベージュの髪色をした女の子も居たが、それだけだった。
いや、もしかしたら影から守ってくれる人も居たかもしれない。
しかし俺にはどうでもよかった。死ねば死ぬ、生きれば生きる。
まともに授業は受けられず、ただ学園を徘徊するだけになっているのが現状である。
だからこそ、俺は屋上に来ていた。
「………気持ち悪い程、晴れてるな………」
直射日光が俺を照らし、影を生み出す。
そこにはやはり、片翼の姿の醜い男が居た。
これが、俺だ。寸分の違いなど無い、等身大の俺。
「…………確かに、綺麗では無いな」
見れば見るだけ、愚かさに気付く。
始めから間違っていたのだ。人を信じるなんて、人と共に生きるだなんて。
フェンスに腕を置く。チラ見した俺の腕は極限まで痩せ細っており、人ではないようなものに見えた。
必要最低限の骨と肉しかない。脂肪はつかないし、無駄な筋肉の一つもないのだ。
元々痩せている自覚はあった。まともな食事には大抵毒が入っていたから。
俺にとっての安全食は、黒服さんが調理した料理のみ。
だからこそ、俺は普段食事を全く摂っていない。
それでも生きている。今、この人生を終わらせられたら────なんて。
自嘲を繰り返す。
不意に、視線を感じたその時まで。
「……あ、あの……大丈夫、ですか……?」
「………ん?」
声が聞こえた。俺は諸事情によりしていないが、本来ならば今は授業中である。
なら、この人は……?いやそもそも、どうやって此処に……!?
扉は閉めたはずなのだが。
「あの、アスさんですよね?」
「……うん。そうだけど」
「よ、よかったぁ………人違いじゃなかった……」
こっちは人違いな気もするけれども。
と言うか、誰なんだ。顔知らない人なんだけど。
そう言うと、茶髪の女の子はキラキラとした目で僕を見つめた。
「ねぇねぇ!仲良くしよ!友達になろーよ!」
「………ん?」
何なんだこの人。ちょっとあの人に似てるけど、絶対に違うだろ。うーん、難しい。
一体誰なんだ。そう悩んでいると、彼女は自己紹介せずに俺の手を掴んで走り出した。
「まぁまぁ!一緒にカフェに行きましょうよ!」
「ちょ、ちょっと待て。別に俺は付いていくと決めたわけじゃ─────」
猪突猛進。その言葉がここまで合う人も居ないだろう。
その言葉が終わるか終わらないかの内に、俺は引きずられながらカフェへと向かわせられるのだった。
トリニティ近郊、その中心部に近いカフェに堂々と入り込んだ彼女の背中に隠れるようにして、俺は入店した。
正直、金が無い。奢る余裕など無いのだが………連れてこられたのが運の尽きか。
渋々、黒服さんに連絡する。
『わんちゃん金が必要です。助けてください』
『クックック………良いでしょう、言い値で出します』
やはり持つべきものは良い大人だ。学生は頼りにならない、寧ろ敵である。
「……あの、何で俺を呼んだのか聞いても──」
「取り敢えず何か頼みましょー!」
この女、話を聞かない。
「わわっ、限定メニューですって!カップル限定の!」
理解した、この女はこれを食べに来たのだろう。違くてもまぁ良い。食べる相手が欲しかっただけなのかもしれないしな。
そして、なんの迷いもなくそのメニューを選んだ少女は、満面の笑みで俺を見た。
「フリ、してくれますよね!」
「…………はいはい」
さも当然かのようにカップルのフリをしろ、と言いやがったこの女を完全に否定することなど出来ずに、俺はその金額を見て黒服さんへ感謝をするのだった。
人は脆い。
夢の