嫌われ生徒はその後に好かれても気付かない。   作:ブルーアーカイ部 一般部員

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とは言え何かが変わるとかはありません。

着々とアスくんの心理状態が変わりつつあります。温かい目で成長を見守ってやってください。

いつもご視聴頂きありがとうございます!よければ感想などコメントや評価をお待ちしております!




大人の対話(ブラックスーツ)

 

 

 

────目を、覚ます。

 

僕が目を覚ました場所は、不思議な水に浸された、知らない場所だった。

誘拐かと一度考えるも、即座にそれを否定する。

僕は誘拐経験が7回ある。人質に取られたり、普通にサンドバッグにされたり。

 

その度に正実やらC&Cが助けてくれるのだが、如何せん目が合わないのだ。

普通に嫌われてて泣くんですけど。*1

 

とは言え、その経験則からして違うのだろう。

 

体を起こす。するとザバァッと音が鳴り、僕はそこでようやく『水の中に居た』と言う事を理解した。

風呂場のような場所で、僕は浴槽で横になっていたらしい。しかし、そこは血が四散し廃病院を想起させるような、そんな場所だった。

 

いや、別に例えるならば"実験室"のような────

 

「お目覚めになられましたか」

 

……ああ、あの人か。

なら早く声をかけて欲しかったところだ。

 

「黒服さんか。こんにちは」

「クックック……誘拐されて平然としてるのは、全国を探してもあなたくらいなものです」

 

いや、7回も経験している側に何を言うか。

いやまぁ、実は"黒服さんに"攫われるのは今回で初では無いのだ。

 

あんまり覚えていないが前回も同じような場所だった……気がする。

 

 

 

黒服さんは良い人である。

勿論、マッドサイエンティスト味があるのは認めよう。如何にも実験をしていそうな見た目だし、事実小鳥遊さんを実験しようとしていた話はこの目でしっかり見た。

 

ただ、再度言おう。()()()()()()()()()()()

 

 

「起き上がったばかりで申し訳無いのですが……少し、お茶会といきませんか?」

 

この提案、普通に考えたら毒などを疑うところだ。

だが、僕にはそうは思わない。黒服さんがそういう時は、本当に茶会である。

 

「………行くよ」

「ありがとうございます、ではこちらへ」

 

そう言われ、僕はやっと浴槽から出る。すると、服が絶望的に濡れていた。

 

「……重いっす」

「おや、では用意致しましょうか?着替えならば────ええ、そうですね。スーツならば替えがありますとも」

「でしょうね」

 

この人の服装は名の通り、黒服しか無いのだ。葬式か。

なら良い。わざわざこんな日にまで正装になってどうする。

 

そして、やっと会議室のような、それでいて質素な場所に辿り着く。

 

「……あの、他の人たちは?」

「ゲマトリアは既に解散しましたので、他メンバーが集まることは無いでしょう」

 

まぁ知っていたけど、そういうもんなのか。

同業の誼とか無いみたいだ。

 

「…………そう。なら別に良いや」

「…………やはり、そうですか」

 

「何がですか?」

「あなたの態度が、やはり此処と外とで全く違うと思いまして。興味深く思っただけです」

 

………考えてもなかったが、確かにそうだ。

此処では素で居られるのだろう。割り込んで来るとしたら、別世界線のシロコさんくらいなもので。

 

つまり──────生徒が来ない(みんなが居ない)から、か。

 

「……………はは」

「その顔、理由があると見ましたが。是非お聞かせ願えませんか?」

 

「言うと思いますか?」

「いいえ、ただ言ってみただけです」

 

ほら、こういう所。

大人の対応というのは、楽なものだ。

別に卑下するわけでは無いのだが、外の世界は眩しすぎる。僕が居て良いのは此処など、陽が当たらない場所で陰でアレコレするのが丁度良い。

それに学生とは多感なモノだ。高校生〜中学生の年齢が多いキヴォトスにおいて、そこに僕のような異物が紛れ込めば当然に忌み嫌うだろう。

 

それは仕方のない事でもあり、同時に僕もこっち側で安息を取る必要がある事の裏付けなのかも知れない。

ネル先輩の件と言い、最近は学びになることが多いな。

 

そして、黒服さんは茶菓子を出してくれた。

 

「これは………羊羹ですか?」

「ええ。百鬼夜行で売っておりましたので、購入させて貰いまして。一つどうですか?」

 

「そこは一つなんですね」

「言葉の綾、というものでございます。どうぞ、二個でも三個でも」

 

お言葉に甘えて、一欠片を取り出し、口に運ぶ。

柔らかい甘みと、若干弾力のある食感ががその甘さを引き立てていてとても美味しい。流石は百鬼夜行である。

すっきりしている甘さがとても良い。後味が上品であり、他のスイーツよりも僕は好きである。

 

しかし、そこまでにしておく。茶菓子と言うものは、茶を引き立てるものなのだ。

しっかりと緑茶を合わせている時点で、黒服さんは通である。

 

しかもこの緑茶、美味しい部類の奴である。

 

「これも百鬼夜行ですか?」

「はい。残念ながら市販品しか用意出来ませんから」

 

「取り繕わないんだ」

「取り繕ったところで、ですよ」

 

 

僕は静かに納得した。

普段から誰かの目に入らないように意識付けしていたから、気張っていた力が此処で抜けていく感じがする。

 

さりげなく僕を気遣ってくれる黒服さん。

やはり、この人は優しい。実験しようとしていたのが嘘のようだ。

 

「ところで、アスさん」

「なんでしょう」

 

「最近の皆さんの調子はどうでしょうか。以前のような雰囲気は四散し、寧ろ温厚になったように思われますが」

「……確かに、僕たち、最近会ってなかったですもんね」

 

「ええ、生憎なことに。私達はモモトークをしておりませんから連絡も取れないのですよ」

 

最近、か。とは言え、あまり変わっていない。

ネル先輩とアリスさんと遊んだのは約2週間前だった筈であり、そこは最近に含まれない気がする。

なら、この場合はどう答えるのが普通なのか。

いや、ここは正直に答えよう。

 

「………特段変わってませんよ、僕は」

「クックック……あなたがそう仰るのであれば、そうなのでしょう。何せあなたは嘘をつかない。いや、"自分を繕う嘘以外は吐かない"でしょう?」

 

………見透かされていたか。確かに、この場で僕は最年少である(二人きりである。アスは何を言っているのか)。

その通りだ。僕は僕の為になる嘘しか言わない。他の人を貶める気は一切無いし、それでいて関わる気も一切無い。

 

ノータッチ、ノーダメージである。

いやまぁ、現実はノータッチ、ハイダメージだったが。

 

「……でしたら、アビドスに訪れてみたら如何でしょうか」

「アビドス?そりゃ一体何故」

 

「ただの興味本位ですよ。あなたがシャーレとして、始めに向かった土地でもあるでしょう?」

 

………アビドス、かぁ………いや確かに、行ったことはある。

先生に拾われて、一番初めに向かった土地ではある。

『"借金返済の手伝いをしてほしい"』って言うから何事かと向かったら、九億円あって目が飛びでるかと思った。

 

獣人の子二人はチョロかったし、他二人も比較的温厚だった。けど小鳥遊さん────桃髪でオッドアイの人は、一切僕を信頼して無かった。

 

ともかく、そう言う理由で気まずいのだ。

しかも僕は、以前の小鳥遊さんを知っている。ショートヘアの頃の小鳥遊さんを知ってるが故に、僕は今の小鳥遊さんが違和感でしかない。

 

当然かのように嫌われているし。でもまぁ、色々積み重なって大変だったんだろうと納得はしている。

出会い頭に普通に脳天一撃食らったこともあるが。

 

「まぁ、行けたらいきますよ」

「それは"行かない"の様式美ですよ、アスさん」

 

クックック、と笑う黒服さん。毎度のことながら、その笑い方は完全に悪役である。

 

そして茶会は何の滞りもなく終わった。

僕は黒服さんに感謝を伝え、立ち去ろうとした。

その時に、黒服さんは近くの花瓶に供えられてあった二輪の花を、僕にくれた。

 

「………これは?」

「ガーデニアと、クロユリです。綺麗でしょう」

 

………この人が、何の意図もなく渡してくるとは全く思えない。が、何も想像つかないのでそういう事なのだろうか。

 

「………ありがとうございます……?」

 

僕は多少のモヤモヤを抱えたまま、アビドスに向かったのだった。

 

 

 


 

 

 

「…………行きましたか」

 

彼は、非常に興味深い生徒だ。

無論、彼のみが興味深い訳ではない。我々大人には持たざる力である『神秘』を持つ生徒達。

しかし、本来ならばあり得ない強靭的な肉体を持つ彼女達の中に突如として現れたイレギュラー。

 

彼の神秘は、非常に奥深い。

以前眠っている彼の血液を僅かながら採取し、検査したことがある。

 

その神秘の代名詞といえば、ヘイローが挙げられる。

ヘイローとは自らの象徴。変わらない意志の顕現。

だからこそ、彼のヘイローはあの形をとっているのか。

 

──────満月の形をしたヘイロー。

 

嘗て、アビドスの生徒会長がしていたヘイローとは太陽の形をしていたとのこと。

私は大人の男性であるが故に、識別は可能です。ですが、流石に先生のように完全な識別とまではいかないのです。

 

ええ、()()()

 

彼のソレは、逸脱した光を誇っていました。

誰よりも真っ直ぐあるのにも関わらず、その全てがあまりに淡い。

月とは太陽光を反射して在る天体。いわば、誰かの写し身とも言えるのです。

彼の在り方を今一度確認すると、民からのヘイトを集めてしまう役割と言ったところでしょうか。

 

あまりに、一致している。

名の持つ運命とは、果たして神秘と一体なのでしょうか?

 

「………いつか、その光を失わぬよう。それまで私達はあなたを見守るでしょう」

 

その宣言は何処か儚く、それでいて確かな事実を復唱したかのような。

彼の残した想いが、暁のホルス────小鳥遊ホシノさんへどんな影響をもたらすのか。

 

その旅路は、我々の思考を上回る何かと成り得るのでしょうか?

 

 

 

 

 

*1
絶対に泣かないし、泣いたとて嘘泣きである。






ガーデニア・・・和名、『クチナシの花』。花言葉は『幸せ』や『洗練』。

クロユリ・・・和名、『黒百合』。花言葉は『呪い』と『愛』。

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