嫌われ生徒はその後に好かれても気付かない。   作:ブルーアーカイ部 一般部員

8 / 13


Episode0、黒神アスの出生についてです。

重度の曇らせ、嫌われを多分に含みます。


Episode / Zero 黒神アスとはモブである。
生まれた時から孤独だった


 

 

そして()は目を覚ます。

生まれた時には既に、俺は一人だった。

今でも簡単に思い出せる、あの雨の日。

俺はどうしようもない程に一人だった。

 

きっと俺は捨てられたのだろう。幼いながら、その小さな頭を必死に動かして本能的に理解したのは、そんな残酷な事実だった。

 

ざあざあ、ざあざあ。

雨粒の一つ一つが大きく、それでいて冷たい。

それでも、泣くしかなかった。誰かが気づいてくれるまで、孤独に耐えながら。

 

泣き声は雨音にかき消された。居場所はダンボールの中、小さな小さな命はそれでも尚大きな声を出して泣く。

 

 

転機が、訪れた。

その黒い影はゆっくりと僕の方に歩み寄って来た。

 

「………おや。これは珍しいこともあったものですね。まさか、こんな地で赤子に出会えるとは」

 

目の前いっぱいに広がる、黒色の大人。

そしてその腕は、柔らかに俺を持ち上げる。

 

「見た所、トリニティの貴族からの捨て子でしょうか。であれば何も問題無く実現が出来ます」

 

その言葉の意味はわからなかった。しかし安堵から来る涙は止まることを知らず。

 

「そうですね……見た所、名も無いようです。それは辛いでしょう。…………そうですね」

 

 

 

「アス………そう、明日(アス)を祈る意味合いでも込めましょう。名字は後で適当に選ばせましょうか」

 

 

 

俺は黒服さんに拾われた。それは確かな事だ。

あの人は温かかった。衣食住の全てを、俺に提供してくれた。

 

「くろふく、くろふく!見てみて、くろふく描いた!」

「クックック……それはただの黒点では?」

 

………まぁ、例にも漏れず俺は幼稚園児並に成長した。

幼稚園児と言う年齢は、好奇心旺盛になるか超静まるかと言う時期だと言うことはご存知だろう。

 

俺の場合は前者であり、その好奇心が俺を殺した。黒服さんの施設は、当時の俺にとっては退屈で窮屈な場所だった。

 

確かに玩具はある。服もある。食事も出る。

………ただ、刺激が足りなかった。

 

「アス。一般の人には名字と言うものがあるのですよ」

「みょーじ?なまえとちがうの?」

 

「はい。名前の前につく、人との関わりをそのまま表す代名詞的なものです。」

 

今思えば、黒服さんの指導はお世辞にも褒められたものでは無かったのだろう。

しかし当時の俺には、それが充分過ぎた。

 

そして黒服さんは、複数枚の紙を俺の前に置いた。

幼い俺でもわかるように、しっかりとフリガナまで書いてあった。

 

「ん〜……おれはねぇ……これ!」

 

そして俺は、『黒神(くろがみ)』と言う名字を指した。

 

「成程、黒神ですか。……どうして、これを?」

 

「くろふくといっしょー!」

「………クックック……そうでしたか。それは僥倖ですね」

 

俺はその頃から黒服さんに恩義を感じていた。

だからこそ、黒服さんの「黒」が入っている文字を選んだのだ。

 

 

 

─────世界は周る。歳を重ねる。

 

小学生ぐらいにまで成長した俺は、感じていた退屈を自覚して、黒服さんの隙を付いて外の世界に飛び出した。

 

その世界は、とても広かった。見たことのない晴天が俺を待っていてくれた。

爽快に感じたし、その全てを楽しく思った。

ただ、人に会うまで。

 

 

俺は街にも飛び出した。文字が読めなかった為に、俺はその危険信号をフル無視してしまった。

 

『此処から先、ゲヘナ地域。爆発に御注意ください』

 

建物に次ぐ建物。ずらりと並んだその圧巻な光景に、俺は興奮した。

あてもなく走り出した俺は、大通りに出た。

 

瞬間。

 

途轍も無い轟音が、俺を包んだ。その熱に気付くまで、時間はかからなかった。

 

「ぎぁああああああああああ!!!!!」

 

叫び声すら、焼かれていく感覚。悍ましい程の爆発。

まだ子供だったその体は、原型が無くなるまで燃やし尽くされ、四肢が飛ばされた。

 

ただのモノと化した俺の上を、多くの人が通り抜けていく。

それは酷く痛く、痛く、痛く。

 

 

────なんで誰も気付いてくれないの?

なんで誰も助けてくれないの?

 

 

泣きたくても、涙腺は完全に燃え尽きていた。

 

 

 

暫くして、俺は目を覚ます。驚いて自分の手足を見つめる。

そこには、五体満足の自分の体があった。

…………違う。継ぎ接ぎだらけの全身と、翼が片方無かった。

純白な二対の翼は片方が完全に焼け落ち、片方も無惨な羽根になっていた。

 

俺は後悔した。勝手に逃げ出したのが悪かったのだと酷く反省した。

 

「目を覚ましましたか、アス」

「……あ、黒服…………」

 

「勝手に飛び出してはいけないと、何度も忠告したでしょう」

「………はい、ごめんなさい」

 

謝罪は、心の底から響いた。もう二度と、人の忠告は無視しないようにしなければ。

しかしもう、涙は出なかった。涙腺が、無いのだ。

 

 

 

そうして、俺が中学生レベルに成長した時に、母親を名乗る何者かが黒服さんから俺を高額で引き取った。

 

その女に連れられて、俺は一つの家庭で過ごすことになった。

 

「……ねぇ、お母さん。ごはんは────」

「ごはん?その辺の草でも食べてたら?」

 

「………はい」

 

ずっと、こんな感じだった。俺の母もどきは俺を購入したその日から、俺への態度を変えようとしなかった。

 

忌み子か何かだと勘違いしているのか。はたまた、ただの叩けば鳴る玩具とでも思っているのか。

その答えは、わからなかった。

 

「ねぇアス?」

「………なに」

 

「アンタの服、全部売っといたから。あんなボロ雑巾、着る機会無いでしょ?」

 

「…………は?」

「ん?文句ある??」

 

「………無い、です」

 

 

………食事は出ない。服も女に売り払われて一着のみ。

生活音は全く聞こえず、隣の部屋から、女の喘ぎ声と男の誘惑する声だけが聞こえる。

 

ひどくうるさかった。とっても、うるさかった。

 

思えば、その日から俺は反省ばかりしていたのかもしれない。

辛い、悲しい。そんな思いは、女に叩き落とされた。

 

男が捕まえられなくなったのか、女は俺へ虐待を行うようになった。

 

「アンタのせいで!!アンタさえ居なければ!!」

「…………」

 

俺は、その拳を抵抗なく受け入れる。

 

買ったのはそっちだろう。

責任を取ると言ったのはそっちの方だろう。

 

そんな声を挙げると、余計に酷くなるのを知っている。

だから俺は、抵抗を辞めた。

 

 

そんな俺は、体裁でも守れと言われてトリニティ総合学園に転校させられ、俺はその女子まみれの学園に混ぜ込まれた。

 

年齢を考えられた結果、俺は中等部二年からの編入だった。

 

────結果は歴然であり、俺は孤立した。

誰も彼もが、俺を避ける。そりゃそうだ。継ぎ接ぎの体は隠せているが、それでも翼は隠せない。

 

片翼の悪魔(ゲヘナもどき)》、それが、俺に付いた仇名だった。

焼け爛れた俺の翼は、確かにゲヘナの連中の翼と酷似していた。

 

俺はあの一件から、ゲヘナが嫌いになっていた。一方的な悪意だとしても、あのトラウマが俺をそうさせていた。

 

 

 

悪魔とは排外されるべき。

そんな思想が生まれるまで、約2日ほどしか経たなかった。

 

まずは、机へ落書きされた。

『死ね』『消えろ』『ゴミカス』………悪口のテンプレートである。

しっかりと油性ペンで描かれたその文字は、俺の心にも刻まれた。

 

次の日には、ロッカーだった。信じられない程に、全てのものが焼け消えていた。

残っていたのは、塵のみ。体操着や水着、タオルやノート、包帯まで全てが塵となった。

 

流石にティーパーティーや正実に連絡した。しかし、その全てが無視された。

後にわかった事だが、その時は別の犯罪者を圧制しに全員が向かっていたらしく、その対応に正実もティーパーティーも動いていたらしい。

そんなことどうだって良い。大事なのは、来てくれなかったということだけだ。

 

深夜、悲しみに明け暮れた俺は噴水近くに腰掛けた。

深い深い、溜息を吐く。吐露できない秘密も、孤立する要因なのだろうか。

理解できない。幼い時には、黒服さんしか居なかった。

そして、成長してからもあの女しか居なかったのだ。

 

人との付き合い方など、知る由もなかったのだ。

そして中等部3年となった俺に、とある女子生徒二人が話しかけてきた。

 

「ねぇ片翼、アタシこれ欲しいんだけどぉ、買ってきてくんね?金なら出してあげるからさぁ!」

 

「うっわ、パシリ?アンタやばいねぇ」

「良いじゃん、どうせ行くしか無いっしょ?」

 

「…………わかったよ」

 

 

あたかも当然のように、俺はブラックマーケットに足を運ばされた。

ここで何が買えるというのか。それは全くわからない。

 

するとやはり、チンピラが突撃してくる。

 

俺は、死に物狂いで逃げ出す。

 

「おいおいおい!その格好、トリニティのお嬢様じゃねぇのかぁ!?」

「片翼ぅ?ハッ!余計に奪いやすそうだぜ!」

 

「………っ……!!」

 

俺は、なんとか体を動かして逃げ切った。

 

継ぎ接ぎだらけの体は、それだけでも疲弊する。

そうして、がむしゃらに走り続けた。視界すら気にならないレベルで、全力疾走した。

 

やがて、音が戻ってきた。

 

「はぁっ……はぁっ………は………?」

 

そこは、一面一帯の砂漠だった。地図の分布など知らないが、ここは知識として知っていた。

 

 

────アビドス砂漠。

 

しかも、がむしゃらに駆け出してしまったせいで、帰り道すらわからない。

俺は立ち尽くした。どう足掻いても、死ぬことしか見えないだろう。

 

ただ俺は、それでも足を踏み出す。

どうにかしなければ、結局あの人たちに壊されて終わるのだ。

 

だからこそ、足は止めない。

………ああ、虚しいな。

 

 

 

靴の中が、焼けるように暑い。

本物の炎はもっと暑かったが。

 

巻き起こる砂嵐により当たる砂の痛みだけが、俺をこの世界に繋ぎ止めている。

 

 

そうして歩き始めると、急に世界が陰り始めた。

風が荒れ始める。砂が天にまで昇る。

 

「……ああ、アレが……竜巻か?」

 

朦朧とした意識の中でも、命の危機だけは察せた。

 

だから、近くにあった溝の中に身を置くことにした。

すると、そこには明らかな生活跡が。

 

「………ん?誰か………居たのか……?」

 

すると、奥の方から声が聞こえた。

 

「ひぃ〜ん!火が起こせないよぉ〜!」

 

どうやら、火が起こせないで困っているらしい。

覗いてみると────何故か水着姿の女性が居た。

 

「………あの………」

「ふぇっ!?だ、誰……!?」

 

「あ、えーっと……その……」

「………もしかして、あなたも迷子……?」

 

「………はい」

 

その後、なんとか服を着れた女性が、僕と対面に座った。

 

「ごご、ごめんねぇ……あんな所見せちゃって……」

「いえいえ。別に気にしてませんよ」

 

一息吐いて、改めて姿を見る。ミントグリーン色の髪をした、何処か発育の良い女子生徒。

 

見たことのない制服をしているので、辺境の学校だろうか。

 

「………軽く、自己紹介でもしましょうか」

「じゃあ私から!梔子(くちなし)ユメって言います!アビドス高校の3年生なんだー!」

 

「……アビドス高校………ああ、あの人口二人の」

「うぐっ……的確に刺された気がする……」

 

「的確に刺したんですよ」

「酷いぃ!?」

 

この喧しい人は、ユメと言うらしい。

………ん?高校?

 

「…………先輩だった………」

「えっ、えっ!?見た目すっごい同学年っぽいのに!?」

 

「はぁ………トリニティ総合学園中等部3年、黒神アスです」

「トリニティ!?あのお嬢様学校の!?」

 

「……まぁ、はい」

「すっごーい!」

 

────ああ、綺麗だな。

 

純粋に、そう思った。この人はきっと強い。

アビドスなんて、誰からも捨てられた土地の筈だ。

なのに、ここまで無邪気に居られる強さ。

それは、単純な武力では得られない力だ。

 

「……ーい、おーい!聞いてる〜!?」

 

「………ん?聞いてましたよ、花って咲きますよね」

「全然違うし当たり前のことを言ってない!?」

 

「………ふっ」

「あーー!!笑った!笑われた!」

 

「嬉しがるのか、悔しがるのかどちらかにしてくれ……」

 

 

そして、俺は梔子さんと共にこの夜を過ごすことになった。

どうやら砂嵐は一日で止むこともあれば、そのまま2週間近く吹き荒れることもあるらしい。

 

自然とは随分変則的なものだ、と勝手に悟りを開いた。

そうして、風呂のために俺は火を起こす。

その辺の木々と、乾燥したこの地域だからこそ枯れ木が僅かながらある。

それが救いだった。摩擦により火を起こすことに成功した。

 

「わぁ!アスくんって火を起こせるの?」

「……まぁ、多少は。こう言うのって原理があるんで」

 

「凄い、私は学ぶ機会が殆ど無かったからなぁ……」

 

………そう言えば、そうだった。アビドス高校は多額の借金があると、話を聞いたばかりではないか。

 

「……すいません、デリカシーが無かったですね」

「ううん!これは、私が選んだ道だから、大丈夫!」

 

「………そうですか」

 

やはり、この人は……強い。

他の道もきっとあっただろうに、敢えてこの道を選んだのだ。

本当に、この人は………

 

とか普通に尊敬してたら、梔子さんは急に脱ぎ始めた。

 

「………え、ちょっと。僕まだ居るんですけど」

「んー?非常事態だし、良いって良いって!ささ、一緒に入っちゃおう?体を拭くだけだし!ほら、中に水着着てるからさ!」

 

…………過ごしてみてわかったことがある。

この人、だいぶ天然である。

 

「……そういう問題じゃなくてですね……」

「?」

 

ダメだこの人絶対に理解してない。

そもそも、男女が近くに居て肌を露出させること自体が間違っているのだが……

 

僕は必死に目を逸らして瞑った。

 

「はい、拭き終わったよ!使う?」

「………良いです」

 

本当にこの人は……天然だ。

いや、天然なのか…?

 

 

なんて事もあり、砂漠は寒いからと言う理由で背中合わせで寝る事になった。

梔子さんの背中はとっても暖かく、それでいて包容力を感じられた。背中なのに。

 

「………ねぇ、アスくん」

「……なんですか」

 

「……ううん、何でもない」

 

何かを包み隠した梔子さんは、そのまま安らかな睡眠に入ったのだった。

僕も、目を閉じる。まだ砂嵐は舞っているが、それでもこの溝の中だけは静かだった。

 

 







大体本編の十三年前〜二年前くらいです。
ユメ先輩が生存しているので、ホシノはまだ一年生の頃ですね。
アスが中等部3年、ユメが高校3年なので、年の差は4歳です。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。