―――都市伝説。
それは一種の願望である。
数多の都市伝説。
その一つに、こんな話があるのを聞いたことはあるだろうか。
ただ一度も敗北はなく、空前絶後の記録を刻み。
あらゆる大会の頂点に降臨する正体不明のプレイヤー。
アカウント名が常に空欄ゆえに、通称
勝つことが不可能とまで言われる
「くそ……。“
「……
「……別に、みんな知ってる噂程度だ。敗北実績を消すハッカー説。開発スタッフが様式美として、空欄の名前を使っている説。超凄腕の
「……あんたたちには言ってなかったわね……」
「あ?」
「不正ツールを使ってたのは……私達のほうよ」
「―――な……」
「相手は“
―――こうして噂は更に加速していく。
「あぁ~~。どんな素敵な王子様かしら!」
「……本当に一人なら、ただの廃人だと思うけどな」
都市伝説。
それは一種の願望だ。
―――現実はだいたい一番つまらない答えが真実だから……。
「な、なんとか勝てた―――。つか」
兄―――「
童貞・コミュ障・ニート・ゲーム廃人。
「
「……おなかすいた、から」
妹―――「
不登校・コミュ障・ヒキコモリ・ゲーム廃人。
「……にぃも食べ、る?」
「おま。また、そんなブルジョアな兵糧買ったのか!」
「……栄養だい、じ」
「知ってるか妹よ。人間の脳はブドウ糖さえあれば機能する。「食パン」がカロリー栄養コスパ共に最強」
「……効率厨おつ……」
「つか今、何時だ?」
「……夜中、八時」
「朝八時を夜中とは斬新な表現だよな妹よ。―――で、何日の?」
「四日、目?」
「いや妹よ。徹夜した日数じゃなくて、何月の何日よ」
「……ニートのにぃに関係ある、の?」
「あるよっ!? イベントとかランク大会とかっ!」
「……ふわぁ。ねむ、い」
「え。ここで寝るのっ!?」
「……にぃ、なら出来、る。……ふぁい、と 」
―――そう、これが……
「うおぉぉぉ。掛かって来んかい、散兵どもぉっ」
「ZZZ……」
都市伝説が生まれる理由。
世界は混沌で理不尽で不条理で―――、意味などありしない。
それに気づいた者。
認めたくない者の切なる願いから生まれる願望。―――すなわち。
少しでも世界が面白くあればと。
―――では一つ。
“僕”もそれを手伝ってみよう。
さしあたって様式美として、書き出すとしよう。
“こんな噂を聞いたことがあるだろうか”と
「……にぃ。メール……」
「広告だろう。ほっとけ」
「……友だち、かも」
「……。……誰の?」
「……。……にぃ……の?」
「ははっ、おかしいな。愛しい妹にひどい皮肉言われた……幻聴か」
「……しろの……って言わない、理由……察して……欲しい」
―――【新着一件―――件名:『 』達へ】
「……にぃ、メール……PCで……みて……」
「ん?」
From: unknown
Title:
君ら兄妹は生まれる世界を間違えたと感じたとはないかい?
http://www.unknowntheworld/nextpage/20……
「なんだこれ……。―――つか、何で
……対戦依頼、取材依頼、挑発に中傷。
まあ、よくあるが……。
俺らの正体を知っている奴は、
駆け引きのつもりか?
「面白いじゃねぇか」
カチッ
「……あ? ふつーの……遊戯王?」
「……ふぁふ、おやすみ……」
「ちょ、待って! 遊戯王は白の担当だろ!? 相手が高度なプログラムなら俺じゃどうにもならんぞっ!」
「うぅ……」
遊戯王は二人零和有限限定完全情報ゲーム。
運が介在する余地がないこのゲームは原理上明確に必勝法がある。
ただし、十の百二十乗。
無量大数以上の局面すべて、把握できれば、だ。
「……遊戯王なんて……ただの……
『デュエル!!』
白
LP:8000
手札:5枚
???
LP:8000
手札:5枚
(……そう。グランドマスターを破ったプログラムに、
「うそ……」
白
LP:100
手札:1枚
エルシャドール・ミドラージュ
エルシャドール・シェキナーガ
エルシャドール・ネフィルム
エルシャドール・エグリスタ
エルシャドール・ウェンディゴ
伏せ:2枚
???
LP:8000
手札:0枚
大逆転クイズ
墓地
超電磁タートル
ネクロ・ガードナー
ネクロ・ガードナー
ネクロ・ガードナー
黄泉ガエル
終焉のカウントダウン
「……このままじゃ負けるな」
「……そ、そんなこと……っ」
「落ち着け。相手は……“人間”だ」
「え……」
「プログラムは常に最善手を打つ。だがこいつはあえてLPを犠牲にして、白の悪手を誘った。まんまと罠にかけられたな」
「……うぅ……」
「白を追い詰める人間とは信じ難い話だが―――世界は広いな。揺さぶり、誘いは俺が読む。単純な勝負の力量なら白が負けるはずがない」
コレが。
数多の大会で世界ランキングのトップを独走するゲーマのからくりだった。
「
―――そう、これが。
ユー・アー・ウィナー
「な、なんとか勝てたな……。すまん白、負けを覚悟しそうになった……」
「……こんな強い、人……。はじ、めて……」
「ああ。一体どんな奴―――」
【おみごと。それほどのゲームの腕前―――。さぞ―――生きにくくないかい?】
そのたった一文で。
二人の心境は―――氷点下まで下がった。
【君達は、その世界をどう思う?】
どう思うかだと……?
―――楽しいかい? 生きやすいかい?
……そんな、の決まって……る。
『クソゲー』
七十億ものプレイヤーが好き勝手に手番を動かす。
ルールも目的もないくだらないゲーム。
勝ちすぎても、負けすぎても、ペナルティ……
黙れば圧力で、喋れば疎まれる。
クソゲーじゃなきゃ、なんだってんだ?
【―――もし遊戯王で全てが決まる世界があったら。目的もルールも明確な盤上の世界があったら】
【どう思うかな?】
「なるほど―――。そんな世界があるなら、確かに俺らは、生まれる世界を間違えたわけだ」
刹那、ブレーカーが落ちたように、バツンと音を立てて部屋の全てが止まる。
「な―――なんだっ!?」
『
もはや画面以外の、部屋の全てが砂嵐に呑まれる中。
唐突に、白い腕が生える。
『―――君達が、生まれるべきだった世界に!!』
そして―――。
『な……!?』
そこは―――上空だった。
「ようこそ、僕の世界へ!!」
壮大で、異常な景色を背後に、落下しながら『少年』は腕を開いて笑う。
「ここが君達が夢見る理想郷。【盤上の世界】ディスボード。すべてが遊戯王で決まる世界―――。そう―――人の命も国境線さえもッ!」
「待て待て待て、それどころじゃねぇ! 何がどうなってる!? なんで俺ら紐なしバンジーしてんだ!」
「……あ、あなた。だ、だれっ」
「僕? 僕はね~~。あそこに住んでいる」
だが相変わらず楽しそうに笑って、少年が言う。
「わかりやすく言うなら―――
「だから、それどころじゃねぇ、つってんだろう。地面が迫―――」
そんな二人に、神を名乗る少年は、楽しげに告げる。
「また会えるのを期待してるよ。きっとそう……遠くない内にね」
―――そうして、二人の意識は暗転した。
「う……うーん……。な、なんだったんだありゃ……」
「……うぅ。変な、夢」
「白……嗚呼、妹よ。あえて口にしなかったのに、“夢じゃないフラグ”たてないでくれよ」
「……う、うぅ」
そこには、ありえない景色が広がっていた。
「……。なあ、妹よ」
「……ん」
「人生なんて、無理ゲーだ。マゾゲーだ。何度となく思ったが」
「……うん」
「ついに“バグった”」
「もうなにこれ、超クソゲぇ……」
こんな噂を聞いたことがあるだろうか。
あまりにゲームが上手すぎる者には、ある日メールが届くという。
本文のURLを踏むとゲームが始まり、そのゲームをクリアすると―――異世界へ誘われるという。
そんな『都市伝説』。
あなたは信じますか?