愛の天使~アブラエル~   作:匿名

1 / 4
天使が空から降ってきた!!

 変哲も無い日常。

 私の水平線のような日々は変わり映えのない、青空のようだった。

 

 雲がひとつ流れたら、鳥が歌って、燦々と煌めく太陽の光が目に痛くて、アスファルトから昇る陽炎が肌を焼く。

 

 そう、そんな変哲もない日々だった。

 空から天使が降ってきたあの日まで。

 

 

 これは私が高校一年生に体験した、本当の話だ。

 

 ◇◇◇◇

 

 あの日はやけに透き通った日だった。

 学校に行くのが億劫で、暑さにやられて、初夏の香りがどこまでも続いていた。

 

 遅刻はしたくなかったから、家を早く出たけど学校に向かう足は、鉄の重りが付けられみたいに重い。

 まだ、時間に余裕がある。

 少しだけなら寄り道しても大丈夫だろう、と近くの公園へ向かうことにした。

 

 新緑の影が揺れて、草木の匂いに呼吸は混ざっていく感覚は世界と同期。抱えていた気だるさは、ほんの少しだけ風の中に混ざっていく。

 

 手入れのされていない公園は草は無法に伸びて、ブランコには蔦が絡み付いている。

 もはや、森みたいな公園で、どうしてこんなになるまで放置されているのか不思議ではあるが、もういい歳で遊ぶこともないし、どうでもよかった。

 

(うへえ……草が腕に絡みつくぅ)

 

 草を掻き分けて、公園の中を散策しているとコツン、と何かにぶつかる。

 最初は石にぶつかったのかと思ったけど、よく見てみると、背中から純白の羽根をを生やした天使だった。

 

 黒のグラサンらしきものをかけていて、髪は白髪で、華奢な体型をしていた。見た感じは男の人っていう感じだ。

 

 気を失っていたようだけど、私が意図せず蹴ったことによって「うぅーん」と目を覚ます。

 

「ハッ! ここが地球!? 地球〜! うぃー!」

 

 謎にテンションが爆上がりしている天使はガバッと飛び上がり、訳の分からないダンスとも、舞とも言い難い何かを披露し始める。

 

 声は低めで、こんな声のヤツが、こんなハイテンションなのは変な違和感を覚えてしまう。

 

(こんな変なやつが……空から落ちてきた天使?)

 

 本の中で見た天使とは似ても似つかない、ハイテンション天使は、夢を壊すには十分すぎる破壊力を持っていた。

 変な人に会ってしまったから、バレる前に退散しようとしたのだが、ハイテンション天使は私に気付いてしまう。

 

 視線と視線がバチッと合い、獲物を奪い合う獣のように対峙する。

 

「キャー! 見てたなら早く言ってよ! 踊っているところ見られちゃったわ!」

「……勝手に踊り始めたのはそっちじゃないですか」

 

 オカマ口調で、裸でもないのに、体を隠すような仕草をして、頬を赤らめるハイテンション天使は気持ち悪いという他なかった。呆れ返って、天使という非現実的な存在にもすぐに適応してしまった。

 いや、適応しなければ頭がおかしくなりそうだった。というほうが正しいのかもしれない。

 

「やめて! 正論痛い!」

「やかましい……」

「やかましいってなによ! 悪口!? 悪口でしょ! それ!」

 

 ハイテンション天使じゃなくて、クソうるさ天使って言った方が正しいかもしれない。ギャーギャーと騒ぎ立てて、私の中にあった天使像がどんどんと砂のように崩れていく。

 

「もうそれでいいですよ」

「諦めるなよ、もっと歯向かってこいよ」

「クソめんどくさい天使だな……」

「あっ! 本音! 本音出てますよ! 本音が!」

「本音も出るでしょ、こんな天使を前にしたら」

「天使って呼ばないで! 私はアブラエルっていう立派な名前があるの!」

「油売る?」

「アブラエル!」

 

 クソうるさ天使は、アブラエルという名前らしい。

 とてもじゃないが、天使らしい名前とは言えない。

 なんだ、アブラって。

 

 でも、私はそのことを指摘する気はなかった。したら、また騒ぎ出して心身がすり減りそうな気がしたからだ。

 

「えーっと。その、天使であるアブラエルさんはなぜ地球に?」

「え? いや、それはそのね。神様と喧嘩したら、普通に下界に行け! って言われちゃって。てへぺろ」

 

 アブラエルは舌を出して、サラッととんでもないことを言う。

 

「それって……結構やばいんじゃ」

「結構やばいところか、普通に追放されてるしね。俺」

「いや、なんでそんなケロッとしてるんですか」

「なっちまったもんは、もうどうしようもねえよ。刹那的に生きるしかねえ」

 

 アブラエルは黒いグラサンをカチャリと指で動かす。青い空を仰ぎ、それっぽいことを言うが、何もかっこよくはなかった。

 

「ええ、神様と喧嘩って。不良天使なんだ」

「まあまあ、下界……地球にはずっと来たかったし、デメリットばっかりじゃないさ」

「前向き」

「天使だからね」

「関係ある? それ」

「あるかないかで言うと、部分的にそう」

「ダメだこりゃ」

「まあ、カッカッカするなよ、薫」

「いや、カッカッカッしてないけど……って、なんで私の名前を!?」

「腐っても天使だぞ。下界の人の名前は全員覚えているよ」

「油売るさん……本当に天使なんですね」

「アブラエルな。やめろよ、それじゃあ道草食ってる不良天使みたいだろ」

「不良天使だろ」

「あ、そうか。よぉーし、地球暮らし満喫するぞぉー!」

「って、私学校に行かなくちゃ!」

「不良学生だ」

「黙れ! 不良天使! 私は学校に行く! じゃあね!」

 

 私はすっかり学校に行くことを忘れていた。

 アブラエルとかいうハイテンションクソうるさ天使のせいで、時間を食ってしまった。

 

 きっと、今から行っても遅刻だ。

 

「あぁ〜! もう最悪だ〜!」

「いや、それな?」

「なんで着いてきてるんだよ!」

「行くあてもないから、俺も学生生活満喫することにしたんだよなあ!」

「もう勝手にしろよ!!」

「許せ……」

 

 何故だか並走するアブラエルにそう吐き捨てて、学校へ走り出す。




ではまた。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。