探偵助手ノ魔女裁判   作:ただのミステリー好き

1 / 2
 初投稿。
 


幼き日の夢

 いたい。

 いたい。

 いたい。

 

 それは、傷付けるためのものではなく、ただ痛みを与えるためだけの動きだった。

 

 あつい。

 あつい。

 あつい。

 

 少女を見下ろす大人は愉悦の笑みを浮かべていた。

 

 なんでわらっているんだろう。

 ひとをたたくことはうれしいことなのかな。

 

 なにも知らない少女は心に疑問を抱いた。でも、聞けばまた叩かれることは理解していた。

 

 あついのもいたいのも、もうどうでもいいか。

 

 表情を変えない少女に飽きたのか、大人は舌打ちをして部屋へ戻っていった。

 

 大人がドアを閉めたのを見ると、少女はすっと立ち上がった。そして、そっと瞼を撫でる。この目を見ると大人達は少女を叩こうとするのだ。

 

 わたしはなにもしてないのに。みんなこの目をみると【赤く】なっちゃうんだ。

 

 少女は自分が傷付くことはとうに気にしなくなっていた。ただ思ったことは自分が【赤く】したせいで殴られる他の子達。

 

 こんなもの、なければいいのに。

 ぜんぶ、この目のせいだ。

 

 そのとき、少女は思い出した。

 カッターは危ないことに使ってはいけない、といわれていたことに。危ないことに使ってはいけないということは、危ないことが出来るということに。

 

 そうだ。

 目をなくせばもうだれも【赤く】ならないんだ。

 

 思い立ったが吉日、少女は工作室に向かって行った。

 

 工作室の棚、その天板の上にあるかごのなかに、カッターはあった。

 

 少なくとも、少女の手では届かない場所に。少女は顎に手を宛て僅かに逡巡した。

 

 まあ、だれかくるまえにおわらせればいいか。

 

 少女は体の全体重を掛けて、棚に向かって体当たりをした。

 

 かごの中にあった数本のカッターが落ちて、がしゃん、と大きな音が広い部屋に響いた。

 

 こちらに向かって来る足音が聞こえた。

 

 それを無視して、少女はカッターを手に取り、じりりと刃を出した。

 

 そして、刃先を左目に添えて………

 

「なにかありましたか!」

 

 大きな声に驚いた少女はぎゅっと目を瞑り、そのまま瞼に刃を突き立ててしまった。

 

「っ!!」

 

 想定外の痛みが脳に衝撃として伝わり、少女はカッターを取り落とした。

 

「おや?大丈夫ですか?」

 

 青髪の少女が近寄り、ぺたりと座り込んだ白髪の少女の顔を除きこんだ。

 

 白髪の少女は片目から血を流しながら、顔を上げた。

 

「なんで、きたの」

 

「大きな音が聞こえたからですね!」

 

こなきゃよかったのに…

 

「なにか言いました?」

 

「なにも」

 

「というか、なにしようとしてたんです?自傷?」

 

「部分的にそう。詳しくはちがう」

 

「ではなにを?」

 

 白髪の少女は自らの左目を指差した。

 

「これをなくしたくて」

 

 ふむ、と青髪の少女は呟いた。

 

「なにかあったんですか?」

 

「………うん」

 

 そんな少女の様子を気にしたのか、青髪の少女は少し心配そうな顔をした。

 

 そして、なにかを思い出したように手をぽん、と叩いた。

 

「そういえば怪我してましたね!」

 

「今?」

 

「今思い出しました!医務室でいいですかね?」

 

「まあ」

 

 白髪の少女がそう答えると、青髪の少女はひょいと紙でも持ち上げるようにお姫様抱っこをした。

 

「ひゃっ//」

 

 白髪の少女が恥ずかしがるような声を上げたが、抱っこした側は気にしていないようだった。それが悔しかったのか、少女はぷいっと顔を背けた。

 

 廊下には誰もいなかった。それほど珍しくはないが、青髪の少女と二人きりなのだと思うと、少し冷めてきた顔がまた熱くなってくるのを白髪の少女は感じた。

 

 白髪の少女がちらりと目を向けると青髪の少女の綺麗な顔が目に入り、見惚れていると花が咲いたような笑顔が返ってきた。

 

(……かわいい)

(……かわいいですね)

 

 どちらも相手に惚れかけているのだか、自覚はないのか始めての感情に困惑している。

 

 と、そんなふうにしているうちに、二人は医務室に着いていた。

 職員はいないのか消毒液とガーゼなどの繊維の匂いがした。

 

「ちょっと待っててくださいね」

 

 白髪の少女を備え付けのソファに座らせ、棚から消毒液や包帯などを取り出し、少女の隣に座った。

 

「目、閉じててくださいね」

 

「うん」

 

 先ず垂れていた血を拭き取り、傷口を消毒していく。その小慣れた動作から、処置が何度も繰り返されてきたことが窺える。

 

 そのまま左目に包帯をしゅるしゅると巻き、一旦の処置は終わったようだった。

 

「開けていいですよ」

 

「ありがと」

 

 ゆっくりと目を開け、視界を確認した。正面はほぼ問題ないが、やはり左側が見えない。

 

 精神的に疲れたのか、少しぼーっとしてしまっている。白髪の少女が虚空を眺めていると青髪の少女が話しかけた。

 

「そういえば、名前言ってませんでしたね!私は橘シェリーです!」

 

「ああ、うん。瀬戸キッカです。よろしく」

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

 そういって、シェリーはキッカの手を握り、ぶんぶんと上下に振り回した。

 

 これが、未来の探偵とその相棒の出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




 シェリーちゃん、誕生日おめでとう。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。