探偵助手ノ魔女裁判 作:ただのミステリー好き
前話の続きはお待ちください。
牢屋敷の探偵助手
目が覚めると。見慣れた天井ではなく、石造りの壁と鉄格子が目に入った。
⋯⋯牢屋か?
昨日の夜はきちんと自宅のベットで寝たはずだが、どうしてこのようなところにいるのだろう。夢遊病を患ったような記憶もないし、拉致された、ということだろうか。
他にもいくつかの牢に人がいるようで、怒号などが聞こえてきた。伝わってくる感情は焦り、怒り、困惑などだ。
「あっ、⋯こ、こんにちは⋯⋯」
上から挨拶が聞こえた。
「ああ、こんにちは」
声の主は、修道女のような服装をした少女だった。おどおどとして、なにかに怯えているようにみえる。
珍しい服装だ、と思ってまじまじと見ていると、自分の服装が変わっていることに気付いた。
丈の長いコートに中折れ帽という、探偵よりもドラマなどで見る刑事に近いような装いだ。
「あっ、あの、⋯⋯その包帯は⋯怪我、してるんですか?」
彼女が私の左目を覆う包帯に注目して言う。やはり目立つなあ。
「怪我をしているわけじゃない、が⋯⋯どう言ったものか⋯」
説明に窮して、軽くこめかみを掻く。
最低限だけ伝えよう、と口を開いたところで、ジジ、と音が聞こえた。
音が聞こえた方を振り返るとモニターがあり、そこにはフクロウのようなものが映っていた。
「あ⋯⋯もしもし⋯⋯映像って見えてます⋯⋯?なにせ古くて故障が多いので⋯⋯やれやれ。私、ゴクチョーと申します。詳しい説明がしたいので、ラウンジに集合してください」
草臥れた中間管理職みたいなフクロウなんているんだなあ。無感動にそう思った。
「監房の鍵を開けますので、看守の後についてきてください。抵抗とかは自由なんですが⋯⋯命とかなくなっちゃうので⋯⋯はい⋯⋯」
かなり物騒な言葉が聞こえたが、まあそういうこともあるだろう。
その看守とやらはどこにいるのだろうと監房の外を見渡してみると、大きな鎌を持った巨体が見えた。ずるずるとひきずるような音が近付いてきている。
言われた通り鍵は開いていたので通路に出た。私達のいた監房が一番奥のようで、すぐ右が壁になっている。
「けほっ、けほっ」
喉になにかが引っ掛かって小さく咳き込む。
ここは地下なのか薄ら寒いうえに埃っぽい。早めに出た方がいいだろう。
「咳⋯⋯大丈夫ですか⋯⋯?」
先程の彼女がまた心配したような表情で見てくる。
「大丈夫」
余り心配させるのも悪いのでそう言っておく。悪化しないことを祈ろう。
通路には私と同じぐらいの歳頃の少女達が居た。ここに集められたのは恐らく私含めて14人。
なんの目的は知らないがろくなものじゃなさそうだ。少し警戒を強める。
「ヒロちゃん!」
大きな声が聞こえ、反射的にそちらに注目する。
どうやら口論かなにかが起きているようで、片方の黒髪の少女から憎悪を感じる。
止めに入ろうかと一歩踏み出したところで、話しかけた側の少女が突き飛ばされ、地面に倒れた。
それを黒髪の少女は色濃い嫌悪の表情で睨み、先に行った。
桜色の少女はじっとその背中を見つめたまま立ちあがり、また追いかけていった。
他の少女達も看守についていくようで、私もそれに倣う。
階段を上ると、この建物の玄関ホールであるらしき場所に出た。
ここは歴史のある屋敷のようで、豪奢ではあれど古びた壁が積み重ねられた年月を物語っている。
そこから少し歩いて、ラウンジの扉を潜った。私より後ろにいた数人も中に入ったようで、扉の前に看守が立つ。全員が集まったようだった。
ラウンジを見渡すと、見慣れた青髪に視線が止まった。我が相棒も巻き込まれているようだ。
目が合った。
驚いたような表情をして、体を弾ませながら近づいてくる。
「キッカさんも連れて来られてたんですね。なんだか安心しました。」
そう言っていつものように笑うシェリーを見ると、胸の奥が暖かくなったような気がした。
「ああ、君がいてくれてよかったよ。」
君の傍だけが私の居場所だから。シェリーがいなければ私の生きる意味なんてないのだ。
そんなことを思いながら私は微笑んだ。傍から見れば、ただ再会を喜んでいるようにしか見えないだろう。
「では、他の方にもお話を聞いて来ます!」
「そうか、いってらっしゃい。」
私がそう言って手を振ると、シェリーもいってきます!と言いながら手を振り返した。
シェリーを見送った後、部屋をよく観察してみることにした。
僅かな灯りしかなく端の方は暗くて見えづらいが、暖炉と山羊かなにかの頭蓋骨、そして矢の装填されたクロスボウに視線が向いた。
凶器になりうるとして、注意しておくべきか。
視界の端ではシェリーが桜色の少女の手をぶんぶんと振っていた。痛くないだろうか。
物の配置を楽しそうに弄っている少女、草臥れた溜め息をつく少女、本音を取り繕うように妖艶に笑う少女。
随分と個性的な面子だ。選考の基準でもあるのだろうか。
そんな風に眺めていると、天井付近の通気孔からバサリと空を裂く羽音が聞こえた。反射的に、そこに視線が向く。
そこには、先程のモニターに映っていたフクロウのようなものがいた。
「改めまして……この屋敷を管理しているかわいいフクロウ、ゴクチョーと申します……。定時とかもあるので、さっさと説明していきますね。」
かわいい…?人の感性を否定するわけではないが、些か無理があるのではないだろうか。
……ゴクチョーの説明を要約すると、私達は危険な魔女になる可能性があるとしてこの牢屋敷に収容され、魔女化すると看守のような異形に【なれはて】てしまうらしい。
相棒はともかくとして、私が世界にとっての悪だというのは納得できる。
……それに納得できていない少女もいるようだが。
黒髪の彼女からは先程よりも強い殺意を感じる。外付けのものも混じっているような気がするのだが、これが魔女因子とやらなのだろうか。
今すぐにでも飛び出しかねない様子だ、一度落ち着かせた方がいいだろう。
「間違いです。私は悪じゃない。」
彼女は感情を剥き出しにしてゴクチョーに訴える。
「私はいつだって正しく生きてきた。禍をもたらす魔女なわけがないだろう!ふざけるな!」
そう言って、彼女は暖炉脇の火かき棒を手に取った。
フラッシュバック。狂った怒声と振り上げられた凶器。目の前で振り下ろされたそれに、私は―――
ああ、止めないと。
大きく踏み込んで、彼女の手首を掴む。そのまま下に思いっきり引っ張り、体勢を崩す。
「ッ!?」
左目を覆う包帯をずらして、両目を合わせた。
「君は今、正気ではない。少し落ち着いた方がいい。」
【魔法】を発動し、感情の色を落としていく。魔女因子とやらまでは落とせないが、一旦は落ち着いてくれるだろう。
「あ、ああ、すまない。」
我に返ったのか、覚束無いながらも言葉を返してくれた。
先程殺意を向けられていた看守は大鎌を構えていたが、落ち着いたのを見て構えを解いていた。
「あの、今回は見逃しますが⋯⋯反抗するようなことはやめて下さい⋯⋯さっきも言いましたが看守が殺しちゃうこともあるので⋯⋯」
あのまま眺めているだけだったなら、きっと彼女は殺されていただろう。ゴクチョーの発言からして、看守はそれを実際に行うだけの力がある。
安堵の息を吐いて、緩んだ包帯を巻き直した。
次話はなるべく早く投稿できるよう頑張ります。