機動戦士Gundam GQuuuuuuX Over the Rainbow   作:虚無の魔術師

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一回投稿したけど展開の見直しで取り消してたので、ある程度纏ったから再投稿します。お騒がせして申し訳ないです!


プロローグ

『逃げろ!コロニーに■■■が流されたぞ!』

 

『本当に、■■■が!?同じスペースノイドを、どうして!』

 

『俺達が知るか!……■■■の奴等!ふざけやがって!』

 

 

────故郷だったコロニーは滅ぼされた。同胞であるはずの者達に毒を流し込まれ、戦略兵器へと利用された。我々は覚えている、家族の亡骸ごと消え去った故郷を。それを奪い去った敵への憎しみを。

 

 

『お、お兄ちゃん!』

 

『■■、お前は先に脱出するんだ。俺は、父さんや母さん達を探して連れてくる。必ず迎えに行くから────生き延びるんだ』

 

 

────家族は失った。優しかった両親はコロニーに充満した毒ガスにより殺され、妹は戦火に巻き込まれて死んだ。我々は忘れない、苦悶と絶望のままに死んだ両親と妹の顔を。見たこともないはずの、彼等の怨嗟を。

 

 

『────さて、■■■により行き場を失った子供たちよ。私達は、君達に力と機会を与えようと思う。君達から全てを奪った、憎き■■■────ジオンへ復讐する力を』

 

 

我々は────忘れない。ジオンへの憎しみを、ジオンへ怨恨を植え付けた、彼等の所業を。何度も切り刻まれた肉体の痛みを、無理矢理埋め込まれた機械の異物感を────使い捨てられるように、殺されていった同年代の少年少女たちの死に様を。

 

 

憎い。憎い憎い憎い憎い。

ジオンが憎い、連邦が憎い。何もかもが憎い。その激情を、忘れたことはない。にも関わらず、気持ち悪かった。自分のものではない感情を、無理矢理刻み込まれた感覚が。頭の内から離れない。

 

痛みと苦しみと悲鳴と光景が、呪いの声を繰り返し続ける。自分達を切り刻み、弄り尽くした大人達の、心にも無い言葉が。

 

 

 

『────ジオンを憎め。ジオン公国の敵を、一人残らず滅ぼせ』

 

────止めろ、もう止めろ

 

 

『────ニュータイプを否定せよ。多くの味方を殺した化け物を、葬るのだ』

 

 

────違う、これは俺の意思じゃない。俺の望みじゃない

 

 

『赤い彗星を殺せ、赤いガンダムを壊せ。お前達の故郷を滅ぼし、家族を殺し────お前達を道具にした奴等へ、復讐するのだ』

 

 

────黙れ!黙れ黙れ!!こうなったのは、こうしたのはお前達だ!俺の目を、記憶を、奪ったクセにこれ以上俺から────

 

 

叫ぶ彼の意識を呑み込むのは、黒い影。バイザーのような眼光を宿した禍々しい巨人。その影に覆われながらも、青年は必死に吼える。怒りと、憎悪に満ちた声で、彼は喉が割れかねない勢いで叫び続ける。

 

その瞬間、夢から醒める時にいつも見る景色────虹が、視界の全てを覆い尽くした。

 

 

◇◆◇

 

 

「──────奪うなぁッ!!!」

 

喉の奥から張り裂けんばかりの怒声が、反響する。伸ばした掌が虚空に空振ったことが、覚醒したばかりの視界に収まった光景だ。

 

荒い呼吸の中、青年はようやく意識を取り戻した。寝起きにしては気分が悪い、いつもの悪夢を見たのだろう。グッショリと首元を濡らす汗は異常なほどに噴き出している。力なく伸ばした右腕を下ろした青年は、ベッドの上で深呼吸した。

 

 

「…………また、あの夢か」

 

時折、いや、最近はよく見る夢。

何度も突きつけられる己の過去は、流石に鬱陶しく感じる。今、普通の生き方が出来るようになっても、忌まわしき因縁という名の過去は自分を縛り付けている。いつの間にか、こんな不自由になったのだろうか。

 

 

「────シャワー、浴びよう」

 

ベッドから起き上がった青年────名を、リン・ヤクモは寝汗で汚れたシャツを脱ぎ、バスルームへと向かう。悪夢を見たあとの、いつものモーニングコールである。

 

 

 

────宇宙世紀U.C.0085、地球で勢力を為す地球連邦と宇宙で建国されたジオン公国が起こした一年戦争から五年。自治権を獲得したジオン公国と同じスペースコロニーの一つ、イズマ・コロニーは中立国として平和を謳歌していた。だが戦争に巻き込まれなかったからといって、問題が無いわけではない。

 

シャワーを浴びたばかりのリンが髪を乾かしていると、唐突にピンポンが鳴った。配達か何かかと思って着替えていたが、その合間にピンポンが何回も鳴り響く。そのタイミングと数に気付いたリンは「開いてるよ」と声をかける。

 

するとピンポンの音は止まり、代わりのように扉の開く音が聞こえる。気にせずに着替え終わったリンに、来訪者は呼び掛けた。

 

 

「────リン兄、今暇?」

 

「暇だけど………何処か行く?」

 

「ドライブ、連れてって」

 

「…………ヘルメットはちゃんと付けてね」

 

 

食い気味にそう言い切る赤毛の女子高生。すぐ隣の部屋でよく世話になっている彼女の名はアマテ・ユズリハ。何か思う所があったのかと考えたリンは肩を竦めながらも、ヘルメットを手渡した。

 

 

◇◆◇

 

 

「今日は塾無かったの?」

 

「うん、休みだってさ。お母さんもいないし家にずっといるのも何だから…………リン兄に乗せてってもらおって、リン兄。いつも家に居て暇でしょ?」

 

「仕事が無いだけだよ。用事がある時は基本的に夜だしね」

 

 

改造したバイクに乗ってツーリングを行うリン。背中に乗ったマチュに気さくに語りかけ、アマテ───マチュもリンに抱き着きながらそう答えた。

 

二人の関係性を表すには、少し簡単ではない。正直に言えば、リンとマチュは近所の付き合いだが、二人としては兄弟のような関係があった。三年前からコロニーに引っ越してきたリンは親代わりの相手からの仕送りと不定期な仕事で過ごしており、近所の関係からマチュとは交流もあり、今回のようにツーリングをすることも少なくはなかった。

 

マチュの家族は官僚というコロニーでも重要な立ち位置であり、金持ちの部類であるため、住んでいるマンションも立派なのものであるが、リンがそこで生活できているのは保護者の影響と仕事の内容が理由でもある。

 

 

「リン兄ってさ、不自由に感じたことない」

 

「不自由って、コロニーが?」

 

「ん、最近なんか居心地が悪いって、違和感を感じる。なんか、普通というか、変というか…………」

 

「────作られた空気や環境に、敏感になってるとか?」

 

「そう!それ!流石はリン兄!皆分かってくれなくて、リン兄なら分かると思った! なんというか、退屈で仕方ないなぁ、って」

 

 

ツーリングを終えて一休みしていたリンは、人気の無い公園の中でマチュと語らっていた。近くのフード店で買ってきたジャンクフードを口に含みながら、マチュの悩みを聞いていた。

 

 

「まぁ、気持ちは分かるよ………けど、今の平和だって普通は得られないものさ」

 

「………リン兄って、確かコロニー落としで」

 

「大丈夫。もう多少は割り切れてる────退屈なのは、平和ってのはいいことさ。もう二度と、あんな戦争はしないに限るしね」

 

 

リンの故郷、サイド2のコロニーは壊滅していた。連邦とジオンの戦争が起きる前にジオンによって滅ぼされたコロニー群が、リンの故郷であった。彼がその地獄から生き延びたことを思い出したマチュは失言だったと思い出して俯いたが、リンは平気そうに笑って彼女の頭を撫でる。

 

そして、空を見上げる。コロニーに浮かぶ外壁から僅かに見える宇宙を見上げ────黒い宇宙に想いを馳せていた。今の平和な時間が、大切なものだと。

 

 

そんな最中────脳裏に、虹が見えた。

 

 

「ッ、ぐ!うううううッ!!?」

 

「リン兄!?待ってて、薬出すから!」

 

直後、リンは頭を抱えて蹲る。膝を付いて苦しそうに呻く青年に、マチュは慌てたようにリンのズボンのポケットへと手を伸ばし、ケースを取り出す。ケースから取り出した薬剤を数錠手に乗せて、彼に寄り添う。

 

頭を、右目を押さえて苦しんでいたリンはマチュから受け取った薬剤を喉に押し込み、マチュがついでに持ってきた水を一気に飲み込んだ。ゴクリと喉を鳴らしたリンは治まった頭痛の余韻を感じながら、マチュに頭を下げる。

 

 

「悪い、マチュ………助かった」

 

「リン兄………やっぱりその頭痛って、どうにかならないの?」

 

「ううん、病気じゃないって話なんだけどな。まあ詳しく診て貰う為にも、仕事を頑張っておかないとね」

 

 

日頃から、と言う前からリンは定期的に頭痛に苦しむことが多かった。理由は定かではないが、恐らくは自らの過去に関係していると思われる。明確な原因と思われるものは分かっているが、どうしようもない為に今は放置している。

 

薬を飲めば、数時間は頭痛を起こさずに済む。それだけが気が楽な点だ。

 

 

「────いけない。もうすぐ時間だ」

 

「時間って、もう仕事?」

 

「まだ余裕はあるからね。タマキさんが帰る前に、家に戻ったほうがいいよ。送る時間も、まだあるしね」

 

もうすぐ夜になる時間だと察したリンがマチュを乗せ、バイクを走らせる。数分して自宅のマンションへと辿り着いたマチュはまだ母親も帰ってきてないのを確認し、家に戻ろうとして、振り向いた。

 

 

「リン兄!」

 

「どうした?マチュ」

 

「────仕事だからって、無理しちゃダメだからね」

 

「…………ああ、勿論さ」

 

そう言って、ヘルメットを被ったリンはバイクを走らせて夜道を駆け抜けていく。階段を駆け上がり、部屋の鍵を開けてから普通に過ごし始めるマチュ。ようやく落ち着いて、母親が帰ってくる直前、彼女は呆然と思案にくれていた。

 

 

「────リン兄の仕事って、なんなんだろ?」

 

◇◆◇

 

 

サイド6、イズマ・コロニーのスラム街。

建ち並んだ違法ビルの一角、カネバン有限公司と呼ばれる組織の拠点。ジャンク屋を務める彼等には、もう一つの裏の側面があった。

 

 

【────今回の相手は連邦の軽キャノン二機だ。情報からして相手は元連邦の軍人、油断は出来ないよ】

 

「で?目標の武装は?」

 

【両方ともビームサーベルを一基ずつ、片方はビームライフルにシールド、もう片方はバズーカに小型機器が複数…………あの形状から見て、閃光弾かも】

 

「戦い慣れてる相手だな………『マブ』としても腕が立ちそうで厄介だ。一人ずつから潰すのが先決か」

 

 

通信を聞きながら返事をするのは、裸のリン。彼は着ていた服を脱ぎ捨て、パイロットスーツを身体に通していた。手術痕の多い素肌に黒と青が特徴的なスーツを身に纏い、サイズの調整を整える。

 

近くに置いてあるケースから取り出した薬、強めの鎮痛剤を数個口の中に放り込んで飲み込む。その後ケースの隣に置かれていたガスマスク状の装置を口に嵌め込み、呼吸を安定させる。

 

 

【悪いね、リン。今回もアンタ一人に任せるけど、今回さえ勝てばどうにでもなる。頼んだよ】

 

『ああ、アンキー。どのみち、やれることはやるつもりだ』

 

【いいかリン!その機体もあくまでツィマッドから借り受けたテスト機だ!壊すなんてことするなよ!?追加の借金なんてごめんだからな!?】

 

『────誰にモノ言ってるの』

 

呆れながら、リンは地下に鎮座してあった機体に乗り込む。青く塗装された人型の巨人。複数の武装を背負うその機体のコクピットに座り込んだリンは操作キーを差し込み、画面に特殊な番号を打ち込んだ。

 

即座に点灯するモニターと同時に、機体が起動し始める。青い巨人がゆっくりと足を前に出して地下エリアの壁にあった端末を操作する。開かれたハッチ、宇宙空間に繋がるゲートの前で、リンは自らの偽名と機体の名を告げた。

 

 

『────『ヤサカ』、ヅダ・ストライカー。出撃する!』

 

 

そして、青年と一つ目の蒼き巨人は宇宙へと舞い降りた。彼等の目的たる、『クランバトル』を始める為に。

 

 

◇◆◇

 

 

『クランバトル』、それは非合法の賞金バトルである。

サイド6にて行われるモビルスーツ同士による小規模戦闘。その戦闘を映像で流し、賭けの対象とすることで胴元や勝者に大量の賞金が流れるようになっている。

 

無論、サイド6の治安維持組織である軍警などからは目の敵にされており、定期的に『クランバトル』を行う者を捕らえようとしてくるが、あくまでも彼等の動きは後手に回っている。理由として、胴元であるサイド6自体が見逃してるのもあるが、その話はまた今度。

 

 

「────見えてきた。アレが獲物か」

 

 

コクピット内でリンは仲間達の通信を敢えて切り、敵側との共通回線を繋げる。敵と通信を共有することで戦闘に集中するというスタイルによるものであり、決して仲間のヤジやガヤが煩いという訳ではない。

 

相手側との回線を共有すると、此方に気付いたてあろう相手の反応が伺えた。

 

 

『知ってるぞ!あの機体!ジオンの失敗作!テスト中に自爆した欠陥機だ!』

 

『そんなポンコツを出すなんて、相手は資金もねぇなぁ!一人相手なんてたかが知れる!』

 

「あーあ、好き勝手言っちゃって。少佐がブチギレてるだろうなぁ」

 

 

目に見えて此方を馬鹿にする相手の声に、リンは肩を竦める。彼らの言わんとすることは大方正解であるからだ。リン達のクランは裕福と呼べる訳でもなく、何なら借金持ちの貧相な状況である。用意できるモビルスーツもザク一機であり、そのザクも動かせないので企業から借り受けた試作のテスト機を借り受けている状態だ。

 

 

「────言っとくが、悪口はその辺にしといた方がいいぞ。その欠陥機に負けるんだ、心の傷は小さい方がいいだろ」

 

 

共通回線にそう投げかけるや否や、リンは機体の操縦を始める。リモコン付きのレバーを深く押し込み、ヅダ・ストライカーの加速を引き上げた。背部に露出した大型エンジンとバーニアが青い光を伴い、ヅダは超速の光に身を任せて突撃していく。

 

 

『来たぞ!まんまと突っ込んできやがった!』

 

『馬鹿な奴!いつもの通りの戦術で追い込むぞ!』

 

 

赤と白、それぞれの塗装をした軽キャノンが別々に動く。赤の塗装をされた軽キャノンが両手で構えたビームライフルを連射し、ヅダ・ストライカーはそれを回避しながら速度を緩めずに突進する。

 

『コイツ!?足を止めないつもりか!』

 

『ならば!無理矢理にでも止めてもらう!』

 

 

ジリ貧と判断したもう一機、白塗装の軽キャノンがバズーカを構えて背後から迫る。リンは背後にある反応と前方の敵の位置を確認してから、不意にスイッチを叩いてヅダを一気に加速させる。

 

────正面ではなく、真上へと。

 

 

『やッ、野郎!真上に飛びやがった!?』

 

『正気か!?』

 

 

停止も行わず、止まることのない軌道切り替えに軽キャノンのパイロット達は引き気味に狼狽える。無理もない、その分かかるGは相応のものであり、一般のパイロットであれば気絶するか、機体が爆散するレベルのものだ。

 

しかし、この機体ヅダ・ストライカーは違った。その加速性から他の機体を圧倒する最高速を引き出すヅダの機体強度を最大限まで上げたその機体は、空中分解を起こす危険性を取り払った上でヅダのスペックを引き上げた改良機である。

 

 

「今度は、此方の番」

 

 

言うや否や、リンはパネルを操作して武器を選択する。反映されたヅダ・ストライカーは自動で動き出したバックパックが前に出してきたバズーカを構え、そのまま撃ち出した。

 

迫り来る弾頭をビームライフルで迎撃する赤い軽キャノン。白い軽キャノンは肩のビームキャノンで何とか迎撃できている。的確に移動しながらバズーカを撃ち出すヅダ・ストライカーのスピードに二機は翻弄されていた。

 

 

『クソッ!すばしっこいだけの機体に────ぐあっ!?』

 

『っ!?速い!だが、仕留め損なったようだな!終わりだぞ!』

 

 

所々から放たれる攻撃に翻弄されていた白い軽キャノンがヅダ・ストライカーの突進を直に受ける。そのまま吹き飛ばされた友軍機に気付いた赤い軽キャノンは目の前に迫ったヅダにビームライフルを向けた瞬間、その姿の消失を確認する。慌てて機影の痕跡を追おうと振り向いた軽キャノンの前に、見覚えのある物体が浮かんでいた。

 

 

『せ、閃光だ────っ!?』

 

爆裂。

凄まじい勢いで炸裂した光が、モニター状を覆い尽くし、視界を呑み込む。機体を振り回し敵機の接触を阻止しようとしながら、元兵士のパイロットは何が起きたのかを理解し始めた。

 

『や、野郎………突撃した時に閃光弾を奪いやがったのか!?お、おい!近くに来い!兎に角背後を抑えて奴を追い詰め─────おいっ!応え────』

 

ようやく戻ってきたモニターと通信状況、いつまでも返事をしない味方に怒鳴りかけたパイロットは、ソレを見た。

 

 

────空中に浮かぶ、ズタボロの白い軽キャノン。頭だけではなく、手足すらも破壊された僚機は既に戦闘不能の状態になっていた。

 

 

『ば、馬鹿な………!まだ十秒も経ってないのに…………俺のマヴを、一瞬で!?────この、化け物がぁ!!』

 

 

狂乱のあまり、見える機影に目掛けてビームライフルを掃射する赤い軽キャノン。不意に残骸の隙間から捉えた熱源にめがけ放った一射が炸裂し、一つの爆発を生じさせる。それを見た軽キャノンのパイロットはその光に意識を引かれた。

 

 

『………や、やった………?────いや、小さ過ぎる!まさか、俺のマヴのビームサーベルを!?』

 

「戦い慣れてるのも悪手だよな────早く撃つのは当然だが、だからこそ利用しやすい」

 

 

不意打ちのシールドピックでバズーカを持つ腕を破壊し、奪い去ったビームサーベルで膾斬りにすることで白い方の僚機を撃破したリン。彼は即座に奪ったビームサーベルを回収し、我に返った赤い軽キャノンへの囮としてわざと起動した状態で宇宙空間に放り捨てた。

 

そして直撃したビームサーベルの爆発の光を撃墜のものだと誤認した赤い軽キャノンへ、最高速で迫るヅダ・ストライカー。即座に展開した打撃用のピックを速度に合わせる形で放ち────辻斬りのように、横切り際に赤い軽キャノンの腕を抉り抜く。

 

 

『コイツ────ッ!?』

 

「腕は潰した。後はトドメだ」

 

『クソぉ!来るな!来るなぁあああッ!!』

 

 

そのまま飛び回るヅダに、赤い軽キャノンは必死に身を捩り、ビームサーベルを振り回す。肩キャノンを乱射して近付かせないようにするが、的確に背後に回ったヅダ・ストライカーのマシンガンによって砲身を撃ち抜かれ、小規模の爆発によって吹き飛んだ軽キャノンは即座に迫る青い機影に手足を切り刻まれる。

 

 

『…………思い、出した。青い、モビルスーツ…………一機だけで、クランバトルで暴れ回る存在………』

 

 

恐怖を覚えたパイロットは操縦桿を握ることを忘れ、目の前の宇宙に浮かぶ青い軌跡を目で追う。事前に聞いていたはずだ。今回の対戦相手が、どのように恐れられていた。眉唾と自分達が切り捨てた、その逸話を。

 

 

『青い、ヅダ───「ポメラニアンズ」の「青い流星」ッ!!「赤い彗星」、シャアの再来ッ!?』

 

「────いや違うけど」

 

心底呆れた声と共に、軽キャノンの頭部が斬り飛ばされる。そして鳴り響くクランバトル勝利のファンファーレ。喜ぶ仲間達の声を通信で聞きながら、リンは不服そうな顔であった。

 

 

◇◆◇

 

【────いやぁ実に見事だ!新型のヅダで連邦のモビルスーツを蹂躙する様は、正しく我々ツィマッドが求めていたヅダの姿だ!やはり君をテストパイロットとして進言したのは間違いではなかった!】

 

「ありがとうございます、デュバル少佐。それもこれも、貴方が新型のテスト機を貸し与えてくれたからです」

 

【うむ、今回のデータでヅダの新型改良計画も上層部の目に留まることだろう。君には感謝しかないな────どうだ?君が望むのであれば、共にヅダの開発に尽力できるよう上に掛け合ってみよう】

 

「申し訳ありませんが、それもまた今度。今は一チームのメンバーとして頑張らせて頂いてますので…………機会があれば、その時はよろしくお願いします」

 

【…………それもそうだな。容易く陣営を乗り換えるような者ではないことは、よく分かっている。仕事先に困れば、何時でも頼ってくれたまえよ。では、失礼する】

 

ヅダ・ストライカーを貸し与えてくれたツィマッドの連絡相手に礼を送り、電話を切るリン。パイロットスーツを脱いで着替え終えたリンを、クランのメンバーが快く迎え入れた。

 

 

「お疲れ様、リン。調子はどう?」

 

「やっぱり二対一は大変だね。相手がまだやりやすいから良いけど、腕のいいヤツだと厳しいな。今回みたいに」

 

「リンの実力はエースクラス………それでもマヴ戦が主体のクラバでは負担が大きいか────アンキー」

 

「分かってるよ。その為にここまでやってきたんだ」

 

 

カネバン有限公司、もといクラン『ポメラニアンズ』。その社長兼リーダーである女性アンキーが全員に呼び掛ける。リンを含めたメンバーが集まって話を聞く姿勢に入ったのを見るや否や、彼女はタブレットを手に語り出した。

 

 

「分かってるだろうが、アタシら『ポメラニアンズ』はリンあってのチーム。リンがいなきゃマトモに戦えるメンバーもいないし、リン一人に掛かる負担も大きくなる。そこでだ、アタシらも戦力を補充するって話だ」

 

「前々の賞金で買えた例のザクか。だが、デバイスが必要だろ?」

 

「そう。民間に払い下げられたザクはシステムロックされてるからね。そのシステムを使えるようにするために必要なインストーラーデバイスを今回の賞金で注文したってワケさ」

 

おぉ、と眼鏡の男と若い金髪の青年が反応を示す。リンは話を軽く聞きながら、社内の地下に保管されていたザクの存在を思い出す。乗り込む人間はリン以外に一人しかいないが、肝心のクラバで役立つか不安でしかない。

 

 

「ようやっと俺達も自分のモビルスーツで戦えるってか!これで貧乏もさよならだぜ!」

 

「お前等落ち着け………アンキー、分かってるだろうが、インストーラーデバイスの注文ってのはクラバと同じくらい取り締まられてる。簡単な仕入れ先じゃあ軍警にガサ入れされるぞ」

 

「安心しな、最近のやり口は凝ったものでね。働き手に困る学生や子供を運び屋に使うみたいだ。バレた所でアタシらまで情報が行く可能性は無いさ」

 

「…………子供を使うのか。胸糞悪い話だ」

 

「気持ちは分かるが、割り切るしかないさ。…………ブツが届くのは三日後、それまで当分はここを空けるよ。軍警の目に留まるのは御免だしね」

 

 

子供に違法な物を運ばせることにリンは不満を吐露したが、アンキーは肩を竦めながら諭す。そうして話が終わり、アンキーに言われるがまま全員が片付けて自宅に帰る用意を始める。リンも身支度をしようとその時、アンキーから呼び止められた。

 

 

「リン、アンタは残りな。話がある」

 

「…………了解」

 

 

他の仲間達が準備している中、リンはアンキーに促されるがまま個室に残る。ソファーに腰掛けたリンに、アンキーはタブレットを操作したまま語り掛けた。

 

 

「────『右目』の調子はどうだい?」

 

「まぁまぁ、偶に痛むけど………前ほどキツイってワケじゃないね」

 

「その眼帯、拘束具は問題なさそうだね。最近どうかと気になってたが、問題ないなら良かったよ」

 

「…………何かあったのか?」

 

右目の眼帯を軽く撫でるリンは、アンキーの様子からただ事ではないと悟ったらしい。アンキーも誤魔化すつもりはないらしく、淡々と話し始めた。

 

 

「────連邦の無線を傍受した結果、サイド6にまた赤いガンダムが現れた。連中のガンダム捕獲部隊を蹴散らしたらしい」

 

「………赤いガンダム、シャアか?」

 

「『赤い彗星』を騙る偽物なら、連邦が動くはずないさ。連中、新型を配備してるって話だ。赤いガンダムは本物だろうが、中身はどうだかは分からないけどね」

 

「連邦が────まさか、『技研』も?」

 

「そこはまだ。まあ赤いガンダムがこのままサイド6に居座り続けるんなら、来る可能性も高い」

 

『赤いガンダム』、『技研』、と聞いたリンの顔が微かに歪む。その言葉に感じるものがあったのか、疼くように痛む右目を押さえながら、リンはアンキーに険しい顔で問いかける。

 

 

「────アンキー、『イプシロン』の調整具合は?」

 

「………まだまだだよ────リン、動くのはまだ早いよ」

 

「何でだ?バレてからじゃあ不味い。いくら俺とイプシロンでも『技研』の、『アイツら』には勝てない。それに、アンキー達もきっとただじゃあ────」

 

「待て、と言ってるんだ。『あの人』だって何もしてないわけじゃあない。私達だってただで迎え撃つつもりは毛頭ない……………それに忘れたかい?『あの人』が言っていた『アンタのマヴ』も、まだ現れてない」

 

「眉唾だ。居るはずがない。オレに並び立てるマヴなんて」

 

「分からないよ────ニュータイプなら、アンタと共に戦えるかも」

 

 

アンキーの言葉に、リンは冷やかしだと吐き捨てる。

そのままソファーを立ち部屋から、建物から出ていくリンの姿をアンキーは見届けながら呟いた。

 

 

「『あの人』の言う新世代のニュータイプなら、アンタの呪いを払えるかもね────リン」

 

 

そして、ある宿命に呪われた青年は出会う。

新世代のニュータイプと呼ばれる少女と、彼女の出会いから数年前に止まった戦いの火蓋は開かれることになる。

 

 

ジオンと連邦の戦争の続きを────ニュータイプの可能性を、宇宙の存亡を賭けた戦いが始まることになるとは、まだ誰も知らない。




リン・ヤクモ

イズマ・コロニーで過ごす青年。マチュとは付き合いも長く、彼女からは兄のように慕われている。右目に眼帯をしている、穏やかな人物。

表ではメカニックを、裏ではクランバトルで生計を立てている。クラン『ポメラニアンズ』のエースであり、モビルスーツの操作技術は卓越している。その腕とツィマッド社から借り受けた試験機から、『青い流星』────『赤い彗星の再来』と呼ばれている。

故郷であるサイド2が戦争に巻き込まれた時に逃れ、多くの困難を経てサイド6に流れ着いた。その過去は本人も詳しく語ろうとはしない。だが、定期的に頭痛を起こすことがあり、まともに動けなくなる。


次回もよろしくお願いします!それでは!!
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