機動戦士Gundam GQuuuuuuX Over the Rainbow   作:虚無の魔術師

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赤いガンダム

『────「ゾルダート部隊」より報告、赤いガンダム発見。ただいま追走中」

 

『「ヴォルケンリッター」より解答。赤いガンダム捕獲を最優先とし行動せよ。ミノフスキー粒子散布後、「アインズ」の動員を許可する』

 

『ゾルダート251より疑問。イズマ・コロニー周辺、ミノフスキー粒子の散布はコロニーの軍警動員の可能性アリ。何より、付近に近付くジオン艦船ソドンの接触を誘う可能性大』

 

『「ヴォルケンリッター」より解答────関係ない。最優先は赤いガンダムの捕獲。それ以外は些事として判断せよ』

 

『了解────ソドンの行方について、可否を問う』

 

『無視して構わない。なお、作戦領域に入った場合は優先撃破を。ソドンも撃墜して問題はない』

 

『了解────メサイアの星の下に』

 

『健闘を祈る────メサイアの星の下に』

 

 

周辺の残骸付近に隠れた戦艦。地球連邦の新型宇宙戦艦────『ラウリエ』。その艦首が大きく開き、カタパルトが展開される。高速で加速するレールには、三機の機体が張り付いていた。そのまま加速に勢いを任せた三機は空中に射出され、直後に回転するようにして飛翔していった。

 

 

◇◆◇

 

 

「────目標、以前逃走中」

 

「サイド6の軍警察は全く捕捉できて………いえ、撤退していくようです」

 

「撤退だと?何のつもりだ?」

 

 

サイド6付近の中域を漂う緑色の戦艦、ソドン。一年戦争時にジオンが連邦から鹵獲した強襲揚陸艦。今やジオンの戦艦の一機となったその艦船はサイド6への入港も拒否され、本来の目的の為に動いていた。

 

────ジオン公国が追う、赤いガンダムの行方。その為に集められた部隊が集まるソドンの艦橋の中で、ある一人の男────シャリア・ブルが伏せていた目を見開く。

 

 

「…………成程、『メサイア』が動いたようですね」

 

「中佐?」

 

「────コワール中尉。ガンダム・クァックスは?」

 

「エグザベ少尉が機種転換の訓練中でありますが………」

 

「彼とクァックスを出撃させます。赤いガンダムの接敵時に、オメガ・サイコミュの使用も許可します」

 

 

端的に切り出したシャリア・ブル中佐の言葉に、艦橋の全員が戸惑いを見せた。食って掛かった補佐官の少女、コモリ少尉の発言を皮切りに彼等は困惑したように問いかける。

 

貸し与えられたジオン製のガンダム、クワックスはサイコミュを使用しないことが条件であると。もし使用したとなれば、本国からお叱りで済むはずがない。

 

 

「オメガ・サイコミュは、まだ実戦で使用されたことがありません!万が一、『ゼクノヴァ』を起こしたら────!」

 

「その時は………我々全員、マ・クベ中将の軍事法廷で………────」

 

「うっ………ゲロマズ………」

 

遠い目をするソドン艦長ラシットは途中で言葉を止め、無言のまま首を横に掻っ切る仕草を見せる。それが何を意味するか理解できたことで絶句するクルー達同様、顔を青くしたコモリが呻くように吐露する。

 

しかし、その男────シャリア・ブルだけは違った。

 

 

「赤いガンダムを止められるのは、同じ力を持つガンダム・クァックスだけです。それに、この場を放置するのは少し不味い気がします─────エグザベ少尉」

 

 

そう呼び掛けたシャリア・ブルの声は、遠隔通信となって艦橋にいない者に投げ掛けられていた。あるモビルスーツのコクピットで待機していた、パイロットスーツの青年軍人へと。

 

 

「────オメガは特殊なサイコミュです。僕に使いこなせますか?」

 

『少尉は、フラナガンスクール首席の才能と伺ってますが。でなければ、貴重なサイコミュ起動デバイスを託したりはしません。あとこれ秘密作戦ですので、諸々よろしく』

 

「いや、よろしくと言われましても…………僕、これが初陣なんですよ!?」

 

『大丈夫。君も、ニュータイプでしょう?』

 

「…………────エグザベ少尉、ジークアクス。出撃します!」

 

 

シャリア・ブルの無茶振りに戸惑ったエグザベは機体を操り、カタパルトへと乗り込む。自らを切り替えた彼は操縦桿を押し込み、ジークアクスと共にソドンから出撃する。

 

秘密作戦であることを示すかのように、ソドンからの通信が拒絶される。聞こえなくなったことに気が抜けたのか、エグザベは呆れたように零す。

 

 

「秘密作戦って、中佐は今も戦争してるつもりなのか?これだけのミノフスキー粒子をばら撒いてたら…………バレバレだろ。ん………?アレは────連邦軍のモビルスーツ反応?」

 

ソドンから離れ、サイド6周辺の残骸付近を移動していたジークアクスこと、エグザベは不意にモニター状に映る存在を確認する。遠方で見えないが、複数のモビルスーツの小隊らしい。機体シグナルは、連邦軍のそれだった。

 

 

「連邦も、赤いガンダムを追っているのか?中佐、通信を試みても────ッ!?」

 

秘密通信で上官へ対応を求めようとしたその瞬間、エグザベの脳にプラズマのように情報が走り抜ける。慌てて機体を操作し、ジークアクスのシールドでビームを弾く。

 

 

「撃ってきた!?此方の返事も聞かずに、正気なのか!?」

 

そして、続け様に放たれるビームの一線。複数の攻撃を避けながらエグザベは反撃に出ることもなく、すぐに機体から停戦信号を撃つ。特殊な色の煙を巻いて放たれる信号に、敵がそれに応えることはなかった。

 

 

「停戦信号も無視!コイツら、ここで戦争する気なのか!なら、やるしかない!」

 

覚悟を決めたエグザベは、ジークアクスの腰部にマウントしていたビーム・ライフルを構え、撃ち出す。数発の連射は敵機を捉えることができず、その一機が凄まじい勢いで迫って来る。

 

目の前にまで迫る敵機を見たエグザベは、思わず動揺する。

 

 

「軽キャノン────じゃないのかっ!?」

 

 

敵の姿はシミュレーションや模擬戦、事前に教えられていたモビルスーツの姿ではなかった。白と黒が特徴なモビルスーツ、三本の大型アームを有するその機体は、ジークアクスを睨むように頭部を持ち上げる。

 

────その顔にモノアイやカメラアイはなく、顔面全体がモニター状の単眼を有するソレは、ジッと敵を捉えていた。

 

 

◇◆◇

 

 

「軽キャノンではない!?」

 

「何だあのモビルスーツは!?連邦の新型か!?」

 

敵機の反応からモニタリングしたソドン船内も同様に包まれる。連邦軍の開発するモビルスーツはそこまで性能の高いものではない。彼等の認識では、軽キャノン系列のモビルスーツではない新しい機体に動揺を隠せずにはいられなかった。

 

 

「…………『アインズ』、やはり完成していましたか」

 

「『アインズ』?知ってるんですか?」

 

「連邦軍の量産型モビルスーツです。メサイア技研────キシリア様が危険視されている連邦のニュータイプ機関が携わった新型でしょう。開発されたのはつい最近と聞いていましたが、やはり量産化されていたようですね」

 

 

『メサイア技研』。

突如として連邦で勢力を強めたその一派は、連邦に新たな技術的に革新をもたらしていた。『アインズ』と呼ばれるそのモビルスーツも、そんな新体制の連邦の主力とされる機体である。

 

 

「あのモビルスーツ、なんか変じゃないですか?腕が三本あるように見えますし………そもそもモビルスーツなんですか?アレ」

 

「恐らく可変式でしょう。ジオンもそういう機体を作るのですから、連邦だって同じ考えはします。最も、アレほどの機体、誰が造ったのかの方が気になりますが」

 

 

可変機ならば、連邦の一派が開発をしているが、アインズほど高性能ではない。逆に言えば、アインズはそれほど連邦に期待される主力なのだ。

 

 

「そ、それよりも!エグザベ少尉の事を心配するべきじゃないんですか!?新型のガンダムと言っても、相手は三機ですよ!?下手に落とされたら────」

 

「いえ、アレに関しても大事ですよ。連邦にはアレだけの新型を開発できるようなセンスの研究者や科学者は少ないと聞きます。私のように木星船団のパプテマス氏ならば兎も角、他にあのような独創的なモビルスーツを設計する者に心当たりがありません。だからこそ、興味があります」

 

「あ、あの!!エグザベくんの事はどうでもいいんですか!!?」

 

「彼を心配する必要はありませんよ、彼もニュータイプですから」

 

 

◇◆◇

 

 

宇宙の空を、ビームの光が突き抜ける。エグザベの駆るガンダム・クァックスことジークアクスのビームライフルが一気に撃ち放たれていく。がむしゃらに乱射するように見えるソレは、敵機を撃ち落とす為の的確な狙撃であった。

 

しかし、相手はそれよりも早く────素早い。

 

 

『そんな見え透いたものっ!いくら撃とうと当たるか!』

 

 

人型ですらない、異形のモビルスーツを駆る相手パイロットはそんなエグザベの狙撃を吐き捨てる。巡航形態に可変した敵モビルスーツ『アインズ』は従来のモビルスーツの推力を上回る加速で飛び回っていた。

 

あまりの機動性に振り回されるジークアクスに、複数のビームの弾丸が炸裂する。背後に移動していた2機の『アインズ』からのビームバルカン砲。二連式のビームの雨を盾で受け止めたジークアクスには、大した傷はない。

 

 

『硬い装甲だな、アインズのキャノンバルカンを豆鉄砲みたいに』

 

『仮にもあの赤いのの派生、ガンダムの一機だ。簡単にはやれないだろうぜ』

 

『喋ってる暇ない────二人とも、私が前に出る。赤い奴に取っておきたかったけど、ガンダムはガンダム。やるよ!』

 

 

了解、と告げたアインズ両機が一気にジークアクスへと迫る。巡航形態でビームバルカンを放ちながら迫る2機に、ジークアクスはビームサーベルを展開してそのまま斬り伏せんと叩き振るう。しかし、アインズはその見え透いた一撃を難なく回避していく。

 

アインズ2機が左右に別れ、加速しながら横を通り過ぎていく。何もしなかった敵の行動にエグザベの意識が取られた瞬間、目の前にもう一機のアインズが迫った。

 

 

その姿はさっきまでの巡航形態とは違う────モビルスーツとしての形態であった。しかし、あまりにも人間離れした異形だと思わざるを得ない。ギョロリと覗く単眼のような大型のセンサーは顔面サイズに展開されており、脚にまで届く両腕は大きく、ジオンの水陸両用機のような爪を纏っている。

 

何よりも目立つのは、その脚が一本しかないのだ。脚の部分は関節もあるが、脚の裏は巨大なブースターユニットになっており、人の形から外れたものとしか思えないのは、当然の考え方であった。

 

 

そんなエグザベの手が止まった瞬間、『アインズ』がジークアクスを殴り飛ばす。剛腕によって殴り付けられたジークアクスが大きく吹き飛ばされたその瞬間、離れていた2機のアインズがジークアクスを羽交い締めにした。

 

 

「ッ!コイツら………!」

 

『推力は兎も角、パワーならば2機のアインズに勝てるものか!』

 

『先輩!今です!』

 

『よくやった!そのまま押さえつけて────胴体、コクピットを貫くッ!!』

 

 

必死に操縦桿を動かして抵抗するエグザベだが、2機のアインズの出力も優れているのか、簡単に抜け出せない。そんな最中、最後の一機がアームクローの砲口からビームソードを展開。それをジークアクスのコクピットに突き立てんと加速する。

 

どうするべきか迷いに迷ったエグザベだったが、答えはすぐに出た。近くの端末のボタンを連続で叩いたその瞬間、ジークアクスの装甲の隙間から何かが放たれ、爆散した。凄まじい火花と、閃光を伴い。

 

 

『────っ!?』

 

『だ、あああっ!?モニターが!』

 

『フレアか!?くそ、不味い!センサーに直撃した!』

 

 

至近距離から三機を、フレアが襲う。熱源を伴う粉塵の乱射によって、センサーユニットが超大化したアインズのセンサーが大いに影響を受ける。ミサイル等の自動追尾兵器を撃ち落とすフレアの弾幕の被害を被ったのは、ジークアクスを羽交い締めにしていた2機であった。

 

モニターが暗転したことで動揺した2機を、ジークアクスは力尽くで引き剥がす。そのまま宙に吹き飛ばされたアインズに、エグザベはビームライフルの正確な一撃を叩き込んだ。

 

 

『あ、あああ────ッ!?』

 

 

見事にコクピットに命中したビームライフルにより、アインズは誘爆を起こして吹き飛んだ。暗転したコクピットの中で何が起こったのかも分からないパイロットの悲鳴が、他二人の耳に届いた。だからこそ、もう一人の方は動揺に動揺を重ねた。

 

 

『そ、そんな………!先輩、先輩!援護を!援護をぉ!!モニターがまだ復活しま────』

 

 

巡航形態に可変して、『アインズ』が加速して逃げようとする。距離を取ってモニターの回復を待とうとしたのだろうが、遅かった。直線的に距離を離そうと加速した巡航形態のアインズを、ビームが撃ち抜いたのだ。

 

 

『せ、先ぱぁ────ッ!』

 

「………動きは速いが、ようやく掴めるようになってきた」

 

『────貴様、ニュータイプか!』

 

 

巡航形態のアインズを撃ち抜いたジークアクス、エグザベは自分なりに慣れてきたと考えていたが、相手はどうやら違ったらしい。動きを見えていたと言わんばかりの狙撃を、敵のパイロットは普通ではないと判断し、エグザベを『ニュータイプ』と断言した。その瞬間、アインズの動きが鋭さを増した。

 

 

『ジオンのニュータイプ!忌々しい!ただでさえジオンってだけでも許せないのに!よりにもよってニュータイプだなんて!不快、不愉快────極まりないッ!!』

 

「っ!急に動きが………いや、機体の出力も増している!?」

 

『私の、私達の為に死ね!ニュータイプッ!!』

 

 

アインズの右腕から伸びるビームソードに、ジークアクスは展開したビームサーベルで受け止める。両手から展開したビームソードを振り回し、強引に攻め込むアインズに少しずつ圧倒されていく。出力を増したビームソードを交差させ、ビームサーベルへと押し込み、そのまま力のままに斬り裂こうとしたパイロットの、憎悪に満ちた叫びが響く。

 

だが、その僅かな猶予は、エグザベにとって好機でもあった。

 

 

「────そこだッ!」

 

ブースターを吹かして一気に加速するジークアクス。そのまま斬り伏せんとしていたアインズは、近くのデブリへと叩き付けられる。衝撃によって仰け反ったアインズにエグザベはビームサーベルを突き立てようとしてアインズの振り払った腕に弾かれる。

 

その隙にトドメを刺そうと左腕のビーム砲を叩き込もうとしたアインズだったが、手遅れだった。その瞬間、ジークアクスはビームサーベルを持っていた方の反対の腕に、もう一対のビームサーベルを展開し、その光刃でアインズの胴体を斬り裂いた。

 

 

『ジオン────人殺しの悪魔共めッ』

 

 

火花の散る最中、パイロットだろう少女の怨嗟の声と共にアインズの胴体に小さな爆発が起こった。それがトドメとなったのだろう、アインズの単眼が光を失い、沈黙する。

 

「終わったのか……」と、エグザベはようやく終わった戦況に、深い息をついた。思ったよりも、厄介でやりづらかった。マニュアルで想定されていたとはいえ、連邦軍相手の初めての実戦────だが、エグザベの顔色は優れない。

 

 

「中佐………彼等は」

 

『あまり心を読み過ぎ、共感するのも良くはありませんよ。彼等には彼等の事情があるのでしょう。少なくとも、君が背負うような謂れはありません』

 

「…………先に攻撃してきたとはいえ、連邦軍を撃墜しました。政治問題に関わるのでは?」

 

『連邦も表沙汰にすることはないでしょう。折角の新型が初陣で撃破されたなんて、知らせたくもないはず。何より、隠密作戦していたのは彼等も同じですから』

 

 

ジオン側もだが、連邦も密かに動いていたのは事実。

わざわざ自分達の不利益な情報を暴露してまでジオンを巻き添えにする道理はない。ましてや連邦は一度ジオンとの戦争で負けているのだ。

 

 

『作戦通り、赤いガンダムの捜索を続け────エグザベ少尉ッ!』

 

 

通信越しに作戦続行を伝えようとしたシャリア・ブルの声が、一気に張り詰める。その声が何を示すのか、エグザベが理解するよりも早く、機体が大きく揺れた。

 

沈黙したはずのアインズが、再起動していた。単眼を発光させていたアインズだが、その色が禍々しい赤色に切り替わる。まるで、テレビのチャンネルが強制的に変えられたかのように。

 

その瞬間、通信越しに不気味なほどに軽薄な声が響く。

 

 

『可哀想だなぁ、ルイーシャ。ガンダム相手に、ニュータイプなんぞに殺されて。さぞ無念な死だろう』

 

 

それはさっきまでの少女の声だが、何か違った。

先程まで声の節々に滲んでいた憤怒と憎悪は欠片も見えず、声から感じられるのは此方を見下ろすような軽蔑と嘲笑。まるで声だけを真似ているかのような存在の声音に、エグザベの思考と六感が、違和感を訴えていた。

 

エグザベは、問い掛ける。理解できぬものを前にしながらも気丈に振る舞い、その声へと────声の奥にある者へと語り掛ける。

 

 

「────お前は、誰だ?」

 

『相変わらず、勘の鋭いな。ニュータイプって奴は、同じ人間とは思えない…………気色の悪い奴らだ』

 

 

コクピットの中で、絶命したはずのパイロットの少女の死体だけが動く。ヘルメットの中での彼女は死んでいる、血を流した彼女の身体だけが、人形のように無理矢理何かに操られている。その指で操作盤を叩いた途端、けたたましい警報が鳴り響いた。

 

 

「まさか!自爆する気か!?」

 

『安心しろよ、ルイーシャ。お前はただでは死なない、お前の死は無駄死にさせない。オレは優しいからな────このガンダムとパイロットは道連れにしてやるよ!』

 

 

ジークアクスに組み付いたアインズの弾丸が発光を繰り返し、自爆シークエンスに入る。抵抗して引き剥がそうとするが、背中に組み付いたアインズはそのまま自爆に移行しようとして────真上から撃ち抜かれた。

 

 

『────は』

 

声が反応するよりも先に、頭部を撃ち抜かれたアインズの拘束が緩み、そのまま爆発する。運よく免れたジークアクスの中でエグザベは、真上の方に意識を取られていた。

 

 

浮遊する赤い物体、それを背中に連結させた赤い巨人の存在を、彼の視界が捉える。

 

 

「赤いビットに、赤い機体…………まさか────本物の『ガンダム』か!?」

 

 

かつてジオンを勝利に導いた英雄たる『赤い彗星』が失踪した時に乗っていた真紅の機体。連邦軍にとって忌まわしき象徴であり、ジークアクスの原型ともなった最初のガンダム。

 

その機体が、突如として窮地を救ったはずのジークアクスへと強襲した。

 

 

◇◆◇

 

 

イズマ・コロニーの駅前で、表向きの仕事であるメカニックへと出向こうとしていたリンは、何やら騒がしい様子に気付いた。何事かと思いながら、人混みに入っていく中でその理由が分かった。

 

 

「聞いた?軍警が子供を追ってるんだって」

 

「最近運び屋が違法な物を運び出してるってんで軍警も躍起になってるけど………巻き込まれそうでやーねぇ」

 

(…………少し不味いかな)

 

 

遠巻きに事態を知ってため息を零す主婦を余所に、リンは顔を強張らせた。『軍警』、その存在を知らぬ者はサイド6にはいない────悪い意味で。

 

『軍警察』、サイド6政府が再編した治安部隊。サイド6の平和維持、そしてジオンへ対抗するための武力を有した警備組織である。だが、先程も悪い意味でと言った通り────品行方正ではないのだ。

 

その活動内容の大半はあまりにも横暴極まり、問題ばかりを起こしている。サイド6が表向きに受け入れてる他コロニーの戦災難民への差別意識を隠さず、難民という理由で横暴な取り締まりを行う。あろうことか、正式な市民相手でも威圧的かつ場合によっては謂れのない罪で罰したり無法にも等しい行いを繰り返している。

 

そんな『軍警』を当然市民が良い思いをするはずもなく、避難や不満は未だに根強い。軍警も結果を出せずに解体されることを恐れているのか、成果を出すことに躍起になっている────その一つが、違法な運び屋の摘発である。

 

 

(最近子供を使う運び屋が増えてきたって話だけど、当の子供がヘマをしたのか?…………いや、軍警のことだ。適当に難癖を付けたのを、運び屋の子がバレたと思って逃げたとか…………ありそうなんだよなぁ)

 

 

ただでさえ不味いのは、その運び屋がリン達の目的のブツを運んでいる可能性だ。もし運び屋が捕まれば、目的のモノ────インストーラーデバイスも回収されてしまう。そうなってしまえば、試合に参加するザクの確保が出来ない。

 

仕方ない、とリンは騒ぎの方向に近付きながら、不意にリュックの中身から色々とアイテムを取り出す。物陰に隠れた彼はカツラや帽子などの変装セット(軍警に摘発された時に逃げる為のモノ)で変装をして、自販機から熱々のコーヒーを取り出した後、角から飛び出してきた人影とすれ違った。

 

 

「────ッ!」

 

「君が運び屋か。時間は稼ぐから、早く逃げるんだね」

 

リンの静かな囁きへの返答はなかった。

そのまま全速力で駆け出していく黒髪の少女に肩を竦めたリンは素知らぬ顔で熱々のコーヒー缶の蓋を空ける。そして、平然と歩くリンを避けようともせずに少女を追い掛ける軍警にわざと体当たりされた。

 

────突き飛ばされた勢いで、コーヒーの中身をぶち撒けることも忘れずに。

 

 

「っ!じゃま────あっつ゛ぁぁッ!!?」

 

「ああ!ごめんなさいっ!ボクの朝からいつも呑んでるポカポカコーヒーを顔面から受けて!待ってください!今、リュックの中に水が────おわっ!?」

 

「!?おい!大丈夫か!何があっ────あがッ!?」

 

 

顔面から黒い液体(熱々)を被った軍警の一人が、藻掻き苦しむ中でリンはごく普通の一般人を装いながらリュックを下ろそうとする勢いに任せ、そのまま心配して足を止めた同僚の軍警を転ばせる。そのまま顔ごと地面に叩きつけた軍警は、鼻を抑えて地面を転がった。

 

 

「き、貴様っ!何のつも────だぁッ!?」

 

「ごめんなさい!ボクドジっぽくて…………あっ!警察のお兄さん、靴紐戻しときますよ!────あれ?あ、ごめんなさい、逆でした!あー、いけない!もうすぐ学校が始まっちゃうー(棒読み)!それでは、ボクはこの辺で!お仕事頑張ってくださいねー」

 

「待て!貴様!待────ぬごッ」

 

 

真っ赤になった顔を押さえた軍警が掴み寄ろうとしたとこで、わざと足を踏んで転ばせる。その方向は鼻を打った同僚の倒れる場所であり、鈍い音と共に二人の悲鳴が響く。

 

倒れ込む二人に駆け寄ったリンは即座に靴紐を解き、善意のフリをして靴紐を直していく。無論、優しさなどはなく、二人の靴紐あやとりのように乱雑に、何なら互いの靴紐を絡ませた上で、リンは適当な言い訳と共にその場から離れる。

 

絡まった靴紐によって起き上がることもできず、互いに絡み合った軍警が怒鳴り声を上げるのを無視して、人混みの中に消えていったリンは変装セットを少し離れた先のゴミ箱に捨てて、立ち去った。

 

 

◇◆◇

 

「…………ってことが朝にあってね」

 

「騒がしい話が、さらに騒がしくなってたけど、アンタが関わってたのか」

 

 

夕方、クランに着いたリンはポメラニアンズの仲間達に朝起きたことを報告した。当のアンキーは「そんなことあったな」と言わんばかりに資料を読んでいたが、それに噛み付いたのはジェジーの方だった。

 

 

「お前!馬鹿!何やってたんだよ!?わざわざ軍警に喧嘩売るなんてよ!?」

 

「運び屋の子が捕まったら、インストーラーもおじゃんだよ?仕方ないじゃんか」

 

「────まぁ、その運び屋は捕まってなさそうだし、いいんじゃないか?」

 

「…………アンキー、もしリンの事が軍警にバレてたら」

 

「リンがそんなヘマするタマじゃないさ。それに、軍警のヤツらがそんな真面目に仕事できてたら、アタシらはもうとっくにお縄さ」

 

 

何処か真剣な表情で不安要素を語る側近のナブに、アンキーは見向きもせずに告げた。チームの一員とはいえ、リン・ヤクモがクラン内でも重要な立ち位置にあるのが分かる空気であった。

 

 

「で?本題だが────その運び屋とどう合流する?」

 

「仲介人に連絡するとかは?合流場所を連絡させて、そこで受け取るとか」

 

「ダメだね、あの仲介人はいち早く仕事をするけど、その分追加料金をせびられる。インストーラーとザクの修理費で、アタシらにそんな余裕はないよ」

 

「ケッ!これだから半端な所は!」

 

 

露骨に悪態を漏らすジェジーの気持ちも分からなくもない。折角集めた資金で買ったインストーラーデバイスも安いものではない。仲介人に足元を見られ、ふんだくられる可能性だってある以上、正直な話選びたくはなかった。

 

そんな中、パソコンを操作していたケーンが「ん?」と声を上げる。

 

 

「その運び屋だけど………今事務所前に来てるみたいだよ?」

 

「「………はぁッ!?」」

 

「騒ぎ過ぎだって、二人とも……」

 

「合流場所も連絡しなきゃ、向こうから来るだろうさ」

 

 

ケーンの一言に、ジェジーとナブが「正気か!?」と声を響かせる。耳を押さえて呆れるリンに、アンキーは仕方ないだろと言わんばかりに肩を竦めていた。

 

 

「アンキー!オレが呼んでくるから、待っててくれ!」

 

「はぁ!?リンお前、事務所に入れるつもりかよ!?軍警に目つけられた運び屋だぞ!?」

 

「じゃあ何?事務所の前でインストーラー回収するっての?そんなんした方が危ないでしょ」

 

「ぬぐぅ………」

 

「別にいいけど………ナブやジェジーに行かせたらどうだい?」

 

「ナブは仏頂面だし、ジェジーは喧嘩腰だから。すぐに威圧して怯えさせるでしょ。そんなんだからオレが出張った方が話も早い」

 

クルッと回るように、振り向いたリンの呆れ気味の指摘に、当の二人は互いに反応を示した。ナブは酷い言いようだ、とため息を漏らして、ジェジーは今度こそ苦々しそうに押し黙る。そんなクランメンバーを置いて、リンは入り口の方へと向かう。

 

 

『────コンニチハ、オイソギデスカ』

 

「ベツニイソイデイマセンヨ………っと、本人だね」

 

 

扉横のインターフォンから響く合言葉に静かに答えたリンは扉のロックを解除する。扉を開ける前に、彼はふと深呼吸をした。自分達のクラン、メンバーの大半は外の交流を望む面子ではない。なんなら退廃的と言っても過言ではないため、そんな空気を少しでも穏やかにしようとリンも躍起になっている。だからこそ、心象良く対応できるよう、気を引き締めた上で扉を明け放った。

 

 

「────お待たせしてすまない!大変迷惑をかけるが、まず受け取りは事務所のな────か、で────」

 

 

明るい笑顔と共に挨拶をしようとしたリンの言葉が続くことはなかった。それどころか相手を目の当たりにした彼の顔は和やかなスマイルから一転、困惑を通り越して真っ青なものへとなった。

 

何故ならば、目の前にいるのは運び屋である黒髪の少女。だけであったはずだが、その隣にはもう一人いた。本来、こんな場所にいるべきではない────リンにとっては妹のように思えていた、こんな裏社会に関わってはならないはずの少女。

 

 

「……………リン兄?」

 

「う、うそぉん………」

 

 

信じられないと言わんばかりに息を呑んだ赤髪の少女 アマテ・ユズリハの疑問の声に、許容量の衝撃を上回ったリンの言葉にならない動揺が溢れる。

 

アマテ・ユズリハことマチュがこの場に現れたことが、世界の運命を大きく変えることを、リンは知る由もない。というか、知りたくもないし、知る得るはずもなかった。




因みにリンが軍警を足止めしたシーンの元ネタはアメスパ2です。知ってる人は普通に知ってるはず…………。

今回の話でできた用語を解説しときます。


『メサイア技研』
地球連邦の特殊機関にして、新体制連邦の主軸となる組織。一年戦争前から存在しており、連邦軍のあるモビルスーツの開発計画にも援助していた。一年戦争で地球連邦の敗北後、連邦内で勢力を強め、軍事技術の増強を行っている。

黒い噂も多く、子供を兵士として運用していたり、人体改造も行っているなどの噂が流れている。

『アインズ』

新体制連邦軍の主力モビルスーツの一機。メサイア技研が設計、開発に携わっている。型式番号はMX-U11。宇宙戦に特化し、最適化されたモビルスーツ。陸上やコロニー内ではその体躯も合って活動すらできないが、宇宙においては最大限の戦闘能力を発揮する。

従来のモビルスーツとは異なり、二本腕に一本足という異形の姿を有する。可変機構によって三本腕のように形態へと可変し、モビルアーマー形態ともなれる。(ガザCみたいな感じ)


ゾルダートやヴォルケンリッターなど、今回出てきた用語の一部は後々に解説させていただきます。次回もお楽しみくださいませ、それでは!

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