万華鏡の歪み、あるいは鋼鉄の荒野に落ちる星   作:MOZIO

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第一章:鋼鉄の巨人と紅蓮の魔弾

1. 荒野の邂逅

 

「――伊隅より各機、突撃級の集団が右翼より接近中! 突撃前衛は迎撃態勢を維持しつつ、後退しろ!」

 

国連軍第207戦術歩行戦闘機部隊『伊隅ヴァルキリーズ』の隊長、伊隅みちる大尉の声が、激しいノイズ混じりの無線を通じて響き渡った。

2001年、横浜基地近郊。突如として発生したBETAの小規模な群れを迎撃するため、彼女たちの駆る『F-15E ストライク・イーグル』および『F-4R 撃震』の混成部隊は、凄まじい土煙を上げて荒野を疾走していた。

 

「こちら涼宮! 突撃級の突進速度、予想以上です! 阻止限界線を突破されます!」

 

跳躍ユニットの噴射音とともに、涼宮遙が駆る撃震が36mm機関砲を乱射する。しかし、突撃級の強固な前殻は、その砲弾をことごとく弾き返した。時速100キロメートルを超える生ける質量兵器が、戦術機の装甲を紙切れのように引き裂かんと迫る。

 

その時だった。

戦術機のセンサー群が、突如として『異常なエネルギー反応』を感知し、アラートをけたたましく鳴り響かせた。

 

「……何、これ!? ジェネレーターの熱量じゃない……電磁気的でもない、未知の高エネルギー反応が前方に発生!?」

 

コックピット内のモニターを凝視した速瀬水月が叫ぶ。

その視線の先、BETAの津波が押し寄せるクレーターの中心に、信じられないものが映し出されていた。

 

強化装備すら身につけていない、二人の少女。

 

一人は鮮やかな青い法衣を纏い、まるで祈りを捧げるかのように背筋を伸ばしている。もう一人は、燃えるような長い黒髪をなびかせ、白いコートの袖を翻して、押し寄せる化け物の群れを真っ向から睨みつけていた。

 

「生存者……!? 冗談でしょう、あの格好でBETAの領域に!?」

みちるが絶句する間にも、突撃級の巨体が彼女たちを踏み潰さんと肉薄する。距離、わずか数十メートル。戦術機による救出は、もう間に合わない。

 

だが、死の絶望に囚われたのは、人間側だけだった。

 

「――『青』、起動」

 

黒髪の少女――蒼崎青子の唇から、冷徹な言霊が漏れ出た。

瞬間、彼女の周囲の空間が、物理的な法則を無視して歪んだ。彼女の体内の魔術回路が、この世界の希薄なマナを強引に掻き集め、超高密度の破壊へと変換していく。背後に展開されるのは、数秘紋すら超越した、ただの「純粋な魔力」の多重輪。

 

「邪魔よ。糞ジジイへのイラ立ちに、巻き込まれたことを呪いなさい!」

 

青子が右拳を突き出す。

それは、近代兵器のいかなる砲撃よりも重く、苛烈な、純粋なる魔弾の奔流だった。

 

――ドォォォォォン!!!

 

荒野を引き裂く轟音。

放たれた青い光軸は、突撃級の誇る硬質の殻を、バターを熱したナイフで切り裂くかのように容易く蒸発させた。それだけではない。光軸はそのまま直進し、後方に控えていた戦車級や要撃級の群れをもまとめて巻き込み、大地に巨大な一本の焦土の溝を刻み込んだ。

 

「……う、嘘でしょう……?」

 

ストライク・イーグルのコックピットで、伊隅みちるは計器の数値を二度見した。

戦術機の120mm滑腔砲すら凌駕する破壊力が、生身の少女の手から放たれた。測定値はエラーを弾き出し、戦術機のOSはそれを「未確認の超大型熱兵器」と判定している。

 

「隊長……! あれ、本当に人間ですか……!?」

 

涼宮遙の震える声。だが、驚愕はそれで終わりではなかった。

青子の魔弾を免れた戦車級の群れが、隙を突いて彼女たちの背後から飛びかかる。その数、数十。

 

「青子、背後は任せてと言ったはずです」

 

もう一人の少女――シエルが動いた。

彼女の身体がブレた、と思った瞬間、彼女はすでに空中にいた。常人の動体視力を完全に置き去りにする、聖堂教会・埋葬機関の体術。

彼女の指の隙間から、空間を切り裂くようにして「黒鍵」が投擲される。それらはただの剣ではない。シエルの魔力を注がれ、概念的な「不浄の切断」を帯びた刃。

 

――シュパパパパパン!

 

正確無比に戦車級の霊核(BETAにそれがあるかは別として、生命の要所)を貫いた黒鍵が、体内で炸裂する。肉片を撒き散らしながら沈黙する異形たち。着地したシエルの周囲には、すでに動くBETAは一体も残されていなかった。

 

「……チッ、やっぱり効率が悪いわね。この世界、私の『奇跡』の通りが悪いわ」

シエルは不満げに眼鏡を押し上げた。教会の加護が薄いこの世界では、黒鍵の自動生成や魔力復元に、通常の数倍の負荷がかかっている。

 

「贅沢言わないの。ほら、あっちの巨大ロボットがこっちを見てるわよ」

青子が顎でしゃくった先。

F-15Eストライク・イーグルが、主機関の重低音を響かせながら、ゆっくりと彼女たちの前に着地した。

 

巨大な鋼鉄の巨人が、生身の少女二人を見下ろす。そのハッチが開き、中から強化装備を纏った伊隅みちるが、拳銃を構えながらも、驚愕を隠せない様子で姿を現した。

 

「あなたたちは……一体、何者だ? どこの所属だ?」

 

みちるの張り詰めた声に、青子はふぅ、と溜息をつき、腰に手を当てて言い放った。

 

「所属も何も、ただの迷子よ。……ねえ、国連軍の隊長さん。色々聞きたいことがあるんだけど、とりあえず、ここよりは冷房の効いた部屋に案内してくれないかしら?」

 

---

 

2. 香月夕呼という「怪物」

 

国連軍横浜基地。その地下深くに存在する『オルタネイティヴIV』の牙城。

重々しいセキュリティ扉をいくつも潜り抜けた先にある尋問室――あるいは、応接室と呼ぶにはあまりにも殺風景な部屋に、青子とシエルは通されていた。

 

部屋の中央のデスクを挟み、二人の前に座っているのは、白衣を着た一人の女性だった。

紫色の髪をラフにまとめ、細い指に挟んだタバコの煙を気怠げに吐き出す。彼女こそが、国連軍横浜基地副司令にして、人類の命運を握る天才科学者――香月夕呼。

 

「――なるほど。並行世界から、魔法使いの老人のお節介で、この地獄に放り込まれた、と。おまけに、この世界のBETAとやらを根絶やしにしない限り、お家には帰してもらえないスタンス、ね」

 

夕呼は、手元の資料――伊隅みちるが提出した、戦闘データの報告書――に目を落としながら、不敵な笑みを浮かべた。

 

「お話としては実につまらないSFだけど、提出されたデータは極めてエキサイティングだわ。生身の人間が、戦術機の主機数基分の熱量を放出し、BETAの装甲を素手で粉砕した。……ねえ、あなたたち。解剖させてくれない?」

 

「断るわよ、このマッドサイエンティスト」

青子が即座に、不快感を露わにして言い返す。「大体、初対面の女の子に言うセリフじゃないでしょ、それ」

 

「あら、人類の存亡がかかっているのよ? 利用できるものは神様でも悪魔でも、並行世界の住民でも使う。それが私のルールよ」

 

夕呼はタバコを灰皿に押し付け、鋭い眼光で二人を射すくめた。

 

「あなたたちの言う『魔術』だか『魔法』だかが、どういう原理で動いているのかは興味があるわ。この世界には存在しない物理法則、あるいは因果律の改変。香月博士の脳細胞への、これ以上ない刺激だわ。……でも、一つ残念なお知らせがあるわよ、お嬢さんたち」

 

夕呼はデスクに両肘を突き、不敵に微笑む。

 

「あなたたちのいた世界がどれほど豊かだったかは知らないけれど、この世界の大気には、あなたたちの言う『魔力』の源になるようなエネルギーはほとんど存在しないわ。つまり、あなたたちは補給なしで戦い続けなければならない、孤立した戦力ってこと」

 

「その通りですね」

それまで沈黙を守っていたシエルが、静かに口を開いた。

「私の概念武装も、この世界では出力が制限されています。大気からの魔力還元が途絶しているため、私自身の魔力貯蔵を使い切れば、それ以上の戦闘は不可能です」

 

「シエル……」

青子が少し心配そうにシエルを見る。だが、シエルは冷静に夕呼を見つめ返していた。

 

「ですが、条件は提示されています。私たちがこの世界のBETAを排除すれば、元の世界への道が開く。ならば、私たちはあなたたち国連軍と『協力関係』を結ぶのが最も合理的です。私たちは戦力を提供する。あなたたちは、私たちの魔力を補給、あるいは代替する手段を模索する。……いかがですか、香月博士」

 

夕呼の目が、愉快そうに細められた。

 

「いいわね。話が早くて助かるわ、聖堂騎士サマ。……ええ、取引は成立よ。あなたたちの特殊能力を科学的に解析し、戦術機、あるいは『別の形』での補給・増幅システムを構築してみせるわ。その代わり――」

 

夕呼は立ち上がり、壁の大型モニターを指し示した。

そこに映し出されたのは、ユーラシア大陸を埋め尽くす、無数の赤い点――ハイヴの位置を示すホログラム。

 

「死ぬ気で働いてもらうわよ。まずは、この基地の訓練兵たちの『特別講師』から始めてもらうわ。……ちょうど、並行世界の話を理解できそうな、面白いサンプルが一人いることだしね」

 

---

 

3. 白銀武との接触

 

翌日、横浜基地内の第一訓練場。

「おい……マジかよ……」

 

訓練兵の制服に身を包んだ白銀武は、目の前に立つ二人の少女を見て、我が目を疑っていた。

彼の隣には、御剣冥夜、榊千鶴、彩峰慧、珠瀬壬姫といった、207B部隊の仲間たちが並んでいる。

 

「武、どうかしたのか? 顔色が悪いぞ」

冥夜が不審そうに武の顔を覗き込む。

 

「いや……だって、あいつら……」

武の脳内には、かつて元の世界でプレイした、あるいは見聞きした覚えのある『知識』がフラッシュバックしていた。

(蒼崎青子に……シエル!? なんでTYPE-MOONのキャラが、マブラヴの世界にいるんだよ!? 意味が分かんねえ! 夕呼先生の仕業か!? いや、違う、これは……!)

 

「静かにしなさい、白銀」

教官である神宮司まりもが、鋭い声を響かせる。

「今日からお前たちの白兵戦、および対BETA戦における『特殊戦術』の講義を担当してもらう、蒼崎特務少尉と、シエル特務少尉だ。香月副司令の直属であり、お前たちと同じく特別枠での編入となる」

 

「蒼崎青子よ。よろしく」

青子は、いかにも面倒くさそうに、しかしどこか堂々とした態度で手を振った。

 

「シエルです。皆さん、よろしくお願いしますね」

シエルは丁寧にお辞儀をするが、その佇まいには、訓練兵の誰もが本能的に察知する「洗練された戦士」の気配があった。

 

「あの、質問してもよろしいでしょうか!」

委員長である榊千鶴が、規律正しく手を挙げる。

「お二人は、どのような経緯でこの部隊に? 報告書によれば、昨日の横浜近郊の戦闘で、生身でありながらBETAを撃破したと伺いましたが……それは、既存の強化装備の新型テストか何かなのですか?」

 

千鶴の至極もっともな質問に、青子は苦笑いしながら武を見た。正確には、自分たちを見て明らかに動揺している「白銀武」という存在を、値踏みするように見つめた。

 

「それは、香月博士の企業秘密ってやつね。……それより、あなた。白銀武くん、だったかしら?」

青子が武を指差す。

 

「えっ!? お、俺!?」

「夕呼さんから聞いたわよ。あなたも、私らと似たような『迷子』なんですって? 別の世界から来たっていう」

 

その言葉に、訓練場の空気が凍りついた。冥夜たちが一斉に武を見る。武は冷や汗を流しながら、青子の意図を測りかねていた。

 

「……だったら、話が早いわ。シエル、ちょっとこの子たちの実力、見せてもらいましょうか。戦術機じゃなくて、生身のね」

 

青子が不敵に微笑み、自身の拳をパキパキと鳴らす。

その瞳の奥に宿る、圧倒的な「強者」の輝き。

 

「ええ。BETAという絶対的な暴力に対抗するには、まず自分自身の身体を限界まで使いこなせなければなりません。――皆さん、私と青子が、直々に手ほどきをしてあげます」

 

シエルが法衣の袖から、訓練用の木剣を取り出す。

白銀武は、自分がBETAの絶望だけでなく、別の意味での「とんでもない嵐」に巻き込まれたことを、この時確信していた。

追加で宝石翁の気まぐれの追加被害者を出すとしたら誰がよろしいでしょうか?

  • 蒼崎橙子
  • 久遠寺有珠
  • 静希草十郎
  • 浅上藤乃
  • 両儀式
  • 遠野秋葉
  • 遠野志貴
  • その他
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