1. 虚空を裂く光線
「――伊隅より各機、本隊は国連第11独立混成連隊の左翼に展開! 今回の敵群は海底を突破し、神奈川沿岸部への上陸を敢行しつつある! 沿岸の防衛ラインが抜かれれば、横浜基地が直接の戦場になるわよ!」
海風が叩きつける重苦しい曇天の下、伊隅みちる大尉の『F-15E ストライク・イーグル』を筆頭とするヴァルキリーズの面々、そして特別編入された蒼崎青子、シエルの2機が混成された強襲部隊は、凄まじい速度で海面上を滑走していた。
「こちら白銀! クソッ、視界が最悪だ……! レーダーのノイズが酷すぎる!」
後方から続く207B部隊の『F-4R 撃震』の中で、白銀武は操縦桿を握り締めながら冷や汗を流していた。海原の向こうから、不気味な赤茶色の巨体が次々と海面を割り、上陸を開始している。突撃級、要撃級、そしてその足元を無数の戦車級が這い回る、地獄絵図だ。
「落ち着け、武! 己の恐怖を制御せねば、戦術機の挙動が乱れるぞ!」
御剣冥夜の凛とした声が通信回線を繋ぐが、部隊全体の緊張感は最高潮に達していた。なぜなら、今回の敵群には「最悪の天敵」が混ざっているからだ。
――ジジッ。
その瞬間、戦術機の生体センサーが一斉に警報を鳴らした。
「光線級の照射予兆! 各機、散開――ッ!!」
みちるの絶叫とほぼ同時に、遙か彼方の丘陵陣地から、濃密な白紫色の光軸が奔った。
それは大気を一瞬で蒸発させ、直撃を受けた国連軍の前衛部隊――3機の撃震を、装甲ごと一瞬でドロドロの鉄塊へと変え、爆発すら許さずに消滅させた。
「なっ……!?」
コックピット内のモニターでその光景を目の当たりにした蒼崎青子は、息を呑んだ。
「ちょっと、何よあの威力……! 現代の魔術師のトップクラスが放つ、大魔術並みの熱量がノーモーションで飛んできたわよ!?」
『当然です、青子。あれがBETAが世界を支配せしめた最大の要因――光線属種です』
シエルのストライク・イーグルが、青子の機体と並走しながら冷静に告げる。だが、そのシエルの声音にも、この世界の「暴力の規模」に対する警戒が滲んでいた。
『香月博士の設計したコンバーター・ユニット、最大出力で稼働させます。機体の主機エネルギーを、私たちの術式へ――!』
「了解! 舐められたままなのは性に合わないのよ。……あそこのチビども(光線級)、まとめて消し飛ばしてやるわ!」
青子のストライク・イーグルのコックピット内、夕呼が急造した『魔導コンバーター』が甲高い駆動音を上げ始めた。機体の大型ジェネレーターが叩き出す膨大な電磁エネルギーが、コンバーターの触媒を通じて、青子の「魔術回路」へと強引に変換・注入されていく。
「――っく、あ、熱っ……! ガソリンを脳みそに直接注がれてるみたい……! でも、これなら――いける!」
青子の瞳が、鮮烈な青色に発光した。
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2. 第五魔法の片鱗、あるいは戦術機という触媒
「伊隅大尉、私とシエルで、あの丘の上の光線級を排除するわ。本隊はそのまま海岸線の足止めをお願い!」
「待ちなさい、蒼崎少尉! 光線級の射線に飛び出すのは自殺行為だ! 遮蔽物を利用して――」
みちるの制止の声が響くより早く、青子の駆るストライク・イーグルが、常識外れの挙動を見せた。
跳躍ユニットの噴射ではない。機体の周囲に展開された「青い魔力の光輪」が、物理的な慣性を完全に無視して、機体を時速数百キロメートルまで一瞬で加速させたのだ。
「馬鹿な……!? 旋回Gで衛士の肉体が潰れるはずだぞ!?」
速瀬水月が叫ぶ。だが、青子にとっては、自分自身にかかる時間因果を「買い叩く」ことなど、第五魔法の応用をほんの少し掠め取るだけで容易いことだった。
『目標、重光線級3、光線級多数! 照射が来ます!』
シエルの警告通り、丘の上の巨大な目玉たちが、一斉に青子の機体へロックオンを完了した。
放たれる数十本のレーザー。空を埋め尽くす死の光軸。
「シエル――ッ!」
『「我が盾は主の御名において(ノウム・オルガヌム)」――ッ!!』
青子の機体の前に躍り出たシエルのストライク・イーグル。その手には、戦術機用の突撃砲ではなく、機体のマニピュレーターが保持する「超巨大な黒鍵」――シエルの魔力と戦術機のエネルギーが結晶化した概念武装――が握られていた。
シエルが放った術式は、教会の聖印を戦術機スケールに拡大した、強固な概念の防壁だった。
ドバァァァン!! と、本来ならあらゆる物質を蒸発させるはずのレーザーが、シエルの展開した「神聖魔術の盾」に衝突し、激しい光の粒子となって四方に霧散していく。
「嘘……だろ……? 光線級のレーザーを、生身の術みてえな盾で防ぎやがった……!」
武はコックピットの中で狂喜の声を上げた。原作の知識があっても、この光景は脳が処理を拒否するレベルの超常現象だった。
「シエル、ナイス! ――ツケはきっちり払わせるわよ!」
シエルの盾の後方から、青子のストライク・イーグルが大きく跳躍した。
機体の右腕が、天に向けて突き出される。
「夕呼さんのジェネレーター、空っぽになるまで回しなさい! ――『青』、多重展開!」
――キィィィィィン!!
戦術機のコックピットを包むように、直径数十メートルに及ぶ巨大な「数秘紋の輪」が3重に重なり合って出現した。横浜基地のジェネレーター数基分に匹敵する魔力が、青子の右腕に、いや、戦術機の右腕へと収束していく。
「喰らいなさい――ッ!!」
放たれたのは、先日の戦闘の数十倍の規模を誇る、極大の魔弾。
それは青い極光の津波となって、光線級が陣取る丘陵地帯を正面から飲み込んだ。
――ズゥゥゥゥゥゥン!!!!
地響きではない。空間そのものが悲鳴を上げるような破壊の衝撃。
光が収まった後、そこには光線級の姿はおろか、標高数十メートルの「丘」そのものが、抉り取られたように完全に消滅し、ガラス化した巨大なクレーターだけが残されていた。
「……はは、冗談だろ……」
海岸線で戦車級と戦っていた国連軍の衛士たちの手が、一瞬止まった。
人類が、戦術機の旅団規模の火力を投入して、なおかつ多大な犠牲を払ってようやく沈める光線級の陣地を、たった一機の、たった一撃の「青い光」が消滅させたのだ。
「伊隅大尉、あっちの片付けは終わったわよ!」
通信機から聞こえる青子の声は、少しだけ息が荒いものの、恐ろしいほど平然としていた。
「……各機、呆けている暇はないわ!」
みちるは、戦慄を押し殺して叫んだ。
「蒼崎少尉たちが、最大の脅威を排除してくれた! 突撃前衛、海岸線の残敵を掃討する! この勝利を無駄にするな!」
「応ッ!!」
冥夜が、そして武が、希望の光をその目に宿して、残されたBETAの群れへと突撃を開始した。
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3. 香月夕呼の確信
作戦終了後、横浜基地の地下深く。
夕呼は、返ってきた戦闘データと、衛星が捉えた「消えた丘」の映像を交互に見つめながら、狂おしいほどの笑みを漏らしていた。
「あはは……! 素晴らしい、素晴らしいわ蒼崎青子、シエル! あなたたちは、単なる強力な衛士じゃない。この世界の凝り固まった因果の結び目を、力任せに引きちぎる『神のハサミ』だわ」
夕呼はデスクの上の、未だ完成していない『オルタネイティヴIV』の中核理論――00ユニットの設計図を見つめた。
「物理法則の改変、時間の借用。これなら、鑑純夏を『00ユニット』として覚醒させるプロセスを、数か月単位で前倒しできる。……いいえ、それだけじゃないわ」
夕呼は、眼鏡を指で押し上げ、暗い部屋の奥を睨みつけた。
「あの宝石使いの老人が、なぜこの二人をここに放り込んだのか、ようやく分かったわ。……BETAの根絶。この世界の科学技術だけでは100年かかっても不可能な絶望を、彼女たちの『理外の力』という触媒で、強制的にひっくり返せと言っているのよ」
夕呼の背後の扉が開き、そこには戦闘の疲労を色濃く残した青子とシエルが立っていた。
「夕呼さん、随分と嬉しそうね。でも、次はあんな無茶な補給システム、もう少し改良しなさいよ。脳みそが沸騰するかと思ったわ」
青子が文句を言いながら、ソファーにドサリと座り込む。
「ええ、もちろんよ。あなたたちのために、最高の『おもちゃ』を用意してあげるわ」
夕呼は二人に振り返り、不敵に微笑んだ。
「次の作戦は、単なる防衛戦じゃない。……私たちは、佐渡島のハイヴ、あるいはこの日本の喉元に刺さった棘を、あなたたちを主軸にして『抜きに』行くわよ。覚悟はいいかしら、魔法使いサマ?」
青子は、隣で物静かに黒鍵を磨くシエルと視線を合わせ、それから夕呼に向かって、極上の、そして最高に不敵な笑みを返した。
「望むところよ。サッサと化け物を全部片付けて、あのクソジジイの顔を殴りに行くんだから」
国連軍横浜基地の地下で、人類の反撃のカウントダウンが、本来の歴史よりも遥かに早い速度で、静かに、しかし確実に刻まれ始めていた。
追加で宝石翁の気まぐれの追加被害者を出すとしたら誰がよろしいでしょうか?
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蒼崎橙子
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久遠寺有珠
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静希草十郎
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浅上藤乃
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両儀式
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遠野秋葉
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遠野志貴
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その他