そこは、無数の可能性が万華鏡のように交錯する、時間と空間の狭間――。
第二魔法『並行世界運営』の体現者、キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグは、自室の豪奢な椅子に深く腰掛け、手元に浮かぶ蒼い結晶体を愉快そうに眺めていた。
結晶の内部に映し出されているのは、2001年の地球。地球外起源種『BETA』という、魂も霊核も持たない異形の群れによって人口の9割を失い、ユーラシア大陸を貪り食われた極限の並行世界だ。
「クク……カッカッカ! いやはや、実に目覚ましい。あの青子め、戦術機などという鉄の玩具に乗り込んで、魔弾を乱射しておるわ。シエルもシエルで、教会の聖句を科学のジェネレーターで強引に増幅させるとはな。あの香月夕呼という女科学者も、期待以上の狂気(才気)を見せてくれる」
老人は、手にした黄金の杖の頭をコンコンと叩いた。
画面の向こうでは、横浜防衛戦において光線級の陣地を消滅させた青子たちが、次なる戦い――佐渡島ハイヴの攻略、そしてその先にあるユーラシア各地のハイヴ攻略を見据えて動いていた。
だが、宝石翁の眼光は、単なる一戦の勝利で満足するほど浅くはない。
「……だが、甘いな。実に甘い。あの世界におけるBETAの総数は数億、数十億。カシュガルに鎮座する『オリジナル・ハイヴ』を筆頭に、重慶、ラヴレントフ、ヨーロッパの各地に張り巡らされたハイヴのネットワークは、単なる一撃離脱の力押しでどうにかなる代物ではない」
青子は破壊の天才だが、精密な戦術の構築や「基盤の補強」には向いていない。
シエルは埋葬機関の最高峰だが、その力はあくまで個の戦闘力と浄化に特化している。
あの世界に必要なのは――物理的な「面」の制圧力を補い、異界の理を解読して既存の兵器体系へと組み込める、至高の「技師」であり「魔術師」だ。
「ふむ……青子一人では大雑把すぎるし、シエルは真面目すぎる。となれば、あの『世界一妹を嫌いながら、世界一その扱いを知っている女』を放り込んでやるとしよう。何、人形師としてもルーン使いとしても、あの世界の義体技術や自動兵装とは最高に相性が良いはずだ」
ゼルレッチは、不敵な笑みを深めると、空間の別の層へと細い指先を滑り込ませた。
――1990年代後半、日本のとある地方都市。
「伽藍の堂」の事務所で、長い黒髪をなびかせ、黒縁の眼鏡をかけて不機嫌そうに煙草をくゆらせていた一人の女性。蒼崎橙子。
彼女が手にしていたライターの火が、突如として青銀色の万華鏡の光へと化けた。
『やあやあ、橙子くん。急な呼び出しですまないね』
「……ゼルレッチのジジイ?」
橙子は不快そうに眉をひそめ、灰皿に煙草を押し付けた。
「何の真似だ? 私はこれから、かなり骨の折れる人形の調整があるんだが。空間転移の悪戯なら、他を当たってくれ」
『まあ待ちなさい。君に最高のアトリエと、刺激的な研究素材を提供しようと思ってね。……何、向こうには青子もいる』
その名を聞いた瞬間、橙子の雰囲気が一変した。
彼女はゆっくりと手を伸ばし、自らの顔から黒縁の眼鏡を静かに外す。
ガラスの奥から現れたのは、鋭く、冷徹で、あらゆる理を解剖せんとする「傷んだ赤」の魔眼。
「……青子だと? あのバカ娘が、どこで何をしている?」
『ちょっとした異世界で、巨大な化け物相手に戦術機とやらを乗り回して頭を抱えておるよ。君のルーンと人形技術があれば、あの世界の滅びの運命をひっくり返せるかもしれん。どうだね? 妹の不始末を、姉として正しに行ってやる気はないかね?』
「ハッ……笑わせるな」
橙子は短く鼻で笑うと、コートの襟を立てた。
「あの青子が頭を抱えているだと? ならば見物だな。……いいだろう、乗ってやるよ、その悪趣味な誘いに。だがジジイ、もし私を退屈させたら、帰ってきた後にあんたの宝石を全部解体してジャンクショップに売飛ばすからな」
「クッカッカ! それは恐ろしい! ではな、健闘を祈るよ、最高の人形師」
万華鏡の光が爆発的に収束し、蒼崎橙子の姿をその場から消し去った。
ゼルレッチは、去っていった橙子の残光を見送りながら、満足そうに顎髭を撫でた。
「これで盤面は揃った。青子、シエル、そして橙子。これに香月夕呼の頭脳と、あの白銀武という少年の因果が合わされば――カシュガルの『主』とやらも、さぞや困惑することだろう」
老人は、手元の結晶に映るカシュガルの暗黒を見つめ、未来の乱乱たる戦火に想いを馳せる。
「せいぜい足掻くがいい、お嬢さん方。カシュガルの根を絶ち、この世界を救い得たその時――存分にワシの首を狙いに来るが良いぞ!」
老人の高笑いが、永遠の狭間に心地よく響き渡っていた。
追加で宝石翁の気まぐれの追加被害者を出すとしたら誰がよろしいでしょうか?
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蒼崎橙子
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久遠寺有珠
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静希草十郎
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浅上藤乃
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両儀式
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遠野秋葉
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遠野志貴
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その他