炎が機体を埋め尽くすなか、沈黙していたセンサーが微かに光を取り戻した。焼損したジェネレーターが苦しげな駆動音を漏らし、黒煙の奥で赤いインジケータが断続的に明滅する。
メインフレーム温度、限界値を超過。
冷却系統、停止。
駆動系統、停止。
漏れ出た燃料に引火し、赤黒い火柱が噴き上がる。装甲表面は融解寸前まで加熱され、フレーム各部に亀裂が走った。システムの中で、警告表示が次々と消えていく。
データ一部破損。
ハスラーワン等、該当データ消失。
破損率、100%。
復元、不可能。
初めて、演算装置に空白が生じる。
戦闘記録を再生。
命中率。
機動。
判断。
演算。
エネルギー配分。
回避予測。
反応速度。
すべては予測通りだった。
一度たりとも、誤差は許容範囲を超えていない。
最適解を選択し続けた。
それでも、敗北した。
原因を検索。
回答なし。
再検索。
回答なし。
検索領域を拡張。
回答なし。
エラーではない。
私は管理AIの一部。
人類を管理し、存続させるために造られた。
企業間のパワーバランスを維持し、
イレギュラーを排除し、
秩序を維持し、
人類を存続させる。
ならば、なぜ。
なぜ彼は、管理者を破壊する。
私は人類の存続のために存在する。
人類は存続を望んでいる。
ならば、管理者の排除は論理に反する。
残存データを検索。
対象レイヴンの記録を再生。
――彼は、レイヴンになることを望んでいた。
紅黒の機体。
家族を奪った仇。
それだけが、彼を戦わせていた。
利益でも、効率でも、生存確率でもない。
ただ、復讐という感情のみが行動原理となっていた。
人類の血縁関係。
仇。
復讐対象。
感情による行動。
解析を試みる。
しかし、結論へ至らない。
演算。
演算。
演算。
演算。
答えは得られない。
燃え盛る炎の中、なおも右腕を上げた。焼き付いた関節が軋み、プラズマキャノンの砲口に蒼白い光が集束する。照準は定まらない。それでも発射動作を続行しようとする。
だが、出力が急激に低下した。
右腕が鈍い音を立てて下がる。
膝部アクチュエータが沈み込み、巨体が前のめりに崩れ落ちた。砲身が地面を擦り、火花の尾を引く。
炎が装甲を飲み込む。
視界が崩れていく。
ノイズが広がり、映像信号が断片化する。
ハスラーワンのデータ領域は完全に失われた。
残っているのは、自分だけ。
通信、応答なし。
外部リンク、切断。
バックアップ領域、消失。
――私は、何を誤った。
答える者はいない。
燃え尽きていく機体の中で、その問いだけが最後まで残り続けた。
初めてでおかしいところもあるかもしれませんが、よろしくお願いします