格納庫らしき空間。
天井近くまで伸びる整備ラックと無数の修復アームが静かに待機し、その中央には紅黒の機体が四機、一直線に並んでいた。
最初に修復、改良された、ナインボール・セラフ一機と、ラナの要請により本来のナインボールのデータを基に小型化され建造された三機の機体。
すでに各機には用途ごとに異なる兵装が装着され、起動の時を待っている。
格納庫のさらに奥では、最後の一機――ナインボール・セラフの予備機が、まだ建造アームに囲まれながら組み立てられていた。
「ラナさん、ラナさん……少しいいですか……?」
アインが格納庫らしき空間に入ってくる。
『要件はなんだ。』
「ついに・・・ついに、お姉さまをこの地へ降臨させる準備が整いました・・・。」
「せっかくですから・・・ラナさんにも、その瞬間を見届けてほしいんです・・・。」
『了解。向かおう。』
すでに建造されたセラフではなく、その隣に待機していたナインボールが動き出す。
小型化された機体は軽い駆動音を響かせながら起動し、ゆっくりと格納庫を後にした。
ある部屋に入る、
そこは円形の空間だった。
天井まで伸びる二本の巨大なマニピュレーターが中央へ向けて伸び、その間には一本の円柱状ポッドが静かに佇んでいる。
半透明の液体に満たされた内部では、一人の少女が眠るように目を閉じていた。
そして、ソフとオウルがラナとアインが来たことに気づく。
「ちゃんと来たね。ラナ。」
『・・・何かすることはあるか。』
「大丈夫ですよ、これは私たちがやらなければならないことですから。」
「ラナさんは・・・見ているだけでいいですから・・・。」
『・・・了解。』
「よし・・・時は来たれり!」
「は、はい!」
「ええ、これより先は失敗など許されません。」
「そ、そうですね・・・いよいよ、お姉さまを起こすのですから!」
「アインはもうちょっと落ち着いて!」
「ふ、ふえっ!?」
「・・・分かりました・・・頑張ります。」
「まあ、緊張はミスの元ですからね。」
『・・・。』
三人は作業を進める。
「冷却水の残量・・・ギリギリ大丈夫です!」
「利用可能なエネルギーを、すべて「ゾーハルの依代」へ。少しの間、多次元バリアを解除します。」
着々と作業は進んでいく。
「危険だけど・・・仕方ない・・・。」
「・・・いくよ!」
室内が赤く光りサイレンが鳴り響く。
「データジェル変換完了。」
「神経信号連結、確認。」
「連結ーー結合強度確認。」
「確認しました。問題ありません。」
「それでは、相互接続を行います。」
作業は進んでいき、一通り終わる。
「・・・あとは経過を見守るだけですね。」
「わ、私たちは・・・何をすれば・・・?」
「・・・うーん・・・祈ってみようかな。」
「そうですね。私たちは、あの方のために存在するのですから。」
「は、はい・・・無事に、この地で目覚めますようにーー」
「ーー私たちのお姉さま。」
自分たちに出来ることはなくなり、唯一出来ることは祈ることだけであった。
静寂が空間を包む、数秒が数時間にも感じるようであった。その時。
「・・・信号、来ました!」
「この信号は・・・!」
「あ、ああ・・・。」
「つ、ついに・・・会えるんですね。」
「私たちがやってきたことは、無意味ではなかったんですね・・・!」
円柱状のポッドから白い蒸気が溢れ出した。
ゆっくりとポッドが左右へ開く。
中から、一人の少女が姿を現す。
白く長い髪がゆっくりと揺れ、閉じられていた瞳が静かに、長い眠りから覚めるように、少しずつ開かれていく。
「アイン、ちょっと!せっかくお姉さまが来たのに、あんたが先に倒れてどうするの!」
「先に倒れて助かりました。私も危うかったので。」
『・・・。」
ラナは機体の頭部のセンサーで、マルクトを見続ける。
ついにマルクトが口を開く。
「こんにちは、アイン。」
「!!!」
「それから、ソフ。」
「はい!」
「そして、オウル。」
「・・・こんにちは、お姉さま。」
静寂が空間を包むがすぐに消える
「「「マルクトお姉さまぁ〜!!!」」」
張り詰めていた空気が、一瞬で弾けた。
安堵、歓喜、感動。
抑え込んでいた感情が一斉に溢れ出す。
「わ、私たちの名前、覚えててくれたんですね・・・!」
「忘れちゃったらどうしようって不安だったけど、良かった!」
「ふっふっふ・・・お姉さまが目覚めたということは・・・これで全ては私たちの意のままです!」
『新しい・・・生命の・・・生成・・・。』
「我は・・・何をすればいいですか?」
その問いにすぐに三人が答える。
「な、何もしなくていいです!お姉さまは・・・ただ、そこにいてくだされば。」
「そう!最高のエンジニアで、科学者で、万能のーー」
「私たちがいますからね・・・!」
「「「全て私たちにお任せください!」」」
「えっと・・・あらためて自己紹介を・・・。」
三人がマルクトに対して簡単な自己紹介をしていく、その間も、ラナはマルクトを見続ける。
自己紹介が終わった後、オウルたちが口を開く。
「・・・それでは・・・。」
「次は・・・。」
「お、お姉さまが嫌じゃなければ・・・その、えっと・・・。」
そういい自己紹介をマルクトに促すが、マルクトからの疑問が返ってきた。
「・・・純粋な疑問なのですが・・・。あなたたちは我のことを、すでに知っているはずでは?」
「そ、そうですが・・・。」
「あ〜、なんて言うのかな。」
「お姉さまの声で直接聞きたいのですよ、ふふっ。」
「・・・そのような要請なんであれば、理解できませんが、受け入れましょう。」
「あらためまして、我はマルクト。デカグラマトン10番目の預言者。世界の果てに到達せし王国の巡礼者ーー最後のセフィラであり、願い。一つの道に集まりし旅路の地平。」
マルクトの自己紹介が終わるとアイン、ソフ、オウルの三人から声が漏れる。
「ああ・・・10番目の道は、眩い知性で・・・。」
「それは全土を照らす光・・・!」
「そして全ての者はーー世界の果てに到達せし王国の巡礼者を崇拝するでしょう!」
人の熱のこもった声が部屋へ響く。
その様子をマルクトは静かに見守っていたが、不意に視線が三人の後方へ移る。
円形の部屋の隅。
そこには、一歩引いた位置で沈黙を貫く紅黒の機体・ナインボール──ラナが立っていた。
しばらく、その姿を見つめる。
初めて見る存在。
少なくとも、自らの記憶には存在しない人物。
「・・・ところで、其方は・・・誰でしょうか。我が忘れていたら申し訳ないのですが・・・。」
「「「あ・・・。」」」
完全に忘れていた。アイン、ソフ、オウルの三人はそんな顔をしていたが、ラナは気にせず自己紹介する。
『・・・私の名前はラナ・ニールセンだ。・・・外の世界で機体を破壊され、そこからここに流れつき、彼女らに修復され、今は協力者として、彼女らの手伝いをしている。』
マルクトはラナを静かに見つめる。
数秒。
その視線だけが止まった。
「・・・。」
「外の世界の・・・。」
小さくそう呟く。
ラナは三人へ視線を向ける。
三人とも、何かをしたくて仕方がない様子だった。
『・・・詳しいことは、後で話そう。』
ラナが自己紹介を終えた時、オウルがマルクトに向けて走り出した。
「お姉さまぁ〜!」
オウルはマルクトの側に行って優しく撫でてもらう。オウルはかなり満足しているようだ。
「あ、ずるい!私もお姉さまになでなでしてもらう!お姉さま!私も!」
続けてソフもマルクトの側に行って優しく撫でてもらう。
マルクトの手は驚くほど柔らかかった。
頭へ触れるたび、優しく髪を梳くように指先が動く。不思議と心が落ち着いていく。
「ふぁあ・・・。」
とても心地が良いのか声が漏れてしまっている。
「あ、あうぅ・・・。」
しかし一人残されて悲しい声をあげてるアインをおいて。
「・・・。」
マルクトがアインの側に行く。
「ええっ・・・いいんですか?」
「さあ・・・。」
アインがマルクトに優しく抱きつく。
「お姉さま・・・!えへっ、えへへっ・・・。」
アインが嬉しそうな声を漏らす中、ソフとオウルから少し不満の声が上がる。
「・・・アイン、ずるい。」
「ずるいですね。」
「私もお姉さまに抱きしめられたいのに・・・。」
「やはり、抱きしめるだけではなく、抱きしめ返してほしいですからね・・・!」
「私も、私も!」
「人生とは、公平であるべきですからね・・・ふふ。」
これに対してアインが困ったような声を上げる。
「あうぅ、えっと、その・・・。お姉さま・・・?」
「・・・ソフ、オウル。アインが困っています。めっ、ですよ。」
マルクトがソフ、オウルの二人に対して咎める。
「ええっ?!」
「うぅ・・・お姉さまに怒られてしまいました。」
「そこまで落ち込むなんて・・・では。」
マルクトがアインを右手で包みながらソフとオウルを呼ぶ。
「二人とも、さあ・・・。」
「「お、お姉さまぁ〜!」」
二人は同時に飛び込み、左右からマルクトへ抱き付く。
マルクトは微笑みながら、二人を優しく抱き返した。
三人とも安心しきったような表情を浮かべている
少し離れた場所で、ラナだけはその光景を静かに見つめていた。
センサーには三人の心拍数上昇、表情変化、発話内容が映し出される。
それらは全て「歓喜」という一つの感情を示していた。
そしてポツンと佇んでいるラナに向けてマルクトが話す。
「・・・ラナさんも、どうですか?」
「とっても気持ちいいよ!」
「これはラナも味わうべきですよ。」
「ふぁ、あぁ・・・。」
『・・・私はいい。』
「そうですか、」
一歩だけマルクトがラナへ近付く。
「でも。」
「いつか、その気になったら。」
「その時は遠慮しないでください。」
『・・・わかった。』
そろそろバトル描きたい・・・もう一・二話先で書こうかなと思っておりまする。読んでくださりありがとうございます、