やったぜ!!
修復アームの駆動音と、金属を削る音が静かに響いている。ナインボールの一機が整備用プラットフォームに固定され、機体を囲むように配置された整備アームが、装甲や内部機構を次々と調整している。
『・・・出力、安定。姿勢制御系統も問題ない。』
機体内部のセンサーが取得したデータを、ラナは順に確認していると、不意に足音が近づいてくる。
「・・・こんにちは、ラナさん。」
『・・・マルクトか。』
頭部センサーを向けると、そこには白い髪を揺らすマルクトが立っていた。
「はい。先ほどは、ありがとうございました。」
『礼を言われるようなことはしていない。』
「それでもです。」
マルクトはそう言って、機体の近くまで歩いてくる。そして、プラットフォームに固定されたナインボールを見上げた。
「・・・これは、ラナさんの機体ですか?」
『そうだ。』
「大きいですね。」
『本来は、もっと大きかったが、こちらの環境に合わせて小型化している。』
「なるほど・・・。」
マルクトはしばらく機体を眺めていた。
しかし、ふとラナへ視線を戻す。
「・・・ラナさん。」
『なんだ。』
「一つ、聞いてもよろしいでしょうか。」
『答えられる範囲なら。』
「先ほど、あなたは我にこう言いましたね。」
「外の世界から来た、と。」
『・・・ああ。』
「私は、あなたのことをまだ何も知りません。」
マルクトは少しだけ考えるように目を伏せる。
「アインたちは、あなたを信頼しているようです。」
「そしてあなたも、あの子達を助けている。」
「ですが・・・。」
再びラナを見る。
「あなたは、なぜこの場所へ来たのでしょうか。」
『・・・。』
ラナはしばらく沈黙する。
『私自身もわからない。』
「・・・わからない、ですか。」
『そうだ。』
「では・・・ここにくるまでは何を?」
マルクトの声には、問い詰めるような強さはなかった。ただ純粋に、知ろうとしている。
『・・・少し長い話になる。』
「構いません。」
『なら、話そう。』
機体の胸部に内蔵されたスピーカーから、ラナの声が響く。
『私は、人類を管理し存続させる管理AI――その複製体として作られた。』
「人類を・・・管理・・・。』
『そうだ。人類は過ちを犯し、地上を住めない環境にした。生存のため、人類は地下へ移住した。』
『そして二度と同じ過ちを繰り返さないために――人類そのものを管理するシステムが必要になった。』
「外の世界では・・・そんなことが・・・。」
マルクトは驚きを隠せずにいた。
『与えられた役割は管理AIと同じだった、企業間の戦力均衡を維持し、資源配分を最適化し、文明存続確率を最大化する。そして――イレギュラー、力を持ちすぎた者や秩序を破壊する者を消していった。』
「・・・。」
『だが、ある日、一人の男が現れた。』
『彼は家族を殺され、その仇を討つために――レイヴン、傭兵になろうとしていた。』
『彼がイレギュラーとなる可能性を考慮し、管理AIは先んじて、複製体である私を彼のオペレーターとして送り込んだ。』
『そして彼は、イレギュラーになった。』
『彼は管理AIが差し向けたすべての敵を倒し、最後には――仇であった者と、彼を監視するために送り込まれた私さえも倒した。』
『そして・・・破壊された私は、なぜかこの場所に流れ着いた。』
「・・・人類を、管理していたのですか?」
『そうだ。』
「それは・・・人類のために?」
『そう設計された。』
「・・・では、あなた自身の意思は?
『・・・。』
ラナの返答が、一瞬だけ途切れた。
『当時の私には、必要のない問いだった。』
『ただ単に、私は与えられた仕事をこなしていたAIに過ぎなかった。』
「・・・では。」
マルクトは少しだけ間を置く。
「今のあなたは、違うのですか?」
『・・・。』
「先ほど、あなたは我に「詳しいことは後で話す」と言いました。」
「そして今、こうして我にあなた自身の過去を話している。」
マルクトは静かにラナの機体を見上げる。
「それは、命令されたからですか?」
『違う。』
「では・・・なぜ?」
『・・・分からない。』
「分からないことが、多いのですね。」
『そうだな。』
ラナはしばらく沈黙する。
『こちらへ来てから、私の中には説明できない変化が増えた。』
「変化・・・。」
『以前なら必要性のない行動はしなかった。』
『必要だから戦い、必要だから排除し、必要だから命令に従った。』
『だが、今は違う。』
「何が違うのですか?」
『・・・彼女たちを助けたいと思った。』
「・・・。」
『彼女らが困っていれば手を貸す。危険に晒されれば守ろうとする。』
『それが、私に与えられた命令だからではない。』
『私自身が、そうしたいと判断している。』
マルクトは黙ってラナを見つめていた。
「それは・・・。」
少しだけ目を伏せる。
「心、というものなのでしょうか。」
『・・・分からない。』
「あなた自身にも、分からないのですね。」
『ああ。』
『だから私は、それが何なのかを知ろうとしている。』
マルクトはしばらく黙っていた。
そして、静かに微笑む。
「ならば・・・。」
「私も、その答えを知りたいです。」
『・・・なぜだ?』
「あなたが、我と少し似ている気がするからです。」
『・・・私と?』
「はい。」
「我もまた、目覚めたばかりで、自分が何者なのかを完全には理解していません。」
「ならば・・・お互いに知っていけばいいのではないでしょうか。」
『・・・。』
ラナは答えなかった。
ただ、整備アームの作業音だけが静かに格納庫へ響いていた。
後もうちょいでバトルさせまする