「デクくんは、もう決めた?」
お茶子ちゃんが聞いてくるのは、職業体験の行き先だ。
「うーん、こんなに指名数があると、思いっきり目移りするよね…」
ひとまず、やりたい、体験したいジャンルを決めないと、短い時間では決めきれない。
自分としては、災害救助活動を主にしているヒーローチームが良いかな…。
正直、
「お茶子ちゃんは、どこか決めた?」
「うん、指名が来てたバトルヒーローガンヘッドの事務所に決めたんよ」
「ゴリッゴリの武闘派だね」
「うん、デクくんからも拳法習ったけど、やっぱり強さは必要だと思って。強くなれば、そんだけ可能性が広がる!」
「そうだね。何をやるにせよ、ある程度の強さは必要だと思うよ」
お茶子ちゃんも色々考えているな。僕も方向性だけでも決めないと…。
「それより、さっきかから気になってたんだけど、震えてるね?」
お茶子ちゃんが、僕の足を見て疑問に思ったのか聞いてきた。
「ああ…コレ、空気イス」
「クーキィス!!まさか授業中ずっと!?」
「そう、それも僕の師匠特製のバネ仕掛け負荷装置も付けているんだ…」
お茶子ちゃんがバネ仕掛け?と不思議にしていたから、仕掛けを外して見せた。強力なバネがあらぬ方向へ間接を曲げようとして、かなりの力が必要になるんだ。
「ちょっと、何これ、動かへん…!!」
お茶子ちゃんが必死にバネを曲げようとするけど、全然動かない。その内、他のクラスメイトも集まり始めてきたけど、力自慢が全力でやって漸く動く代物なんだよね。
そこで、ふと横を見る。
飯田くんが真剣な表情で職業体験の申込用紙を見つめていた。
僕は声をかけようと思った…けど、その思い詰めた表情についに声を出す事が出来なかった。
「わわ私が独特の姿勢で来た!!」
放課後、突然オールマイトが教室にやって来て、呼び出された。
何でも、オールマイトの先生が指名をしているから、是非行って欲しいと言う。どうもグラントリノと言う、オールマイトの担任だった先生、らしいけど…。
え?オールマイト、どれだけ震えているの?
ものっすごい震えているんだけど!どんだけ恐ろしい人なんだー!?
まあ、師匠達ほどじゃないよね…?
今日も帰ったら、地獄の地獄…。
その日、オールマイトと僕が只管ガタガタ震えているのを、多数の生徒が目撃したと言う…。
職業体験の日。
駅に僕達は集合して、それぞれのヒーローの元へ、近くは県内、遠くは九州等へ向かう事になる。
ニュースで、飯田君の兄のターボヒーロー「インゲニウム」がヒーロー殺しステインに襲撃された事件は、連日報道されていた。
飯田君は何事もない様な感じで過ごしていたけど、むしろだからこそ、心配になるのだ。
「飯田君」
「…緑谷君、麗日君…」
「…本当にどうしようもなくなったら、言ってね。友だちでしょ」
隣でお茶子ちゃんも、ブンブン頷く。
「ああ。職場体験、お互いに頑張ろう!」
そう、爽やかな風に飯田君は職業体験へ向かって行った。
…恐らく、敵討ちとかを考えているんだろうな…。
星の保育園で相談したら、思い詰めた奴は極端に真っ直ぐ走り出す事があるって聞いたし。
超電磁空手の師匠達には相談出来なかった。
やったら、多分「よし!そのヒーロー殺しを狩りに行こう!!」とか言い出しそうだったし。師匠達が本気で狩り始めると、ヒーロー殺しの生死が不明になるくらいなら良くて、下手すれば街が更地になるんだよ…。
もう少し、飯田君には強く言うべきだったかなぁ…。
僕も職業体験へ、新幹線に乗って向かって行った。住所を見ながらやって来た先は…ものっすごいボロボロのビル。
えっ?ここ!?間違いない!!??
き、気を取り直して、中に入る。…崩れないよね、ここ…。
「押忍!雄英高校の緑谷出久です!宜しくお願いしま…あ…」
中に入ると、血溜まりの中に倒れる小柄な老人が一人。さ、殺人事件の現場!?
「あ あ あ ああ死んでる!!だ、大丈夫ですか!?」
慌てて老人の元へ駆け寄る!
「生きとる!!」
「生きてる!!ホッ」
生きてた!良かった〜。しかし、これは一体全体、どうなっているんだ?
「いやぁあ、切ってないソーセージにケチャップぶっかけたやつを運んでたらコケたァ〜!」
ケチャップ…。思わず血溜まりに指を突っ込んで匂いを嗅ぐと、うん、ケチャップだ。
「誰だ君は!?」
「ええ!?その、雄英から来た緑谷出久です!」
「何て!?」
「緑谷出久です!!」
「誰だ君は!!」
「え、ええ〜……やべぇ!!」
ヤバい…。もしかして、年寄りだから、もう…。い、いや、オールマイトが紹介してくれたんだ、きっと大丈夫…かなぁ…。
ちょっとオールマイトに電話確認するかな…。
「撃ってきなさいよ!ワン・フォー・オール!」
「!?」
「どの程度扱えるのか知っておきたい!」
振り向くと、僕のバッグからコスチュームを取り出していた。
どう見ても、ボケた老人にしか見えない。筈なのに…。
この感じ、雰囲気。師匠達と相対している様な。
ボケてない!間違いない、この老人はグラントリノ、あのオールマイトの師匠なんだ!
「押忍!直ぐに着替えます!」
僕は慌てて着替えた。待たせちゃいけない!
また「誰だ君は!」とか言ってるが、とりあえず無視!
これから、オールマイトも震える職業体験が始まるんだ!