オール・フォー・ワンが腕を振りかぶる。
いくつもの腕が増殖し、肥大化し、重なる様に一本の腕として形成している。更に表面には岩とも金属とも言えない、不可思議な物体が浮き出ていて、まるで腕を補強している様に思えた。
その腕のサイズはオール・フォー・ワンの胴体すら上回り、アンバランスにも程がある姿だった。
僕が最初に思ったのは、気持ち悪い!であり、次に動けるの、これ!?だった。
子供が抱えるサイズの人形に、実物大のマネキンの腕を括り付けた、そんな姿だったのだ。
でも、その考えは杞憂だったみたいだ。
オール・フォー・ワンが腕を振りかぶった瞬間、バネで飛び出すかの様に突撃してきた彼は巨大なハンマーを振り下ろすが如く、その拳を叩き付けてきた!
迎え撃つは僕の正拳。しかしまともに正面から受ける事はしない。脱力した感じに構え、オール・フォー・ワンにフワリと近付き巨大な腕に手を添え誘導し、体勢を崩して隙を作らせる。
オール・フォー・ワンは何度も攻撃を仕掛けるが、都度形を変え品を変え受け流す。
剛から柔へ、虚から実へ。空手の理想型として、とめどなく変転していく技はトージ兄弟子がドンファー師匠から受け継ぎ、僕に授けて頂いた空手の技「
もちろん、攻撃するのは僕だけじゃない。
僕とオール・フォー・ワンの攻防の間に割り込み、まるで行き来する拳などないかの如く振る舞い、僕の拳を効果的に利用して爆撃を加えるのはかっちゃんだ。
相手の攻撃を、ぬるりと手応えを与えずに躱すどころか、むしろ攻撃を意図した所に誘導する流水制空圏と、一撃一撃がひたすら重い爆破の個性は、これ以上ない相性を持ってオール・フォー・ワンにダメージを与え続けていた。
「これは…思ったよりも二人共強いね。…緑谷出久くん、君だね?ワン・フォー・オールを継承したのは。ずいぶんと制御もできている様だ」
オール・フォー・ワンは渾身の力を込めて地面を殴る。そこに爆弾があったかの様に地面が爆ぜ、恐らく半径数百mはいく範囲で大量の瓦礫が巻き上がり、辺り一面に降り注いだ。
かっちゃんも僕も、その余りの勢いにガードしながら後方へ飛び退いた。
土煙に撒かれ超電磁レーダーが阻害され、視界も非常に悪くなる中、避難した僕の頭の中に声が響いた。
『後ろだ。…背後より、敵が迫っている』
声に従い後ろへ振り向いて超電磁外受けを使って防いだ。巨大なストレートパンチが僕に襲い掛かり、それを何とか受けきるが、力を流し切る事が出来ずに上空へと吹き飛ぶ!
『焦らなくていい、まずは落ち着いて空中に浮いてごらん。大丈夫、お前なら絶対にできる』
身体がフワリと浮き、空中に留まる事ができた。そこへオール・フォー・ワンは追撃とばかりに跳躍して追ってくる。
『おめぇの力はそんなもんじゃねぇさ!思いっきり黒鞭をブチかましてやりな!』
両腕から出た黒鞭が、サイドからオール・フォー・ワンに襲い掛かり締め上げる。身動き取れなくなる瞬間、僕の正拳突きが炸裂し奴を地上に叩き落とした。
身体中に力が漲る。ワン・フォー・オールの中の人達が、歴代の継承者達が、全員ではないにしろ僕に力を貸してくれる!!
「超電磁…真空蹴りぃぃぃ!!」
超電磁の力で自らを弾と化し、真っ直ぐ地上に落ちたオール・フォー・ワンに向って渾身の蹴りが放たれる!
「ここまでワン・フォー・オールを使い熟すとは…正直、誤算だったよ」
カウンターとばかりに反撃のパンチを突き上げるオール・フォー・ワン。拳と蹴りが激突し火花を撒き散らしながら、一瞬だけ力が均等し、いやオール・フォー・ワンの威力が上回ったかに思えた。
だけどその時、突然オール・フォー・ワンの脇腹が破裂した!
そこは、ゼッカ師匠が突きを打ち込んだ場所だった。
「悪かったな。俺の突きはそんなに甘くはねえ!」
僕の超音速の蹴りは威力が減少したパンチを粉砕し、更に胴体を蹴り、蹴り抜き、地面に激突して尚減衰せずに、上空のヘリまで届く衝撃波を出しながら大きなクレーターを作り上げた。
もうもうと上がる砂煙が収まる頃、完全に気を失っているオール・フォー・ワンの横に立つ僕の近くに、オールマイトがやって来た。
「全く、君というやつは…。言いたい事は山ほどあるが、緑谷少年、まずは腕を上げなさい。勝利のスタンディングを見せるんだ。ここに、ヒーローが、君が来たと示しなさい!」
「オールマイト…はい!」
僕は力強く右腕を高々と上げた。
今ここに、この闘いがヒーローの勝利で終結した事を、その姿勢で以て宣言するのだった。
次回、最終回。