先生休業中(復業反復)   作:アーリスト

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いちごミルクを、ロックで

「ムフ、過労ですね。休みなさい。」

 

ぶっ倒れた訳ではない。ただの健康診断でドクターストップがかかった。

思い返せば確かに延べ睡眠時間は1週間でも1日未満だ。

 

「...申し訳ございません。確かにここ最近は総決算が立て続けに複数回続いていました。私の管理不足です」

 

そう深々と謝罪と一枚の紙をリンちゃんから受け取る。

まず総決算を複数回って何事なのか。総決算って期間で決まるものではないの?量で決まってるの?

......言いたい事は10も2000もあるがそもそも、リンちゃんに愚痴るものではない。そんなことを思いつくほど、私は疲れているのだ

それよりも、そんな事よりも、この一枚の紙に心を奪われた。

 

「......リンちゃん」

「リンちゃんではありません」

「何これ、休暇?」

「の、様なものです。一定期間、あくまでも事務業務は最低限先生の承認が無ければならないもの以外はそちらに流れない様になります。そして...」

 

やはりリンちゃんは神だ。私の仕事の割り振りから仕事の委託から催促、仕事の管理、試練から祝福を与える。正しくこの方が神で無くして何というのか。

いや、何よりこれで仕事の量が概算で4割減る。つまるところこの事実が意味するのは自由時間の増幅だ。

私無しに通せない書類は読む、証人の判子を押すだけのものだらけ。

...だけというには軽んじているかもしれない。とんでもない事が契約に入っていたりしないよう、遠回りにルールの穴を突いてきたりしないように集中して読まなければならないものが殆どだが、私のレベルとなればもう流れ作業もいいところだ。疲れる事に変わりはないが

それでも余程の書類でない限り、当番の生徒に代わりを頼んでも良いものだらけ、あのクソ面倒くさいふざけた書類を書き続けるよりはマシだと、私の腱鞘炎がそう言っている。ストレートネックもそう言っている。

 

「......シャーレの改修工事を行う為、端的に言うと当番制の一時停止、並びに先生にはここから一時期出て行っていただきます」

「...なして?」

 

やはりリンちゃんは神だ。

 

 

 

 

 

 

 

聞くに聞くほど、うん、というには他ならない内容だった。

窓ガラス(防弾)の張り替え、不審者侵入(凡そ生徒の可能性)の対策、etc etcエトセトラ......

地下は例外で、手のつけようがない為そこが実質的な社宅及び我が家となる。それも地面兼屋根の工事が終わってからだが。一応最速でやってもらえるので、とりあえず十数時間は待って欲しいと。

 

では、この間に何をするか。

 

無論、先駆けとなって頭で駆ける思いは睡眠だった

何もいう事はない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「......寝れませんよね」

「...........」

 

しかしまあ、案の定寝れない。眠気がない訳では無い、が寝れるとは限らない。分かる人には分かるものだが少なくとも知っておくべきでは無いこの状態、悲しい事に共感していた生徒が少なからずいるのだ。

エンジェル24byシャーレ直近でお馴染みの店員さんは言わずもがなだろう。少なくとも中学生がやるべきモノではない。カイザー事案の時はただただ絶望だろう。

36時間?あの首を縦に270°回せてから言ってもらいたい

 

「......そ、そうだ!お腹いっぱいになれば少しは寝付けが良くなるかも.......廃品ですけど......」

「.....ありがとう、ラインナップをお願い」

 

良い子が過ぎる。彼女から見て、私があまりにも哀れ...不憫......同情心が故が、いつからかコンビニの仮眠室を貸して貰えるようになった。思えば随分長い付き合いになったものだ。態度は変わってもらえなくても距離は近くなっている。

.....実感できる関係ほど安らぐモノはそうそう無い

 

「えーと、ハンバーグ弁当と、ピザパンと、チャーシューおにぎりと......」

 

いつもより少し豪勢な廃品に心を踊らせながら......

 

少し前に大事を纏めて終わらせてひと段落した。目下の、という限りはあるが、それでもだろう。西へ東へ、果ては北へと奔走し、問題が解決する度に問題が生まれるのを目の当たりにして、いつの日かスケジュールは見てもカレンダーを見る事が無くなった。

生徒に会い生徒に会い、大人に会い子供に会い......人は私に会った

ただただ奔走、しかし解決、弁論、教授、というには程遠い。

ここに来てもう長い。目下のみならず隠れた問題が多く浮き彫りになった。

思わずにはいられない。考える度に、ああしておけばこうしておけば事前の予防策を張っていたら、もっと良く..........

......どう考えようが、だからなんだという話である。

結局のところ、結果論を事前に予測するなど、私にはできない

そう考える内に、いつの時か時間を感じるようになった。私は気づいている。何も変わらなくとも、変化は変化だ

そろそろカレンダーを見るべきだ

 

......私は考える

 

「じゃあ、とりあえずあるもの全部で、いいかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

路道を闊歩し二袋の(廃品)を手にするは、半径数千キロメートルの中でも同族の職業がないだろうと自負できる人間、私。実はちょっとしたアイデンティティになりつつある。

教師?生ぬるい、私は先生だ

先に生きると書いて『先生』

これが詰まるところ意味するのは、全生徒(一部を除く)の規範である!

 

あまりにも重い

自分で重くしているのは否めないが、かといって削ぎ落としていい部分ではない

そして、習う先の規範ではない。生きる規範、生き方の規範、在り方の規範、人が人であるための規範。

私は度々、無限の可能性を口にする事がある。勿論私は良い意味でこの言葉を使うのだが、一度だって忘れた事はない。

良い可能性があれば悪い可能性もある。考慮より外した事は無く、良さを求めるのであれば当然の責任だろう

 

「おいそこの大人さんよぉ、その荷物置いて行けや。通行料だ通行料」

 

......勘違いしてはいけないのは、こういう目に遭う事は、致し方ない訳ではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人は知らなければいくらでもピエロになれる。

例えば講義を受けた時的外れな意見を発言すればその時点でピエロだ。無論、挽回の余地はある。

しかし弁明は無い

どんな邪な理由があろうと良い行動は良い行動だ。逆も然り

近年は『頭の良い行動』や『効率』というレッテルでそういった事を正当化する者が増え出したが、結局やる事は良くてグレーゾーンな大っぴらに見せ難いモノだらけだ。

今回の不達良もそう。知らないから、こうなる

 

「.....タ、タレットとか、どこに....隠し...て....」

 

タブレットで操作すればちょちょいのちょいだ。もう何回も繰り返したことでもある。

 

「一応私の通勤ルートの様な所だからね。万が一は考え────」

 

────突然の爆発音に言葉どころか体を遮った。

.....言い終わる前に自爆したぞ、このタレット

ブラクマ製か?

 

「..........てるからね」

 

一袋と名刺を置いてそのまま道を行く。大方、抗争に敗れた不良の逸れものだろう。飲料より高カロリー栄養が欲しかったはず、私の持つ食料品の半分以上を置いていく。

というよりかなり重かった、欲張り過ぎたかもしれない。後悔はないし、結果論だが良い方向につながった。

 

「いちごミルクは残して下さいね!」

 

飲む訳でもないのに?あ、私が飲めってことか

 

それににしても哀れより哀れ、やるべき事はやったがしかし私ができる事はそう無い。

先生という私は教室の教師でなければ、キヴォトス全体の専属ではない、拒められればそれまでだ。

だからなるべく拒められないよう体裁を整える。

.....噂はどうしようもない

 

当たり前だが、根底の願いにあるのは皆の幸せだ。だが、押し付けがましい事をしてでもというわけにはいかない。

救えない生徒もいる、そもそも手を出せない生徒もいる。どうしようもないものはどうしようもない。この事を無責任と言う人も現るだろう。

しかしそのどうしようもなさを、どうにかしてきたのが私なのだが

今でも少し、誇りに思う。思うくらいは何も言われないだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

子ウサギ公園の片隅で馳走に耽る。ここは地雷が少なくて助かるものだ。かなり歩いたのであわよくばテントを借りれたらとは思ったが、生憎パトロールに出てるのか誰もいなかった。入るのも多少忍びないし、いつ帰るかもわからない。

 

先に立つものとしての自覚をはっきりとさせたのは、ここ(キヴォトス)に来てからだった。言い方はよくないが、部下を持って実感する上司の様なものだろう。そういった経験はあまり無いから多分でしか無いけれども

あの時は知っているモノの見様見真似で、責任を受け取った。そういうものだとして

今は違う、とは一概に言えない。

しかし、あの時より自負と自覚はしている

 

そんな今、この時何をすべきか

と、そう考えることもない。今はどこかに縛られる必要性がない訳で、大きい事案がある訳でも無く、仕事もかなり減ったのだ。そして、だからといって帰る家もないのだから、少し多めに長めに各学校へ訪問していたらいい。寝床ももらえる。それに、当番制が止まっているのだから私から向かえばいい。

一応、休職ともいえる状態だが、まあ何とかなるだろう

多少、私の立ち位置が変わるだけだが、要は何も変わらない。改めることもないが、そのまま生徒達と関わるのだ。

 

 

 

 

夜が更ける頃だが、子ウサギ公園に置き土産をして、いつも通り訪問へ足を運ぶ。

同じ事を繰り返す。始まりは違えど良い方向に、良い方向へと

ただ、今は少しだけ身軽に

 

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