――代表戦。
それは、年に一度だけ行われる異能の祭典だ。
異能学園は、第一から第七まで存在している。各学園から選出された代表者達が一堂に会し、誰が最強かを決める。
それこそが「代表戦」だ。
幼い頃、蓮は家族に連れられて「代表戦」を身に行った事があった。
まるで幻想的な夢を見ている気分だった。
行われているのは互いの意地と意地をかけた決闘。されど異能という不可思議な力が加わるだけで、泥臭い戦いの場は華やかな舞踏会へと変わる。
あの日。
あの時。
あの瞬間、蓮は憧れを持った。
憧れは何時しか夢へと変わり、そして伸ばせば手が届くかもしれない目標に変わった。
「代表戦」の舞台に立ちたい。
そして、頂点に。
即ち、優勝したい。
それこそが蓮の叶えたい夢であり、果たしたい目標だった。
登校する。
教室に入ると、クラスメイト達が声をかけてくれる。
新学期が始まってから約一か月。
クラスメイト達との仲は良好だ。
胸を張って、このクラスの一員と言えるだろう。
「おはよう。蓮。あら、寝癖が付いてるじゃない。……全く、学校に来る前にちゃんと直しておきなさいよ」
蓮に声をかけるのは、炎のような真っ赤な髪に、気の強そうな顔立ちが特徴的な少女。
鳳凰堂 朱音だ。
新学期初日。ちょっとしたいざこざによって「争奪戦」を行う事になってしまったが、それを切っ掛けに仲良くなった。
連の大事な友人だ。
「ほら。ちょっと、動かないの。私が直してあげるから……って、キャッ!」
距離を詰め、蓮の寝癖を直そうと黒い髪に手を伸ばす。
だが、人影が朱音の体を押しのける。
「……ちょっと? 私が蓮と話しているのに、間に割って入るっていうのは、どういう了見なのかしら?」
頬が引きつり、怒りを露わにする朱音。
しかし、人影は全く気に止めない。
人影は蓮の体を強く抱きしめる。
「おはよう。蓮。今日は良い朝」
蓮に抱きついているのは、小柄な少女だった。
氷のような青色の髪に、「人形」と称しても差支えない整った容姿。一切の感情を覗かせる事のない無表情。
一ノ瀬 氷刃。
ちょっとしたいざこざに巻き込まれた際、仲良くなったクラスメイトの一人。初対面の際は何処かよそよそしく、他者との間に距離を作っていたが、今ではこうして距離感が近くなっている。
というか、近い。
近すぎる。
明らかに距離感を見誤っている。
「ねえ! 私の言葉、聞こえてない訳? それとも無視してるの? 喧嘩売ってるの?」
「煩い。蓮は寝癖が付いている。寝癖が付いているという事は、彼の所有物である「人形」の私がお世話をするのは至極当然の事」
「アンタは人間でしょうが!」
一番の特徴は、自身の事を「人形」だと称している事だろう。
喧嘩をどうやって仲裁すべきなのか?
蓮があたふたしていると、一人のクラスメイトが真横を通り抜けた。
「少し失礼いたします」
丁寧な口調とは裏腹に、息が詰まりそうになる重圧。
ツインテールに結ばれた銀色の髪に、息を吞む程に美しい容姿が特徴的なクラスメイト。甘露 メアだ。
「あ、メアさん。おはよう」
「ええ。おはようございます」
蓮が挨拶をすれば、向こうも返してくれる。
ただし、目は限界まで見開かれており、黄色の瞳が怪しく輝いている。
怒っているようにも。悲しんでいるようにも。楽しんでいるようにも。喜んでいるようにも見えて、反応に困ってしまう。
一か月が経過した今でも尚、彼女とは距離を感じていた。
いいや。蓮だけでは無いだろう。他のクラスメイト達も、同様に感じている筈だ。
礼儀正しく一礼を行った後、彼女は自身の席に着席。
鞄から持ってきた本を読み始める。
「ウチのクラス、訳の分からない奴が多いけど、メアさんがその筆頭なんじゃ無いかしら? 彼女の「ランキング」また上がっていたわよ」
「え? 本当に?」
確認すれば、確かに上がっていた。
僅か一か月しか経過していないにも関わらず、彼女の順位は上級生に届く程に。
「私の記憶が確かなら彼女は放課後、上級生相手に「争奪戦」を挑んでいる、という噂もある」
「上級生相手に!?」
「更に恐ろしいのが、手当たり次第という事実。情報から推測するに、彼女はランキング上位を狙っているのでは? と考えられる」
「……ランキング上位」
この学園において「ランキング」は重要だ。順位が高ければ高い程、尊敬と羨望の眼差しを向けられる事になる。
それだけでは無い。
順位が上がれば、それに応じた恩恵を受ける事ができる。
メアは、それを狙っているのか? 或いは、別の狙いがある?
「いや、これ以上は止めとこう。本人のいない所で、色々話をするっていうのは、余り気分の良いものじゃ無いし」
「……それもそうね」
「反省。今度からは、直接本人に聞く」
「いや、流石にそれはどうかな? メアさんも、困っちゃうと思うし」
授業開始のチャイムがなる。
蓮達は、自身の席に戻るのだった。
※
放課後。
蓮は部活に所属している。
幾つもの部活が存在しているが、蓮が入っている部活はオカルト部だ。
「こんにちは。部長」
「あ、蓮君! 待ってたよ! さあ、座って! 座って!」
「あら? 部長?」
「私達も一緒に来たのに、蓮の名前だけを呼ぶというのは不自然。何か、裏がある」
「え!? いや、アハハハハハ。気のせいじゃない、カナ?」
出迎えてくれるのは、ウェーブがかった紫色の髪に、おっとりした柔和な笑みが特徴的な女性。
二年生にして、このオカルト部の部長でもある、紫原 美野里先輩だ。
部員である、蓮、朱音、氷刃の3人からは「部長」と呼ばれている。
部室内は怪しげな骨董品や、オカルト雑誌などで埋め尽くされており、お世辞にも綺麗とは呼べない。
しかし「オカルト部」というミステリアスな雰囲気とマッチしており、蓮は意外とこの部室を気に入っていた。
「皆がオカルト部に入ってくれて、約一か月。あっという間だね。改めて、本当にありがとう。オカルト部に入ってくれて。皆が入ってくれたからこそ、オカルト部は今もこうして続けられる事ができています」
美野里は床に付きそうな勢いで、頭を下げる。
「そんな、止めてください部長! それは確かに、入部する経緯は経緯でしたけど、今ではこの部活に入る事ができて、本当に良かったって思ってますから」
「まあ、別に、退屈とかはしないし」
「こういう、薄暗くてジメジメした雰囲気が私は好き」
「蓮君……!」
余りの嬉しさに瞳が潤む美野里。
感極まったのか、蓮をハグしようとする。
が、朱音、氷刃の二人に止められてしまう。
「なんでぇ!?」
「勝手に触るの、止めてくれる?」
「せめて私に許可を取った後からじゃ無いと」
「私、先輩なのに!? 君たちの部長なのに!?」
「「関係ない」」
「ひぃん」
3人の様子を眺めつつ、蓮は入部した経緯を思い出す。
オカルト部は、廃部の危機に直面していた。
部活は、最低でも4名の部員がいなければ部活として認められていない。オカルト部は部員だった3年生3人が卒業してしまい、美野里1人だけになってしまった。
与えられた猶予は一か月。
その間に、残り3人の部員を見つける事が出来なければ、オカルト部は廃部。
美野里は先輩達との思い出が詰まったオカルト部を存続させる為に頑張った。しかし、部員が見つからず途方にくれていた。
そんな時、蓮は美野里と出会った。
美野里と共に部員集めに奔走したり、オカルト部を狙う別の部活が介入してきたり、沢山の事があった。
しかし、こうしてオカルト部が存続し、こうして皆が笑いあっている光景を目にすれば、頑張って良かったと心の底から思える。
「頼もう! ここに、弱小の部活が存在していると聞いて、わざわざ来てやったぞ! 部室を賭けて、我々と勝負して貰おうか!」
とはいえ、厄介ごとが無くなったという訳ではない。
異能学園は、弱肉強食。
弱き者は淘汰され、強き者のみが生き残る世界だ。
それは、部活動であっても同じ事。
時々、強豪が弱小を食い物にしようと襲い掛かって来る。
「……はぁ。懲りずに、また来たって訳ね」
「結構沢山叩きのめしてるのに、どうして来るの?」
「多分、以前と比べたら弱くなってるから。前は、強くて頼もしい先輩達がいたけど、今はもう卒業してるから」
「でも、大丈夫ですよ。部長。僕達なら、誰が相手だろうと負けない」
互いに顔を見合わせて、頷き合う。
厄介な客にお帰りいただく為に、蓮達は動き始めるのだった。
※
蓮は学園の寮に住んでいる。
ワンルームの室内。
あまり物が置かれていないのは、本人の物欲が薄いせいでもあるのだろう。
「……やっぱり、厳しいかな」
蓮はベッドに寝転びながら、自身の「ランキング」を確認する。
決して、低くは無い。
寧ろ一年生にしては、なかなか頑張っている方だ。
だが、足りない。蓮の目標である「代表戦」への出場には、全然足りない。
ランキング上位のみが手にする事の出来る「選抜戦」。これに出場し、優勝を果たす事によって「代表戦」へ出場する為の切符を手にする。
つまり「代表戦」に出場する為には「選抜戦」で優勝しなければならず、「選抜戦」に参加する為にはランキング上位まで昇り詰めなければならない。
改めて考えてみても、途方もない。
どうやって実現するかを考えるよりも、諦めて別の事をした方が有意義だろう。
だが、蓮は諦めない。
今も尚、目を閉じれば瞼の裏に映る、あの時の情景。
幼い頃の夢は、今も蓮を放してはくれない。
だったら、足掻くしかない。
夢に向かって。憧れに向かって。目標に向かって。
「さて。僕は一体、どうするべきかな?」
一年生にも関わらず、ランキング上位まで昇り詰めるなんて殆ど不可能だ。だが、何時だって例外が存在している。
例外が存在しているという事は、「不可能」の3文字などあてにならないという事だ。
必要なのはポイント。
一つでも多くのポイントを手に入れて、順位を上げる。
「だからこそ僕がすべき事は……」
既に道は決まった。
後は、実行に移すだけだ。
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