甘露メアは友達が欲しい   作:ロドリゲウス666

11 / 16
別視点です。


11

 

 教室に着く。

 すでに、メアはいた。

 自分の席に座り、持ってきた本を黙々と読んでいる。

 

 心臓の鼓動がやけに大きく聞こえる。

 自分は今、緊張している事に気づく。

 一度、大きく深呼吸。

 

 メアに近づくに連れて、息が詰まるような重圧が頬を撫でる。まるで、全てを拒絶しているかのようだ。

 それでも近づき、声を掛ける。

 

「メアさん。ちょっと良いかな?」

 

 読んでいた本から、こちらに視線を向ける。

 

「日向さん? どうか、致しましたか?」

 

 窓から差し込まれる日の光に照らされて、淡く輝く銀色の髪。息を呑むほど美しい容姿に不釣り合いな程、その黄色の瞳は限界まで見開かれ、こっちをジッと見つめる。

 

 分かっている。

 理解している。

 彼女にとっては、これが当たり前なのだと。

 躊躇ってしまいそうになる弱音を、必死に押さえつけながら、蓮は言う。

 

「メアさん。僕と「争奪戦」で戦って欲しいんだ」

 

 ーー争奪戦。

 その言葉を発した瞬間、教室中が騒然とする。

 何も珍しい事では無い。異能学園において「ランキング」こそが自身の地位を証明する。「ランキング」を上げる為にはポイントが必要不可欠であり、ポイントを稼ぐ為の手段として「争奪戦」は普通だ。

 

 クラスメイトの中でも「争奪戦」に挑んだ者は、決して少なくは無い。

 だが、相手が悪い。

 メアは一年生の中でも突出した強さを持つ上に、既に「ランキング」の順位は上級生に迫ろうとしている。

 

 ましてや、彼女が今の今まで相手取ってきたのは二年生や三年生。

 対する蓮は、二年生と戦ったことはあれど「争奪戦」で戦った事があるのは、自身と同じ一年生。

 

 力量不足、なんてものでは無い。

 実力に差があるだけでは無く、経験においてもメアは蓮の上を行く。ましてやメアの行使する異能は、蓮が持つ異能とは比較にならない程使い勝手が良い。

 

 無謀。

 誰もがそう思ったからこそ、教室は騒然とした。

 

「…………」

 

 しかし、メアだけは何も言わない。

 

「……あの、日向さん」

 

「何かな?」

 

「私は何か、日向さんに恨みを買うような事をしてしまったでしょうか?」

 

「……え?」

 

 この場には、不釣り合いとも言える問いかけ。

 思わず困惑の声が漏れてしまう。

 

「あの、大変失礼ではありますが、日向さんは以前にカツアゲしていた所を、私に止められた事がありますか? それとも、弱いもの苛めをしていた時に私が邪魔したり、ナンパしたけど失敗に終わってしまい、その憂さ晴らしに手を出そうとして私に返り討ちにあってしまった事など……」

 

 どういう事だ?

 噂によれば、メアは上級生に「争奪戦」を挑んでいる、という話だった。だが、彼女が自ら「争奪戦」に挑んでいたのでは無く、降りかかる火の粉を払っていた?

 いや、今、この状況でそんな思考は不要だ。

 

「全然そんな事は無いよ? 僕は君と戦いたいんだ。僕が果たしたい目標の為に」

 

「……果たしたい目標の為に」

 

 何か閃いたのか、メアはおもむろに立ち上がる。

 表情は、何を考えているのか分からない無表情ではなく、笑顔だった。

 

「成程。だからこそ「争奪戦」という事ですか! 構いませんよ! やりましょう! 「争奪戦」を! 互いに、互いのポイントを賭けて!」

 

 メアから放たれる圧に、気圧されそうになる。

 だが、必死に耐える。

 

 彼女は「争奪戦」を受理した。

 即ち、これから戦う敵だ。

 今、ここで気圧されてしまえば「争奪戦」に臨む事はできない。

 

「ただ、今すぐで無くても宜しいでしょうか?」

 

 即座に始めそうな雰囲気だったが、メアはそんな事をいう。

 

「僕は構わないけど……理由を聞いても良いかな?」

 

「その、「争奪戦」を行う時は事前に連絡しろと、風紀委員の皆さんに怒られてしまったので。「争奪戦」は昼休みで宜しいでしょうか?」

 

 苦笑しながら、メアは言うのだった。

 

 

 

 

 蓮から「争奪戦」に誘われた時、電流が走った。

 

(これはつまり、戦いを通して仲良くなるチャンスなのでは!?)

 

 以前、教えて貰った母親のアドバイス。

『自分の全力をぶつければ、相手と仲良くなる事が出来る』。

 

 半信半疑ではあったが、蓮の黒い瞳に宿った力強い意志を目にした瞬間、確信した。

 即ち「争奪戦」が終わった後、仲良くなる事が出来ると。

 

(いける! 友達ゲットチャンス!)

 

 

 

 

 昼休み。

 二人は、生徒達の憩いの場である中庭へとやってきていた。

 

 事前に風紀委員へ連絡していた、という事もあって蓮とメア以外に誰もいない。校舎からは沢山の生徒達が観戦しており、彼らもまたこの「争奪戦」の行方が気になっているのだろう。

 

「お二人とも、準備は宜しいでしょうか?」

 

 言葉を発したのは、「風紀」の二文字が似合いそうな、凛とした顔立ちの女子生徒。彼女こそが風紀委員会から派遣された風紀委員の一人。

 

 ーー風紀委員。

 

 学園に存在する、委員会の内の一つ。

 他の学校と異なる点を挙げるとすれば、単なる教師の雑用係や、内申点を上げる為の手段という訳ではなく、それぞれの委員会がこの学園において絶大な権力を持っている、という点だ。

 

 風紀委員の役割は、風紀の乱れの防止や学園の治安維持。そして、極めて稀な状況ではあるものの「争奪戦」の立ち合い人を務める事。

 

 彼女は蓮と同じ一年生だが風紀委員の一人であり、尚且つ「争奪戦」の立ち合い人という役割まで受け持っている。

 優秀な人物と言えるだろう。

 

「来て下さって、ありがとうございます」

 

「礼には及びません。貴方が今まで行ってきた「争奪戦」の事後処理に比べれば、こんなのは楽な仕事です。ええ、本当に。楽な仕事ですから」

 

 切れ長な瞳がスッと細まり、メアを睨みつける。

 明らかな非難。

 それに対して、メアは曖昧な笑みを浮かべる。

 

 委員会の動員。

「争奪戦」が余りにも苛烈だった場合、委員会が介入するという話は聞いた事がある。

 しかし、メアが今まで行ってきた「争奪戦」で委員会の世話になった、というのは初耳だった。

 

 驚愕すると同時に、理解する。

 自分がこれから相手にするのは、圧倒的な格上なのだと。

 

「……いけませんね。誇り高い風紀委員の一人として、このような事を口にするのは。ですが、気をつけて下さいね? 大切な事なので、もう一度言いますよ? 気をつけて下さい」

 

「は、はい。分かりました」

 

 心なしか、風紀委員に叱られてしまった事によりメアの体が一回り小さくなったように見えた。恐らくは、目の錯覚だろう。

 

「では、双方準備が出来たようですね」

 

 蓮とメア。

 改めて、2人が対峙する。

 

「それでは「争奪戦」開始!」

 

 よく響く声と共に「争奪戦」が始まる。

 僅かに弛緩していた空気は、ピリッと張り詰める。

 今、この瞬間から油断は禁止だ。

 僅かでも力を抜けば、蓮はあっという間に倒されてしまう。

 

「来てくれ」

 

 小さく呟き、虚空に手をかざす。

 現れるのは一本の木刀。

 修学旅行の土産屋に売られていそうな、平凡な見た目をした木刀だ。

 

「それが日向さんの異能ですか」

 

「笑ってくれても構わないよ。皆の異能に比べて、僕の異能はかなり劣っているからね」

 

 自嘲気味に笑う蓮。

 

「不屈の剣」。

 それこそが、蓮の持つ異能の名前だ。

 カッコいい名称に反してその効果は微妙に一言に尽きる。

 

 なぜなら、一本の木刀を呼び出すだけのものなのだから。市販品に比べて頑丈ではあるが、所詮はただの木刀。

 クラスメイト達の異能と比べて、華が無い。

 

 しかし、メアは笑わない。

 否定するように、首を振る。

 

「まさか。笑ったりしません。私がすべきことは、全力を持って貴方を倒す事ですから」

 

 来る!

 メアの異能は知っている。

「黒色の蜘蛛」。掌から黒色の糸を出し、それを自在に操る事ができる。しかし、真に恐ろしいのは異能の練度だ。

 

 同じ一年生とは思えない、突出した実力。

 一度、彼女が戦う姿は授業の一環である「模擬戦」で目にした事があるが、圧巻の一言に尽きた。

 

 おまけに、彼女の異能は応用の幅が広い。

 極めて厄介な相手と言えるだろう。

 

(だからこそ、君に勝つための方法を考えてきている!)

 

 黒い線が空間に走る。

 メアの異能だ。

 黒い糸は蓮の足首に巻きつき、機動力を奪われてしまう。ーーその筈だった。

 黒い糸は木刀によって払われる。

 

「流石に対策はしている、といった所ですか」

 

 自然体のメアに対して蓮は木刀を構えている状態だ。

 しかし、動かない。

 より正確にいえば、動けないというのが正確かもしれない。

 

「「自動防御」。僕がこの構えを続けている限り、君の攻撃が通る事は絶対に無いよ。メアさん。例え、何百、何千の攻撃であったとしても僕は防いで見せる!」

 

 蓮の異能は極めて弱い。

 故に模索した。

 自身の異能を補ってくれる手段を。

 

 目をつけたのは剣術だ。

 木刀と剣術の相性は良い。身に着ける事が出来れば、様々な異能力者と渡り合う事が出来ただろう。

 

 だが、蓮に剣術の才能は無かった。

 基本的な技を覚える事がやっと。

 上級技を覚える事など、不可能に近かった。

 

 普通なら、ここで諦めるだろう。

 しかし蓮は違った。

 彼は決して、諦めたりしなかった。

 

 上級技を使う事ができないなら、と基本的な技を磨く事にした。全ての技を極める事は出来ない。自分の異能に適した技を極める事にした。

 練習に次ぐ練習。

 

 思考せずとも、体が勝手に動くようになるまで反復練習。

 ここまでやっても、蓮は剣術で上級者達に勝利する事はできない。

 だが、彼が長い間研鑽を積んできた一つの技。

 

 これだけは、達人と呼んでも相違無い域に到達する事ができた。

 その完成系こそが、今、彼が繰り出している技「自動防御」。

 木刀を構え、自身から半径数メートルの攻撃に必ず対応する事ができる、正しく絶対的な防御の型だ。

 

 空間を走る黒い線。

 否、視認する事が困難な、糸による攻撃を次々と防ぐ。

 このままどれだけ攻撃を続けた所で、蓮の防御を破る事は不可能だ。

 

「成程。通常の攻撃では、突破する事は難しい……と。では、貴方自身の力では、対応する事ができない攻撃はどうでしょうか? 日向さん。貴方は、この攻撃も防御してみせるのでしょうか?」

 

 メアが伸ばした糸を振る。

 ただの糸。その筈だった。

 中庭に立っていた電灯のうちの一本が、横に呆気なく切り裂かれてしまう。

 

「え?」

 

 異能を行使すれば、不可能な事も可能になる。

 それでも、困惑せずにはいられなかった。

 

「別に不思議な事ではないですよ。私の異能は糸を出しますが、その性質を変える事ができない、とは言っていません。糸を鋭くすれば、ほら、この通り。電灯なんて、呆気なく切り裂く事ができます」

 

「ちょっ、嬉々として学園を壊さないで下さい! 戦いの余波で壊すならまだしも、故意に壊すのは禁止です!」

 

 褒められた行為では無かったのか、風紀委員からクレームが入る。

 メアは謝罪をするものの、本当に反省しているか怪しい。彼女は、必要であれば嬉々として実行に移す事だろう。

 

「さて。日向さん! 見せて下さい! 貴方の「自動防御」を!」

 

 その細腕の、何処にそんな力があるのか?

 ツッコむ余裕すら無い。

 しかし、事実としてメアは切り裂いた電灯を、異能を利用して思い切りぶん投げた。

 

「いや流石にそれは無理!」

 

 無理だ。

 できる筈がない。

 

 半ば、悲鳴にも近い叫び声を上げながら、蓮は「自動防御」を解除して、急いでその場から逃走するのだった。

 絶対的な防御は、実に呆気なく敗れてしまった。

 




感想、評価、よろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。