入学式。
逸る気持ちを抑えながら、席に着く。
首を動かし、グルリと周囲を見る。自分と同じように、緊張した面持ちで座る同級生達の姿が目に映る。
(……僕は、入学する事が出来たんだ。あの、異能学園に)
第一異能学園。
ソレが入学した学園の名称だ。
異能学園は10人に1人が目覚める不可思議な力である「異能」に特化した学園だ。しかし、この学園に入学した生徒達の目的は「異能」をもっと上手に使いこなしたい! 自分の実力を高めたい! 強くなりたい! なんて理由では無い。
「異能」の使用が自由に許可されている「異能」のプロフェッショナルにして、世界の守護者。
現代の英雄とも称される「魔術師」。
この場にいる生徒は、全員「魔術師」を志しているからこそ、この異能学園へと入学した。
「魔術師」と聞けば、誰もがファンタジーを想像してしまうかもしれない。
違う。
「異能」という概念そのものが、ファンタジー世界の「魔術」と同じく未知の産物なのだ。故に「異能」は「魔術」とも呼称される。
熟練の異能力者が「魔術師」と呼ばれているのは、その名残だ。
(果たして、僕は「魔術師」になれるかな? 何処を見ても、凄そうな人ばかりだ)
思わず心の中で弱音を呟いてしまうのは、新入生の日向 蓮。
黒髪、黒目。優しそうな風貌以外は、これといって特徴の薄い青年だ。されど、その瞳の奥には力強い意志を宿している。
弱音を吐いても「諦める」という選択肢は、彼の中には存在していない。
突き進むだけだ。
例えどれだけ、困難だったとしても。
そうして、入学式はつつがなく進んでいく。
学園長の挨拶から始まり、スピーチ。主席合格を果たした新入生代表の言葉。生徒会長からの簡単な学園の紹介と入学のお祝い。
長ったらしい話に、思わず眠たくなってしまう。
それでも、ドキドキやワクワクが止まらない。
何故ならあの異能学園に入学する事が出来たのだから。
不安はある。それでも、それを上回って余りある程の楽しみが、蓮の胸中を埋め尽くしていたのだった。
――ガチャ。
不意に耳朶を打つ、扉が開く音。
入学式は、専用の講堂で行われている。
講堂の扉が今まさに、ゆっくりと開く。
もしかすると、誰か入学式に遅れてしまったのだろうか?
或いは、来ていない先生がいた?
どちらにしても、悪目立ちする事は間違いない。
蓮は顔を確認しようと、視線を向ける。
そして、固まった。
「……え?」
自分の見たものが信じられなかった。
講堂にやって来たのは、1人の女の子。
歳は蓮と同じくらい。
つまりは新入生だ。
恐らく、入学式に遅刻してしまったのだろう。
それだけなら良い。
それだけだったら、何も問題は無かった。
問題なのは、その見た目。
講堂の照明に照らされて、淡く輝く銀色の髪。腰に掛かる程に長く伸びたそれは、ツインテールに結ばれている。
だが、銀色を上から塗りたくるようにして、真っ赤な血に染まっていた。
息を呑む程の美貌も同様に、頭部からダラダラと流れ出る血液によって、美しさが恐ろしさへと変わってしまっている。
学園の制服も同様に血に染まっているが、それよりも目を惹くのが体。
スタイルは良いが、全くいやらしさなど感じない。当然だ。腕が。足が。明らかに曲がってはいけない方向に曲がっている。
暗闇の中で、こんなのに出会ったら絶叫する自信が蓮にはあった。男らしさなどかなぐり捨てて、絹を裂くような悲鳴を上げるだろう。
「き、君!? 一体、何をやってるんだ!?」
「遅刻してしまって、大変申し訳ありません。あの、すみません。私の席は一体何処なんでしょうか?」
「いや、そんな状態で入学式をやるの!? 君が行くべきは、入学式じゃ無くて病院……って、力強!」
見かねた教師が女の子に声を掛ける。
しかし、話が噛み合っていない。
危険な状態にも関わらず、入学式に出席しようとする女の子。教師が止めようとするが、女の子は止まらない。
他の教師も応援に入る。
5名がかりで、ようやく女の子の動きを止めることができた。
「そんな! せめて、入学式には! 入学式だけは、出席させて下さい!」
「馬鹿な事を言うんじゃない!」
「……この傷に、この状態。一度、保健室に送った方が良いかもしれません」
「ええ。賛成です。ですが、こんな状態にも関わらず入学式に出席しようとするとは。若いながらも、中々ガッツに溢れている生徒ですね」
「言ってる場合ですか!」
抵抗も虚しく、女の子は5人の教師たちの手によって拘束されてしまい、強制的に講堂を退場させられた。
暫くの間、講堂内は騒然とする。
入学式が再開されるまで、数分の時間を要した。
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