甘露メアは友達が欲しい   作:ロドリゲウス666

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本日はこれでラストです。




 

 甘露 メアには友達がいない。

 幼稚園から小学生。中学生に至るまで、友達はおろか、知り合いができた事もない。

 メアは考えた。

 

 何故、自分には友達ができないのか?

 そして気付く。自身は普通の人とは異なり「異能」を持っている。この「異能」こそが、友達ができない原因なのだと。

 

 故に、メアは第一異能学園に入学した。

 自分と同じように「異能」に目覚めた人達。

 彼らとなら、友達になる事が出来る、と信じて。

 

 ――その筈だったのに。

 

「……うう。失敗した」

 

 メアは保健室のベッドにて、掌で顔を覆って落ち込んでいた。

 

 新学期。

 入学式。

 授業。

 同級生達との顔合わせ。

 

 どれもこれも、友達を作る為には重要なイベントだ。にも関わらず、メアは学園に向かう途中トラックに撥ねられそうになった子供を助けてしまったばっかりに、全てが駄目になってしまった。

 

 無論、子供を助けなければ良かった、という訳ではない。

 それでも、身を挺して子供を救うのではなく、他に良い方法があったんじゃないか? と思わずにはいられない。

 

「クッ、せめて入学式に出席する事さえできていれば……!」

 

「はーい。調子はどんな感じ?」

 

 気だるげな声と共に、ベッドのカーテンが開く。

 メアの姿を覗き込むのは、保健室の教師だ。

 

「あ、大分良くなりました。この通り、腕もちゃんと動かせるようになりました」

 

 メアは先程まで、曲がってはいけない方向に曲がっていた腕を動かす。

 腕は完治しており、激しく動かしても痛みなどは感じない。

 

「私の「異能」は治療系だけど、トラックと正面衝突しました、みたいな傷を完治できる程強力な異能の筈じゃないのよ。……どうして完璧に治ってるの? それとも、それが君の異能なの?」

 

「あ、えっと……その、ノーコメント、という事で」

 何と答えれば良いのか分からず、メアは曖昧な笑みを浮かべるしかなかった。

 

 傷が完治した事もあって、保健室からの退出を許された。

 しかし、手放しで喜ぶことはできない。

 時刻は既に夕方。

 

 入学式は当然終わっているし、各授業や、クラスメイト達の顔合わせ。なんだったら、自己紹介というメインイベントも終わっている事だろう。

 

(うう。この日の為に、頑張って自己紹介を考えてたのに。絶対にウケる一発芸とかも考えてたのに……)

 

 教室に向かった所で、誰もいない。

 今日は帰ろう。

 胸中に渦巻くやるせなさを吐き出すように、溜息を吐くメア。

 

 ふと、足を止める。

 慣れ親しんだ感覚。

 落ち込んだ表情から一転。

 彼女の口元は、弧を描く。

 

 

 

 メアには、他者の「悪意」を感じ取る事が出来る、という特技がある。

 精度は高い。

 範囲も広い。

 

 メアが訪れたのは、人気の少ない校舎裏。

 気の弱そうな生徒が壁際に追い詰められており、2人の柄の悪そうな生徒が詰め寄っていた。

 見た目からして、前者は同級生。後者は上級生だろう。

 

 異能学園において先輩に逆らってはいけない、というのは暗黙の了解だ。

 年功序列なんて、古臭い考え方ではない。

 異能学園に在籍し続けているという事は、その分「異能」の力量も高くなっている。

 

 まず、入学したての新入生では勝てない。

 正義漢から介入した所で、上級生達の食い物になってしまうのがオチだろう。

 だからこそ、先輩に逆らってはいけない。

 

 しかし、メアにとってはどうでも良かった。

 理不尽が繰り広げられている。

 今まさに、弱い者いじめが行われている。

 

 悪事を働いているのだ。

 満ちる「悪意」は心地よくて、深呼吸をするだけで心の何処かが満たされる気分だ。出来ることなら、ずっとこの場にいたい。

 

 しかし、目の前の光景を見過ごす事もできない。

 故に、メアは上級生2人に声を掛ける。

 相も変わらず、口元を歪ませながら。

 

「申し訳ありません。ここで一体、何をしているのでしょうか?」

 

「あ”あ”!? んなもん、見れば分かるだろ! この後輩君は、先輩である俺達を敬って、有り金を全部くれるんだよ!」

 

「見せもんじゃねえぞ! 俺達の邪魔をするなら……って、何なんだ!? コイツは!?」

 

 上級生2人が、メアに視線を向ける。

 息を呑む程の美貌に一瞬鼻の下が伸び掛けるが、その姿を目の当たりにした瞬間、限界まで目を見開いた。

 

 それもその筈。

 保健室で治療を行う際、体を奇麗にして貰ったものの制服は依然として血塗れのままだった。

 本来であれば新品に交換して貰える筈だったのだが、メア本人が固辞したのだ。

 

 理由は単純。

 入学式に遅刻してしまった上に、教師達の手まで煩わせてしまった。その上、保健室で治療して貰った。

 さらに、新品の制服まで与えられてしまえば、余りの申し訳なさに翌日から学園に登校できなくなってしまう。

 

 故に、メアの服装は変わらない。

 血液によってデコレーションされた、スプラッタ染みた制服姿だ。

 ドン引きした上級生達。

 

 しかし、それもほんの僅かな事だ。

 私は下心を抱いています、と言わんばかりに下卑た笑みを浮かべる。

 

「変な格好してるが……まあ、見てくれは良いじゃねぇか」

 

「俺達と一緒に、コイツで遊ぼうぜ! まさか、断ったりしねぇよな?」

 

「勿論、嫌に決まってるじゃないですか」

 

 当たり前だろ、と言わんばかりの拒絶の意を示すメア。

 瞬間、空気が重たくなる。

 上級生達は、あからさまに不機嫌そうな表情を浮かべるが、メアは気にも留めない。

 

「どうぞ。ここは私が何とかするので、貴方は逃げて下さい」

 

「え? で、でも……」

 

 同級生に視線を向け、そう言う。

 彼としては、女の子に全てを押し付ける、というのは後ろめたかったのだろう。だが、同級生は逃げた。

 

 上級生が静止する暇も無く。

 残ったのは、メアと上級生の2人のみ。

 

「……お前、俺達の事を舐めてるのか?」

 

「舐めてるなんて! そんな、まさか!」

 

「ったく。今日入学したばっかりのクソガキがァ! 調子に乗りやがって……! 「争奪戦」だ! 格の違いって奴を、テメェに教えてやるよ!」

 

 1人が携帯電話を操作してメアに何かを送る。

 

 ――「争奪戦」が申請されました。受理いたしますか?

 

 メールが届いた。

 

 それが果たして何なのか、メアには分からない。

 分からないが、受けないという選択肢は無かった。

 何の躊躇いも無く、了承を選択したメア。

 

「先輩方を倒せば宜しいのでしょうか?」

 

「ああ、そうだぜ。尤も、俺達がテメェを倒す方が速いけどなァ!」

 

「そうですか。それは良かった」

 

 新入生、対、上級生。

 どちらが勝利するかなんて、日の目を見るよりも明らかだった。

 それでも、メアの笑みが薄れる事はない。

 より深く。より楽しそうに。より嬉しそうに。笑う。

 

「とても簡単なので」

 

 掌から一本の黒い糸が伸びた。

 




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