甘露メアは友達が欲しい   作:ロドリゲウス666

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 日向 蓮は、自分の席に座り、携帯電話を弄っていた。

 

「おはよう。蓮。……って、何を見てるの?」

 

 彼に声を掛けるのは、1人の女子生徒。

 炎のような赤色のストレートヘアーに、気の強そうな顔立ちが特徴的な蓮の友人。

 鳳凰堂 朱音だ。

 

 入学初日、ちょっとした事故によって彼女と「争奪戦」を行う羽目になってしまった。辛くも蓮が勝利したのだが、以降彼女は蓮の事を気に入ったらしく、こうやって気軽に話す仲になった。

 

 朱音に声を掛けられて顔を上げる蓮。

 画面には、学園の生徒の名前が順にズラリと並んでいる。

 何とも奇妙な光景だった。

 

「また「ランキング」なの? 私に「争奪戦」で勝利した訳だけど、順位が直ぐに上がる訳では無いでしょ?」

 

「うん。それは分かってるんだけど……やっぱり気になっちゃって」

 

 アハハハハ、と笑いながら頬を掻く蓮。

 異能学園は普通の学園とは違う。

「異能」のプロフェッショナルにして、現代の英雄でもある「魔術師」を排出する為の養成校なのだ。

 

 普通の学園とは異なるシステムが、幾つも採用されている。

 その筆頭とも言えるのが「ランキング」。

 

「ランキング」とはこの学園における、地位のようなものだ。「ランキング」が高ければ高い程、様々な恩恵を受ける事ができる。

 尚且つ、生徒からも一目置かれる。

 

 逆に「ランキング」が低ければ、その分舐められてしまったり、侮られたりしてしまう。

「ランキング」を上げる方法は、自身が持つポイントを増やす事だ。

 

 ポイントを増やす手段は幾つか存在しているが、蓮は「争奪戦」という手段を用いる事によって、自身のポイントを増やした。

「争奪戦」はハイリスク、ハイリターン。

 

「異能」を用いた模擬戦だ。

 勝者は大量のポイントを獲得し、逆に敗者は大量のポイントを失ってしまう。

 学園においてポイントは生命線にも等しい。

 

 なにせ、ポイントを全て失ってしまえば、その時点で学園から追放。

 退学を言い渡されてしまうのだ。

 

 正に弱肉強食。

 弱い者は淘汰され、強い者のみが生き残る。

 だからこそ上級生は強く、基本的に下級生では相手にならない程の力量差がある。

 

「そう言えば、鳳凰堂さんは大丈夫だった? 僕と「争奪戦」をしたから、ポイントが結構無くなっちゃったけど」

 

「心配しなくても大丈夫よ。確かに、ポイントは結構無くなったけど、退学するって訳じゃ無いし。……っていうか、さん付け止めない? 後、苗字呼びも禁止! 折角仲良くなったんだから!」

 

 彼女の圧の強さに、やや苦笑しつつも蓮は改めて「朱音」と名前を呼ぶ。

 ランキングを確認する手は止まらない。

 だが、ピタリとスクロールしていた指が止まった。

 

「どうかしたの? もしかして、気になる名前でも見つかった?」

 

「……その、まさかだよ」

 

 蓮が「ランキング」に表示されている、その名前を朱音に見せる。

 見覚えの無い名前だったのか、暫くの間不思議そうに首を傾げる。

 

「甘露 メアさん。覚えてない? 入学式に遅刻してきた、血塗れの女の子」

 

「あ!」

 

 入学式は衝撃的だった。

 何故なら、今にも死にそうな女の子が入学式に参加しようとしていたのだから。

 

 数名の教師の手によって、何処かに連れ去られてしまった後はどうなったのかは分からなかったが、ランキングを見る限り無事らしい。

 ちなみに蓮達のクラスメイトだ。

 

「あの子! 無事だったんだ! いや、ついさっきトラックに撥ねられてきました、って言わんばかりの怪我だったから心配してたのよ。……いや、でも、私達と比べて「ランキング」の順位が突出しているって、どういう事?」

 

 蓮は朱音との「争奪戦」に勝利し、「ランキング」の順位が上がっている。

 だが、それはあくまでも一年生という括りの中であり、上級生――二年生や三年生。――には及ばない。

 

 しかし、甘露 メアの順位は抜きんでていた。

 一年生という範疇ではある。だが、更にポイントを多く稼げば、更に順位は上がっていく事だろう。

 それこそ、一年生の有象無象など歯牙にかけない位に。

 

「あ」

 

 噂をすれば何とやら。

 メアがやって来た。

 教室の照明に照らされて、淡く輝く銀色の髪。腰にかかる程に長い髪は、ツインテールに結ばれている。

 

 息を呑む程に美しい容姿と、怪しく輝く黄色の瞳が原因だろう。

 身に纏う衣服は学園指定の制服だが、不思議な事に彼女が身に纏うと全く別の印象を感じてしまう。

 

 当然ながら、銀色の髪にも、顔面にも、制服にも血液は付着していない。

 付着していないからこそ、本来の彼女の美しさが際立つ。

 

「あの、申し訳ありません。私の席は、何方かご存知でしょうか?」

 

 特別な理由など無いのだろう。

 たまたまそこにいたから、メアは蓮に声を掛けた。

 その瞬間、蓮の体に重く圧し掛かる重圧。

 

 メアの容姿は美しい。

 されど、黄色の瞳は限界まで見開かれており、瞳孔が開いていた。

 

 もしかして、怒っている?

 しかし、蓮にはメアを怒らせた記憶がない。にもかかわらず、反射的に謝ってしまいそうになった。

 

「……あの、もしかして、分からなかったのでしょうか? でしたら、大変申し訳ありません。ご学友との、歓談の邪魔をしてしまって」

 

 暫く蓮が黙っているのを見て、勘違いしてしまうメア。

 謝罪の言葉と共に、頭を下げようとする。

 蓮は慌てて止める。

 

「あ、ごめん! 少し、思い出すのに手間取ってて! えっと……甘露さんの席は、窓際の一番後ろだよ」

 

「そうですか。教えて頂きありがとうございます」

 

 丁寧に一礼した後、メアは自身の席へと向かう。

 暫く時間が過ぎた後、溜まった疲労を吐き出すように蓮が息を吐く。

 

「何だったの!? 今の!? 対面しただけで息が詰まるなんて、初めての体験だったんだけど!?」

 

「うん。僕も初めての体験だった。でも、対応はとても丁寧で、少なくとも悪い人では無いと思うよ。……うん」

 

 そうだったとしても、彼女を取り巻く毛色の異なる空気は衝撃的だった。

 或いは、このような人物だったからこそあの順位なのだろうか?

 

 蓮はチラリと、席に座ったメアを見る。

 彼女は通学カバンから本を取り出し、ソレを読み始める。

 どんな表情をしているのか、分からなかった。

 

 

 

 

 メアは内心でガッツポーズを決めていた。

 

(よしっ! クラスメイトの人に、話しかける事が出来た! これで多少なりとも、親睦が深まった筈! ……いや、もしかしたら友達が出来るかもしれない!)

 

 授業が始まるまで本を読み続けていたが、クラスメイトに話しかける事が出来た、という事実が余りにも嬉しくて本の内容は頭に入ってこなかった。

 




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