甘露メアは友達が欲しい   作:ロドリゲウス666

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今回から、話が長めになります。




 

 暫く時間が過ぎ、ようやく担任教師がやって来る。

 真面目そうな女教師だ。

 しかし、表情が余り変わらず、不愛想な所がたまにきずだった。

 

「さて。新学期二日目の授業な訳だが、さっさと体操服へ着替えてコロシアムへ向かえ」

 

「へ? コロシアム?」

 

 どんな授業が行われるのか全く予想はつかないが、連たちは制服から体操服へと着替える。尚、女子は女子生徒専用の更衣室があるのでそこで着替える。

 入学初日に、大まかな説明は聞いている。

 

 その為、コロシアムに向かう際、道に迷う事は無かった。

 蓮の目の前に聳え立つのは、威圧感を放つ巨大な建造物。正にコロシアムと呼ぶに相応しい構造をしており、その名の通り闘技場だった。

 

「よし。全員集まったな。お前達にはこれから「模擬戦」をして貰う。といっても「争奪戦」みたいに、負けたら何かしらペナルティを負うって訳じゃないから安心しろ」

 

 ――模擬戦。

 

 その言葉を聞き、空気が変わる。

 変化を感じ取ったのか、教師は苦笑しつつも説明する。

 

「お前らも理解しているとは思うが、この場にいる全員が将来「魔術師」になる為に集まっている。自分の異能を高める事も重要だが、相手がどのような異能を持っているのか? そして、どのように対処すれば良いのか? というのも重要になってくる。なにせ「魔術師」になれば、対人戦が多くなるからな」

 

 対人戦。

 その言葉の意味を知らぬ者は、この場にはいない。

 全員、それを覚悟しながらも「魔術師」を志したのだ。

 蓮もその内の1人だ。

 

「だからこそ「模擬戦」は貴重だ。もう一度言うが、本当に貴重だぞ? なにせ、敗北したとしても死なない。相手の異能を間近でみる事ができるし、戦う事によって経験を積む事もできる。という訳で、適当な相手と2人1組でペアを作れ。そのペアが、今回の対戦相手だ。ほら、さっさとしろ」

 

 スタートの合図、と言わんばかりに手を叩く担任教師。

 クラスメイト達は、各々ペアを作り始める。

 一瞬、朱音と目が合った。

 

 しかし、朱音は首を横に振る。

 彼女とは、昨日「争奪戦」で戦った。

 

 立派な「魔術師」になりたいのであれば、少しでも別の「異能」を持つクラスメイトとペアになった方が良いだろう。

 蓮はまだペアを作っていないクラスメイトに声を掛ける。

 

 

 

 

「そこまでだ」

 

 担任教師の言葉と共に「模擬戦」が終了する。

 勝利したのは蓮だ。

 

「クソッ! 負けた! 余り強くない異能だからって、油断しちまった!」

 

 勝利したものの、ペアになってくれたクラスメイトは決して弱くは無かった。油断していたからこそ、勝ちを拾う事ができた。

 

「今日は僕の勝ちだったけど、それは今日の話だ。明日、戦ったらどっちが勝利するのかなんて分からないよ」

 

 地面に倒れ込むクラスメイトに手を貸す。

 

「それはそうだけどさぁ、色々あるだろ? 一番許せないのは、余り強くない異能だからって、油断した事だよ。学園に入学できた時点で、強いって事くらい理解してた筈なのに……ああ、情けねぇ」

 

 手を取り立ち上がるクラスメイト。

 その表情には、悔しさが滲み出ていた。

 

「でも、次戦う時は絶対に負けねぇ」

 

「それはこっちのセリフだよ。もしも次、戦う事になったとしても、勝利するのは僕だ」

 

 互いに互いの健闘を称えるように、力強い握手を交わす。

「模擬戦」が終わっても尚、コロシアムを占有し続けてしまったせいか、担任に怒られてしまった。

 逃げるようにして、その場を後にするのだった。

 

「勝ったのね。まあ心配はしてなかったけど。私を倒したくらいなんだから」

 

「朱音も「模擬戦」には勝利してたよね? おめでとう」

 

「ありがとう。ま、こんなの勝利して当然なんだけど!」

 

 赤色の髪を搔き上げつつ、高らかにいう朱音。

 その表情は、褒められて何処か嬉しそうだった。

 指摘した瞬間、烈火の如く怒る未来が簡単に想像できる為、何も言わない。

 

「そう言えば、次って……」

 

 コロシアムは、闘技場という名に相応しい場となっている。

 観客席と戦う場の2つに分かれており、観客席では「模擬戦」を観戦する事ができる。既に「模擬戦」を終えたクラスメイトや、これから「模擬戦」を行うクラスメイト達が席に座っており、次の「模擬戦」に注目している。

 理由は単純だ。

 何故なら、一年生の中でも突出した実力を持つ、あの甘露 メアの番なのだから。

 

 

 

 

(良かった。いきなり好きな人とペアになれ、って言われた時は死んだ! って思ったけど、ペアになってくれる優しい人がいて)

 

「貴方もそう思うでしょう? ワンダー?」

 

 メアが話しかけている相手は、人間では無かった。

 クマのヌイグルミだ。

 名前はワンダー。

 

 長いぼっち生活に耐え切れなくなった彼女は、空想上の友達――所謂、イマジナリーフレンドと呼ばれるもの。――を作り出した。

 それこそが、クマのヌイグルミのワンダー。

 

 本来であれば、イマジナリーフレンドは自分にとって都合の良い事を言ってくれる。励ましてくれたり、希望的観測を述べてくれたり。

 空想上の友達なのだから、当然だ。

 

 しかし、このワンダーは違った。

 

『わざわざ、お前みたいな陰気な奴とペアになる物好きだぞ? 絶対、何か裏があるに違いない。せいぜい気を付けろ』

 

「酷い! どうしてそんな酷い事を言うの!? もしかしたら、私と友達になりたい良い人かもしれないじゃん!」

 

 ワンダーは口が悪かった。

 後、メアにとって都合の良い事や、耳聞こえのいい事は言ってくれない。その大半が厳しい意見であり、友達なのかも疑わしい。

 

『……まあ、お前がどう思うも自由だが、基本的に受け身で友達なんてできないぞ? そんなもの、おとぎ話くらいなものだ。何の行動もしていないのに、友達ができる訳がないだろ』

 

「う” ……でも、クラスメイトと楽しく会話できたし」

 

『自分の席を聞いた事を、楽しい会話に変換するとは。全くもって情けない。せめて、好きな食べ物の話でもしてから出直して来い』

 

「うう。ワンダーが酷い。本当に、私の友達?」

 

『ほら、お前の番になったぞ。さっさと行って来い』

 

 ここでようやく、メアは自分の番になっていた事に気が付いたのだろう。

 観客席から慌てて向かう。

 残ったのはワンダー1人。

 只のクマのヌイグルミにも関わらず、呆れて嘆息している――ように見えた。

 

 

 

 

 メアの対戦相手は、キザったらしい男子生徒だった。

 彼からメアに声を掛けたようだが、蓮の目には何か裏があるように見えて仕方がなかった。無論、これはあくまでも「模擬戦」。

 

 何らかのアクシデントが発生したとしても、大事にはならないだろう。

 脳裏を過ったのは、朝、彼女が声を掛けてきた際に感じた圧と異質さ。

 クラスメイトが何を企んでいるのか分からないが、メアが敗北するイメージは湧いてこない。例え、どんな手段を用いたとしても彼女は正面から食い破ってしまう事だろう。

 

「本日は私とペアになって頂き、ありがとうございます」

 

 感謝の言葉を述べた後、礼儀正しく頭を下げるメア。

 

「良いよ、良いよ、そういうのは気にしなくて大丈夫だよ。寧ろ、こっちが感謝したいくらいだよ」

 

「感謝……ですか?」

 

「そう! 君は、僕の実力を示す為の踏み台になってくれるんだから!」

 

 まるでスポットライトを浴びているかのように、大仰に振舞うクラスメイト。

 

「今日「ランキング」を確認したら、君の順位は他の誰よりも高かった。だが、違う! 真の実力者はこの僕だ! だからこそこの「模擬戦」を通して、僕の実力を見せつけるのさ! 理解できたかな?」

 

 身振り手振りも交えながら説明を行う。

 要するに、彼はメアの順位が高いという事実に嫉妬しているのだ。

 

 メアは、何を考えているのか分からない黄色の瞳で彼をジッと見つめつつ「はい。分かりました」と鷹揚に頷く。

 担任が声を掛ける。

 

「そろそろ始めても良いか?」

 

「ええ。構いませんよ。先生」

 

 両者は互いに向き合う。

 

「僕の異能は「煌めく五指」! 指一本一本から光線を出す事が出来る! 光速という言葉を知ってるかい? 僕の放つ光線は、文字通り光の速さだ! だから、君は反応する暇もなく倒される!」

 

「それじゃあ、始めろ」

 

 担任が「模擬戦」開始の合図を行う。

 男子生徒は、自身の両手の指先――合計で10本の指をメアへと向ける。

 指先から生じる、眩い輝き。

 

 放たれれば最後、目で追う事すらままならない異常な速度で、合計10本の光線がメアに襲い掛かる事だろう。

 だが、自身の足首に異変を感じた男子生徒。

 

「へ?」

 

 気付けば、自身の両足首に黒い糸が絡まっていた。

 理解するのに、数秒の時間を要する。

 余りに隙だらけ。

 

 糸は、メアの掌まで伸びている。

 メアは糸を握り、引っ張る。

 足首は糸によって絡まり、上手く踏ん張る事ができない。

 

 男子生徒は呆気なく倒れてしまう。

 10本の指先から光線が放たれるが、対象はコロシアムの床。

 舗装された床が、傷付く程度だ。

 

「そういえば、説明が遅れましたね。私の異能「黒色の蜘蛛」は、手から糸を出す程度の能力です。一見すると地味な異能に思えますが、何事も使い用。貴方の方が強力な異能かもしれませんが、こうやって動きを封じる事ができました」

 

 自身の異能について説明しながら、メアはゆっくりと近付く。

 

「どうして? 僕の異能は光速だ! 反応なんて、出来る筈が無い!」

 

「はい。仮に、光速の攻撃が放たれてしまえば、私は反応する暇もなくやられてしまっていたでしょう。ですが、貴方の攻撃は光速かもしれませんが、攻撃速度まで光速という訳でも無いでしょう?」

 

「…………あ」

 

 気が付いた、と言わんばかりに声を漏らす男子生徒。

 

「だったら、やり方は幾らでも有ります。足首に異能を使った後、転ばせて動きを封じる。そして、両腕を拘束してしまえば、貴方はもう、何もできません」

 

 メアは決して、気を抜いていなかった。

 劣勢を強いられながらも、一発逆転を狙い再び攻撃を繰り出そうとした男子生徒。その両腕を、黒色の糸で拘束する。

 

 両手両足を封じられてしまった。

 一応、両手を封じられても攻撃する事は可能だ。だが、メアに命中する事はないだろう。ここから先はただの悪足掻きだ。

 メアは担任に視線をやる。

 

「そこまでだ」

 

 メアの意を汲み取り「模擬戦」は終了。

 かくして、メアの圧勝で幕を閉じたのだった。

 




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