残念な事に、一カ月経ってもメアには友達が出来なかった。
(うぅ。何故、こんな事に?)
自分の席に座り読書を行っているが、内心ではボロボロと涙を流していた。本の内容など、頭に入って来ない。
『いや。客観的に見て、友達ができない原因は明らかだと思うぞ?』
机の隅に置いているクマのヌイグルミ。
もとい、空想上の友達であるワンダーが話しかけて来る。
だが、聞きたくない。
ワンダーの話に耳を傾けた瞬間、向き合いたくない現実と向き合わなければいけなくなってしまうからだ。
だからこそ、読書に集中して現実逃避しようとする。
読書は良い。
時間を潰す事ができる上に、傍から見れば如何にも秀才そうに見えるのだ。ぼっち御用達のアイテムといっても過言では無い。
「あ、あの甘露さん? 少し良い?」
クラスメイトに声を掛けられる。
本を閉じて、クラスメイトに視線を向ける。
「はい。どうかいたしましたか?」
メアがクラスメイトに視線を向けた瞬間、クラスメイトは気圧されたかのように、一歩後ろに下がった。
気のせいだと思いたい。
「その、前に担任の先生が渡してた資料。あれ、今日が締め切りで……その、私が回収しないといけなくて……」
「成程。そうでしたか。暫し、お待ち下さい」
通学カバンの中からファイルを取り出す。
渡されたプリント、全てこの中に入っている。
奇麗に分けているので、探すのも容易だ。
「こちらでしょうか? 声を掛けて頂き、ありがとうございます」
「……いや、別に気にしなくても良いから」
メアからプリントを受け取った後、逃げるようにしてその場を去るクラスメイト。
うん。なんでぇ?
『さて。今のやり取りだけで、お前に何故友達が出来無いのか? その理由が2つ程見つかった。聞きたいか?』
(聞きたくない。絶対に聞きたくない。私は読書に集中するから……!)
『却下だ。まず最初に、お前は人と話す時、肩に力が入り過ぎてるせいか、威圧感のような物を出している』
(嘘!? 私、そんなの出してるの!?)
『例えるなら、何か悪さをした小学生が校長室に呼び出された時のような感覚だ。何が起こるのか分からない不安感と、校長先生という圧倒的格上な存在と相対する事による精神的なプレッシャー。それをお前は、クラスメイトに浴びせているんだ!』
(本当に!? 私、楽しくお話できたら良いな、って思ってるだけなのに!? 会話の途中で、小粋なジョークで笑わせる事ができれば良いな、って思ってるだけなのに!?)
『絶対に止めとけ』
何と失礼な。
クラスメイトを爆笑の渦に巻き込む為に、メアは夜寝る前に「絶対にウケるジョーク100選」を読み込んでいるのだ。
インプットしたジョークを披露すれば、爆笑間違いない。
『絶対に止めろ!』
(どうして!?)
『さて。話を戻そう。二つ目の理由はお前の顔が怖いからだ』
(え!? 私の顔って、怖いの!? それは……確かに、お母さんよりもお父さん似って言われる事の方が多いけど、でも私のお父さんの顔は怖くないよ!? 寧ろ、優しそうな顔だよ!)
『誰も父の話はしていない。無意識に振り撒く威圧感と同様に、お前は肩に力が入っているから人と話す時は目を見開いている。瞳孔が開きっぱなしだ。正直にいって怖い』
(つまり、私が今すぐ自分の眼球を潰してしまえば……)
即断即決。
右手をピースサインへと変え、容赦なく自分の眼球を潰そうとするメア。
判断が早すぎる。
『馬鹿! 馬鹿野郎! そこで次から気を付ける、という考えがどうしてでない! 気を付ければ良いんだ。今までは無自覚だった。だが、私の助言によって、お前は自分の欠点に気付く事ができた。なら、後は直すだけだ。……後、敬語で話すんじゃなくて、私と話しているようにタメ口でも良いんじゃないのか?』
(それは嫌だ。普段の口調は……その、恥ずかしいし)
メアをジッと見つめているクマのヌイグルミが、呆れたように溜息を吐いた――様な気がした。
幸か不幸か、タイミングよくクラスメイトがやってくる。
しかも、先程プリントを回収してくれたクラスメイトだ。
既に自分の欠点には気が付いた。
後は克服するだけだ。
「……あの、甘露さん。ごめんなさい。もう一枚、回収しないといけないプリントがあったのを忘れてて……」
「いえ、気にしないで下さい。プリントですね。少し待って下さい」
無意識に入ってしまう肩の力を抜く。
そして、相手を安心させるように満面の笑みを浮かべる。
完璧だ。
これによって、少なからず悪い印象は払拭される事だろう。
「ヒッ……! ……あ、いえ、その、今すぐじゃ無くても大丈夫だから……!」
まるで、暗い夜道で幽霊に出会ってしまったかのような反応のクラスメイト。
そのまま、逃げるように去ってしまう。
幾ら鈍感なメアにも理解できる。
(ねえ、ワンダー。私、上手く笑えてたかな?)
『あー、まあ、ホラーゲームとかに出てくる化け物みたいに上手く笑えてたぞ。……うん』
(全然上手く笑えて無いじゃん!)
前途多難。
メアが友達を作る為には、幾つもの障害を乗り越えなければいけないらしい。
※
(欲しい。……友達が、欲しい。……トモダチ……ホシイ)
昼休み。
机と机をくっつけて、楽しそうに談笑しているクラスメイト達を横目にみつつ、メアは読書をしていた。
否、私は読書をしています、という体裁は保っているものの、その実視線は仲が良さそうなクラスメイト達へと向けられている。
メアからの嫉妬に篭もった視線に気付いたのか、背後を振り返り視線の主を探るクラスメイト。
慌てて視線をクラスメイトから本へと移す。
『部活、というのは悪くないと思ったんだがな』
彼女の唯一の友達は、空想上の友達であるワンダー1人しかいない。
が、あくまでも空想上の友達。
本物の友達はゼロなので、実質ぼっちだ。
(確かに。部活は悪くない手だと思ったけど……友達作りよりも、部活動を優先してしまうから)
何も一カ月、指を加えて楽しそうなクラスメイトを眺めていた訳ではない。
異能学園は「魔術師」の育成を目的とする、極めて特異な学校ではあるものの、他の学校と同じように部活は存在している。
生徒は全員異能を持っている為なのか、部活の数が多い上に奇妙奇天烈な部活も多い。
メアは「これなら友達が沢山できるのでは?」という、独断と偏見をもとに幾つかの部活に体験入部した。
何かトラブルが起こった訳ではない。
寧ろ、メアは楽しく部活に取り組んでいた。
ただただ真面目に。
それが問題だった。
実は、メアは多才だ。
学校の成績は優秀。異能の技量も高い。その上、大抵の物事はなんでもそつなくこなせてしまう。
天は二物を与えず、なんて言葉が存在するが、メアは二物どころか三物や四物も与えられている。
にも関わらず、本人が欲してやまないコミュニケーション能力は皆無なのだから、全くもって笑うしかない。
メアは何事もそつなくこなせる。
それは部活動に入っても変わらない。
入った当初は、只の初心者だった。しかし、時間が経つごとにメキメキと上達していき、やがて経験者と遜色ない実力を手に入れる。
貴重な人材と言わざるを得ないだろう。
部活は楽しい。
出来なかった事ができるようになる、という感覚は何度味わっても病みつきになる。だが、部活動に熱中する余り、本来の目的であった「友達作り」が疎かになってしまっているのだ。
このままでは本来の目的を果たす事が出来ない。
結局、幾つかの部活を体験したものの、入部はしなかった。
『向こうもお前を必要とはしていたが、それはあくまでも戦力としてだからな。友達を作りたいお前としては、不本意だろうな』
(そうそう。でも、入部しないって言ってるのに、部長さん達は未だに私を狙ってるっていうのがちょっと……。もう部活に入る気は無いんだけど)
メアは入部しない事を選択したが、各部活の部長は未だにメアの事を諦めていなかったりする。隙あらば、再びメアを部活に勧誘する事だろう。
尤も、メアは部活に入る事はない。
選んだのは帰宅部だ。
如何にして、素早く家に帰宅するのか。そのタイムを競う、恐らく世界で一番部員数の多い部活。それこそが帰宅部。
(せめて、私の目的に沿った部活とかがあれば……あ、そうか!)
そこでメアは思いつく。
余りにも素晴らしい考えに、思わず立ち上がってしまう。
何事か? と、クラスメイト達から視線を向けられるが気にしない。
(部活だよ! 部活! 私の探し求めている部活がないなら、自分で作れば良かったんだ!)
『……や、そう簡単に行くか?』
(早速先生に聞いてみる!)
『は? いや、少し待っ……』
ワンダーの静止も虚しく、善は急げとばかりに担任のいる職員室へと向かうのだった。
「新しく部活を作りたい?」
「はい」
「まあ、構わないが、部員は足りているのか?」
「……え?」
「ウチは、最低でも部員が4人はいないと、部活として認める事は出来ない。それに、部活には顧問の教師が必要となる。言っておくが、私は無理だぞ」
「……顧問」
「部室……は、最悪用意しなくても大丈夫だが、部活の名称だったり、具体的な活動内容も必要になってくる。あまりふざけた事は書かない方が良い。承認してくれるのは生徒会だが、ふざけた内容の部活は徹底的に弾く」
「承認は……生徒会」
「因みにだが、今はどこまで出来てるんだ?」
「すみません。先程の話は、無かった事にして下さい」
メアは深々と頭を下げた。
メアは1人寂しく、帰路についていた。
その背中は哀愁が漂い、トボトボなんて擬音が相応しい。
「うぅ、部活、作れなかった」
『部員に、顧問に、生徒会からの承認。3つの内、2つが無理な時点で部活を作るのは難しいか。因みに、どんな部活を作ろうとしてたんだ?』
「仲良し部。部員の皆と触れ合って、親睦を深めて、ゆくゆくは世界一高い山を登る」
『……まあ、確実に却下されてたろうな』
「うぅぅぅぅぅ」
不意に風が吹く。
強い風だ。
銀色の髪が揺れる。
そんな中、一枚のチラシがメアの顔面にへばりつく。
落ち込んだまま、自身の顔にへばりついたチラシを取るメア。
チラシに書かれた内容を目にいれた瞬間、黄色の瞳が怪しく輝いた。
――コレだ! と。
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