甘露メアは友達が欲しい   作:ロドリゲウス666

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 おしゃれなカフェに行ってみたい。

 小さい頃から抱いていた憧れだ。

 しかし難しかった。小学生の時は未来の自分へと願いを託し、中学生の時も未来の自分へと願いを託した。

 

 そして、高校生になった今現在。

 今こそ小さい頃に抱いた夢を叶える時では無いだろうか?

 ふとそう思い立ち、おしゃれなカフェに向かう事を決めた。

 

 迷いの無い足取り。

 メアは確信していた。

 この調子のまま、おしゃれなカフェへと足を踏み出し、流れ作業のように商品を注文。ドヤ顔しつつ商品を受け取り、そのまま退店する事ができるーーと。

 

 迷いの無い足取りは、おしゃれなカフェの前までだった。

 そこから先は、まるで見えないバリアが展開されているかのように、一歩も足を踏み入れる事ができない。

 店内に入る事ができないのだ。

 

(これは何!? まさか、私がおしゃれなカフェに足を踏み入れるのを誰かが邪魔しているの!?)

 

『何、馬鹿な事を言ってるんだ? 単純に、怖くて喫茶店に足を踏み入れる事ができないだけだろ? どうするんだ? 入るのか? それとも、回れ右して帰るのか?』

 

 手から下げているトートバッグから顔を覗かせるのは、クマのぬいぐるみ。基、メアの想像上の友達であるワンダーだ。

 メアの装いは、普段の学園の制服では無い。

 

 今日は休日。

 部活に入っていない為、学園に向かう必要はない。

 その為、メアは私服だった。

 

 髪型は普段と同じツインテールだが、装いは大きく異なっている。

 黒を基調とした、ゴシックロリータ。

 日の光に照らされても尚、暗闇のような黒色が薄れる事は無く、何処か陰鬱な雰囲気を醸し出している。

 

 しかし、メアの容姿が美人という事も相まって上手く調和している。

 ゴスロリ姿の銀髪美少女。

 その手のマニアがいれば、感涙にむせび泣きながら、メアに向かって五体投地を決めた事だろう。

 

(怖い? そんな馬鹿な! 相手は、ただのお洒落なカフェ。店構えがお洒落で、店員さんもお洒落そうで、お客さんもお洒落そうなだけ! ……いや、全然入るの怖い!)

 

 自分はこれから、お洒落なカフェに入る。

 それが意味するのは、お洒落な店員や、お洒落な客を相手にしなければいけない、という事だ。

 

 自覚すると同時に、足が動きを止める。

 脳が「動け!」と命令を出している筈なのに、ピクリとも動かなくなってしまった。

 これが、お洒落なカフェの実力なのか!?

 

『いや、単純に入る勇気が出ないだけだと思うが……どうするんだ? 店の前で突っ立ってるままだと、店や通行人に迷惑をかけるぞ』

 

「う”。……それは、確かに……」

 

 メアの装いは、どこに出しても恥ずかしくない美少女。

 しかし、彼女の悪癖が発揮されていた。

 無駄に肩の力を入れる事によって放たれる、息が詰まるような重圧。加えて、彼女の目は限界まで見開かれており、黄色の瞳が怪しく光輝いている。

 

 怒っているのか? 泣いているのか? 笑っているのか? 困っているのか? 判断はつかないが、不気味な事は確かだ。

 こんな状態で店前に立たれてしまえば、客も寄り付かない。

 

 入ろうとしても、回れ右して引き返してしまう事だろう。

 主にメアが怖くて。

 一体、どれだけの時間が経過したのか。

 

「……あの、お客様。どうか、なされましたか?」

 

 見かねた店員が、外に出てメアに声をかける。

 メアの姿を見た瞬間「ヒッ!」と短い悲鳴が漏れ、顔が一瞬引き攣るが、すぐに平静を装う。プロだ。

 

「いえ、何も問題はありません。店内に入っても、よろしいでしょうか?」

 

「あ、はい」

 

 店員に声をかけられた事により、メアは覚悟を決めた。

 一度深呼吸をした後、お洒落なカフェに堂々と入店。

 入店にこそもたついてしまったが、事前準備は完璧だ。

 

 普通の喫茶店などとは異なり、カウンターのような場所で商品を注文する。そして、商品が渡された後に、適当な席へ座る。

 シュミレーションは完璧だ。

 これはもう、お洒落なカフェを完全攻略したと言っても過言では無い。

 

『いや、過言がすぎるだろ』

 

 メニューを手に取り、早速商品を注文しようとしてーー動きが止まった。

 記載されているのは、王道から変わり種。期間限定商品といった、様々な飲み物。基本的にコーヒーがメインだが、紅茶だったり、ソフトドリンクまで存在する。

 視界を通して脳に送り込まれる、圧倒的な情報量。

 

(これは……何? 古代文字の暗号? 私はもしかして、現在から過去にタイムスリップしてしまったの? わからない。私は一体、何を注文すればいいのか全く分からない!)

 

 メニューが多いという事は、その分取捨選択に時間がかかってしまう事を意味する。

 メアの予想では、コーヒーかカフェオレ。

 この2択のみがメニューに載っていると思った。

 

 違った。

 現実は甘くない。

 メアは、この圧倒的に選択肢の多いメニューの中から、自分にとっての最適のドリンクを選ばなければならない。

 

(この一瞬で!? 嘘でしょ? 世のパーリーピーポーは、こんな難問をウェイウェイ言いながら、いとも容易くこなしてるって言うの!? 絶対、地球外生命体じゃん!)

 

 一刻も早く選ばなければならない。

 だが、決まらない。

 そうこうしている間にも、眼前でメアの注文を待っている店員は、まだか? まだか? といった素振りを見せる。

 それがより一層メアを焦らせてしまい、正常な判断が難しくなる。

 

『落ち着け。焦ったとしても、注文する品が決まらなければ意味がない。一度落ち着いて、そして改めてメニューを見ろ』

 

(無理! 絶対に無理! 何かの間違いで、メニューの隅に書かれてるオニオンスープとか頼みそう! こんなの頼んだら、店員さんに鼻で笑われる!)

 

『いや、笑ったりするか! あー、そうだな。自分で注文するのが難しい、というのであれば店員に聞いてみたらどうだ? おススメはありますか? って』

 

(それだ!)

 

 早速ワンダーのアドバイスに従ってみる。

 

「……あの、店員さんのおススメはなんでしょうか?」

 

 さりげない笑顔も忘れない。

 

「ヒッ......! わ、私のおススメですか? そ、そう、ですね。……私は結構、苦いのが好きなので、エスプレッソとかを……」

 

「じゃあそれで」

 

 エスプレッソ。

 果たして、どんな飲み物なのか分からないが、オシャレ感が強い。

 なにより店員からのチョイスだ。

 決して、外れでは無いだろう。

 

「は、はい。分かりました。……あの、サイズの方はどうしますか?」

 

「せっかくなので、一番大きい物を……あれ?」

 

 メニューの右端には、サイズ別の値段が書かれている。

 だが、問題はそこでは無い。

 サイズの表記が問題だった。

 

 S、T、G、V。

 見慣れないサイズ。

 

 メアはてっきり洋服のような、S、M、L、XL、だと思っていた。だが、違う。見たことも無い表記だ。

 一瞬、自分の目を疑ってしまった。

 

(え? 何これ? この中から選ばないといけないの? 全く、どんな大きさなのかも想像が付かないのに!?)

 

『落ち着け。サイズ別に、値段が違ってるんだろ? だったら、一番値段の高い奴が一番大きなサイズだ』

 

(もしもそうじゃ無かったら? 一番値段が高いから、一番大きいサイズ、なんて保障はどこにもない! もしも一番小さいサイズが出てきたら? そして、それこそが店側の策略で、内心では「あ、こいつ罠に引っかかってる。バカめ!」って、ほくそ笑んでいたら!?)

 

『……お前。今日はもう、帰った方が良いと思うぞ。いや、本当に』

 

 つまり、メアが狙うべきは想定外。

 メニューに記されているサイズから、選ぶのは得策では無い。

 一度、周囲を確認。

 

 目ざとく、一枚の張り紙に気づく。

 そこには「今だけ、期間限定。サイズEXも追加しています!」と書かれていた。

 これだ。これこそが、最適解。

 

「サイズは、期間限定のEXで良いでしょうか?」

 

「EX、ですか? か、かしこまりました」

 

 これでようやく終わる。

 ドリンクを決め、サイズを決めた。

 後は支払いを終えた後、適当な席に座ってミッションコンプリート。

 メアが勝利を確信して油断している中、店員が予想外の一撃を放ってきた。

 

「トッピングはどうなさいますか?」

 

「……トッ、ピン、グ?」

 

 余りにも、聞きなれない単語だった。

 思わず、繰り返してしまう。

 

 店員がメニューを裏返す。すると、トッピングのメニューが現れたでは無いか。

 自身の足元が崩れてしまうような、そんな錯覚に陥った。

 

『いや、注文しなければ良いだけだろ』

 

 ドリンクと、サイズ。

 この二つを決めるだけでも、いっぱいいっぱいだった。

 

『だから、トッピングを注文しなければ良いだけだって言ってるだろ?』

 

 だが、ここに来てトッピング。

 3人目の刺客だ。

 連戦に次ぐ連戦で、メアの体は限界を迎えていた。

 

『私の話を聞いてるのか? それとも、声が届いていないのか? トッピングはあくまでトッピングなんだから、必ずしも注文しなくて良いんだよ!』

 

 だが、立ち向かわなければいけない。

 お洒落なカフェデビューをする為には。

 

『おい。私の話を聞けって……うん?』

 

 突如として、乱暴に喫茶店の扉が開け放たれた。

 明らかに、正規のお客様では無い。

 客も、店員も関係なく、視線はそちらに集中する。

 

 やってきたのは、顔が目出し帽で覆われている男性だった。手には銃火器が握られており、身にまとう衣服には血痕が付着している。

 間違っても、優雅なティータイムを楽しみに来ました、という風貌では無かった。

 

「悪いが、今からこの店は俺が貸し切らせて貰うぜ! 何、ちょっと警察に追われているから、人質になって貰うだけだ! 俺様が無事に逃げ切る事ができたら、テメェらを無事に解放……」

 

「煩い」

 

 異能を行使する。

 掌から伸びた黒い糸は、男が持っていた銃火器に張り付く。

 

「え?」

 

 何が起きたのか分からない、とでもいうような声。

 言葉を漏らした時には、既に男の手から銃火器は離れていた。

 銃火器はメアの手の中に。

 

「全く。こんな白昼堂々に犯罪をしようなんて」

 

 慣れた手つきで銃火器を分解していく。

 数秒後には、武器では無くなったパーツが床に散らばった。

 

「は? あ、いや……え? 銃火器を、そんな簡単に?」

 

 時間にして僅か数秒。

 たったそれだけで、男のアドバンテージは失われてしまった。

 

「良いのですか? そんな風に、突っ立っていて」

 

 メアが再び異能を行使する。

「黒色の蜘蛛」。蜘蛛のような、黒色の糸を出すだけの異能だが、メアはこの異能を十全に使いこなしていた。

 

 あっという間に、男の全身を糸でグルグル巻きにする。

 身動きが取れなくなった男。

 バランスを取る事さえもままならず、そのまま床に倒れてしまう。何か喚いているが、もう何も出来ないだろう。

 

「誰か、警察に通報を……って、確か警察に追いかけられていたんでしたっけ? でしたら、このまま放置していても大丈夫ですね」

 

 銃を持った凶悪な犯罪者を、いとも容易く片づけたメア。

 周囲にいた客は、一体何が起きたのか? と言わんばかりに唖然としていた。

 

「あ、すみません。確か、トッピングでしたよね」

 

「お客様。お代は結構ですよ。なんでしたら、トッピングも全部つけちゃって構いません。私が代わりに払っておくので」

 

「え? じ、じゃあ、お言葉に甘えて……トッピングを全部」

 

「はい。かしこまりました。トッピング全部乗せ一丁、注文入りました!」

 

 先ほどまでのお洒落な雰囲気はどこへ行ったのか、家系ラーメン屋のような掛け声が店内に木霊する。

 

『まあ、気にしなくても良いだろう。お前は現に、店内にいた全員を守った訳だしな。……というか、大丈夫なのか? 私の記憶が正しければ、エスプレッソってとても苦かったと思うんだが。しかも、お前が注文したサイズは、最大サイズの更に上を行くサイズだし。全部飲みきる事ができるのか?』

 

「えっと……多分?」

 

 ワンダーの話を聞いて、次第に自信が無くなってきたメア。しかし、既に注文は済んでしまった。

 明らかに異彩を放つ飲み物が、微笑みを浮かべた店員の手によって運ばれて来る。

 

 できる事なら、注文を取り消したい所だが、そんな事はできない。

 メアは意を決して、自分が注文した品を受け取りに行くのだった。

 

 完食する事はできたが、とても大変だった。

 




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